38「観察6日目4」休憩
しばらく休息を取るようだと推察した私は映像の監視を中断し、歪みの確認作業に移行した。
まずはオコウの歪みを確認した。特に変化は無かった。座標を確認して地図と照らし合わせるとダンジョンの出入り口と一致した。ダンジョン内の座標については何も登録されていない。自動的に座標を測定するのは地上だけだと、私はあらためて理解した。
次に私はオコウの歪みの座標周辺の歪みについて開示するよう操作した。一覧で表示された記録の半数ほどは私が新規登録したものだった。これらについては歪みの増減以外の詳細がまだ未確認であることを把握しているので除外だ。それ以外の記録を1つずつ確認していく。するとどの歪みもダンジョン内の座標はほぼ同じ、進入型魔物の名称と形状も全て記録が同じだった。そして全ての最終更新が私の就任前になっていた。
私はこの可能性を想定していたため、落胆はしたが動揺はしなかった。冷静に歪みの確認を中止し、ここで作業可能な通常業務に移行した。届いているであろう連絡事案などが気になるが、オコウがいつ目覚めるか判らないのだからここを離れる訳にはいかない。もうオコウがどこで寝ようと気にならないが、このダンジョンでは他の歪みと接触する可能性があるのだ。位置情報が古過ぎていつ接触するか判らない以上、すぐに監視を再開できる体制にしておかねばならない。この勢いなら他の歪みに遭遇しても討伐しそうに思えるが、接近するだけで影響し合う可能性もあるのだ。特にダンジョンという特異空間の内部だ、油断は禁物である。
とりあえずこのダンジョンに存在する歪みの形状と名称が判明したので、これについて後ほど調べる事としつつ私は業務の作業を進めていった。
ガチガチガチ〈カメ戻ル、タダイマ、タダイマ〉
カメのガチガチ音と翻訳音声が聞こえた。私は作業を中断し監視を再開した。
映像ではカメが飛行自転車の近くで蔓に絡まれて、もがくように動いていた。ハナは分岐点で停止していた。
ワシャワシャ〈沈黙ト推奨デシタ、テステス〉
カチカチカチ〈悪イ謝ル、静カ黙ル、カチカチ〉
横たわっている壷状のものが揺れて蓋が開き、オコウが足から後退して出てきた。そして立ち上がると頭を一振りし、ツルとカメに向かって一礼した。
ワシャワシャ〈騒音ト覚醒デシタ、テステス〉
カチカチカチ〈オコウ眠ル、カメ謝ル、カチカチ〉
「おはようございまーす、大丈夫よー、ちょうど起きたところなのー。」
ハナもオコウへと近付いて来た。オコウはハナにも一礼してから、両手を上に挙げて言った。
「お帰りなさーい、んー、寝過ぎたかもー、お待たせしてー、ごめんなさーい。」
パサパサパサ〈帰還直後、ドンマーイ〉
ガチガチガチ〈調ベ半バ、再ビ寝ル、ガチガチ〉
ワシャワシャ〈休息ト延長デシタ、テステス〉
「うふふ、大丈夫よー、いつもより元気いっぱいなのー、えーとー、ウォーター《水》、ウォーシュ《洗浄》」
オコウは姿勢を正して両手をイビルフラワー達に向けると呪文を唱えた。大量の水滴が現れ、風と共にイビルフラワー達の周囲を舞い始めた。飛行自転車もツルと共に水滴に包まれた。
次第に水滴が減り風が弱まると、オコウは呪文を唱えた。
「クリーン《清潔》、キューア《治癒》、ヒール《治療》、クリーア《奇麗》」
イビルフラワー達が薄っすらと光り、水滴は消えて風が止まった。
ガチガチガチ〈湧ク漲ル、ドッセー、ドッセー〉
ワシャワシャ〈生彩ト充実デシタ、テステス〉
パサパサパサ〈活力向上、ドンマーイ〉
「うふふ、いつもよりー、上手にできた気がするわー、今度からー、眠くなったら洞窟に来ようかしらー。」
そう言うとオコウは両手を下ろし、飛行自転車に跨り座った。ツルがオコウの腰周りに蔓を伸ばして絡めていく。
ガチガチガチ〈良イ良イ、来ル寝ル、ガチガチ〉
パサパサパサ〈斬新活用、ドンマーイ〉
ワシャワシャ〈勿論ト同行デシタ、テステス〉
「うふふ、その時はー、よろしくねー。」
オコウが寝袋に使った壷状のものには別の蔓が巻き付いて回収した。
ハナが背負っていた壷状のものも回収されたらしく、ハナは身軽になっていた。
ワシャワシャ〈方向ト選択デシタ、テステス〉
パサパサパサ〈左折階段、ドンマーイ〉
ガチガチガチ〈カメ調ベ、止メ戻ル、ガチガチ〉
「調べてくれてー、ありがとうー、それなら階段にー、えーと、その前にー。」
オコウは飛行自転車に座ったまま、上半身だけ向けて通路へと両手を伸ばした。
ハナとカメは後方へと移動して停止すると、ツルに巻き付かれた。
パサパサパサ〈起抜初手、ドンマーイ〉
ガチガチガチ〈オコウ討ツ、ドッカン、ドッカン〉
ワシャワシャ〈撤去ト優先デシタ、テステス〉
「はーい。敵対するならー、容赦しませんよー。」
オコウが大声を発した。通路から小さく鳴き声などが聞こえ始めた。
「敵対するならー、容赦しませーん、せーのっ、ウォーター《水》、イレクトゥロライズ《電解》、ブラーストゥ《突風》、イクスプロードゥ《爆発》」
オコウが呪文を唱えた。大きな水球が通路に現れ、青白く光って霧散した。強い風が階段から音を立てて吹き降りてくると、通路は眩しい光に包まれて見えなくなった。すぐに爆発音が響き、その振動が土壁を揺らした。
少しして通路が赤い光に照らされ姿を現すと、オコウが呪文を唱えた。
「冷たーく、クール《冷却》、カーンサール《中止》」
蓋の開いた壷状のもの3体が通路へと伸びて並べられた。
「集まってくださーい、ガーザー《集める》」
風の向きが変わり、通路の奥から吹き始めた。その風に何かが乗って飛んできては次々と壷状のものへと飛び込んで行く。
しばらくすると風は止み、大きく膨らんだ壷状のものの蓋が閉まると後方へ引き戻された。
パサパサパサ〈左折進攻、ドンマーイ〉
ガチガチガチ〈カメ行ク、探ス索ル、ガチガチ〉
ハナが移動を始め、分岐点の角を左折した。その後をカメが追い掛けて行く。
ワシャワシャ〈準備ト完了デシタ、テステス〉
「はーい、行きまーす、フロートゥ《浮く》、フラーイトゥ《飛行》」
オコウは姿勢を正すと持ち手を掴み、呪文を唱えた。飛行自転車が静かに浮かび上がって前進を始めた。
通路を左折して進み、先行したハナとカメに追い付いた。
パサパサパサ〈右折報告、ドンマーイ〉
ガチガチガチ〈先ズ止メ、違ウ進ム、ガチガチ〉
「あらー、分かれ道があったのねー。」
ガチガチガチ〈突ク見ル、動ク無イ、ガチガチ〉
パサパサパサ〈固着宝箱、ドンマーイ〉
「突き当たりにー、くっついてる箱ー、そういうのもあるのねー。」
ガチガチガチ〈カメ開ク、ドッスン、ゴロゴロ〉
パサパサパサ〈落石多数、ドンマーイ〉
「あらあらー、開けたら落ちてくるなんてー、危なーい。」
ガチガチガチ〈全テ割ル、取ル戻ル、ガチガチ〉
パサパサパサ〈中身硬貨、ドンマーイ〉
「大変だったのねー、お疲れ様でしたー、箱を開ける時はー、気を付けるわー。」
ワシャワシャ〈分岐ト発見デシタ、テステス〉
現在進んでいる通路の左側に横道が現れた。全員、その分岐点まで進んで停止した。
「やっぱり分かれ道ー、たぶんー、階段よねー。」
オコウが言った通り、横道の奥は下り階段だった。
直進の通路の奥は突き当たりで右に曲がっており、先に何があるかは判らなかった。
パサパサパサ〈調査許可、ドンマーイ〉
ガチガチガチ〈先ズ見ル、カメ探ス、ガチガチ〉
「はーい、気を付けてねー。」
オコウが返事をすると、ハナとカメが直進の通路を速度を上げて進み始めた。突き当たりを右折して姿を消し、カメがすぐに折り返し戻って来た。
ガチガチガチ〈カメ嫌イ、探ス諦メ、ガチガチ〉
「お帰りなさーい、あらー、嫌だったのー、お疲れ様、無理しないでねー。」
少し遅れてハナも戻って来た。蓋の無い木箱を乗せた葉を、オコウに差し出した。中に入っているのは硬貨のようだ。
パサパサパサ〈安全地帯、ドンマーイ〉
「お帰りなさーい、安全なのに嫌な所なのねー、んー、階段に行きましょうか。」
ワシャワシャ〈進行ト賛成デシタ、テステス〉
伸びてきた蔓が木箱に巻き付くと、後方へ戻っていった。
ハナが葉を振りながら階段へと進み始めた。
オコウも向きを変えて進み始めるとカメが急いで追い抜き、オコウより先に階段を下りて行った。
-・-・-・-・-・-
語り手 私、この世界の一柱(観察記録実況中、状況に慣れ冷静に作業)
ツル ウツボカズラ型、荷台に鎮座、荷物満載の袋がいっぱいのはず
カメ ハエトリソウ型、捜索せず引き返すほど安全だが嫌な場所とは
ハナ ダンスフラワー型、カメが嫌がった安全地帯を探索した猛者
オコウ 連絡待ちの転生者、短時間睡眠で快調、魔法効果アップ(?)
ウォーター《水》 飛ばす、注ぐ、集める、落下、思い通り
ウォーシュ《洗浄》ぐるぐるーと渦仕様、洗い落とすと自動停止
クリーン 《清潔》一掃の風で、さっぱりー、思い通り
キューア 《治癒》要らないものを取り除いて治す、青白く発光
ヒール 《治療》外傷を修復する、植物系にも効果あり
クリーア 《奇麗》磨きの風で、すっきりー、思い通り
イレクトゥロライズ《電解》電気分解、略して電解、水は酸素1水素2
ブラーストゥ《突風》強い風で吹き飛ばす
イクスプロードゥ《爆発》点火で爆発、破裂系、火事と爆発音は要注意
クール 《冷却》冷たくなるだけ、凍りはしない
カーンサール《中止》魔法の継続を中止(止めないとどうなる?)
ガーザー《集める》吹き飛ばして集める掃除風、集め終わると自動停止
フロートゥ 《浮く》浮くだけ、落下時の地面衝突を回避
フラーイトゥ《飛行》空中を移動、制御は風と水と煙がお手本
お読みくださり ありがとうございました!
初雪が降りました♪
どんどん寒くなります、皆様体調に気を付けて暖かくお過ごしください。




