旧文明の防波堤にて
「う、んー」
吊るされた蛍光灯の光の中、少年は目を開く。
「あ、目覚めた」
「おぉ!?まじか!」
「ニンゲンが目ぇ覚ましたぞぉ!!」
少女と、鼠達が顔を覗き込んでいた。その事実に少しだけ息を呑む少年。
「鉄の子だ!!」
「すげぇ!目が青い!!」
「毛が長ぇのか短いのかよくわかんねぇな!」
周りで二足歩行する鼠達がちょろちょろする。
「…!」
まくれた布団に隠れてしまうアンディ。
「こらこらお前らはしゃぐな! コイツ怖がってんじゃねぇか」
「はーい隊長!」
「しかし骨と皮だけだな」
「…ん」
その鼠どうしのやりとりを見て少し警戒がほどける。
「んで、どうだアイツー?」
一際大きな、目算1メートル程の鼠が少女に問いかける。
「…うん。心拍数も問題なし。栄養を取れれば三週間ぐらいで健康状態に戻れるし、間違いなく生身」
「まぁ今はそれだけ分かればいいな」
「○○○○○?」
少年が口を開く。
「あん?なんて言った?」
「××××××××××?」
「わかんねーな。アイツー、分かるか?」
「ちょっと検索かけてみる」
「%¥>々*@☆?」
「/////////?」
その後何度も意味の分からないことを話す少年だったが。
「もうしわけねぇわかりやせんか?」
「んお!?喋れた!!」
「おめぇティムリー語喋れんのか!!」
「やった!通じやした!!」
「しかもめっちゃ訛ってらぁ!!」
少年はホッと息を吐く。その手前で隊長とアイツーがこそこそと話す。
「今何語を話してた?」
「旧文明の言語が最初の方は多かったよ。英語フランス語ロシア語日本語。その後アンダーステイツ、冬街道共通語からティムリーまでいった」
「ふーむ。アンダーステイツ語と共通語が話せるのにティムリーが話せるのか…」
「余程の物好きか、教育熱心な親でもいるのか…」
「それでこの歳で放り出されてたんだ。訳ありなのは間違いあるめぇ」
鼠の隊長が少年に近づく。
「おめぇ、どこから来た?」
「雪原の向こうでやす」
「向こうぅ? 冗談としちゃ出来が悪いぞ?」
顔をしかめて詰め寄ると、少年は隠れてしまう。
「隊長ー」
「子供怖がらせたー」
「やれやれ俺じゃ会話にもならんか」
少女が隊長の前に出る。
「ここは私に任せてよ」
「頼むわ。オイお前ら!関所の修繕に行くぞ!!」
「「「アイアイサー!!」」」
ちょろちょろと動きだし、あっという間に鼠達が部屋から出て行く。残ったのは少女と少年だけとなった。
「そんなに怖い人達じゃないよ」
「えと、はい。それはなんとなくわかりやす」
「まぁ、ゆっくり話せることからでいいから話てよ。別にとって食ったりはしないからね」
「あい」
「そっか。よくここまでたどり着けたね」
「うん…」
「辛かったろうに…」
少年の話は、聞けば非常に残酷だった。
少女も茶化したりしないで、境遇と従者の事を悼む。
「アンディ。いい名前じゃん」
「ありがとう。君はアイツーって言うんだね」
「ふふふ、そう? こんな名前の所為で北方戦線のアイツって呼ばれてるんだよ?」
「あはは」
少女の笑い話に、会話の中ですっかり訛りの取れたティムリー語で返す。
「多分館を攻撃したのは空対地コンドル。まず間違いなくアンダーステイツの正規軍だ」
「地下合衆国…」
「今のところまだ大丈夫だけど、いずれここにも追ってが来るかもしれない」
「ごめんなさい…」
アンディがしょぼくれる。その頭をアイツーがはたく。
「そんな捨てられたアイボーみたいな顔をしないの」
「でも迷惑を」
「問題なしってことよ。そもそもここ星の関所はアンダーステイツと敵対してるもん」
「それって大丈夫なんですか?」
「んまぁ相手はデカイ国家連合だし、本腰を入れだしたらどうなるかわからないけど」
少女はへらっと笑いながら自分を指差す。
「私がいるし。大丈夫っしょ」
その声に、あの時おじちゃんから感じた揺らぎは無い。
「そっか…ちょっと地図見せて」
「ん、いいよ」
少女が近くの棚から地図を取り出す。
少年はブツブツ呟きながら髪の毛で地図をなぞる。
「えっと…北極星があそこでさそり座が向こうだから…」
「…うわぉ」
その光景は異様。目で確かに地図を見ながら、なお多くの情報を得ようと触腕を伸ばす姿はまるでクラゲ。
「…なるほど。アンダーステイツの軍はここに来るときどんな方法で来るの?」
「装甲車かコンドル」
「なるほど陸路も取れるならこっちかな」
「…!」
触手が蠢き図を作る。地図の上に形作られた図形は何かの軌道。
アイツーには分かる。それは補給線。
「アンダーステイツの軍は多分こっちかこっちに道を作って移動してる。僕が居た白い屋敷は多分ずっと離れた北にあるから、そこまであの飛行機で移動しようとしたなら…」
導き出される座標。
「最低でもここに発着できる施設があるね」
「…すげぇ。敵の基地の座標を割り出したんだ」
関所に残った軍事用のレーダーをフル稼動させても長年見つけられなかったアンダーステイツの北方拠点、それを少年が見つけるのにかかった時間は数十秒。
「えへへ。なにか力になりたくって」
「とんでもないな」
規格外。アイツーの自称世界一優秀な電子頭脳でも、形容する言葉がそれ以外出なかった。