第1話 ジモン島奇譚 8
3人は木を見ていた。
ユンはどこかを見ている。
「よく来たねえ。・・・・うふふ。ハハハハハ。」
シュラミスが笑う・・・。
久しぶりの大量の獲物にすっかりご機嫌なのだ。
「ホーク。あれ、キノコじゃねえよな? 動いてるもんな、あの女。」
ドレイクはいぶかしげにシュラミスを見て言った。
「見りゃ分かるでしょ? あんな人間みたいなキノコあるわけないでしょ。」
「そーだけど、新種かもしれねーだろ。」
「じゃあ、聞いてみれば。」
ドレイクは一つ咳ばらいを・・
「ん~、ゴホン・・・・。え~~と・・・おねえちゃん。あんたキノコ?」
「・・・・ふざけた人間どもだねえ。わらわが恐ろしくて気がふれてしまったのかえ。お前たちもこうなるのさ。」
シュラミスが指し示した方向には白い茄子のような房がぶら下がっていて、中がぼんやりと透けて見えた。中には人影のような物が見える。
「ありゃ? カイドーさんやられちゃったのか・・・・。」
「お前たちもこうやって、ゆっくり私が食べてあげるよ。」
サラはその房の一つに釘付けになった。見覚えのある人影が見えたからだ。
「姉さん!!!!」
サラが飛び出す。
「姉さんを返して!」
「・・姉さん・・・? ああ・・・あの娘かえ。」
「サラ姉ちゃん、魔法陣の上に立っちゃダメだからね~。」
ホークが言った直後、サラは駆け出し、魔法陣の真上で呪文を唱えた。
「火球弾呪文!!」
突き出されたサラの右手から、直径10cm程の火球弾が勢いよく飛び出した・・・・かに見えたが、それはみるみるうちに小さくなり、ポトンと落ちた。
「なんで!」
サラは何度か火球弾を撃ったが、結果はすべて同じだった。
「・・・・だ~から、言ったのに・・・。」
サラの息が上がっていた。そこへシュラミスの木の枝が触手のように素早く伸びてきて、サラを絡めとった。
「やめろ! 姉さんの仇を・・・」
サラは喉を絞められ、口を塞がれた。魔法使いにとっては致命傷である。サラは空中でもがいたが、触手から一輪の花が咲き、大量の花粉をサラの顔に吹きかけると、サラは気を失った。触手は空いている房にサラを落とした。
ホークは『やれやれだぜ』とでも言うように首をふると、ゆっくりと進んで行った。そしてサラが立っていた魔法陣の上で立ち止まった。
「この魔法陣はね、魔法力と精気を吸い取る魔法陣なんだ。」
「で、そこにお前も行くわけ?」
ドレイクは笑っていた。
「それを知っていて、そこに立つのかえ、お前は?」
「そうだよ。」
ホークは平然と言った。
「キット、墓穴ホル、ホーク。」
ユンはニヤニヤ笑っていた。
「そなたたちは小僧を助けぬのかえ?」
「ん・・・・ホークが死にそうになったら助けようかな。どうする?」
「ホーク死ネバ、ウレシイ。」
あまりにも人を嘗めた態度の3人にシュラミスの機嫌が悪くなった。
「そなたらのおふざけには付き合いきれぬわ。バスコ!」
木の陰からバスコが手下とともに現れた。バスコの涎が滝のように床に落ちた。
「バスコ、こいつらもわらわの栄養にしてくれようかと思ったが、その気が失せたわ。こいつらはお前たちの好きにして良いぞえ。」
バスコは嬉しさにちょっと飛び跳ねた。
今にも襲い掛かろうとするバスコたちをホークが止めた!
「ちょっと待った。役者が足りないよ。」
ホークは氷手裏剣呪文を唱えると、右手側の2階席を攻撃した。
「氷手裏剣呪文!」
野太い声で放たれた氷の剣が、ホークの氷の剣を相殺した。2本の氷柱剣は床に落ちて転がった。
「そろそろ姿を見せれば。ゲプラー。」
柱の陰からジルコーニが姿を現した。
「クックククク・・・・。 久しぶりだなあ。その生意気で、自分勝手で、鼻っ柱が強く、我儘で、人を食ったような傲慢な態度と上から目線、更には居るだけで腹が立つ所はちっとも変わっておらん。」
『ごもっとも。』 ドレイクとユンの心の声。
「あの時の恨みは忘れんぞ、ラグナロク!!」
シュラミスとバスコの顔色が一瞬曇った。魔物にとってもラグナロクの伝説は有名なのだ。
ジルコーニの顔が怒りで真っ赤に染まっていた。
「だけどさー。どうやってあの封印を解いたの? 自然に解けるには、もう少し時間がかかると思うんだけど。」
「ふん。じっと待ってたら封印を解いたとでもいうのか?」
「・・・・正直、忘れてたんだよねえ・・。」
『やっぱりか!』 ドレイクとユンの心の声。
「もしかしたら見どころあるかもって思って、封印したんだけどやっぱゲスはゲスだったみたいだね。」
260年ほど前、ある豪族から魔法使いの討伐を依頼された。その魔法使いの名はゲプラーと言い、魔物を使って人々を苦しめていたのである。その豪族は何回か討伐を試みたのだが、残忍にして狡猾なゲプラーに手を焼き、当時高名を馳せていたラグナロクに討伐隊の指揮を依頼したのだった。
ラグナロクとゲプラーの戦いは、数日にも及んだそうだが、結果ゲプラーは氷に封印された。その戦いがあったのが、ここジモン島である。それをホークは忘れていたのである。
「氷に封印されたわしを救ってくれたのが、シュラミスなのだ。シュラミスは長い年月をかけて氷を割り、衰弱したわしを保護し、復活させてくれたのじゃ。」
「食い物と間違えたんでしょ?」
ホークがシュラミスに向かって言うと、シュラミスはブンブンと首を振った。
「ほざけ。しかし、ここはうってつけの場所じゃった。いつのまにかこんな城が立っているとはな。」
「・・・・やっぱ、おいらにもちょっとは責任あったみたいね。」
ドレイクが目を丸くしてホークを見ている。
「ごめん。ここ作ったのオイラなの。」
『やっぱり・・・。』 ドレイクとユンの心の声。。。
「ここは弟子たちの試験場として作ったんで、お前の城にするつもりはなかったんだけどなあ。」
「ガキの姿でお前呼ばわりされると、余計腹が立つ。死んだと聞いたが、転生でもしおったか、ラグナロク。」
「まーねぇ~。」
「知っていながら魔法陣の上でわしに戦いを挑むとは、馬鹿かお前は。」
「ハンデだよ、ハンデ。」
「阿呆ぅ。現にお前の氷柱剣はわしの氷柱剣に粉砕されてるじゃろうが。」
「バカ言え! よく見ろ! オイラの氷柱は、58面体ブリリアントカット!、お前のと違って光り輝いてるだろうが!」
『確かにそうだけど・・・。』 ドレイクとユンの心の声。
「あのぉ~。」
「なんだよ!」「なんじゃ!」
ホークとゲプラーは同時に答えた。
「お話し中すまんが、退屈なんで、俺たちは勝手にやらせてもらっていいかな?」
ドレイクがグラディウスを鞘から抜いた。
「ふん。魔法使いは口で戦うんじゃ。この高尚な戦いは小僧っ子には理解できんじゃろ、未熟者め!」
「その通り! でもやりたきゃ勝手にやれば。」
「・・だとよ。バスコだっけ?」
「抜かりはないよ、グフッ。」
「キョエエエエ!」
グールのスパイクロッドがいきなりユンを襲った。
しかし・・・
スパイクロッドは空を切り、床を打った。襲ってきたグールは、なぜかそのまま床に転がってしまった。
今までグールが居た場所に、ユンが立っていた。その手にはグールの首がある。
「後カラ襲ウ、叫ブ、ダメ。分カタ?」
ユンは首にそれだけ言うと、グールの首を投げ捨て、仮面に指をかけた。仮面は指の流れに沿って首に落ち、はがれた仮面の下の両目は黄金色のネコ科の瞳をしていた。そしてその黄金色の瞳が怪しく輝くと見る間にユンの体が黒豹へと転じる。しかも背中から漆黒の翼が生えたのだ。
この姿の魔物は・・・・・・ シトリーである。
「ふぅ~~っ、やっぱりこの体の方が動きやすい。」
バスコの配下の魔物たちは皆、怯えていた。
シトリーと言えば、60もの配下を備えた凶悪な魔神である。ソロモン72柱の悪魔であり、君主でもある。美男にも美女にも変化可能であり、恋愛感情を操ることが出来る。瞬間移動も可能だと言われている。
「ユン。雑魚は俺がまとめて面倒見るから、お前はあいつらを助けてやってくれねえか。」
「俺が? どうして?」
「俺は空を飛べねえ。」
ユンはドレイクとシュラミスの木にぶら下がっている白い房を交互に見比べた。
「フン。いいだろう。じっとしてても退屈だしな。」
ユンは仕方がないな、とでもいうように首を振ると、翼を大きく広げて跳躍した。それに触発されたバスコが叫んだ。
「殺せ! 膾にしちまえ!」
ドレイクを取り囲んだオークとグールが、一斉にとびかかってきた。
ドレイクは一撃、二撃を軽く躱し、すり抜けるように輪の外へ滑りぬける。振り返ったオークの口にドレイクの突きが突き刺さる。オークは口から血しぶきを上げてのけぞった。
翻ってオークたちはドレイクに向かう。ドレイクはグラディウスを両手に持ち替えると、振り下ろされた剣を薙ぎ払い、返す刀でそのオークの首を吹き飛ばした。
グラディウスは厚手で幅が広い両刃の剣で、鍔は小さい。刃渡りは50センチ程度と小ぶりの剣であるが、ドレイクの剣は柄が長くダブルハンドで持つことも可能であった。切れ味もさることながら、ドレイクの膂力は人並外れている。敵陣の輪をすり抜ける俊敏さも見せながら、その剛腕で斬るというよりも叩き潰すとでもいったような豪快なひと振りに、さしもの魔物たちも怯んだ。
「うぉぉおおおおおお!」
ドレイクの叫びに気圧された魔物は動きが固まる。その動揺を見逃さず、ドレイクは疾風のように駆け込み3匹の魔物を斬り伏した。
「ぐええぇ、ギョエギョエ!」
残り2匹はかなわぬと見たか、奇声を発して逃げようとしたが、バスコの一振りによって首が胴から離れた。
「やるじゃねえか。面白え。」
バスコの涎がまた洪水のように流れ出した。




