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特殊能力なしで転生した勇者(笑)  作者: ダービッツ
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02話 オレ、行く世界間違えたかもしれません

「すげぇ......!」


穴から抜け出した男は、外の世界を見てそんな声を漏らす。

男の前に広がるのは、どこまでも続く広い湖だった。

そして、その湖の先には草原と、そこに連なるいくつかの建物があった。


その光景は、男が今まで生きてきた世界ではお目にかかれない光景だったのだろう。

男はあたりを見回し、その壮大さに黄昏ていた。


「後ろを見てみてください!」


「後ろ......?......うおぉ!!」


男が振り向くと、そこにあったのは巨大な樹木だった。

その頂はどこにあるのか見えないほどに高く、雲を文字通り貫いていた。


見上げることすらできないほどの大きさの木を背に、少女は微笑みながら男に呼び掛ける。


「改めまして......ユグドラシルへようこそ勇者様!」


「ユグドラシル?」


「はい!ここはユグドラシル王国、この一本の巨大な樹木を中心に栄えている、いわゆる島国ですね」


「島国か」


「はい。ユグドラシルの端に行くと、ほかにも小国が五、六ほどありますが......そのあたりも、後々ご案内できればと思っています」


「へぇ~......それで、さっき言っていたこの国を救うって?」


「それに関しては、湖の真ん中で話すのもあれなので向こう岸に行きながら話しますね」


「......泳いで?」


「まさか~」


少女は男の問いに、笑みを浮かべながらおもむろにその白く細い指で指笛を吹いた。

すると、地響きに紛れて高いイルカの声のような鳴き声が聞こえ始めた。


やがてそれは男と少女の立っているかすかな地面の上に近づいてきた。


「な、何の声だ?」


「この世界樹の根本と、私達が暮らす土地とをつなぐ役割を担ってくれているユーちゃんです」


「ゆ、ユーちゃん?」


「はい!王国ユグドラシルの王様です!」


「お、王様!?そんな人の上に載っちゃって良いのか?」


「人ではなくて、モンスターです。彼女は一番最初にこの泉に住んでいた最古参......俗にいう長老ですね。そのユーちゃんを王として崇め、家族のように深い愛を持つ人々の集まりが、この王国ユグドラシルです」


「なるほどな。オレの居た世界とは全然違うな」


「ふふっ、そうですか。あ、そろそろ来てくれますよ!!」


少女がそう言った瞬間に、湖から大きなしぶきが上がった。

そして、虹を作ったしぶきの中心からはクジラのような巨大な生物が表れた。


そのクジラのような生物は、ゆっくりと男と少女のもとへと近づき、頭に当たるであろう部分を水面に表し、二人がその上に乗るのを待っていた。

それを見た男は、小さく息を吐き、目の前の光景に驚きを隠せていないようだった。


「木もだけど、このクジラ?みたいなのも大きいな......」


「ユーちゃんは、まだなんのモンスターか判明していませんからね。そもそもその存在が、モンスターなのか、はたまた神様なのか。どれなのかわかりません」


「でも、こうしてオレとお前を乗せてくれるってことは、良いやつに違いないな」


「ですね!よし、ユーちゃん。向こうまでお願い!」


少女がユーちゃんの頭を撫でると、そのまま街へと向かいゆっくりと進み始めた。

距離と速度的に、数十分はかかるだろう。

その間にと、少女は話し始めた。


「まずは、この世界のお話......をしたいので、勇者様の世界と違うところがあったら質問とかいろいろしてくださいね」


「わかった」


「じゃあまず初めに、この世界の主な生き物のお話からしましょう。この世界の生き物。命あるものは、すべてモンスターと呼ばれます」


「モンスター?それって人間もなのか?」


「はい。人間という種族のモンスターですね。ほかにも、人型妖精族と呼ばれる方達などがいます。有名どころだと、エルフの方々ですね」


「エルフ......!や、やっぱり美男美女で耳が尖ってるのか?」


「良く知ってますね!エルフの皆さんは、耳が尖っている方が多いです。でも中には耳を私達人間のようにして、エルフではなく人として過ごす方もいます」


「へぇ、すっごいな......エルフか。人とはどう違うんだ?」


「エルフの方々は、一般的に魔法や身体能力が人間より優れ、一定まで歳をとると老いが遅くなり若々しい姿のままでいることができますね。ですが耳を人間のようにする人は年齢に合わせた容姿になられる方が多いです」


「ま、魔法か......」


男は、モンスター。エルフ。魔法。

この三つ、転生前の世界だと頭がおかしいと思われるような三単語に目を輝かせる。

少女はそれを察したのか、男に詰め寄り様々な知識を話す。


男はそれを聞いてさらに深いところまで探るように、少女へ問いかけた。


「魔法とかってさ、例えばどんなのがあるんだ?さっき聞いた感じだと、エルフの人が長生きするし強いしでこの世界だと一番数が多いのか?」


「魔法は様々です。説明はここですると話したいことが多すぎて話しきれないので、実際に陸に着いたら話しますね。それと、エルフの方々はあまりいらっしゃいません」


「え?そうなのか?人間よりも強くて長生きするのにか?」


「エルフの方々は、確かに我々人間と比べたらそうですが、しゅ、出生率?が少ないそうです。なんでも元々子供ができにくく、その上男性と結婚して身を固める女性が少ないんだそうです」


「そ、そうか......いろいろ大変なんだな」


「多分生きている長い間を一定の人物だけ、という拘束感が自由人の多いエルフの方々は気に入らないんじゃないかと思います。え~っと、それじゃあ他のモンスターのお話をしますね。例えば......」


少女は風に流される一本にまとめられた長い銀髪を抑え、空を見上げた。

やがて、鳥のように羽ばたくモンスターの集団を指さし、男に説明を始めた。


「あれは、鳥族の一種。白色で大きさ的に......ホワイト・バードですね」


「白色の鳥でホワイト・バードか。そのまんまだな......」


「この世界では、主に二つの言語がありますからね。最も一般的なのは、モンスターや武具など多くの場面に使われる古代イングライン言葉。例えば、白い鳥ことホワイト・バードも古代イングライン言葉での読みだそうです」


「英語じゃん完璧に......後の一つは?」


「今私と勇者様が話している、ユグドラシル言葉ですね」


「じゃあ、この世界ってみんな同じ言葉を話すのか?」


「大体はそうですね。むしろ、勇者様のいた世界は違ったのですか?」


「あ~、結構面倒な世界でさ。国ごとに使う言葉が違うんだよ」


「国ごとにですか!?それは大変ですね......」


「でも、翻訳機......なんだろう、言葉を理解する魔法?みたいなことができる道具があったり、三つの言語を話す人とかいるからそんなに不便に思ったことはないかな」


「すごい道具......モンスター相手にも使えたんですか?」


「いや、まずオレの世界はモンスターなんていなかったからな。ドラゴンとかいないし......例えばほら、今オレとお前が乗せてもらっているユーちゃんも、モンスターじゃなくって動物って呼んでたし」


「ドウブツ......」


「その中でのクジラ、って感じだな」


「モンスターのことを、ドウブツって呼んでたんですか」


「そうそう。そういえば、さっき大体は同じ言語って言ってたけど、違うところはあるのか?」


「私が知っている限りでは、一つだけありますね。東にある、ヤマトっていう国です」


「にほぉん......」


男は、ヤマトという国がもろに日本だということにどういう感情を覚えたのか、懐かしいような、面白いような顔をしてリアクションをした。

それを見た少女は、思い出したような顔をして男の顔を近づいてよく観察し始めた。


男はそれを受けて、少しだけ照れているのか後ろに引いていき、少女の言葉を待った。


「そういえば、勇者様はヤマトの人達に似ていらっしゃいますね。特に黒色の髪の毛と焦げ茶色の瞳とか」


「う~ん、オレが居た世界の国が大体みんなこんな感じの見た目だったんだ。髪の毛を染めてる人もいるけど」


「染めるんですか!?」


「ああ。茶色とか金色とかね」


「じゃあ、勇者様はユグドラシルの方々を見るだけで面白いかもしれませんね!こっちでは金色とか、私みたいな銀色とか、ピンクとかオレンジとか青色とか緑色とか!いろ~んな髪色の人やエルフがいますよ!!」


「そりゃ楽しみだな。地毛でその色の人達なんてなかなか見れなかったし」


「むしろこっちでは勇者様の黒髪のほうが珍しいですよ。ヤマトの人達は滅多に国から出ませんし入れてくれませんからね。勇者様の黒髪はすごく大人っぽくて色っぽいです」


「そ、そうかなぁ?」


少女に褒められ、男は目線をそらして口角が上がっていた。

心なしか、表情もだんだんと緩んできていた。


少女はそれを見て、微笑む。


「勇者様って、面白い方ですね」


「え、オレが?」


「はい!褒められて喜んでいるのが、すぐ顔に出てますよ」


「うぐ」


「それに、モンスターや魔法のお話。ユーちゃんを見たとき、世界樹を見たとき。ず~っと目がキラキラしてました」


「あはは......」


「伝説通りです。この国を救う勇者様は、どこまでも清い心を持ち、特別なエネルギーを備える......」


「特別なエネルギーなんてないぞ?」


「ありますよ。ここから感じます」


少女は、男の胸のあたりに手を当てて目を閉じた。

そして、今度は男の手を取り自らの胸に当て始めた。


少女の健康的な胸部に触れた男は、目を見開き手を放そうとした。

しかし少女はそれを許さず、やがて少女の胸から淡い光が表れた。


「こ、これは?」


「これが、勇者様の力の根源です......すごい......奥が見えません」


「そ、ソウカナー」


その力の根源とは、いったい何なのか。

男は、地味にだが当てられた少女の胸に指を食い込ませている。

そこから察するに、ひょっとするとそれは下心なのかもしれない。


しかし、不可抗力ともとれるためそうとは限らないだろう。

やがて少女は男の胸に当てた自らの手。自らの胸に当てられた男の手を離した。


男は若干だが一瞬名残惜しいような顔だった。

気持ちが悪い。


「よしっ、そろそろ着きますよ!」


「ん?おぉ......」


「ここがこの国、ユグドラシルの首都。ユグドラシアです!」


「ユグドラシア、すごい規模の街だな」


「そうですか?ユグドラシル自体が島国で小国ですから、あんまり規模はないと思いますよ?」


「いや、これはオレの中ではすごい規模に入るぞ。オレが田舎育ちっていうのもあるけど、なんというかこう......絵に描いたような街だ」


「自然との調和。それが、ここユグドラシルの掲げる国としての在り方ですからから。そう思っていただけてうれしいです!」


男が顔を上げた先に広がる街。

パっと目に入るのは、その巨大な滝。


男と少女。そしてその二人を乗せているユーちゃんのいる湖の周りは非常に高い崖、山の様になっており、そこから流れ出る盛大な滝が湖に水を注いでいる。

滝の周りは日に当てられ虹ができており、その半円の下には滝の次に目立つであろう巨大な中世ヨーロッパの教会のような建物が建っていた。

そしてその建物の頂上。そこにはユーちゃんの像が建てられており、虹色に輝く半円を頭にまさしく神と言わざるを得ない姿で君臨していた。


注目すべきはその教会の周りもだろう。自然の急斜面を生かして建物が建てられており、斜めにな家々が連なっていた。

前から見るとそれはまるで滑り台のように綺麗な坂を描いており、家と家の間には必ず一本の木が生えていた。


「なあ」


「なんですか?」


それを見て何を思ったのか、男は隣にいる少女に話しかける。

少女はユーちゃんが時期に岸に着くため、降りる準備をしつつ横目で男を見た。


「なんで家と家の間に木が生えてるんだ?」


「あれはお隣さんにお家の中が見られないようにと、お家をあの急斜面に固定する役割を担っているんです」


「家を固定?」


「はい!あ、そういえば言い忘れてましたね。この王国ユグドラシルは、非常に質の高い木が多いことで有名なんです。それらの木はすべてあの世界樹につながっているんですよ。世界樹の後ろを見てみてください」


「......森?」


「はい。向こうはまだまだ未開拓の地です......えっと、勇者様にこの国を救ってもらうのと向こう側が関係があるんですけど、それもちゃんとゆっくりできるところでお話します。とりあえず、お家がなぜ固定されているのかを説明しますね」


「ん、頼む」


「さっき言いましたが、この国の木はすべて根があの世界樹と繋がっています。そこで、あそこの急斜面に家を建てるために、急斜面に生えている木の根の下に柱と土台を作ってその上にお家を建てるんです。そうすると世界樹と繋がっている木々の根が作った柱と土台に沿って成長をし、柱と土台にまとわりつきより固定が強固になるんです」


「本当に自然と調和してるな......」


木の根の下を掘り、そこに柱を立てて土台を作り、家を建てる。

これは、世界樹と繋がり圧倒的な生命力を持つ木が多いユグドラシルだからこそできる芸当だろう。

元々木が綺麗に並んでいたために先人達の編み出した技術ともいえるか。


そのおかげか、中にはまさしく木。といった感じの空間が家の上にまであり、何もせずとも二階建てや三階建てになっている家すらあった。

ちらほらとそこから住民が顔を出して洗濯物等をしているあたり、快適に利用しているようだが。


「でも、上の人達は大変そうだな。降りるときとか帰るときとか」


「そうでもないですよ。人によっては風の魔法で自由に飛び回ったり、空洞になってる木があるのでその中を滑って下りたり。帰りはなんというか......根っこがいくつかの場所だけエルフの方々の協力のおかげで魔法によって上に上るようになってるんです。そこに立ったり座ったりして上に上がりますね」


「それはあれか、エスカレーター......もしかしなくても、かごが真上に上がったり真下に下がったりするやつとかない?」


「かごが......?えっと、人が入ったかごが上に上がったりし下に下がったりってことですよね?」


「そう。そういうのないか?」


「ないですけど......でも、でもあったら面白そうですね!それ!階段が必要なくなります!」


「あ。ハイ」


男はこの異世界にあまり自らが居た世界の技術を持ち出したくないのか、やってしまったといいたいような気まずそうな顔をする。

確かに自然の中に、木と魔法という神秘的なものでできているとはいえそのようなものがあるのは不格好だろう。

それを言ってしまえば前述のエスカレーターのようなものもだが。


それから少しして、ようやく岸へと着いた。

人がたまたまいないのか、すんなりと陸に上がり誰にも注目されることはなかった。


「ここから人やエルフがたくさんいるので、これを使いましょう」


「これは?」


「簡単に言うと透明マントですね。布に風魔法がかかっていて、空気が私達の姿を隠して景色と同化してくれるんです」


「すごい便利だけどさ、それ......一つしかなくない?」


「......あ」


少女がどこからか取り出した布は、人ひとりが立ち上がった状態でかぶると足元まで隠れるであろう大きさの布だった。

が、問題なのはそれがたった一つしかないことであった。


少女は眉をしかめて考え、思いついたのか目を見開いて提案した。


「二人で屈めば、横向きにしても隠れると思います!」


「そりゃそうだけど!......あれだよな、モラル的ななんというか」


「気にしないでください。もとより私は勇者様に尽くすために生まれた身ですし」


「ぶふっ!?」


「あ、それは語弊がありましたね」


少女の言葉に驚いて噴き出す男だが、それに誤りがあると乾いた笑顔で言う少女。

その笑顔をみて何を思ったのか、男は神妙な顔をする。


そんな様子の男を見た少女は、気を使わせないようにとより一段と良い笑顔を見せて一緒に布を被った。


「足、出ないように気を付けてくださいね?ここから目的地まではそう長くありませんけれど、人に当たるとばれてしまいますので」


「......わかった。頼むな?え~と......」


「?」


「名前、なんだっけ?」


「......あ」


首を傾げた少女に対して、男は名前が何かを聞く。

それを言われた少女は、布が一つしかないといわれた時と同じように、口を開けて宙を見上げた。


が、やがて首をフルフルと振り、苦笑交じりに男に話しかけた。


「そういえば、まだお互い名前も知りませんでしたね」


「ああ。なんか、今までお前としか呼んでなかったからさ」


「そうですね。では自己紹介を......私の名前は」


少女がそう言い、自らの名前を名乗ろうとした途端に轟音が鳴り響いた。

男は本能的に少女をかばうような体勢を取り、いったい何が起きたのかと透明マントから頭だけを出して外を確認しようとした。

しかし少女は頭を出そうとした男の頭をジャンプして抑え、唇に人差し指を当てて静かにするよう促した。


「い、いったいなんだ?」


「見ていてください。外を」


「外って......あれ?見える?」


「良いですか、勇者様。決して何を見ても驚かず、動かず、岩になってください。向こうはこっちが見えませんので」


「わ、分かった......」


少女はそういうと、目つきを変えて男の後ろを見た。

そして、あれを見てくださいと男に少女が見ているものを見せた。

それは、男が以前いた世界では考えられないようなおぞましい姿をしたモンスターだった。

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