01話 オレ、転生しました
適当な思い付きなのでコメントなどでアドバイス、ご指摘いただけると幸いです。
"転生"
この二文字は、肉体が生物学的死を迎えた時に、魂が別の肉体や物体へと移り新たな生活を送る。
という、哲学的または宗教的な考え。
しかし最近では、この転生というのはいわゆる"転生モノ"または"異世界転生モノ"として使われることが多い。
それは、最近の流行の一つとして小説で主人公が何らかの要因によって死亡し、特別な能力を持って異世界及び現実世界に"転生"として生を受けるという、テンプレートのようなものが生まれたためだ。
もちろん中には例外があるだろう。
しかし、"大体の転生モノ"と呼ばれる物語はこのようにして始まる。
のだが、この男は違うようだった。
「なんで!なんでなんもないの!?」
「だってお前魂の器小さいんだもん。お前の心が小さいのと同じように。だから特別な能力とかつけらんない」
「はぁぁぁぁ!?前代未聞すぎだろそれ!じゃあせめて一番非力な人間以外にして!!」
「基本的には人間は人間にしか転生できないの。っていうか人間って一番強いんじゃないの?」
「それは魔法とかがない科学の世界の話!!」
真っ白な空間にいる二人の男女。
神様と男に呼ばれた、金色の髪をした美幼女という言葉が最もぴったりであろう少女は、ソファーに体を預けて本を読みながら、眉間にしわを寄せて男を責め始めた。
「あー、もうさっきからグダグダグダグダうるさいなぁ。とっとと転生しろよ」
「いや神様なのにその発言はないだろ!」
「だってうるさいんだもんお前。何をさっきから文句言ってるのさ。男だろ?」
「う......」
男だろ?という言葉に、男は何を思ったのか眉を落として下を見つめた。
かと思えば、勢いよく前を向いて悪態をつき始めた。
「チッ。このガキ......」
「あたし今年で確か三百四十三歳の美少女で~すっ」
「いや、三百四十三歳だったら美少女ではないだろ。ババアだろっ!?」
「あ~あ。言っちゃいけない言葉があるんだよね~神様相手でも」
いまだに本を読んでいる神様がそう言うと、どこからともなく触手のようなものが表れ、男の体を両手ごと包み込んだ。
そのまま回す、振り回すなど、まるでアトラクション。いや、アトラクションをはるかに超えた動きをし始めた。
それに堪忍したのか、男は吐きそうな顔をしつつ必死に声を出して神様に呼び掛けると触手は動きを止めた。
「ほ、仏の顔も三度までって!!」
「あたし仏じゃなくて神様だし。ほらとっとと行けよ異世界」
「ふっ、嫌だね!断る!お前なんて神様じゃない!ただのクズだ!!二度と神を名乗るなカスぅ!!」
「は~い暴言三回追加で仏じゃないけど我慢の限界で~す。もうお前異世界に飛ばしま~すせいぜい頑張るんDeathね~」
「い、いやだ!怖いよ高いよ助けてよ!!」
「お前の魂を助けてやるために転生させるんですよ~」
「ひぃぃぃ!!」
「じゃ~ね~」
神様のその一言を最後に、真っ白な空間の男が居る側にいわゆる魔方陣のようなものが表れると、真っ黒な穴をあけた。
男はその穴の中に、触手によって無残にも放り投げられ断末魔とともに消えていった。
その空間に残された神様は、本を読みつつ水晶のようなものを取り出してどこからか出現した机の上に置いた。
「んま、一応興味あるし見といてあげるか。魂を満足させるっていう名目での転生で、なにも能力がつかないのは珍しいし」
本を置き......はせず、片目で水晶を見つめる。
その水晶には、どうも男が飛ばされた世界とは時間が違うのか早送りで男が映し出されていた。
神様は、時々目を細めて優し気な表情を見せたり、目を見開いて驚いたような表情をしたり。怒りのような表情をしたり。
男が居る時のけだるそうな顔とは違い、豊かな表情を見せていた。
それは神様の呼んでいる本のせいなのか、それとも"転生"として異世界に飛ばされた水晶に映る男が原因なのか。
-第一話 オレ、転生しました-
「う~ん、この......」
そうつぶやいた、どこかの小屋の中にいる少年。
その顔は、あどけないながらもあの白い空間にいた男とそっくりだ。
いや、あの男であった。
「まさか転生?して目が覚めたらいきなり変な小屋に閉じ込められてるとか笑えなさ過ぎて笑えるわ」
と言い、男は薄暗い木製の小屋の中で立ち上がった。
一歩一歩。歩を進めるためにきしむ小屋の床に時々驚きつつも、手探りで薄暗い明りの先を探していこうとした。
「......ていうかこれ、そもそもどういう原理で明るくなってるんだ?」
のだが、この小屋は思ったより狭いようだ。
角の壁に手を付き、背を付き。反対側を目指して左腕で左側にある壁をなぞりながら進むが、十歩足らずでまたも壁に着いてしまった。
「おいおいおい。こんなに狭いのかよ......扉らしきものもなし......」
壁沿いに何週かしたところで、男はぼやく。
どれだけ手でさすり、目が慣れてきても扉らしきものはなかったようだ。
そこで、壁をコンコンと叩き、空洞を探そうとする。
「いや、少しも響かないとかなんでだよ。どこにも空洞っていうかここから続く道がないのか!?」
男は、おいお~いと、眉を下げて不満げな表情で首を振る。
ため息をついてから、今度は念のため高さを変えてみようと、また一周しつつ壁をノックするように回った。
が、それでも音は響かず、この空間の中にコン、コンと、木を叩く音がするだけだった。
「小屋じゃなくて、なんなんだよこの木製の......空間?謎すぎるだろ」
肩を落とし、座り込む。
そして、男は上を見上げる。
「......?」
そこには、木と木のかすかな隙間からこぼれる光があった。
男はそれを見て一度固まり、二、三度瞬きをして目を大きく見開き、何かに気づいたような
顔をした。
「ここって、いわゆる地下シェルター的な感じなのか......?だとしたら上をぶっ飛ばせば良いんじゃね?そもそも上見るまでなんで明るいのかわからないとかオレの視野狭すぎだろ」
自らに文句を言いながら、やがて立ち上がった男は、ジャンプをするようにして天井に触れようとした。
しかし高さが足りないのか、あと指先一つというところで届かない。
そのため、真上に飛んでで届きそうなら、と、前に走ってジャンプした。
「よっ!」
指先が天井に触れたとたんに、男はその天井がかすかに動くのを見た。
が
「ふぇぶ!」
助走の勢いが前にもあるため、狭い小屋の中では勢いよく助走をつけて飛ぶというのは愚策だった。
勢いが若干なくなったとはいえ、空中からそのまま壁に向かって緩降下しながら男は木製の壁に頭から盛大に衝突。
そして、もろい箇所だったのか木が崩れ、顔......というより、頭が埋まるような形になり尻を上に向けた。
それと同時に、重いものを引きずるような音が上から聞こえ、かすかな木漏れ日が大きな太陽となって空間の中へと光を届けた。
「きゃっ!」
そして、男と同い年くらいの少女と思わしき声がした。
驚いて尻もちでもついたのだろう、どさっという声が悲鳴の後に聞こえた。
男は、それを聞いて人が来たのだとわかり、何とか頭を抜こうとするが思ったより深く頭が入っており、木になっているため痛みが伴いうまく抜け出せなかった。
「あ......だ、大丈夫ですか!?」
「!!」
「い、今抜きますからね!」
トンッ、と、木の上に着地したような音が聞こえた。
聞こえたのだが、その次にはバキッという音に変わった。
「あれぇ!」
「......」
「いたた......さ、最近食べ過ぎちゃったのかな......」
少女がもろくなっていた木の上に着地したこともあって、その部分が少し抜けた。
しかし下はすぐに土だったため、足首を少しだけひねる程度で済んだ。
少女は立ち上がると、頭からめり込んでいる男の腰当たりを持ち、掛け声とともに勢いよく引き抜こうとした。
「いきますよ!それ!!」
「んん~!!」
「え?い、痛いですか!?」
「ん!ん!」
しかし男が腰を振って暴れたため、少女は男に痛いのかと問いかける。
すると男は、腰......というより、尻を縦に振り返事をした。
傍から見れば、少女に向かって尻を突き出している変態だ。
少女はどのようにして男を引き抜こうかと考え、やがて男の頭のすぐそばまで歩み寄り、男の顔がめり込んでいる木の周りをこぶしでコンコンと叩き始めた。
「あ、ここですね。ちょっと怖いかもしれませんけど、我慢してください」
「?」
叩いているうちに、もろくなっていたのか音が柔らかく、若干湿り気のある部分を発見した少女は、立ち上がり足を振り上げた。
そして、ふん!という掛け声をかけながら、その部分を蹴り飛ばした。
男の顔の周りの木は腐っていたため、少女の弱い蹴りでも粉々に砕けた。
男は、突然左側から聞こえた轟音と衝撃に驚きつつ、頭を抜くことに成功した。
「ぶわぁおっ!?」
「あ、抜けましたね!!」
「く~......いってぇ......ありが......」
「?」
男は頬のあたりをさすりながら左側にいるであろう少女に振り向くと、文字通り絶句した。
そして、息をのんだ。
日の光に照らされる髪は、色素が薄いのかオレンジ色の光を反射して金色に輝く。
木屑、埃も太陽に照らされ、まるで少女の周りを踊る妖精、オーブのようにゆらゆらと舞っていた。
それを見た男は、思わず吐息交じりに言葉をこぼす。
「うわ......めっちゃ美人さんだ......」
「はい?なんですか?」
「い、いや!何でもないです!」
少女の、最近食べ過ぎたという言葉から、実際はもうちょっとぽっちゃりとした体形でも創造していたのだろう。
この男は、言ってしまえば言葉だけで人を判断し見てもいないのになぜかがっかりとした気持ちになっていたのだ。
しかし、実際に少女を目の前にした男はそんな感情とうに忘れ去っていた。
細いながらも健康的な四肢は、かすかに覗いているだけにも関わらず少女の美しさを強調する一部として。
髪でさえも、その輝きが少女に対するスポットライトかのように当たっていた。
男はそれ目を見開き、猫に睨まれたネズミのようにその場に固まってただただ少女の翠色の瞳を見ていることしかできなかった。
やがて雲が太陽を隠したのか、木製の空間の明りは弱くなる。
そうすると、彼女の髪を照らしていた金色の光はなくなり、少女本来の髪色がうかがえた。
「ぎ、銀色の髪の毛?」
「あ、ちょっと珍しいですよね。勇者様には」
「い、いやぁその......何と言いますか......ん?勇者?」
「はい!」
「......」
少女の勇者という発言を受け、またしてもしばらく固まる男。
そして、それでも言葉の意味を理解しきれなかったのか少女に聞き返す。
「あの、さ......勇者ってどういうこと?」
「文字通りですよ!勇者様は、この国を救うために異世界からやってきてくれたお方なんですよね?」
「......ん?ちょっと待って。一回状況整理させて」
男は胡坐をかき、目を閉じて思考する。
脳裏によぎったのは、あの金髪で目の前の少女よりは小さい神様。
だが目の前の少女とは別人だろう。神様とは違い瞳は少し垂れ気味で、同じように眉も若干下に下がっている。
後ろで一つにまとめられた髪の色も金色ではなく、青いような、赤いような。
そんな不思議な銀色だった。
「違う、か......じゃあ転生って......そういうことかぁ......」
「どうかされましたか?」
「いや......ちょっと、ね。それよりもこの国を救うってどうすれば?」
「そうですね、まずはそれと勇者様を呼んだ方法など、この世界のことをお伝えできればと思います!さて、上に上がりましょう!」
「え、どうやって?」
「え?......あ」
首を傾げた男が指さす先の空。
そこそこに高く、先ほど男が助走をつけて飛び、天井に届いたことから考えると少女は身長的に難しいだろう。
そう思った男は、少しの下心を含めて肩車をしようと提案しようとしていた。
「ど、どうしましょう......」
「......オレが肩車するから」
「え、でも」
「助走つけて飛べば届くでしょ。もしあれだったら助けてくれれば......ていうか何気に日本語通じてるな」
「日本語?よくわかりませんが、勇者様はすべての言語を理解なされるのでは?えっと、このメモとかどうですか?」
少女はそう言いながら、自らの服のポケットから紙を取り出した。
そこに書かれている文字は日本語とは程遠い、男が転生する前にいた世界ではあり得なかったであろう文字が書かれていた。
それを受け取った男は眉をしかめて何度か眺めるが、やがて理解できず少女に返した。
「ごめん、オレには到底理解不可能かつ幾何学的だ」
「難しい言葉をお使いになりますね。理解はできて喋れても、文字はダメでしたか......」
「なんか、申し訳ない」
「いえいえ」
「それ、なんて書いてあるんだ?」
「時計、ですね」
「それで時計かよ......まあいっか、よし、乗ってください」
「はい」
男は屈み、少女を肩に乗せた。
肩と首に感じる少女の重みとぬくもり、邪念を消すためか、男は息を止めて立ち上がり、無事少女を地上に送り届けた。
少女を地上に送り届けた男は助走を取り、少女が見守るなか先ほどとは違い壁に向かって高く飛んだ。
そのまま壁に手をかけ、少女の助けを借りつつ上に登りきる。
登り切った男は、そこに広がる景色に言葉を失ったのだった。