関所の内部の鼠の都
「そこのトロッコの資材を運んでくれ!」
「子供が泣き出した!」
「レンチもってこい!」
「やばいやばい崩れそう!固定早ーく!」
「ザカリムシが出てきた!」
「ビー玉集めちゃお」
「男衆!!水持ってきたよ!!」
「今日中に修繕終わらすぞ!!!」
「「おおーーっ!!」」
鉄柱が乱雑に頭上を覆う。陽の光が少しずつ差し込むここは、鼠のような人類ティムリー達が住む砦。
「わぁ、こんなにたくさんいたんだ」
「キミの感覚で数えなかったの?」
「まだ使うのに慣れてなくって」
下層を歩く二人組、少年アンディと少女アイツー。
「よー、お前さん達話はおわったんか!?」
「あ、隊長!」
「隊長さん! さっきは怯えてごめんなさい!」
「いいってことよ!軍人たるもの少しはビビられた方が拍がつくってな!!」
「隊長が怯えられるって滅多にありませんもんね」
「そこ! 聞こえてんぞ!!」
話ながらちょろちょろと降りてくる、一回り大きな鼠の隊長。
「ほれ、寒いだろこれかぶれ」
アンディに渡すのはもふもふした帽子。
「いいの?」
「俺たちゃ自前の毛皮があるが、そんなつんつるてんの皮膚じゃ寒かろうよ。普段は外に行く人用のやつだから後で返せよ」
「あ、ありがとうございます!」
「この素直さ!俺の部下にも見習って欲しいもんだ」
上から他の人の声が届く。
「おういつもありがとうございますよ隊長!」
「隊長秘蔵の合成甘味ケーキは美味しかったですよー!」
「あれ無くなってたと思ってたらお前らかよ!?」
「隊長私物ゾーンを共同冷蔵に作ってるんですもん。そらつまみ食いされますよ」
「くんのやるぉーー!!」
「にゃははは!」
跳ね回って怒る隊長、笑い転げるアイツー、髪が多くて帽子が入りきらないアンディ。
「あ、そだ隊長」
「なんだ!?」
隙間から吹き込む雪を払いながら、アイツーが立ち上がる。
「後で話会いたいことがあるからさー会議室の方に来てくんない?」
「見ての通り今忙しいんだが…」
「割と大事な話だから、アンディの処遇を決めるついでに打ち明けたいんだよね」
「アンディ?やつの名か?」
「そうそう」
隊長が腕を組み大仰に唸る。
「うーん、まー空いたら声をかけるわ。夜になるかもしれんが」
「それはしょうがないね。アンディもそれでいい?」
アイツーが振り向くも、アンディはそこには居なかった。
「…あれ?」
「さっきうちのちっこいのが連れてってったぞ、そいつ」
隙間風が吹雪く関所の破損箇所。そこでアイツーは頭を抱えた。
「わっせ、わっせ!!」
「落とすなよ!ニンゲンはてーちょーにもてなせ!」
「わかってるよあんちゃーん!」
鼠の少年達が、簀巻きにしたアンディを運んで細い鉄柱の上を駆け抜ける。
「もがもが」
「ジタバタすんな!落ちたら痛いぞ!!」
「てか力弱っ」
「ニンゲンってみんなこんななのかー?」
「聞いたことある!ニンゲンってキカイにホジョしてもらって動くから、体だけだと弱いんだ!」
「なんでそんなのに勝てないんだろー?」
「「んー?」」
アンディがなんとか口元の拘束を外す。
「ぷはっ!、それは、機械が強いから、じゃないかな」
「あ、取れた」
「暴れるなよー!後叫ぶなよ!」
「分かってるよー」
鼠の少年達の頭を、白い触手が撫でる。
しばらくして一行は扉の壊れた部屋に着く。
その部屋の真ん中には、巨大な黒い球体が吊るされていた。
「よし着いた!」
「降ろせー」「わー!」
簀巻きにされていた少年が解放される。
「ここは…」
「ここはどーりょくげんだ!」
「動力源?」
「おう!」
リーダー格が黒い球体を指差して話を始める。
「ここからぬっくいのが出てきて、関所中を温めてんだ!」
球体は巨大な炉の様にも見える。口のような穴から熱を含んだ赤い空気を吐き出し、複数の煙突から黒煙が吹き出す。
「でもここ二年ぐらい調子が悪い!」
「稼働してるように見えるけど…」
「前はもっと温かったんだ!」
見ればいくつかの煙突から煙が出ていない。燃料の経路か、パイプもいくつか破損している。
「俺たちゃコイツの直し方がわからん!」
「おいニンゲン!なんとか動かしてやれねーか!?」
小鼠達が口々に告げる。
「おじいちゃんが寒さで震えてんだ」
「おれのとこじゃ妹が風引いて治らん」
「作業してる大人も指先が紫になってんだ」
「ここを直して、あったかくしてくれ!」
「お願いだ!」
要望を叫ぶ子供達は、アンディの返答を固唾を飲んで見守る。
「僕が直せるかは分からないけど…」
果たしてアンディは頷いた。
「うん。直す!なんとかしてみせるよ!」
小鼠達が沸き立つ。
「やったーー!!」
「ありがとな!」
「手伝えるか!?」
アンディは球体の方は進み出る。
「ちょっと覗いてみるね」
そして中を覗く。
「わぁ、結構複雑だ」
「なんとかなりそうか?」
「まってて。調べるから」
後ろでたくさんの視線に見られながら、少年は髪の毛を伸ばして球体の周りを調べ上げる。
「すっげ…」
「ニンゲンってあんなことができるの!?」
「毛伸ばせるんだなー。なのに頭以外生えてないんだな」
髪の毛で一通り外壁を撫でた後、今度は炉の付近に伸ばす。
「あっつ…」
毛の先から黒煙が上がる。
「あ!」
「やべ燃えた!!」
「あっつつつ!!助けて!!」
「水かけろ水!!」
「雪しか無い!」「それでもいい!!」
「「とりゃあっ!!」」
小鼠達が元気いっぱいに雪をぶっかける。
「ぶはっ!!?」
アンディはあっという間に雪に埋もれた。
「大丈夫か?」
雪の中から救出された少年は、火を吐く炉の近くで暖を取っていた。
「うん…なんとか」
「そりゃよかった! んで、直せそうか?」
「えへへ、見てて」
少年はその手と触手を動かし、雪の上に絵を描いていく。
「おおっ!?」
「これは、部品?」
描かれたのは部品。細々としてかなりの数がある。
「これらを探してきて欲しいんだ」
「そしたら直るのか!?」
「うん。直すよ。おじちゃんのメンテナンスよりは簡単だ」
得意げに微笑んで見せた。