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ヴァイス 自強化不可の白魔導士は一人で魔獣を倒したい

ヴァイス短編! 「白魔導士とホワイトクリスマス」

作者: 氷華青

 エリュトロンを倒し、イグナに連れられて王都レウコンまでやって来た俺たち。


「ふぇっくしょん!」


 くしゃみから始まる朝は、なんだか眠気を吹き飛ばせたみたいですごく気分がいい――五割の確率で。


 残りの五割はこの後鼻水がダラダラ出てきてめちゃくちゃ気分が悪くなる。


「う〜、寒っ」


 まあそんな俺の鼻水事情は置いといて。


 あまりの寒さに思わず手を擦り合わせる。雪がはらはらと路上に降り積もる。国内最高の快適気候を誇るこの街にも、とうとう最悪の季節が訪れたか。


「寒いね〜。携帯用エリュトロン欲しいなあ」


 アズリスは俺の呟きを聞いてそう――待て、こいつは何を言ってるんだ?


「ごめん、アズ。その発言の意図を教えてくれない?」


 さあ、エリュトロンを携帯してどうするんでしょうか。大量虐殺でもしなさるんです?

 アズは「そんなこともわからないの?」というような腹の立つ顔で口を開く。まず顔見ただけでぶん殴りそうになった。


「え? けーエリュ?」


 略すなボケ。


「そんなの炎吐いてもらって体を温めるために決まってるじゃん」


「決めてんじゃねぇっ! アホか! そいつがどんなに小さくても俺ら灰になるわ! 殺人魔獣を携帯すんなっ!」


「あのぉ……」


 いつもの俺の全力ツッコミの後、気まずそうに発せられた声。そうだ、イグナいたわ。


「何? 早く西の街に行きたいって? んなこと言っても今回は本編じゃないから絶対ここから動かない決まりになってるぞ」


「作者の都合をこっち側に持ってくるのやめてください!」


 いいじゃん、それくらい。……いや、よくないわ、うん。そろそろやめないといつか怒られる。


「はいはい。で、どしたの、イグナ?」


「そんなニーヴェさんたちに朗報です!」


 いやどんなだよ。話の入り方くらい二、三パターン用意しとけ。


「私が炎魔法でお二人を温めてあげます!」


 お、それは確かに朗報だな。


「本当に?! 私、早急にお願いしたい! ほら、指が氷になりかけてる!」


 な  っ  て  た  ま  る  か。

 ありえねえよ。お前は水魔導士か。だとしても指がほぼほぼ水なわけないから氷にはならねえよ。


「おまかせ下さい! 熱かったら言ってくださいね」


 お前もツッコめよ。何「指が氷になる前提」で話進めてんだ。

 そんな俺の呆れた眼差しにも気づかず、ミニローブのバカは詠唱を始める。


「いやぁ、ほんとイグナちゃんがいてくれて助かったよぉ」


 俺はそのアズの言葉に適当に頷きつつ、イグナの詠唱を興味津々に聴く。


 イグナが右手に持った杖はこちらに向けられている。杖の先では火の粉がチラついている。

 周囲がほんのりと暖かくなり、イグナを尊敬しかける。でもやっぱりまだまだ寒い。


「わぁっ。すごいすごい! あったかくなってきてる!」


 アズの子どものようなはしゃぎ声をBGMに、杖からはどんどん炎が出てきて、ついには火球を形作る。


 文句無しに暖かいぞ! これが、快適というものか……ッ!


「よっしゃ!」

「やったね!」


 アズと笑い合い、極寒の冬を乗り越えられたことを祝してハイタッチをする。


「ぎぇははははっ! どうだ、見たか冬め! お前みたいな底辺の季節はな、魔法一つで乗り切れんだよォ!」


「ニーヴェ、いくらなんでも冬を憎みすぎじゃない?」


「ったりめえだ。だって冬には――」


 ん? なんか額に汗が滲んできたような……? 暑すぎて出てきた? それとも、自分の身に危険が迫ってるのを身体が察知した?


「ニーヴェさん! アズさん! 避けてください!」


 イグナの叫び声が聞こえる。あ、詠唱終わったんだね。お疲れ様。俺のいつもの詠唱くらい時間かかってたけどそんなに強力な魔法使ったのかな? そんなことしてたらブッ飛ばすぞ☆


 それで、さっきあいつ何て言ったっけ? ヨケテください、とか言ってた気がするんだけど、一仕事終わってからすぐ注文するほどヨケテって美味しいのかな?


 そう思ってイグナの方を向いた俺は、心臓に体の中で暴れ回られた挙句に勝手にぺしゃんこに潰れられて何の得もしなかったような気分になりました。

 だって、さっき見た火球が死ぬほどでっかくなってるんだもん。それがゆっくりゆっくりこっちに近づいてきてるんだもん。汗が出た理由が暑すぎるし危険察知もしたからなんだもん。


 一歩前に踏み出せば、業火に焼かれてこの世からおさらば。横には同じ状況のアズ。さあ、俺がどうすると思う?


「天国に行かせて天国に行かせて天国に行かせて天国に行かせて天国に行かせて」


 もちろんアズを見捨てて神頼みに決まってるよね。


「地獄に行きなさいっ★」


「ごぶぁっ?! ばごっ、べヴんっ」


 ガチで地獄逝きかけました。



*****



 なんとか通りすがりの水魔導士さんのおかげで大した被害を出さずに済み、ほっと一安心するアズとイグナ。

 俺もなんとか二度も死神の招待をキャンセルできて一安心。


「ニーヴェさん、ご無事でしたか?」


 騒ぎがようやく収まってきたので、ようやくここでイグナが俺の身の心配をしてくれる。さっきまでずっと周りの人たちに謝っていて、少し疲れているように見える。


「あー、無事なのは無事だけど……一つだけ言わせてくれない?」


「え、はい、何ですか?」


 イグナは何も気づいていないようだ。そう、何も。


「調節くらいちゃんとしろや! 死にかけたぞ!」


 ローブのサイズと火力、せめてこの二つくらいはちゃんと調節してくれ。


「は、はい! すみません、今度からは気をつけますので!」


 たぶん伝わってないからローブのことも合わせて頼もうとしたけど、ローブも頼むよ、なんてアズの前では言えない。ほら、命に関わるし。


「それで、ニーヴェってなんで冬をそんなに嫌うの?」


 あ、そうだな、言いそびれてた。


「だって、冬ってさ……聖人祭があるんだぞ!」


「「…………………はっ?」」


 はっ? って言われた! イグナにまで! なんでわかんねえんだこいつら! 「聖人祭」くらい国民なら誰でも知ってるだろ! この国の建国者の誕生日だぞ!


「え、お前ら聖人祭知らないの? このにっくき男女交際十倍デーを知らないとは言わせないぞ?」


 そう、その聖人祭とは今日のことで、誰が何を間違えたのか、何年か前から男女で過ごす日みたいな風習になっちゃってるのだ。

 顔のいい魔導士のカップル、騎士と姫君の禁断カップルなどなど……この街にもたくさんの相思相愛の男女の組が跋扈ばっこしている。

 見える、見えるぞ、ヤツらがイチャつく光景が! くそっ! 全部燃やしたくなってくるッ!


「いや、聖人祭は知ってますけど、何でそれが嫌なのかなって思ってたら、答えがわかりました」


「なるほどね……要はカップル見るのが耐えられないんだ。うわあ、めちゃめちゃ嫉妬してるじゃん、やば…………」


 女子二人からの生ゴミ未満を見るような視線が心を貫いたあともう一回反射して傷口を再度(えぐ)る。


「でも! でもですよ! そんなニーヴェさんに朗報です!」


「ちゃんと使えんのか?! それかその話の入り方しか用意してないけど運良くそれで文脈が合ったのか?!」


 おそらく後者ってことだけ言っとく。


「そそそそんなことは置いておいて……イチャつきたいなら今日は私が付き合ってもいいですよ?」


 やっぱ後者でしたか。それより、顔が燃えそうなほど赤面しながら気使ってそんなこと言ってくれなくてもいいのに。俺は一人が好きって何回言ったら――


「はあっ?! 私がニーヴェと過ごすから! イグナちゃん、また後で合流しよう! うん、それがいいよ!」


 よくねえよ。過ごすなら一人か、みんなでワイワイか、めっちゃタイプの女の子と二人っきりだよ。いくらアズとイグナが美少女でも、聖人祭に二人っきりで過ごして周りの人たちにボコボコにされたらたまったもんじゃないわ。


「ちょっ! それはズルいですよアズさん!」


「イグナちゃんが先に独り占めしようとしたんじゃないの?!」


 なんか二人とも、十歳くらい若返ってない? ――精神的に。


 あー、タイプの女の子でも降ってこねえかなあ。

 二人がああ言ってくれるのは嬉しいけど、どっちかとデートみたいなことしたら尊い命が失われる未来しか見えないし、別に二人のどっちかとイチャつければ死んでもいいなんて思ってないし。

 そんなら三人で楽しく話すか、死んでもいいって思えるような人とイチャついて一片の悔いなくブッ殺されたいじゃん。


「ま、まあまあ二人とも、落ち着いて。とりあえず今日は――」


「――ニーヴェくんは王城に来てくれるもんね!」


「そうそう、俺は王城に……って、んなことこれっぽっちも言ってねおわぁぁぁっ!」


 急に背後に国王・レウシスが現れ、護衛の兵士たちに担がれて王城まで持っていかれた。


「なんか……結局私たち、何で争ってたんだろうね」


「……ですね」


 柔らかに降る雪が一面に積もる街の中、女子二人は笑いあったそうな。




 俺は王城でレウシスと五時間以上を共に過ごし、人生最悪の聖人祭を送りましたとさ。

 誰か王様弾劾してくれ。

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