03「転生者発見!」
私の操作通り、現在地を中心とした周辺地図が表示された。
地図に示された場所は通称【イビルの森】
ポンコツ父神が主神の時代に禍乱で被災した危険区域だ。
周囲を高い山と崖に囲まれ、歪みの影響により増殖かつ巨大化した魔物達が日々弱肉強食を繰り広げている。
私は周辺地図を縮小表示するよう操作し、村や街などを探した。
この森に唯一在る村は現在地から直線距離で約800km、もちろん道など無い。
反対側に在る一番近い街までも直線距離で約800km、高い山越えが必要である。
一番近い建造物までは約300km、歪みが多数発生している禍乱時代の遺跡だった。
その遺跡のすぐ近くに長年手付かずのダンジョンがあり、毎日のように魔物を吐き出していた。
私は驚愕を抑えて、地図上に100cm以上の可動生物の分布状況を表示するよう操作した。
制約により拒絶されたので私は少し考え、範囲設定を180cm以上と修正して操作した。
今度は拒絶されなかった。どうやら転生者の身長は100cm以上180cm未満らしい。
こんな細かな違いまで制約が掛かるとは。
だがこの法則を用いればある程度は情報が絞り込めそうだと思い、私は少し落ち着けた。
可動生物の分布は地図の至る所に表示された。
何が何だか判らないので、武具所持のみを表示するよう操作すると一斉に表示が消えた。
街や村以外で表示されている。そこは直線距離で約900km、確かここにはダンジョンがあったようなって、現在地周辺には誰も居ないじゃないか!
身長の低い者だけで結成された討伐隊が居るとは思えず、私はこれを廃案に決めた。
私は混迷し、憤りを覚えた。
ジュニアのやつ、いったい何がしたいのだ?!
死なせるなと言いながら、こんな場所に降ろすとはどういうことだっ!?
どう考えても、定着させたい転生者を降ろす場所ではない。
それなのに、こんな場所に降ろして干渉せずにどうやって生存させろと?!
球体が歪み増大の報告を表示し、警告音が鳴った。
平面の映像でも同様の表示が出現し、監視対象を指し示して強く点滅してる。
監視対象の壷状のものの様子はというと、先ほどまでの揺れはほぼ収まり静かに垂れ下がっていた。
ただ周りの壷状のものとは違い、上方の蓋のようなものは閉じられている。
警告音以外にも雑多な音が聞こえるが、それを精査する余裕など今の私には無かった。
もしかすると私への手の込んだ嫌がらせかもしれないと、そんな推測が思考を過ぎった。
そんな事はありえないと言いきれないから苦々しい。
とにかく今できる事がないかと私は考え続けた。そして思いつく操作をしては拒絶され続けていた。
だったら私が直接降臨して直々に救出に向かうのはどうだろうか。
制約を突破できるほどの神格は無いので、すぐ近くに降臨するのは無理だろう。だが、制約の範囲外なら可能かもしれない。
私は降臨可能地点を表示するよう操作した。転生者の現在地を中心に円が表示された。半径1,000km以上離れれば可能のようだ。
念のため、最短距離地点に降臨した場合の行程を検証するよう操作した。結果はすぐに開示された。
それによると、降臨した地点から転生者の居る歪み発生点へ移動するには、徒歩や騎乗、乗り物での移動は可能、転移は不可、飛行は落下注意とあった。
道なき道を転移が使えず飛行もままならないとは...私は直接救出に向かうことを断念した。
転生者に対し、何もしてやれない事は心苦しく思う。だが、私にはもう打つ手が無い。
干渉ができない上、村に救援を要請するにしても私が降臨するにしても今からでは間に合わないのだ。
いっそ慈悲を与え強制的に回収しようかと試みたが、もちろん拒絶された。死なせるなと言われているだ、拒絶されて当然だ。
このまま死を見守るしかできない不甲斐なさを感じつつ、死に戻り対策として精神体の確保方法を模索した。
精神体が確保できたら改めて再転生して貰う方向で説得しよう。
一方的な決定ではあるが、私にできることはもうこれ位しかなかった。
突然、歪みを監視している平面映像が真っ白になった。何か局地的現象が発生したらしい。
球体映像を確認するが規模が小さいのか、この現象についての報告は無い。
真っ白な中、歪みの存在を知らせる表示だけは確認できた。
このままでは何も判らないので、急変した事象を表示するよう操作した。
だが転生者関連だったらしく操作は拒絶された。
私は表示範囲を広く設定し直し、気象が局地的に変化した場所の観測数値の一覧を表示するよう操作した。
これは拒絶されず表示された。その中から極最近のものに注目する。
急激な気温低下、局地的に靄が発生、そして魔力数値の急激な減少。
推測するに、何らかの低温魔法が発動し、それにより周辺の水蒸気が冷やされて靄が発生したらしい。
急にあれほど鳴り響いていた警報が止まり、転生者の歪みに対する警告表示が解除された。
歪みの状態を確認すると増大が縮小に転じおり、警報の基準値から外れていた。
なぜ歪みが縮小に転じたのかが判らない。だが空間の異常は発生していないので死に戻り関連ではないようだ。
ただ状況は今も危険であることに変わりなかった。
平面映像からドサッという何が落下したような音がした。
私は注視したが、まだ平面映像は真っ白のままで何も見えない。
映像から靄を除こうとしたが、制約により拒絶された。この靄も転生者関連らしい。
どこまでが制約の範囲なのか気になるが今はそれを確かめる時ではないので、私はこの考察を保留にした。
平面映像から今度はパサパサと何かがはためくような音が聞こえてきた。
靄が薄まり始めたのか、平面映像にぼんやりと少しずつ色が戻ってきている。
何の操作もしていないのに映像の視点が変わっていることに私は気付いた。
先ほどまで木々の上部、枝葉を映していたのに、今は根元付近を映している。
垂れ下がる壷状のものは姿を消し、代わって何かが映像の中央付近、木々の前に居るのだ。
それを監視対象の歪みであると表示が指し示していた。
ということは、これが転生者だと思われる。
まだ輪郭もぼんやりとしていてよく判らないが、転生者らしきものは何やら動いているようだ。
腕だろうか、中心から左右一本ずつ突起物が時々見え隠れしている。
上半分は黒く、下半分は青い。地面近くに足らしきものが有るのが見えた。
靄が薄まるにつれ輪郭がはっきりし、上半分は波打つ黒毛で下半分は青い布だと認識できた。
頭頂部には角だろうか、鹿のように枝分かれした茶色いものが左右一本ずつ見て取れた。
パサパサという音は、転生者が手で体を叩いている音だった。
転生者が体を叩くと白い粉のようなものが舞い散り消えた。
映像は転生者をどうやら後ろから映しているらしいと気付き、私は視点を変えるよう操作した。
「やーん、ちょっと溶けてるー。」
転生者は動きを止めて声を発した。
ちょうど視点が変わり、転生者が布を掴んで持ち上げているのが見て取れた。
掴んでいるのは茶色い布は前掛けだろうか。その下に青い布が見え隠れした。たぶんこれは腰巻だろう。
言葉の通り腰巻も前掛けも裾が溶けたように千切れており、裾以外でもところどころに穴が見て取れた。
「んー、でもー、あのまま落ちるよりはいいかもー。」
そう呟いて、転生者は上を見上げた。
あのまま落ちるとは何だろうか?
私は転生者が見上げている方向も見えるように視点を操作した。
転生者の見上げる先には、先ほど見た壷状のものがぶら下がっていた。
その中の一つだけが他と向きが異なり、蓋部分を下に向けてぶら下がっている。
やはりあの壷状のものの中に捕獲されていたようだ。
そして落ちるというのはこの高さのことだろう。転生者から壷状のものまでは、かなりの高さがある。
痛がる素振りは見られないが、もしや怪我をしているのかもしれない。
だが落ちたから助かったのではないだろうか?
言葉の違和感に引っ掛かる私に構わず、転生者がまた呟いた。
「あれってー、ウツボカズラかしらー、実物を見るのは初めてなんだけどー、大きいのねー。」
ウツボカズラというのは壷状のものに対する名称だろうか?
この地上世界では壷状のものを含め植物系の魔物は一様に【イビルフラワー】と呼ばれている。
もしかすると元の世界での名称なのかもしれない。
「周りの木も太くて大きいのがいっぱーい。この世界の植物はみんな立派なのねー。」
転生者は忙しなく首を動かし、周りの木々を見て褒め称えた。
確かにこの地上世界では動植物を問わず大きな生物が多い。
創造時はそれほどでもなかったらしいが、歪みの影響などで巨大化していったらしい。
特にこの森は歪みの影響が著しく、変異体も少なくない。
イビルフラワーも植物であるのに関わらず肉食で自力移動が可能という変異体の魔物だ。
この森の魔物はどれも獰猛で食欲旺盛なものが多く、増加率もかなり早い。
修正対策のため、あのポンコツ父神が自ら討伐に赴いたという記録があるほどの危険地帯だ。
この森からどうやって脱出させるかという新たな問題に気付き、私は当惑した。
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語り手 私、この世界の一柱(詳細不明の丸投げ現場で苦悩中、転生者発見!)
ジュニア この世界の主神(危険地帯に丸投げ、逃走中、ポンコツ氏の息子)
ポンコツ父神 前主神 (赴いたが討伐したかどうかは不明、ジュニアの父親)
壷状のもの ウツボカズラ型植物系魔物 (捕食失敗、垂れ下がり中)
転生者 波打つ黒い毛、枝分かれした茶色い角、青い腰布、茶色の前掛け
お読みくださり ありがとうございました!
やっとタイトル詐欺ではなくなりました、ほっ。