03話 オレ、新たな名前を貰いました
「なんだよ、なんだよあれ......」
男がそうつぶやく、二十メートルほど先だろうか。
そこには、目は飛び出し、むき出しの牙と瞳は血を思わせる赤色をした狼のようなモンスターが数匹居た。
そのモンスター達は、岸に上がったばかりの男と少女の左側から現れた。
やがてじりじりと男と少女に近づく。
見えないと思っていても、初めて見る狂気をはらんだ瞳に男は怖気づき、目を閉じれず硬直していた。
「っ......」
「安心してください。そろそろ......」
「......ごめん」
「いえ。呼んだ私達が悪いのですから」
その男の瞳を、少女は両手で塞ぎリラックスさせた。
視覚を遮断したことで、男に伝わる情報は聴覚と嗅覚のみ。
少女の優しい声色とかすかに香る匂いは、こわばっていた男の体を柔らかくした。
そして少女が男の瞳から手を離すと、すでに男とモンスターの距離は一メートル程度になっていた。
血のような鉄臭い匂いが、男の鼻を刺激する。
だが男は、自然とそんなことは気にならなくなっていた。
男と少女は、ボソボソ声で会話をする。
「このままジッとしていれば良いのか?」
「はい。ここまで近づいてきたのならば、彼女達がすぐにやってきます」
「彼女達?」
「王国ユグドラシルのモンスター討伐部隊。首都のここならば、その中でも特に強力な第一部隊か第二部隊のどちらかが来てくれます」
「それは、人間だけなのか?」
「いえ、エルフのほうが多いですね。でも、人間も何人かいますよ。最も、魔法に優れて身体能力も勝るエルフのサポート役としての役目が強いですが」
「なるほどな......」
と、男と少女が話しているうちに、二人の後ろへと通過していったモンスター達の前に、白色を基調に青と緑をあしらった、よくあるファンタジーゲームに出てきそうな騎士の服装をした集団が表れた。
少女はその中のうちの一人の女性を見るなり、目の色を変えて焦り始めた。
「......勇者様、早く移動しましょう」
「え?でも」
「このままではマズイです。戦いが終わったら私達の存在に感づくかもしれません......ゆっくりと、モンスターがやってきたところとは反対方向に行きましょう」
「あ、ああ。わかった」
そのまま男と少女は、透明マントから足が出ないように二人とも赤子のハイハイのようにして右側へと移動した。
その後ろでは、モンスターのうめき声と魔法を唱えるための詠唱、爆発音などが聞こえてきた。
戦いが真後ろで起きているがゆえに時折大きな音が鳴るため、男は驚きつつも膝と手のひらを動かし進んだ。
しばらく進むと、気が付けば辺りは少し薄暗くなり開けた公園のような場所へと着いた。
少女は男とかぶっていた透明マントをどけ、宙に投げ捨てた。
機能を消したのか、灰色になった透明マントは青白い粒子とともにどこかへ消えた。
それを確認した少女は、近くにあった木製のベンチに腰掛ける。
男もそれに続き、横へと座った。
「随分と長い間進みましたが、体力のほうは大丈夫ですか?」
「無我夢中で移動してたから、あんまり疲れてないかな。それよりも人が全然いないことが気になるんだけど」
「多分、あのモンスター達のせいですね。私が勇者様を迎えに世界樹の根本に行っている間に報告があったんでしょう。予想よりもモンスター討伐部隊の到着が早かったのもそのおかげですね」
「そっか......それで、これからどうするんだ?」
「一度、私の家に入りましょう」
「また歩きかぁ~。坂道はもうコリゴリ......」
「ふふ、やっぱりお疲れでしたね。でも大丈夫ですよ」
「ん?」
「だってもうここは、私のお家ですから!」
少女が立ち上がりそう言ったとたん、少女の後ろが明るくなった。
男は腕で顔に当たる強烈な光を防ぎ、やがて目が慣れてくるとその光の正体はなんなのか知るために光の先へと視線を置いた。
男の目先にあったのは、それなりの巨木だった。
その木には窓がいくつかあり、そこから光がこぼれておりクリスマスツリーのようになっていた。
「すっげぇ~......どんなファンタジーだよ本当に......」
「こういうお家は、勇者様は初めて見ましたか?」
「ああ。木の上に家を建てるっていうのなら見たことあるけど、木そのものを家にするなんて初めて見たな......なんていういか、あれだな」
「?」
「すっごく、良い」
男が何を言うのかと、首を傾げた少女。
それに対して男は、思ったままの感想を言い放った。
その目は少女の家を隅々まで観察していた。
男の感想を聞いた少女は、驚いたように垂れ気味の眉と瞳を上に見開いて男の顔を覗き込んだ。
「本当ですか?」
「もちろん。なんていうか、秘密基地?みたいな感じがして気分が上がる」
「......勇者様は面白いですね!てっきりこんなお家は住みにくそうだから嫌だっていうかと思ってドキドキしてました」
「言わない言わない。それに、ここに住んでるってことは、快適なんだろ?」
「もちろんです!」
「だよな。ていうか一人暮らしか?」
「はい」
「すごいな。オレと歳が変わらないくらいなのに」
「そうでもないですよ。勇者様の世界ではどうかわかりませんが、こっちでは普通ですし。さて、冷えてしまいますし中に入りましょう」
「お、おう」
男は、少女の家に入るということに少しの緊張を抱きつつ、少女の後に続いて木のへと歩いて行った。
木の根元まで来ると、改めてその大きさに気づく男。
少女はそんな男を見て笑みを浮かべつつ、木に指をあてた。
「何をしてるんだ?」
「お家の扉の鍵。のようなものですかね。見ていただければ何となくわかるかと」
「ふ~ん」
少女が人差し指を木に当てて少しすると、そこから青白い光と緑色の粒子が一瞬飛び散り、木の一部が下に下がってちょうど人ひとりが屈んで入れるくらいの高さの穴ができた。
男はそれを見て、お~と声を漏らす。
少女はそのまま中に入り、履いていた靴を脱いだ。
男も少女に促され、履いていたスニーカーを脱いで家の中へと入る。
中はランプで照らされており、オレンジ色の優しい光が木の中身であることと合わさって穏やかな雰囲気を醸し出していた。
そして意外なことに、室内は男が思っていたより広かったのだろう。少女に問いかける。
「なぁ。なんか外の見た目よりも広くないか?」
「はい。私達が正面から見ていた木は一本だけですが、実はこのお家、数本の木が合わさって一つの巨木になってできているんですよ」
「ここ実は結構な優良物件じゃないか?」
「う~ん、どうなんでしょう......中に入るために魔法を使うことが必須ですから、魔法が苦手な人からしたら嫌なんじゃないでしょうか?」
「確かにそうかもな」
「でも、私は気に入ってますけどね。それじゃあそこの椅子に座って待っていてください。私はお茶を持ってくるので」
「了解」
男は少女の指さした、そこそこ大きいソファーに座った。
少しすると、少女が白色の二つのティーカップとティーポッドを持ってきて、ソファーの目の前にあった小ぶりのテーブルに置いた。
そして二つのティーカップに薄い緑色の液体をティーポッドから注いだ。
男はありがとうと礼を言い、まずは鼻を近づけて匂いを楽しむことにした。
少女はそれを見て、男の行動を観察した。
「どうした?」
「いえ。お茶の匂いを嗅ぐ人なんているんだな、と......」
「え、もしかしてまずかったか?」
「と、とんでもありません!少し、珍しかったので」
「あ~、なるほどな。オレはこういうのを飲むとき、最初は鼻で感じたいというかなんというか......」
「そうですか」
と言い、少女もカップを手にして鼻を近づけ匂いを嗅いだ。
少女は匂いを嗅ぐと、目を丸くさせうつむいた。
「大丈夫か?」
「......お茶って、こんなに良い香りがするんですね」
「も、モノによるんじゃないか?確かにこれは良い香りだけど」
「私、初めて知りました!!」
「おおう!?」
少女は一気に顔を上げ、男に詰め寄った。
それから少女は、一口お茶を飲むと、おいしいとつぶやいた。
「こんなにおいしいお茶、久しぶりです!」
「いやいや、君が作ったんだろ?」
「でも、やっぱり一人で飲むより誰かと飲んだほうがおいしいですよ。それに、最初に匂い嗅いだことで、なんというかこう......味がよくわかるようになった気がします!」
「そうか?じゃあ、オレもさっそく......うん。めっちゃ美味いやんこのお茶。えぇ~!?」
「あはは、勇者様面白い反応ですね!」
「いっやぁすっごく美味い!これは何のお茶だ?」
「えっと、これはいつも私が飲んでいるものなんですけど......この木の上に生えている葉っぱやお花を洗ってお湯に浸すと、なんだが甘い味になるんですよね」
「確かに甘いな。砂糖でも使っているのかと」
「あまり下町に行かないので、砂糖は使ったことがありませんね......ああ!あと、これも!」
少女は男の前に、透明な瓶に入った液体とスプーンを差し出した。
瓶に入った液体は、粘度が高くオレンジ色。
男はそれをスプーンでとると、お茶に入れて音をたてないようにかき混ぜて飲んだ。
「うん。甘い。美味い。最高」
「良かった......これも、この木の樹液です」
「これは......売れるな!!」
「う、売れる?」
「ああ。普段はどうやって生活を?」
「えぇっと......私は他の方のように農業や漁業、林業をしたり、ギルドから依頼を受けてモンスター討伐や薬草集めをする冒険者でもないので」
「つまり、無職?」
「うぐっ......そ、そんなところです......」
「食べ物は?」
「私、生まれてこの方この辺りにある木の実や野菜、魔法で栽培した小麦から作ったものしか食べたことないです......」
「マジかよ......」
男は少女の食生活に驚く。
それと同時に、どうやったらそんなに発育が良くなるんだと少女の体を隅々まで見る。
少女はそれに気づかず、ちびちびとお茶を飲んでいた。
やがて男は本題を思い出し、少女に問いかける。
「そ、そうだ。この国を救うとかなんたらって話は?」
「......あ、忘れてました!えと、とりあえず自己紹介を......」
「ああ。どうぞ」
「私の名前は、ユア。ユアって呼んでください!」
「ユア?苗字はないのか?」
「?......あ!そ、そういえばそうでしたね!すみません、誰かに自己紹介......というより、人と話すのが久しぶりで......」
「そうだったのか。まあ無理はしないでくれ」
「いえ。改めまして、ユア・ミストルティです。ユアって呼んでくださいね?」
「ああ。わかった。んじゃあ次はオレか。オレの名前は」
「待ってください!」
「ん?」
男が名を名乗ろうとしたとき、ユアはワクワクしたような表情をしていた。
しかし何かを思い出したのか、男の自己紹介を手で制し、銀髪を揺らしながらどこかへ走っていった。
ほどなくして別室から何かの紙とペンを持ってきたユアは、それを男に渡し説明した。
「勇者様はこの世界の人間ではありません。なので、この世界で生きるための名前が必要なんです」
「わざわざか?」
「はい。勇者様は今のところ、力はあるが引き出せない状態、いわば魔法が使えません。しかしこの紙に勇者様の本当のお名前を勇者様の世界の文字で書くことで、この世界での新たなお名前が作られるんです」
「それで?」
「その名前を持つことで、魔法など、勇者様の世界ではなかったものが、見えなかったものができたり見えるようになります」
「ほ~う。つまりオレ、今めっちゃ弱い?」
「めっちゃ弱いですね」
「おぉ...まじかよ......じゃあ、書く」
「どうぞ」
男はユアから紙とペンを受け取り、漢字のフルネームで己の名前を紙に書いた。
すると、紙が淡く光り輝き漢字が吸い込まれるように消えた。
そして次の瞬間に、男の胸が光り輝きこの世界の文字が現れた。
その文字は男の周りを一周すると、やがて紙に張り付いた。
紙を見ると、そこにはペンで書いた黒文字ではなく、青白く光る文字が記されていた。
「これがオレの名前か?」
「はい。見せてください」
「ほい。なんて書いてある?」
「え~っと......ニア、ですね」
「ニア?」
「はい。ニア......ガナー。ニア・ガナー。それが勇者様の新しいお名前ですね!」
「ガナーがなー......ちょっと何とも言えないけど、でもこれで魔法が使えるんだよな!」
「はい!」
ユアがそう大きく返事をしたとき、家のドアが開いた。
いや、正確には下に落ちて入れる状態になった、というべきか。
ともかく、何者かが中へと入ってきた。
ユアはそれが誰なのか知っているのか、特に気にしていない様子だった。
ニアに関しては、なんだろうと不思議そうな顔をして玄関のほうを眺めていた。
ニアが眺める玄関からは、肩よりも少し長い金色の髪。そして、ユアと同じ翠色の瞳。
違うところと言えば、眉と瞳はユアのように垂れておらず、すらっと切れ長なところだろうか。
顔立ち、雰囲気はどことなくユアを思わせる女性が、ニアに近づいてきた。
「あ、お姉ちゃん」
「お、お姉ちゃんんん!?」
ユアの一言に、ニアは驚く。
それを聞いて新しく登場した女性は、ニアに一言。
「うるさいよ?」
そう言い放った。
「あ、す、すみません......」
ユアの言う姉に注意されたニアは、すぐに謝り座りなおした。
それを見た女性は、再びゆっくりと近づき、ユアの隣に腰掛けた。
ユアはそれを確認し、その女性に自己紹介するよう促した。
「お姉ちゃん、勇者様に自己紹介をしてくれますか?」
「は~い。初めまして勇者様。私、ユアの姉のレア。よろしくね」
「ああ、これはどうもご丁寧に。オレ......んん、自分、ニアという名を貰いました勇者だそうです、はい」
「そっか。ねえニア君」
「はい」
「勇者の役割って......何か聞いた?」
「......いえ」
「だよね~」
「い、今からしようとしてたんです!」
「あはは!そっかそっか。じゃあ任せても良い?」
「任せてください!」
ユアの言葉を聞くと、レアはそのまま奥のほうへと引っ込んでいった。
ユアはニアのほうを向いて、一度お茶でのどを潤す。
同じように、ニアも一口お茶を口に含む。
そしてユアは、コホンと一度咳ばらいをしてから、ニアをこの世界に呼んだ理由を詳しく話し始めた。
「まず初めに、ニア......さんで良いですかね。ニアさんは、この世界に勇者としてやってきてもらいました」
「そこまでは聞いたな。それで、この国を救うんだよな?」
「はい。ですがそれはあくまで当面の目標です」
「んえ?当面の目標?」
「ゆくゆくは、この世界ごと救ってもらうつもりでいるので」
「......どゆこと?あのモンスターとこの国と、他の国と......なんの関係が?」
「......近頃。いえ、もう十年近く前になりますね。ある勢力が力を得ました」
「ある勢力?」
「そうです。その勢力とは、えっと......いわゆる魔王とその一味、のようなものかと思っていただければ」
「なるほど、大体見えてきた。要はそいつらがモンスターを操るなりなんなりして世界征服的なことをしようとしてるから、それを止めろって話だな」
「今の情報でよくわかりましたね」
「オレの元居た世界には、そういうやつらを倒す物語が書かれた本とかいろいろあったから」
「なるほどぉ。その知識があるなら、有効に活用できそうですね!」
「どーだろ......」
ニアはユアの言う知識を思い出すように目を閉じる。
が、どれも生かせないような知識なのか苦い顔で目を開けた。
ユアは目を開けたのを見て話しを続ける。
「とりあえず、そのために必要なものがあります」
「ほうほう。それはなんなんだ?」
「各国の神話の武器ですね」
「武器か。オレ、そういうの全然使えないんだけど」
「武器と言っても、剣等を使って戦うわけではありません。神話にあるその力をまとい戦うんです」
「つまり、肉弾戦?」
「あはは......」
「おぉい......」
実質モンスターとの殴り合いになるのか、というニアの問いかけに苦笑で答えるユア。
ニアは前世では殴り合いのような喧嘩はもちろん、武道を習っていたわけではないために苦手意識しかないのだろう。
何度もう~んと唸り、いや~と否定し、渋い顔をしている。
ユアもどうしたらよいのかわからないのか、ニアと一緒になっていやぁ~でも......う~んと首をかしげていた。
それを置くから見ていたレアは、見かねたのかお茶を片手に飲みつつ二人のもとに戻ってきた。
「そのあたりは私が教えるからね。ニア君」
「お、お手柔らかに......」
「お姉ちゃんは、モンスター討伐部隊の第二部隊所属ですから。戦い、特にニアさんの言う肉弾戦に関してはトップクラスです」
「魔法とかそういう小難しいのは苦手でさ。この体だけで上り詰めたんだ!」
「普通にすごくないですか?それ......」
魔法。それは、ニアの居た世界では化学。
例えば物体やエネルギーを高速で飛ばす魔法があるとしたら、それは鉄砲と何ら変わらない。
爆発だって魔法で起こせる。
そんな世界で、己の肉体ただ一つで国家有数のモンスター討伐部隊の第二部隊というのは、ニアはまだどれほどかは完全にはわかっていないだろう。
しかしその片鱗は理解しているのか、レアを見る瞳にかすかにだが尊敬の色が表れていた。
ユアもそれが分かったのか、レアを誇らしそうにしている。
肝心のレアは頭に?マークが浮かんでいるが。
「それじゃあ今日はもう遅いので、明日からニアさんには町の案内をしますね」
「ああ、分かった」
「じゃあ私も寝よっかな」
「今日はここで?」
「うん。いくら勇者とは言え男を妹と二人きりにするのはちょっと不安だからねぇ~」
「......まあ確かに、そのほうが都合が良いですね」
「でしょう?」
「じゃあお姉ちゃんは私と同じ部屋で、勇者様は今から案内する場所で寝てください」
ニアとユアは立ち上がり、さらに奥の階段を上っていった。
階段を上ると、そこには一つのベッドがあり、そのほかにも机やソファーなど、簡易的な個室といった空間が広がっていた。
屋根も壁も床も、すべてが木でできており、木の中に潜む虫のような気分にさせてくれた。
簡易的な窯のの火が弱くなって段々と部屋が暗くなってきてしまい、消えうる寸前でユアは枯れ木を加えた。
そして次に、ユアはシャワーをに案内した。
着かれていたニアは、許可を貰うとそのままシャワーを浴びた。
シャワーを出たニアは、ユアから提供された服に着替えてベッドに潜るように入った。
そして仰向けになり、ぼ~っと天井を眺める。
天井の本当にかすかな隙間から、一つだけ月光がやりとなってニアの顔を貫いていた。
何を考えるでもなく、ただずっと天井を見上げていた。
やがて瞼が重くなってきたのか、ゆっくりと目を閉じた。
そのまま眠りにつく寸前だった。
「......」
「がっ......!」
「......」
「......く......」
突如現れた何者かが、眠る寸前のニアの上にまたがり首を絞める。
気道をふさがれたため、呼吸をしようと口を開ける。
しかし力が強く、思うように息ができずにもがく。
その口に、何かが放り込まれるように入っていった。
「......」
影がニアの腹部で動き、そっとニアの上から降りてどこかへ消えた。
それを意識が途切れるギリギリで視認したところで、ニアはこんどこそ気絶するように眠りについた。