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転生お姉ちゃんの異世界てまち  作者: あやめこ
第1章 拝啓、悪の森から
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07「観察2日目1」起床

 ふと、何か音が聞こえたような気がした。

 私は平面映像を注視した。

 確かに擦れるような引きずるような音がしている。

 そして横たわる壷状のものが揺れ動き始めると端の蓋が開き、這い出るように転生者が出てきた。


「よっこらしょっ。」


 壷状のものから体を外に出し切りると、転生者は掛け声らしきものを発して立ち上がった。


「んー、久しぶりによく寝たわー。」


 転生者は呟きながら両手を上へ伸ばした。

 そして両手を上下左右に振ったり、体を前後左右に曲げたり伸ばしたりした。

 見たところ、健康状態に問題は無さそうだ。


「おはようございまーす。」


 姿勢を戻すと、横たわる壷状のものを見て呟き一礼した。

 何を意図しているのか判らないが、元の世界の儀礼なのかもしれない。


「んー。」


 短く唸るような声を出した転生者は少し首を右側へ傾け、右顎を支えるように右手を当てた。

 左手を支えるように右肘の下に沿えて目を閉じた。

 どうやら転生者が何か考え事をする時にとる癖のようだ。


「まずはあれでしょー、それからあれしてー、えーと、その前にあれかしらー。」


 転生者は目を閉じたまま何やら呟き始めた。

 重要な情報源なので聞き漏らさないよう集中したが、声が小さく言葉も断片的で何を考えているのか読み取れない。

 せめて音声だけでも大きくしようと私は操作した。

 すると操作は拒絶された。音声だけでなく映像全体の音を大きく設定するまで、私の操作は拒絶され続けた。

 やっと音問題が解決したので映像を見ると、転生者は呟きながらしゃがみ込み、右手に持った枝で地面に線を引いていた。


「それにはあれでしょー、それからあれでしょー、あれは後でいいかもー。」


 操作に気を取られている間に姿勢の変化を見過ごしたようだ。

 何をしているのか判らないので、地面の線が見やすくなるよう私は視点を変更するよう操作した。

 映像が変わると、転生者が図形を描いていることが判った。

 三角や四角や円を次々と描いては、枝を小刻みに動かして消していた。元の世界の魔方陣だろうか。


「えーと、まずはー、邪魔にならない場所にー。」


 転生者は呟きながら立ち上がり、歩き出した。

 横たわる壷状のものに背を向けて進み、鬱蒼としている茂みの前で立ち止まった。

 そして右手の枝で足元に長方形を描いた。


「んーと、大きさはこのくらいー、高さはこれくらいかしらー。」


 左手を膝上の高さの空中で動かしながら呟いている。


「掘ったのは周りにー、せーのっ、ディーグ《掘る》」


 地面の長方形に左手を翳し、転生者は呪文を唱えた。

 すると地面が描かれた長方形の通りに陥没し、その周りを囲うように土が盛り上がった。


「いい感じー、でもー、崩れないようにしないとー、えーと、硬く、固めるー。」


 転生者は呟きながら、また首を右に傾けた。

 すぐに姿勢を正し、左手を長方形の土壁に翳して呪文を唱えた。


「んーと、硬ーい飴みたいにー、かっちかち、せーのっ、ハードゥ《硬い》」


 何も起こらなかったように私には見えた。

 転生者は長方形の土壁に近付き、枝でつついたり手を置いたりした。呪文通りにに硬くなったか確かめているらしい。


「これなら大丈夫ね。」


 転生者は呟いた後、左手をまっすぐ前方へ突き出して手の平を上に向けた。


「えーと、零さないようにー、せーのっ、ウォーター《水》」


 転生者が唱えてから数秒後、転生者の左手へと上空から水が降り注いだ。左手を濡らしながら、大きく撥ねることもなく下の長方形の中に落ちていく。

 そして水は土壁から溢れる前に止まった。

 転生者は枝を土壁の上に置き、両手を水に入れて擦り合わせた。両手で水をすくって顔を洗うと、頭に水を掛けた。

 両手と頭を軽く振り、転生者は呪文を唱えた。


「すっきりー、クリーア《奇麗》、さっぱりー、クリーン《清潔》」


 転生者の周りを風が舞い、髪を衣服を揺らして駆け抜けていった。


「んー、いい感じー。」


 髪を触りながら転生者はそう呟くと、長方形の水場の右側へと歩きだした。

 少し進むと足を止め、左手を前に突き出し右手を上に挙げた。


「ここに目印ー、せーのっ、ウォーター《水》、アイス《氷》」


 転生者が呪文を唱えて数秒後、転生者の前に何かが落下し、それはドスンと音を立てて地面にめり込んだ。


「うふふ、大成功ー。」


 転生者は目の前の落下物に見て、胸の前で拍手をしながら呟いた。

 そこには、高さが転生者の首辺りまでのある太い氷柱が立っていた。

 先ほどの長方形の水場のように上空の水を集めて降らせ、今回はその途中で凍らせたのだろうと私は推測した。かなり高度な魔法技術である。

 あの呪文の呟きからして、これは目印なのだろう。転生者の魔法の届く範囲はだいたい半径20km、空白円と同じではないかと推測している。

 目印に氷柱を作ったということから、転生者は温度を感知する魔法が使えると断定した。イビルの森には氷が存在しないので、石を積んだり木で作るよりは察知しやすいかもしれない。気温は高いが近くを探索する程度なら溶けずに保つと思われた。

 広範囲の攻撃魔法を使用した時点で、この範囲に街など無いことは察知していたと思われる。また、敵の有無も感知魔法で確認済みだったため野営を選択したのだろうと推察できた。

 なぜあの時このように思い至れなかったのか、私は自分の視野の狭さを痛感した。


 転生者は氷柱の前から少し早足で歩いて移動していた。

 時々上を見上げたり木の周りを確認したりしながら森の中を進んでいる。

 水は魔法で出せるので食料を探しているのだろうと私は推測した。

 私は上部も見える視点に変更するべく操作した。


 そろそろ夜明けの頃合である。だが、進むほどに辺りは暗さを増していった。

 無言で歩き続けていた転生者が立ち止まり呟いた。


「みーつけた。」


 転生者が足を止めた前には、蔓や草が絡まった壁のようなものが立ち塞がっていた。

 先が見通せないほど うっそうと茂り、複雑に絡み合っている。

 上空も光の入る隙が無いほど蔓や枝がひしめき合っていてかなり暗く、壁の奥は真っ暗だった。


「いただきます。」


 転生者は胸の前で両手の平を合わせて呟いた。そして壁のようなものに向かって深く一礼した。

 姿勢を正すと壁に歩み寄り、両手の平を壁に向けて呪文を唱えた。


「ドラーイ《乾燥》」


 映像に薄っすらと白い靄が発生したが、すぐに消え去った。それ以外、特に変わった様子は見当たらない。

 転生者は振り返って両手を突き出して唱えた。


「ここにも目印ー、ウォーター《水》」


 両手の少し先に周辺から水泡が集まり纏まって、大きな水球を形作った。


「アイス《氷》」


 水球は拡散することなく落下し、ドスンと音を立てて少し地面にめり込んだ。

 転生者はまた壁のようなものに向き直り、蔓を一本両手で掴んで引っ張り始めた。


「ぐーっとぐーっと引っ張ってー、せーのっ、カートゥ《切断》、フォール《落下》」


 転生者は呪文を唱えるとすぐに両手を蔓から離した。

 引っ張っていた蔓は勢い良く飛び出し、草や枝葉を掻き鳴らしつつ森の中へ消えていった。

 転生者は蔓が飛んで行った方向へと走り出した。そしてしばらく進むと立ち止まった。

 そこには壷状のものが地面に転がっていた。

 転生者はその壷状のものから伸びた蔓を左腕に巻き取り始めた。

 そして蔓を巻き取り終わると壷状のものを抱え上げ、左肩に担ぐように持つと走り出した。

 しばらく転生者は無言で走り続け、氷柱と寝袋のある場所へと戻った。

 寝袋の右隣の地面に壷状のものを降ろして横たえると、左腕に巻いた蔓を外して地面に置いた。

 転生者はまた走り出し、すぐに壁のようなものの前に辿り着いた。

 到着するとまた蔓を一本掴み、先ほどと同じ手順で壷状のものと蔓を回収した。

 その後も転生者は氷柱と氷球のある場所を行き来して、壷状のものと蔓の回収作業を繰り返した。



-・-・-・-・-・-


語り手 私、この世界の一柱(観察記録実況中、操作の拒絶にはめげない)


壷状のもの ウツボカズラ型植物系生物(寝袋認定、ただいま回収され中)


転生者   連絡待ち、起床、魔法で水場と目印作成、回収作業中



ディーグ 《掘る》地面を堀り堀り、堀り出た土は自動盛り、道具要らず

ハードゥ 《硬い》硬く固めれば崩れない(硬い飴を噛む時は要注意)

ウォーター《水》 上空で集めて落下、集め方によって形状変化

クリーア 《奇麗》磨きの風で、すっきりー、思い通り

クリーン 《清潔》一掃の風で、さっぱりー、思い通り

アイス  《氷》 集めた水を固めれば氷、落下地点の直撃注意 

ドラーイ 《乾燥》思い通りにカラカラ乾燥、乾かし過ぎに要注意

カートゥ 《切断》思い通りに切れ味抜群、道具要らず

フォール 《落下》絡む力より落とす力の方が強いらしい

お読みくださり ありがとうございました!


暑くなってきました。  (2020年6月中旬)

食中毒や熱中症にも気を付けてお過ごしください。

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