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転生お姉ちゃんの異世界てまち  作者: あやめこ
第1章 拝啓、悪の森から
21/62

20「観察4日目3」針金

 ガチガチと音を鳴らしている甲羅もどきを先頭に、花弁のあるもの、壷状のものが続いて現れた。甲羅もどきと花弁のあるものは自走しているが、壷状のものは花弁のあるものに負ぶさるように蔓を絡ませていた。

 3種のイビルフラワーは転生者の前で横並びに止まり、それぞれ転生者に各部位を近付けて音を鳴らした。転生者は忙しく首を上下左右に動かしてそれぞれの音に反応した。


「そうなのねー、お疲れ様でしたー、わたしもねー、ちょうど終わったところー、はーい、どうぞ。」


 転生者は研磨した魔石入りの甲羅もどきを抱え上げるとイビルフラワー達に見せるように差し出した。伸びてきた蔓が甲羅もどきに絡みつき、そのまま宙に持ち上げて後部へと運んで見えなくなった。

 甲羅もどきが転生者の顔の横で開閉を繰り返してガチガチと鳴らした。そして次々と他の甲羅もどきを伸ばして開き、棘を地面に落とし始めた。棘は金属音を鳴らしながら地面に積み重なり、転生者の前に棘の小山が出来上がった。


「あらあらー、いっぱーい、こんなにいいのー?」


 転生者はこう言うと甲羅もどきが縦に揺れてガチガチと音を鳴らした。他のイビルフラワー達も揺れて音を鳴らした。


「うふふー、ありがとうー、感謝を込めて、スプリーンクル《散水》」


 転生者は両手を前へと伸ばし呪文を唱えた。数秒して上空から水滴が落下してくると、イビルフラワー達はそれぞれ体を動かし忙しく水滴を受け止め始めた。壷状のものは蓋を開けて器用に受け止め、甲羅もどきは水滴に食いつくように開閉を繰り返した。花弁のあるものは葉を大きく広げて水滴を弾き、花弁の中央の裂けた部分へと放り込んでいった。

 水滴が落ちてこなくなり、転生者の顔の近くに甲羅もどきが伸びてきてガチガチと音を鳴らした。


「んー、そうねー、ここで作るわー。」


 転生者がこう言うと甲羅もどきはガチガチと音を鳴らしながら移動を始めた。花弁のあるものが転生者に近付いてギシャギシャと音を鳴らした。転生者は手を振って言った。


「はーい、ありがとうー、行ってらっしゃーい。」


 花弁のあるものは速度を上げて甲羅もどきの後を追った。壷状のものが絡みつき、背負うような状態のままである。来た時と同様に地響きのような音を立てながら、イビルフラワー達は茂みの中へと消えて行った。

 イビルフラワー達の姿が見えなくなり音も遠ざかると、転生者は手を下ろした。そして振り返って氷柱前の穴へと移動し、蓋にしている甲羅もどきを持ち上げ足元に置いた。左側の腰帯の針を右手で抜き取ると針を横倒しにして持ち、左手で針の先端を掴んで動きを止めた。そして頭を少し右へと傾け、しばらく針を見つめ続けた。

 針先から左手を離すと、針先を下に向けて穴の中へ落とした。そして左手を穴へ、右手を棘の小山へ向けて伸ばし呪文を唱えた。


「ここに入ってくださーい、ガーザー《集める》」


 風が吹き始め、軽くはないだろうと思われる棘が空中へと巻き上げられた。氷柱前の穴の上まで風に運ばれ、落下して音を立てた。全ての棘が穴へと落ちたが収まりきらず、穴から棘が盛り上がった。

 転生者は体の向きを変えて右手を棘入りの穴に翳し、左手を蔓の輪へ向けて伸ばし呪文を唱えた。


「カーンサール《中止》、ここからそっちへー、ウォーター《水》」


 棘入りの穴から水だけが噴き出すと、蔓の輪の内側の穴に飛び込んだ。ジューという音と共に穴から白いものが噴き出た。


「周りの土も一緒にー、せーのっ、ブレーンドゥ《混ぜる》」


 呪文が唱えられると蔓の輪の内側の穴が中に向かって崩れ、地面が音を立てて隆起と沈降を繰り返し始めた。


「スプリーンクル《散水》」


 呪文が唱えられた数秒後に蔓の輪の内側に水滴が落下し、動く地面の中へ紛れていった。しばらくして地面の動きが止まると輪の内側はほぼ平らになっていた。

 転生者は体の向きを変え、棘入りの穴に両手を翳し直すと呪文を唱えた。


「せーのっ、クラーシュ《粉砕》、メールトゥ《溶解》」


 穴から盛り上がっていた棘が音を立てながら穴の中へと姿を消した。すぐに穴から白い煙が立ち昇り、その下で火花がパチパチと飛び交った。その煙も火花も数分経たないうちに消え去り、穴の中には赤黒い光が揺らめき始めた。転生者は両手を翳したまま、無言で穴を見つめ続けた。しばらくして、おもむろに転生者が呪文を唱えた。


「不純物なくー、より良いものにー、リーファイン《精製》」


 赤黒い光が穴の中で大きく揺れ動いた。


「右と左のー、針の元ー、せーのっ、ワーイア《針金》」


 呪文が唱えられると穴から赤黒く光る液体が盛り上がり勢い良く噴き上がると、そのまま飛び上がって空高く消えていった。転生者はゆっくりと上を向いて空を見上げた。しばらくして空から落下物が転生者の前を通過し、地面にめり込んで見えなくなった。転生者はゆっくりと下を向くと、めり込んで出来た穴の上にそれぞれ手を翳して呪文を唱えた。


「ゲートゥ《入手》」


 地面の穴から飛び出したものを左右それぞれの手で掴み取った。それは針のように黒く長かったが、針ではなかった。黒く長いだけの棒が2本、糸を通す穴は無い。転生者は両手を伸ばし棒を交差させるように持ち直すと、数歩下がって目を閉じた。そして目を閉じたまま小声で呟き始めた。


「おててはまーるく、下へねじねじー、後ろへ横へー、ねじって上にー、三角ぐるぐるー、前へねじねじー、下で八の字ー。もう一度、せーのっ、下へねじねじー、後ろへ横へー、ねじって上にー、三角ぐるぐるー、前へねじねじー、下で八の字ー。」


 転生者は何度もこの呟きを繰り返した。私は転生者が何を言っているのか、何がしたいのか推察も推測もできずにいた。何かしらの儀式かもしれないが、特に変化や効果は見当たらない。せっかく作った唯一の装備である針を溶かして棒に変えた理由が判らず納得できないことに、私は不快感を覚えずにはいられなかった。

 何度目かの呟きを繰り返し、転生者は目を開けた。そしてまた同じ呟きを繰り返すと、呪文を唱えた。


「せーのっ、おててはまーるく、下へねじねじー、後ろへ横へー、ねじって上にー、三角ぐるぐるー、前へねじねじー、下で八の字ー、ワーイア《針金》」


 すると両手に握られている棒が生き物のように動き出した。転生者の手元から下方へと絡みながら伸びていく。地面に着くと二手に分かれ、転生者の足元を通り過ぎて後方へと伸びていった。ある程度伸びると両端が内側へと曲がり、接点でそれぞれ数回巻き付いた。そこから転生者の腰の少し下まで上昇して交差すると、高さを保ったまま地面と水平に三角形を描いた。そしてその三角形を塗りつぶすかのように互い違いに巻き付き、三角形の端まで到達すると転生者の足元へと絡み合いながら伸びていった。手元から絡み伸びた棒に到達したところで巻き付き、地面に水平に左右対称の楕円形が作られ止まった。

 転生者が掴んだままの持ち手は真っ直ぐではなくなっており、端が半円状に曲がっていた。転生者は腰の下に出来た三角形に座ると、地面すぐ上に出来た楕円形に左右の足をそれぞれ乗せた。


「んー、ちょっとー、むー。」


 そう呟くと足を地面に下ろして立ち上がり、氷柱前の穴へと近付いた。そして地面に置いた甲羅もどきを手に取って穴に蓋をし、呟いた。


「ありがとうー、またよろしくねー。」


 穴に向かって軽く一礼すると振り返り、棒を絡ませ作った椅子のようなものに近付いた。今度は座らず、絡んでいる部分を両手で掴んで持ち上げると走り出した。

 この奇妙な形状の椅子を作った意味を、私は今も推察も推測もできずにいた。椅子が欲しいなら木を切るなり土を固めるなりすれば簡単に作れるはずである。何かに使う骨組みかもしれないが、針まで溶かすほどの価値があるようには思えなかった。

 転生者は小道を駆け抜け長三角小屋へと移動した。奇妙な椅子を小屋の横に置くと、小屋の中へと入っていった。中からガサゴソという音が聞こえ、すぐに両手に何かを持って出てきた。左手で掴んでいる赤黒いものは甲羅もどきの中身だと推定できた。それを奇妙な椅子の三角形の上部に当てると、右手に持ってきた帯を巻きつけ始めた。壷状の内皮で作った帯を巻き付け終えると、両手を押さえるよう当てて呪文を唱えた。


「フィトゥ《適合》」


 乱雑だった巻き方が凹凸のない整然な巻き具合へと変わった。転生者が揺すっても帯は三角形から動くことはなく、赤黒い中身が見え隠れしていた隙間も無くなった。転生者は奇妙な椅子をまた持ち上げ、大穴の近くへと運び置いた。そして三角形部分に座って持ち手を握ると、両足をそれぞれ楕円形に乗せて体を前後左右に揺らした。


「んー、いい感じー、このままー、セートゥ《固定》」


 転生者は呪文を唱えた。


 

-・-・-・-・-・-


語り手 私、この世界の一柱(観察記録実況中、ついつい私情が、悪い癖?)


壷状のもの   自力走行せず、蔓を絡めておんぶ壷(塊の回収係?)


甲羅もどき   先陣きって自力移動、ガチガチ(結構おしゃべり?)


花弁のあるもの 絡まれ背負ってても自力移動、ギシャギシャ(力持ち?) 


転生者     連絡待ち、和気藹々、棘針から針金、ねじねじ椅子(?)



スプリーンクル《散水》まんべなく水撒き、給水は空から水滴落下

ガーザー《集める》がさっと吹き飛ばして集めると自動停止する掃除機風

カーンサール《中止》魔法の継続を中止(止めないと何時まで?)

ウォーター《水》飛ばす、注ぐ、集める、落下、思い通り

ブレーンドゥ《混ぜる》まんべんなくかき混ぜ、道具要らず、終わると自動停止

クラーシュ《粉砕》対象を粉々に砕く、道具要らず(溶けやすさ未確認)

メールトゥ《溶解》固体を溶かす、なんかようかい、たのめるとー

リーファイン《精製》不純物を取り除き質を良くする 

ワーイア《針金》針の元、思った通りにネジネジ、くねくね

ゲートゥ《入手》手に入れる、自分のものにする 

フィトゥ《適合》ぴたっと、ぴったりー、合わせ上手

セートゥ《固定》動かないよう定位置に据え付け(強度未確認)


 


 

お読みくださり ありがとうございました!


回復したと言い切れませんが峠は越えたようなので、また頑張りますっっ 


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