世界のナゾとおじちゃんのヒミツ
「それでね! 一気に生物の進化が加速するんだよ!旧暦2025年に!!」
『エエボッチャマ。ソノ通リデス』
鼻息荒く従者にまくし立てる少年。発見したことに興奮が隠せないようだ。
「A加速粒子の利用が間違いなく原因なんだけど、ジェイコブ・ヘッケランの“これからの進化学”では理由までは解明されてなかったの!!」
『ソノ通リデス。ジェイコブノ著書ハ難解デスガ常二時代ノ2歩先ヲ行キマス』
「でもだよおじちゃん! 細胞変異の原則だとDNAよりむしろA加速粒子が通過可能な原子の中心より遥かに小さいところが重要なの!」
少年が得意げに胸を張る。
「加速粒子によるフォトゲノムの供給と外部原子の体内融合! これが進化の理由で間違いないよ!!」
キラキラとした目で答え合わせを待つ少年。
『ヨクワカリマシタネ。ソノ答エ二人類ガ辿リ着クノニハ、ソノ著書ガ発行サレテカラ20年の歳月ガ費ヤサレマス』
「やたー!合ってた!!」
鍵が渡された次の日。解放された資料室は既にその2割を読破されていた。
『手前ノ本棚ハ既二制覇シマシタカ』
「うん…」
『随分ト、早クナッテマスネ』
7年前に図書館を読破した時より、少年の文字を追う能力が大きく成長している。
「先に全部読んじゃいそう…」
『時代ノ書物ヤ映像ハ合ワセテ読ンダ方ガ効果的デス。今日ハ映像鑑賞ヲシマショウ』
「わかった!!」
元気に返事する少年。それを見て従者が頭を撫でる。
『今日モ鑑賞シナガラ答エ合ワセデス。マダマダ学ブコトハ多イデスヨ』
「うん!」
従者は暫く少年の頭を撫でていた。
「えーっ!? 図書館の方の記録!?」
『エエ。ボッチャマハ本バカリ先二読ムセイデ図書館ノ映像記録ガマダマダ残ッテイマス』
「せっかく資料室解放したんだからそっちのでいいじゃん!」
『ダメデス。順序ダテテ見テイカナイト理論ヤ時系列ガコンガラガッテシマイマス』
屋敷二階の映像鑑賞室で、少年と従者が口論する。
「やだぁー! もうそっちの理論は全部読破したからわかってることばっかりだもん!!」
『何度モ見ル事デ改メテ気ヅクコトモアリマス』
「むぅー!! おじちゃんのケチー!!」
『ボッチャマ!』
少年はやけになり走り去っていった。足音から資料室に向かったのが分かる。
『…映像記録カラ興味ヲ排除スル事二成功。資料室奥ノ“コードアイ”ハ明日明朝ニテ回収ヲ要請。コードネーム “Andy”ノ食事二睡眠薬ヲ投与予定』
「むー…」
少年は資料室で、座り込み膝を抱えた。
「…何でこんなに分からず屋なんだろう」
機械頭の従者はいつもそうである。何かにつけて制限をかけては、それ以外のことに頑なに許可を出さなくなる。
「…」
映像記録の棚の前に立つ。
「早く見たいのになぁ…」
ディスクの入ったパッケージを撫でる。
「映像記録も、もっと早く読めたらいいのに…」
その時、少年の髪の毛がゆらりと動いた。
「…?」
何かを読む時に追随するように動く少年の髪の毛。それが今度はパッケージの内側に潜り込む。
「 … !」
読めるのだ。ディスクの表面を髪がなぞると、そこに記録された映像が頭に流れてくる。
「!?」
次のディスクに手をかける。髪の毛は別のパッケージを開き、同時にいくつもの映像記録を読む。
「すごい…すごい!!」
少年にとって己の変化はどうでもよかった。
次々と、今までの欠伸が出るようなペースが嘘だったかのように流れ込んでくる映像記録、情報の奔流に歓喜する。
「…! !!…!!」
喜びに打ち震える少年。その髪の毛は気持ちに呼応するかのように伸び上がり、資料室中の記録を貪りだした。
「!!、?」
時が経ち日が沈む頃、少年の髪の毛が部屋の奥にある扉を捉えた。
「ん、むー?」
奥にある情報を喰らい尽くすために伸びる触手は、さながら神話の多頭の大蛇のように。
しばし解けないまま足止めを食らう。白い屋敷でも類を見ないほど厳重極まるセキュリティが、埋め尽くす触手の侵入を拒もうとする。
「ぬー…えい!」
それでも長くはもたなかった。小さな、しかし重厚な扉が軋みながら開く。
奥にあったのは一つのメモリ。少年は逸る気持ちとともに触手を伸ばす。
扉がけたたましく開かれたのはその時だった。