碧い鉄
初めて書きます。
※この話は世に出ている段階で結末や流れは完成しているのでそこにたどり着くまでの細かな流れを考えながら書いています。
まず初めに、手に取って頂いたことを感謝致します。
この話は私が22歳の時に大きな人生の分岐点があって、その時に大きく挫折を経験して、その時に見た夢がきっかけで出来ました。
この話が完結した時、皆様の心の中でなにか世界のためにできることはないかなぁと、小さくてもいいので考えていただけたら幸福です。
………生きる意味を感じない。
日々生きていて常々感じていたことだ。それは自分だけじゃなくって赤の他人だって同じだ。
自分だけじゃなく他人も含めてなぜ生きているのか、それだけが15の時から分からなかった。
自分が人に迷惑をかけることと、僕が人を殺すことは同じなんじゃないかなんて思っている。だから人を殺すことは善行でも悪行でもない自然なこと。動物が狩りをすることと同じなんだと。
殺して。
殺されて。
ただ自分が人を殺す理由もまたなかった。
狂気じみた快楽殺人鬼は。
違う。
それは自分勝手だ。
でもどうだ。根本は同じじゃないか。僕が人を殺す理由が、自分を殺すまでに見つかるとしたら。
それは。
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寒さを感じて誠は目を開けた。
正確には、冷たさ冷たさだったのだけれど。
辺りを見渡すと寝具の周囲や自分の体を大量の水が包み込んでいた。
寝ぼけているのか、とも考えたが、誠はすぐに気付く。
自分は誠。誠。誠。
だけれど、誠は自分の名前以外を思い出すことができなかった。
記憶喪失。基本的な倫理感は残っているものなのだと感じ、状況には合っていないがほんの少しの興奮を覚えていた。
けれどもすぐに我に返る。
ちょうど横になっていた体の耳ほどの高さまで水が来ていて窓の外から日差しが差し込んでいる。
ベッドの周囲を見てみると、部屋の沈んでいる箇所は
、所々緑がかっていて、かなりの時間眠っていたことが分かった。
もしくは覚えていないだけで昨日までは普通に過ごしていて、今日はこの部屋で眠ったのかもしれない。
しかしそもそもなぜ部屋が水に沈んでいるのか。異様な光景の中で、ただ自分1人だけがこの部屋の寝床に寝転がっていたのだ。
(ほんとうに…よく、分からない。ここ…一体どこなんだろう。)
誠は、ともかく状況を知るために、部屋の外に出ることにした。
しかし、この部屋に外に出るような扉はなく、大きな窓がひとつ、どーんとかけてあるだけだった。
手をかけて開けてみると新鮮で冷たく、きりっとした空気が入り込んできて、生気が感じられた。体感の温度感は、季節で言うと4月の肌寒い朝のような感覚。
窓の外の世界は水、というよりも海に沈んだ街で溢れていた。
かくいう今、誠がいる部屋も、本来はかなり高い建物のはずで、水面から顔を出している建物は見渡す限り5つか6つ程度で、それらを見ても自分の頭の中に既視感はなく、窓の外に顔を出して海の底をみてみると、とおくの海底の方に、かすかに道路があるように見えた。
そこで誠は、本当に町は沈んだのだと確信するのだった。
「不思議だなぁ。なんでこんなに落ち着いてるんだろ。」
思わず誠は声に出してしまう。今の光景が異常という価値観はある。なのに全く動じていないこの感じは、誠自身は自分でも分からない。
窓から出て、今の部屋の上によじ登るとより一層世界は広がる。
本当に、見渡す限り、世界は海だった。
誠は空を見上げて立ち尽くした。海とほとんど同じ水色の、透けるように晴れた空に、まるで藁を燃やして薄く煙ったような雲が、とーん、とーん、と、まばらにそこあった。
そっと太陽に向けて手を伸ばすとジトっと濡れたワイシャツ越しに陽の光の温かさを感じて、身震いする。
それから少しだけ幸せな気持ちが湧き上がるのだった。
その時、ふっ、と気付くと遠くの海の向こうでなにかの音が聞こえてきた。
「__ォ_____________」
それは、なにかの声だった。
誰か、というにはあまりにも低く、遠くから聞こえてくるので特定は出来ないが、明らかに誰か、と言えるような声ではなかったからだ。
そしてその声を誠は恐ろしいと感じていた。その声と言ったら、とてつもなく大きな洞窟で自身と風鳴りが同時に起こったような、または腹の底で震えるようなそんな恐ろしさがあった。
自身の心を落ち着かせながら、ゆっくりと誠が声の主の方へ視線を向けると、その奥から真っ黒い点のようななにかが少しずつ誠がいる場所まで近付いて来ているように見えた。
そして潜在的に感じていたのは、あれに知られては駄目だ。気付かれては駄目だ。という絶対的な恐怖だった。思わず全身に力が入り、あれからすぐにでも隠れなければ、と考えたが、体は恐怖のあまり動かなくなり、身体中から脂汗が吹き出している。
まずい。まずいまずいまずいまずい。
逃げないと、それでなくてもせめて隠れないといけないのに。体は全く言うことを聞いてくれない。
自分の体の中に針金でも入っていて、自分の体を動かすことがこんなにも難しいとは思わなかった。と感じるほどだった。
にも関わらず、気がつけばあの点のようななにかは、容赦なく、確実に、もう数百メートルと言ったところまで迫ってきており、そこから見える姿から、自分の体なんかよりもとてつもなく大きいなにかだと分かる。
あれに巻き込まれたら、まず助からない。そして体はその『なにか』に確実に反応していた。
何故かあれだけは駄目だと知っている。
だが無情にも体は動かない。
「おい!!」
また、声がした。
でもそれは、誰かの声だった。