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転生お姉ちゃんの異世界てまち  作者: あやめこ
第1章 拝啓、悪の森から
13/62

12「観察2日目6」初完食

 転生者は倒れているもう1体のイビルフラワーに近付いた。


「お待たせしましたー。」


 そう呟きながら足を止め、仰向けに倒れているイビルフラワーの上部の横にしゃがみ込んだ。


「お花の真ん中がお口みたいねー、歯がいっぱーい。」


 転生者は上部のあちらこちらを触ったり掴んだりしながら呟いている。

 このイビルフラワーの上部には黄色い円形部分があり、その周辺を花弁のようなものが取り囲んでいる。遠くから見れば普通の花らしく見えそうな形状である。ただし黄色い円形部分は縦に裂け、その裂け目から白い棘が飛び出ている状態は不気味な魔物そのものだ。葉で獲物を弱らせ、白い棘で挟むように体内に取り込むのだ。これも植物系だが根を二足歩行のように動かして自力移動する。


「おっきな葉っぱー、棘はないけど結構硬ーい。」


 転生者はしゃがんだまま移動し、呟きながら葉を触ったり持ち上げたりした。葉はよくある楕円の変形で、胴体であろう幹から枝分かれして生えている。大きさや枝分かれ箇所はそれぞれで、規則性は無さそうだと推測した。

 転生者は立ち上がり、イビルフラワーに両手を翳して呪文を唱えた。


「葉っぱとー、花びらの付け根をー、せーのっ、カートゥ《切断》」


 本体から葉と花弁が切り離された。転生者は葉を持ち上げ、次々と拾い重ねていった。そして小走りで移動し、壷状置き場と寝床の間に置いた。

 花弁に駆け寄ると持ち上げ抱えた。葉よりは小さいが、転生者の顔よりは大きい。黄色い円形部分より赤みを帯びていて、6枚あった。それらを持ち上げては重ねて抱きかかえていった。

 花弁を全て回収し終わった転生者が動きを止めた。私の思考を嫌な予測が過ぎった。


「んー。」


 転生者は唸るような声を出し、おもむろに花弁を口に咥えた。私は予測通りの行動に呆れ苛立った。甲羅もどきの中身で懲りなかったのだろうか。何でも口に入れるのは危険極まりない行為である。魔法で対処するつもりなのだろうが、もし即効性の毒でもあったらどうするつもりなのか。私は嫌悪感を抑えつつ、また吐き出して捨てると予測した。

 転生者はブチッという音を立てて花弁を食い千切った。そして口をもごもごと動かし飲み込んだ。

 えっ? 飲み込んだ?! 


「あらこれ、おいしいわ!」


 転生者はそう呟くと、また花弁を咥えて噛み千切った。そして咀嚼して飲み込んだ。

 立ち止まったまま噛み千切っては咀嚼して飲み込むという行為を、転生者はしばらく続けた。

 

 私は即効性の毒は無いと推察した。しかし遅効性の毒が無いとは言い切れない。

 念のため、私はイビルフラワーについての生態記録を表示するよう操作した。


開示【イビルフラワー、植物系、雑食、稼動可能、イビルの森に多数生息】

秘匿【歪みの影響による変異体の可能性あり、討伐対象】


 登録されている内容はこれだけだった。

 何ともお粗末な情報だ。毒の有無どころか形状の違いすら記載が無い。今回転生者が遭遇しただけでも三種類も居たというのに、いったい何を記録しているのだろうか。この程度の報告で済ませている辺り、担当者の実務能力とジュニアの管理能力の低さが、いや、この記録はポンコツ父神の頃に作られているから前担当者が登録したもののようだ。引き継いで確認も更新もしていないのだから、前任も後任も能力基準は同じかそれ以下ということだ。 

 何かすると押し付けられると判断し、私は生態記録の表示を終了させた。


 映像を注視すると、転生者が深く息を吐いていた。


「ふう、ご馳走様でした。」


 転生者はそう呟くと前方へ一礼した。そして呟きながら歩き出した。


「んー、甘くておいしかったー。硬めの干し芋みたーい。」


 転生者は寝床の前で立ち止まり、寝袋の下の壷状のものの蓋を上げると声を発した。


「あーっ!」


 毒でも回ったのかと、私は推察し緊張した。


「食べる前に洗うの、忘れてたわー、気をつけなきゃ。」


 そう呟くと手に抱えた4枚の花弁を壷状のもの中に収納した。

 私の緊張は解けた。毒などの発症ではなかったようで幸いだ。食料を洗浄することは食中毒防止に有効であるので、転生者の反省の弁は間違いではない。だがそれではない、そうではなくてだ。何とも言えないもどかしさに私は当惑した。


「えーと、茎を剥くみたいにー、せーのっ、ピール《皮むき》」


 転生者はイビルフラワーの前に戻り、両手を翳して呪文を唱えた。イビルフラワーは縦に細長く分断されて崩れ散った。

 転生者は根元の少し上を掻き分け、中から黒い楕円の塊を取り出した。そして持ち上げると小走りで甲羅置き場へ向かった。


「一緒にここに居てねー。」


 黒い塊を入れた甲羅もどきの前で立ち止まり、呟きながら持ってきた黒い塊を入れて並べた。

 転生者は歩き出し、新しく掘った穴の右横で立ち止まった。

 左手を穴へと伸ばし、右手をイビルフラワーに翳して呪文を唱えた。


「この穴に入ってくださーい、せーのっ、ガーザー《集める》」


 突風が駆け巡り、地面に散らばっているイビルフラワーの残骸を舞い上げた。それらは風に乗って穴に次々と飛び込んでいった。すぐ傍に置かれている壷状のものや甲羅もどきにはまったく動きがない。さすが高位の魔法を使うだけあって魔法の制御にも精通していると私は感心した。

 転生者は小走りで氷柱の前に移動した。氷柱はかなり溶けて小さくなっていた。

 左手を氷柱へと伸ばし、右手を水溜めに向けて伸ばして転生者が呪文を唱えた。


「あそこにー、ウォーター《水》、アイス《氷》」


 水溜めから水が飛び出し、氷柱を太く高く増量していく。水が止まるとまた転生者が呪文を唱えた。


「こことー、そことー、あっちー、ぜーんぶ、ドラーイ《乾燥》」


 右手が指した目の前の穴、水溜め、残骸の入っている穴から白いものが立ち上った。


「追加のー、ウォーター《水》、アイス《氷》」


 呪文が唱えられると白いものが風に流され、氷柱へと運ばれて消えていった。

 転生者は残骸の入っている穴へと体の向きを変えて左手を伸ばし直した。そして右手で目の前の穴と水溜めを指し、呪文を唱えた。


「こことー、そこをー、すっきりー、クリーア《奇麗》」


 穴と水溜めから風に舞って何かが飛び出し、残骸の入っている穴へ飛び込んだ。

 転生者は水溜めの前へと移動すると両手を伸ばして呪文を唱えた。


「溢れないようにー、ウォーター《水》」


 数秒後、空から水が降り注いだ。転生者はその水を両手に受けると手を擦り合わせてから、水を受け止めて飲んだ。

 降り注ぐ水が止むと、転生者は残骸の入っている穴の前へ移動した。そして胸の前で両手の平を合わせ、穴に向かって一礼した。姿勢を正すと、穴へと両手を伸ばし呪文を唱えた。


「細かーく、クラーシュ《粉砕》」


 穴からガサガサと音がした。


「確かー、黒くよねー、えーとー、焦げめしっかりー、ベーイク《焼く》」


 呪文が唱えられると、穴からパチパチという音がし始めた。次第に白いものが漂い始め、赤い光がちらちらした。

 転生者が穴を見たり周りを見たりしながら、顔を右へ傾け呟いた。


「あらあらー、えーと、広がらないようにー、でもー、高くはー、むー、あっあれ、あれができるかもー。」


 転生者は1歩後退して、穴に向かって両手を伸ばすと呪文を唱えた。


「周りをぐるっとー、高ーく、エアウォール《空気壁》」


 穴には変わった様子が見られないが、無軌道に漂っていた煙が真っ直ぐ上空へと昇り始めた。

 転生者は穴へと近付き、穴の上で両手を動かしながら呟いた。


「うふふふ、あれってー、こういうことだったのねー。うふふ、お姉ちゃんもできるようになっちゃったー。」


 転生者は時々うふふと呟きつつ、穴の上で両手を動かし続けた。

 いったい何をしているのか、あれとは何のことなのか、なぜ笑い続けているのか、私は冷静に観察し続けるも推察には至らなかった。

 だが、解体した残骸を燃やしていることは理解できた。これで転生者が火・水・風・土という四大元素全ての魔法が使える魔法使いであるということが判明した。複合魔法が使えるのだから四大元素は全て網羅しているだろうと確信はしていた。今まで火属性を使わなかったため確認できず断定できなかっただけである。客観的な裏付けが取れたことに私は粛々たる達成感を感じた。


 それにしてもイビルフラワー達はどこからか進入してきたのだろうか。進入経路を推測するべきだろうと私は考え、地図の分布表示を確認した。相変わらず空白円の外周付近に点が留まっており、外周の防壁が破壊された様子は見られなかった。蔓を使って乗り越えたのかもしれない。イビルフラワーのみの襲撃だったことに着目し、私はこう推測した。


 イビルフラワーから出たあの黒い塊は魔石だろうと私は推定している。

 この世界の生物は全て魔力を体内に宿している。そういう生物とは別に、魔石を体内に生成し核として活動するものを魔物と呼んでいる。魔石は魔力の結晶体だ。魔石が魔物にどのような影響をもたらすかは種類によって変わるが、基本的に凶暴化し巨大化していく。他者を襲って貪り食い、核の魔石を肥大化させると同時に器をも大きくしていくのである。

 元々この世界の魔物はダンジョン内部のみに存在するモノだったらしい。ダンジョンは高濃度の魔力が溜まると自然発生する地形である。性質が歪みに似ているので誤解されることもあるが、自然物なので創造神の管轄であり対処も可能である。資源の乏しい世界では重宝される自然物なので、産出物や魔石の生成工場として設置する創造神も在ったりする。歪みではないので、自然発生したダンジョンを放置する主神も在ったりする。手入れが行き届かないダンジョンから魔物が溢れて出てしまうのもこの世界に限ったことではない。だが歪みを放置したままにして魔物を変異させ、更にそれを放置し続けるのはこの世界くらいだろうと私は推定している。


 

-・-・-・-・-・-


語り手 私、この世界の一柱(観察記録実況中、愚痴と興味のある事には饒舌)


花弁のあるもの ダンスフラワー型植物系生物

         (回収完了、楕円体の塊、乾燥した花弁は干し芋っぽい)


甲羅もどき ハエトリソウ型植物系生物(器に活用、塊2個保管中) 


転生者   連絡待ち、食事初完食、目印増量、焼却開始、見えない壁を堪能



カートゥ 《切断》思い通りに切れ味抜群、道具要らず

ガーザー《集める》がさっと吹き飛ばして集めると自動停止する掃除機風

ウォーター《水》 飛ばす、注ぐ、集めて落下、移し替えは思い通り

アイス  《氷》 注いで固めれば増量自在、水は凍ると10%ほど体積増

ドラーイ 《乾燥》カラカラ乾燥、水蒸気発生、乾かし過ぎ注意

クリーア 《奇麗》磨きの風で、すっきりー、思い通り

クラーシュ《粉砕》対象を粉々に砕く、道具要らず(燃えやすさ未確認)

ベーイク 《焼く》こんがりオーブン焼き風に燃焼、最高温度300度

エアウォール《空気壁》ここに壁がある、煙を通さない、大きさ自在

 


お読みくださり ありがとうございました!


ここに壁がーは たまにしますが、ここに椅子がーは 無理ですっっ 

 

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