アイアンアンドヘルファイヤ
本来の機能を完全に復活させた炉が、多数の煙突その全てから黒煙を吐き出す。
「あっちちち!!」
「離れろ!」「ヒゲが!焦げる!」
「おいニンゲン!離れろって!!」
「熱量の、調整をしないと…」
「その髪の毛燃えちまうぞ!!」
あれよあれよという間に球体が吐き出す熱が増えていく。
「これ、やばくないか!?」
「どうすんだ!?消し方わかんねぇ!!」
「やばいやばい!服が燃える!」
「おい!ニンゲン!戻れもうお前…」
「でも…っ!」
火力を増す炉はその速度を緩めることなく、閉じた一室を赤く染め上げていく。
(もう、まずい…!後少しで、調節できるのに…!)
また、自分が勝手なことをしたせいで。
誰かが死ぬかもしれない。
「ダメだ…後ちょっとーっ!!?」
炉から熱風が吹き荒れた。アンディの体は吹き飛ばされる。
そこでなにかにキャッチされた。
「はいはい任せなさい」
アンディの服を掴み、後ろに放るアイツー。
「アイツー!?」
「私は平気だから。心配いてる奴らのとこに行ってやりな」
烈火のごとく熱を吐き出す球体に躊躇なく足をふみ入れる。あっという間に炎の中で姿が見えなくなった。
「おい!大丈夫かニンゲン!?」
「ケホッ、それより、アイツーが!!炎の中に!!」
炎の方を指差すアンディ。
「やつなら平気さ!」
グレープはなんの心配もしてない声色で応える。
「アイツはさいきょーだからな!」
「ああ!こんなんで壊れる訳がねぇ!!」
「そうだな」
その時、壊れた扉の向こうから隊長が声をかけた。
「あ、隊長さん!」
「おっちゃん!!」
「…おめーら後でお仕置きだからな!」
「えぇーっ!」
「当然だ!!勝手なことしやがって! 客を誘拐もそうだがシャレになんねーぞ!!」
「あの、隊長さん…」
「なんだ!?」
アンディが扉の方に後ずさりながら聞く。
「アイツーっ、大丈夫なんですか!?」
「…アイツーなら問題ねーよ」
「本当、ですか…?」
「ああ」
「あー、あっついなぁ」
アイツーは真っ赤になった視界の中、熱源である球体へと着実に近寄る。
「ほんっとあの子達には参ったもんだよね。あなたもしばらく眠っていたかったろうに」
球体にたどり着いたアイツーが、外壁部分を撫でる。
「…へぇ、あの子割ときちんと整備したんだね。こりゃ本職顔負けだ」
そして備え付けられたスイッチ押す。
「じゃ、また暫くの間よろしくね」
隊長とアンディが話しているうちに、球体から吐き出されていた熱が急激に引いていく。
「おおーっ!」「アイツーがやったな!」
「寒さからこれでおさらばだぜ!」
喜びはしゃぐ子供達の隣で、隊長はくすぶる炎から目を離さない。
「やつはアンダーステイツを捨てたアンドロイドだ」
「アンドロイド…」
「それもかなり古い型らしい。長いこと仕えてたはずの国を捨てたんだ、アイツーは」
炎から人影が映る。ややあって炎の中から、特に燃えた痕跡すら残さずアイツーが這い出てきた。
「いやー、流石に熱いね。伊達に型式ヘルファイヤ名乗ってないよ旧連邦製」
余裕しゃくしゃくといった風情のアイツー。
「傷1つ付いてねーじゃねーか」
「ま、これぐらいはね」
「アイツー、大丈夫だったの?」
「ん?少年アンディの元気がないね。なんか話したの?」
「お前の過去だよ」
「やんプライベートなことなのにバラしたの?隊長ったらえっち」
「お前に恥ずかしい過去なんざねぇだろ!」
「いやぁこれでも恥深いロボ生だったよ」
ちょっと休憩するわー、と言いながら離れていくアイツー。その後ろを隊長とアンディは見守る。
「お前も行け。イタズラのオシオキはお前も受けてもらうからな」
「…やっぱり、直したらダメだった?」
「それについても話す。今は行け」
走っていったアンディの姿を見る隊長の表情は、苦々しくも嬉しそうだった。
その日、関所の中で赤い光がともり、雪原の関所が息を吹き返した。
煌々と輝く光と、吐き出される煙が空に伸びていく。