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転生お姉ちゃんの異世界てまち  作者: あやめこ
第1章 拝啓、悪の森から
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02「私も神です」

 私は主神の追跡を早々に諦めた。

 普段は神力を出し惜しむくせに、こういう時は無駄に浪費するのだ。

 どうせ神力を使いまくって転移したり、追跡阻害を仕掛けているだろう。

 だが何もしないと後でどんな難癖を付けられるか判らない。

 追うのは止めたが、纏めた報告を最重要案件として私の神力で送付した。

 これで報告という義務は果たしたし、神力を使ってまで連絡を取ろうとしたという実績を示せた。

 確認をするかしないかは相手の裁量だ。

 最重要と知らせているにも関わらず確認しなければ職務怠慢と言わざるを得ない。

 いちいち言い掛かり対策をしなければならないことに私は苛立ちを覚えつつ、新たな丸投げ案件に取り組むべく部屋を移った。


 便宜的に部屋と呼んでいるが物質的な仕切りのある建物ではなく、次元の違う空間だ。

 転移で移動してきたこの部屋の中央には、地上世界を常に監視し映像化している球体が浮かんでいる。

 その球体のあちこちに、いろいろな表示がいろいろな色形で点滅していた。

 これら表示のほとんどが注意喚起の警告で、歪みの存在を示している。

 通常ならば歪みは見つけ次第に隔離や消去などの対処を施し、周辺の影響などを調査して沈静化に勤しむ。

 だが、この世界ではまともな対処はほとんど施すことなく『自然消滅を待つ』

 つまり警告は無視して様子見のまま放置しているだ。

 自然消滅する歪みもあることはあるが極々稀で、ほとんどが増殖したり肥大化している。

 短期間で極大化することもあるので、世界の存続を考慮するなら何より優先して対処するべき事案である。


 私は急激に変化した歪みがないか確認した。特に大きく変化したものは見当たらず、私は安堵した。

 私が出かけている間に緊急事態が発生していないか気になっていたのだ。

 緊急事態が発生すれば外出していても連絡が届くようには設定されている。

 だが、ここはポンコツ親子が主神として居座っている世界だ。悪化した事案を隠すなんて日常茶飯事、油断は禁物だ。

 私は歪み以外の警告項目がないか確認しつつ、先ほどジュニアが言い放った指示を復唱した。


『我、首座の神として神命を下す。

 転生者を地上に降ろしたので、定着までは死なせないように監視よろしく。

 内密の案件だから他世界への漏洩は絶対禁止、調査とか伝達も全部禁止。

 あ、定着するまで転生者への干渉も禁止ね。』


 何が神命だ。私も神なのだし、神命などと言う必要性はまったく無い。

 たぶんあの来客者の手前、仰々しく言って見せたかっただけなのだろう。

 客人が居る時は便宜上主神と呼んでいるが、普段はジュニアと呼んでいる。

 転生内容の説明をまったくせずに大まかな指示だけ寄越すとは、さすがポンコツジュニアだ。

 首座の創造神、最上級の権限を持つ主神がアレなのだから、この世界の民は哀れだと思う。

 厳密にいうとジュニアは創造神ではない。この世界を創造したのはポンコツ父神で、ジュニアはその息子だ。

 ポンコツ父神が主神を続けられなくなったため諸事情により主座を任されているだけである。


 とりあえず転生者を見つけるべく、私の外出後に発生したの歪みを表示するよう操作した。

 どこにどのようなモノを降ろしたのか判らないので、歪みを辿った方が早いだろう。

 数も判らないので、表示された対象全てを精査することにした。


 移管された世界に定着するまでの間、移管対象には何らかの歪みが発生する。

 収奪や召喚など、一方的な移管の場合は大きな歪みを伴いやすい。

 その影響により移管対象が変質し易く、それは生存率や定着率がかなり低くなる要因でもある。

 変質基準は、転移による拒否反応であったり新しい環境への順応であったりと個々様々だ。

 変異内容も多種多様を極め、上位神であっても予測は不可能と聞いている。 

 特に非特定の召喚はどこから何が来るのか判らない事もあり、今では神々が執り行うことは滅多にない。

 替わってよく執り行われているのが双方の合意の元で行われる、譲渡や転生という移管である。

 一方的な移管と違って、移管前に対象の情報を遣り取りし対策や準備ができるので比較的安全とされている。

 特に転生は移管先に合わせた肉体を準備して執り行うので、生体移管よりも生存率が高く定着も早い。

 また事前調整ができるため発生する歪みを小規模に抑えやすく、変異も少ないと聞く。

 それでも歪みは発生するので、定着が確定するまでの間は注意が必要だ。


 対象の歪みを精査した結果、転生者は一体であると断定できた。

 他は前々から在る歪みが増殖したものという注釈付きで、念のため確認したがその通りだった。

 私は全ての歪みを監視対象に設定し、転生者であろう歪み対象の現存点を映像で表示するよう操作した。

 球体の左横に、該当する映像が平面表示された。

 映像には木々がうっそうと繁っていた。森の中らしいと私は推測した。

 私は映像の中に転生者の姿を探した。

 監視対象を指し示す点滅表示があるので、この映像の中に居るのは間違いない。

 視点が広範囲に設定されていたので、対象の歪みに焦点を絞り拡大するよう操作した。


 ジュニアは『定着までは死なせないように監視』と言っていた。

 定着まで死なせるなというのは、元の世界への死に戻り防止措置だと思われる。

 たまに移管先で死亡すると元の世界へ自力で戻る者がいるのだ。

 無理矢理に異界転移するのだから当然空間は歪む。

 その歪みが元の世界と移管先の世界の双方に起こるのだから、迷惑極まりない現象である。

 定着するまで生存させれば防げる事案なので、それほど難しい問題ではない。

 しっかり監視しつつ、適度に保護や干渉を行うことで防ぐことが可能な事案である。


 それにしても重要な通達もあるというのに報告さえ聞かずに逃走するとは、よっぽど後ろめたい内容の案件なのだろう。

 問い質されたり邪魔されないように、皆が出払うのを狙って執行したと思われる。

 だいたい私が出掛けていた案件は、本来ならジュニア自身が出向かないといけないものだったのだ。

 どうしても外せない先約があると言うので仕方なく委任代行に応じたが、その先約とやらがこれだったらしい。

 誰も居ないうちに終わらせ、出先から指示する計画だったに違いない。

 それにしても毎回毎回、取っ掛かり以降は全て丸投げ。

 良い結果が出れば自分の功績、綻びが出れば自分以外の責任とするのだから厚顔無恥も甚だしい。

 何をどうすればそんな見解に至れるのか、私にはまったく理解できないし理解したいとも思わない。

 ポンコツ父神にしてジュニアあり、母神様が聡明な方だけに大変お気の毒に思う。


 拡大が完了した映像の中央には緑色の壷状のものが垂れ下がっており、何らかの振動で揺れていた。

 この壷状のものが監視対象らしく、歪みを示す表示が点滅している。

 周りには同じような形態のものが一様に垂れ下がっていた。

 植物系生物のようだが、転生者はこれに転生する事を望んだのだろうか? 

 ふと浮かんだおかしな疑問を、私はすぐに消去し別の予測を採用した。

 転生は地上に降ろした直後が一番危険なのだ。

 私は急いで転生者の現状や詳細を表示するよう操作した。

 だが私の要求は警告音と共に拒絶された。


 拒絶理由『制約により対象に対する全ての操作を拒絶します』


「ちっ」


 表示されている拒絶理由を見て、私は思わず舌打ちをした。

 ジュニアのやつ、またやらかしやがった!

 あれほど注意したのに同じことを何度も何度も繰り返しやがって。

 それも制約だと!? 主神以外操作が不可能じゃないかっ!

 急いで主神不在時の委任刻印で代理認証を試みた。だが制約の解除はされず警告音が鳴り響いた。


 私は思い付く方法を次々と試みたが、操作も要求も全て拒絶された。

 転生者に関する全てに制約が課され、干渉どころか確認さえもできなくなっている。

 やはりジュニア本人か主神以上の権限がないと何の操作もできないようだ。

 だいたい死なせないようにと言いながら干渉禁止って、どういうことだ?! 

 今まさに死に直面している可能性が高いのに、どうやって生存させろと?! 

 この世界は見守るだけで生存できるほど安全ではないのだ。


 私はある方法を思い付き、現在地と近くの街や村の詳細を表示するよう操作した。

 ジュニアの方針で、魔物の駆除は地上の民達に丸投げ状態だ。

 転生者への干渉は禁じられ拒絶されるが、討伐隊への干渉は禁じられていない。

 周辺へ討伐隊を誘導するくらいなら制約があってもできるだろう。

 手配すれば討伐のついでに救出するくらいはしてくれるだろう。

 私のこの妙案を実行に移すべく操作を繰り返した。



-・-・-・-・-・-


語り手  私、この世界の一柱(転生者の捜索実況中、主神より下位らしい)


ジュニア   この世界の主神(監視など丸投げ、逃走中、ポンコツ氏の息子)


来客者    違う世界の何か(一緒に逃走中、ジュニア好み)


ポンコツ父神 前主神、創造主(ジュニアの父親、奥さんは聡明らしい)


壷状のもの  植物系生物  (枝からぶら下がり中)


転生者    地上に落とされ捜索され中(予測ではたぶんあの中)

 


お読みくださり ありがとうございました!


丸投げ現場は大混乱、登場する前に終了しそうです...



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