魔滅の刃 ミナイの村編 其の弐壱拾参 <墓守と剣>
薄暗い螺旋状の階段をカロンを先頭にカイドー、ローツ、エストロ、マッシが続いて行く。
螺旋階段は狭く、二人が並んで歩ける程度。9層までの螺旋状の道と違って、目的が無ければ下の階層に行く事などあるまいという連絡通路のような様相である。そして下から緩やかに吹いてくる風がある。どういう仕組み化は分からないけれど、下は墓場らしいのでこの階段が換気口のような役割も果たしているのだろう。
5人の歩く足音だけがコツコツと伽藍洞の螺旋階段に響いていた。
「なあカイドー。そいつはもう使えなくなったのか?」
ローツはカイドーの腕を見る。そこには唇を失った愚弄王リーの魔導書が巻かれている。起きていれば罵詈雑言の嵐だが、静かすぎるのは少しばかり寂しくもあった。
「なに、いずれ生えて来るだろうさ。」
(植物なのか・・その魔道具・・)
まじまじと愚弄王リーの魔導書を見るローツとは対照的にカイドーはさして気にも留めずにいるようだ。
しかし、おそらく今の状態では戦力ダウンになるだろうとローツは思っている。カイドーの魔力もポーションである程度回復はしているが、エイミーとの一戦で無理をし過ぎたことは明白だった。
「一応、儂も用心はしておくかな。」
カイドーは愚弄王リーの魔導書を外した。
「エストロ。預かっていてくれ。」
「・・・・。」
「エストロ。おい、聞いているのか?」
「あ・・済まない。」
「そこまで心配しなくても大丈夫じゃ。契約は完全に履行する。それがマー一族の性じゃろ。」
エストロはカイドーに言われて少しだけ緊張を解いたようである。カロンに対する恐怖が根強く意識の中に刷り込まれているようだった。
無論、カイドーもカロンの事は知っている。暗黒街専属の殺し屋で、敵に回ればカイドーといえども恐怖の対象になることは明白なのだ。
「なぜ、魔道具を預かれと?」
「用心じゃよ。愚者の小箱に入れておいておくれ。」
「その方がいいねえ。僕も賛成だよ。」
カロンはチラとエストロを見る。
それを察したのか、エストロは黙って愚弄王リーの魔導書を受け取ると、愚者の小箱へとしまった。
10層への扉には思っていたよりも近かった。
こじんまりした小さな広場にやけに大きな両開きの扉がある。そこには荘厳なレリーフが施され、死者への畏敬の念が感じられる。
「思った以上に埃っぽいねえ。掃除人もいないのですから仕方ありませんねえ。」
カロンが愚者の小箱へ手を突っ込むと、エストロは剣の柄に手をかけた。それを横目で見たカロンが面白そうにほほ笑むと、大丈夫だよとでも言うようにちょっぴり肩をすくめる。
取り出した繭を解呪すると、そこには女性の戦士が現れた。
ただし、その姿は腐りかけていて、左腕が付け根から失われている。それに酷い異臭もした。
「彼女は今まで僕に大変尽くしてくれたのですが、そろそろ潮時でしょう。」
カロンはそう言うと、10層の扉を押し開いた。
女戦士はその扉に足を踏み入れ、辺りを少し見まわすと崩れるように倒れ伏した。
「やはり、疑似魂魄は少しの間で浄化されてしまうようですね。さあ、行きましょうか。」
カロンは先頭に立って歩く。
そこは広大な広場のようであった。恐らく9層とほぼ同等の広さがあるだろう。その壁沿いにまたも階段があり、そこをまた、降りて行く。
周りの壁には蝋燭のような炎が灯されていて明るかった。とはいえ、それは本物の蝋燭の炎ではなく、魔法による幻影のような物なのだろう。
ただ、闘技場ではないことは明白だった。無造作に山になっている物は骨と持ち主を失った装身具だけだったからである。
「剣の墓場とはよく言ったもんだぜ。」
骸骨を拾ってポイと捨てるマッシ。彼らにとっては見知らぬ者の骨など、ガラクタに等しい。
「おそらく、闘技場で戦った死者の山なんだろうな。魔物の骨もある。いずれ・・・」
そう言ってエストロは言葉を止めた。
「おい、見ろよ。お宝もあるぜ。」
武具に交じって彼らが身に着けていたであろう装飾品などもそこいらに散らばっているのが見えた。
「そんなものはどうでもいいのです。問題は墓守が居るかどうかです。」
「少しは頂いても罰はあたるまいよ。マッシ、お前は剣が欲しいのだろう。」
「おう、ローツ。お前も一緒にお宝を集めようぜ。」
「俺はいい。」
「どうして?」
「死人が付けていたもんだろが、気持ち悪い。そ、それにだ。不敬だろ、どう考えても。」
ローツは見かけによらず信心深いらしい。
「堅い奴だな。盗賊顔のクセに。」
「バカヤロー。俺はこれでも警官だぞ!」
カサリ と音がした。
「待て!」
エストロとカイドーが緊張を高めた。
ザワザワと何かが動く音がする。
「幽霊とかじゃなさそうだな。」
「それはもう。」と、カロンがしたり顔で言う。
仄かな灯りに照らし出された足元に、無数のムカデが湧いて出て来た。
「マジかよ! 気持ち悪りぃ。」
「わしらを食う気のようじゃな。」
間髪を入れずにカロンの足元から幾条かの火が走る。エストロと違って愚者の小箱にあまり魔力を割かない彼は魔法も使えた。他の3人は足元から上がって来るムカデを振り払うのにアタフタしていた。
「儂の側に寄れ。」
そう言うとカイドーは呪文を唱えた。炎の渦が螺旋状にカイドーの周りから発生し、ほとんどのムカデを焼き殺す。炎を恐れたのか、ムカデはサーっと引くと、辺りはまたも静寂を取り戻した。
「虫葬って訳かよ。きびわりぃなぁ。」
マッシがげんなりした表情で呟いた。
おそらくは、闘技場は葬儀場にもなっていたのだろう。人も魔物も、きっと死ねばここに送られ、その死体を貪り食うためにムカデが大量に発生したのだろう。
だが、治まったと思うのは尚早だった。
「ただのムカデじゃなかったようですね。」
カロンの視線の先で、ムカデが集まり、巨大な1匹のムカデになろうとしているのが見えた。
「・・鋼魔百足・・!!」
ローツが吐き捨てるように言った。
死体を喰らう魔物のムカデ。それは幾千というか脆弱な魔物だが、集合して鋼鉄の殻を持つ巨大なムカデへと変貌する。
「クソッ!」
先陣を切るローツとマッシの動きは素早かった。
マッシの剣はガチン!と音を立てるが、ムカデの外殻を傷つける事さえできず、ローツの金棒もヤツにはダメージを与える事は敵わなかった。
「なんだ! コノヤローがあ!!」
防戦一方になりながらも、ムカデの攻撃を躱し、渾身の一撃を叩きこむ二人。
百足の足で薙ぎ払われても、二人はすぐに立ち上がり、効かぬ攻撃を繰り返す。剣も鎧も歪んでへこみ始めた。
「カッシシ! ティンパニーニ!!」
ウルミーでは分が悪いと踏んだエストロは光牙龍を解呪した。
2匹の攻撃は光弾となって鋼魔百足を貫いた。しかし、鋼魔百足は一瞬怯んだものの、貫かれた胴体を切り離し、再びくっつく。胴体は分離する部品のような構造になっているらしい。
「とんだ墓守じゃったな。」
「くそぉ、いらん! こんなものは美しくない!!」
カロンはそう吐き捨てると、憤怒の足取りで出口から外に出て行ったのである!
カイドーたちがどうなろうと知った事ではなかったようだ。
「カイドー! 俺たちも逃げるぞ!!」
エストロが叫んだ。
「まだだ! わしらの見せ場はこれからよ!!」
「そうそう! どっかのジジイに見せ場、盗られたからよお!」
ローツの一撃がムカデの胴体をぶっちぎった。そしてマッシの突きがとうとう胴体を貫く!
「もう少し辛抱しろ! わしが片付ける。」
鋼魔百足にとって、マッシとローツの攻撃も、光牙龍の攻撃も部品を失う程度にしかダメージを与えられない。まだまだ数多くの部品が残って動いているのだ。カイドーたちに勝ち間がない事は明白だった。
なのに、だ!
カイドーすらも引こうとはしない。
「なんて、バカだ! お前らは!!」
エストロが絶叫し、ウルミーを抜いた。
ウルミーでは分が悪いと踏んだのに、エストロは不思議な事に笑っていた。さも嬉しそうに、舞でも舞うかのように戦いに飛び込んで行った。
突然、鋼魔百足が異常に暴れ出した。
「何だ! 何が起こった!」
ムカデの後ろから鈍い炸裂音が連続している。
ボコッ! ボコン! バキャン! ボコン!
音がやけに早く近づいて来る。
数舜! 鋼魔百足の全身は頭の先まで粉々に砕け散った。
カイドーは詠唱を止めた。
3人は鋼魔百足の血しぶきが煙る先を見つめた。
やがて、そこに立っている半裸の男を見つけた。
男はムカデの黒い血に染まっているからなのか。全身が黒ずんで見えた。スキンヘッドの頭。筋骨流々としたボディは鋼のような筋肉の束に覆われていた。
「お前、何者だ!」
たまらずマッシが声を掛けた。
「・・・分から・・ない。」
「え?」
男はギロリとした鋭い目を4人に向けた。
「オレは。。だ、ダレ? ダレだ??」
「バカ、こっちが聞いてるんだろが?」
4人が見る限り、この男は武器を持っていない。驚くべきことに、鋼魔百足の鋼鉄のボディをその拳で粉砕してきたのだ。その恐るべき男が、4人に向かってゆっくりと歩いて来る。
一歩・・・また一歩。
4人は圧倒される。
少しずつ、下がっているのに気づいたのはマッシの間合いに入るか否かの手前だった。
男の体には一面のように入れ墨が彫られていた。
古代語で描かれたその入れ墨は、呪いのような物だろうとカイドーは踏んだ。それもただの古代語ではない。ギリアンの王国が使っていたであろうギリアン文字のようだ。残念ながら、現代では解読できるものはほぼいない。カイドーもギリアンの魔窟に潜っていたころに調べていたから、多少の判読は出来るようになったが、それでも全文を解読する事は不可能である。
この呪われた男はいったい何者なのか?
・・・きっと・・。そう、これがカロンの求めていた<墓守>。
「・・オレの・・・オレノ名前を言っテ見ろ。」
「はぁ? そんなもん分かる訳ないだろうが。」
男はブルブルと体を震わせると・・・
「俺の名前を言っテ見ろーーーッ!!」
(早っ!)
男の足元の骸骨が砕け散ったのと、ローツが後ろに跳んだのはほぼ同時だった。
それでもローツは男の拳を喰らって吹き飛ばされた。
重かった時間がいきなり加速されて早回しのようになる。
マッシもエストロも攻撃を繰り出すが、男にはかすりもしない。
(ばかな、この動き! これが人間の動きか!!!)
エストロもマッシも躱すのが精一杯だった。
カイドーも巻き添えを食わぬよう、大きく距離を取る。さっきの鋼魔百足を倒した腕前から見て、一撃でも喰らえば防御強化の呪符があるとはいえ致命傷になりかねない。。
カイドーは小さく呪文を唱え始めた。
「何しやがる! クソガキがあ!」
壁にたたきつけられたローツが血まみれの金棒を振り上げて突いた一撃は、男の喉元にヒットした。
(うそ、マグレだろ。)
当てたローツ自身が驚いた。
が、驚くのはその後だ。
喉を突かれた男は大きくのけぞった。首がちぎれかけてしまっていた。
皮一枚でつながった頭は背中にごつんと当たり、反動で再び正面を向くなり、ちぎれた傷口は繋がり、みるみるうちに元に戻ったのである。
「くっ! くっついたあ?!」
驚く4人とは裏腹に、男は何事も無かったように鋭い目をローツに向けた。
「オレのナ、、ナマエをイッテみろ・・」
(まじ やば!!)
「言ってミローー!!」
瞬時に間を詰め、ローツに一撃を叩きこもうとした男の顔面にウルミーの刃が遮るが、それを察した男が大きく跳躍してローツから離れた。
そして、今度はマッシが動く。
早くは無いが力業の一振りが男に向かって振り下ろされた!
「おんどれぇえ!!」
岩をも切り裂くマッシの剣を男は片手で受け止めた。
(嘘だろ。マジかよ。)
男は刃が肉に食い込むのも意に介せず、剣を掴んでマッシの巨体を弾き飛ばした。指が2本飛んでいる! が、それは瞬時に再生し、離れた指が消し炭のように塵となる。
「オレの名前前前・・・」
今度はマッシに狙いを定め、跳躍しようとすると、今度はカイドーの炎弾が飛び込んできた。男は炎に包まれるがメラメラと燃え上がったのは少しだけで、ブスブスと音を立てて消えてしまった。肉の焼ける臭いがし、煙に包まれているこの男の皮膚は早くも際しかけていた。
(魔法にも耐性があるのか・・。)
カイドーもいくつかの高級な不死者と戦って来た経験はあるが、これほどの不死者には出会った事が無かった。
不死者と言ってもいくつかの段階がある。
例えば低級と言われる不死者の怪物にはゾンビやスケルトンなどがあって、それらは再生不能だから砕くか、燃やしてしまえば脅威は去る。それにほとんど自我という物がないし、動きも緩慢なものが多い。
高級な不死者と言えば吸血鬼なのだが、それとて弱点はある。炎と浄化で大抵は滅するか退かせることが可能だ。しかし、この場はすでに浄化されている力場である。ここであれだけ自由に動けるという事は余程強固な呪いがかけられているに違いなかった。
(セオリーに戻るべきか・・)
が、それでもあの素早さでは大技の魔法では対処できまい。エイミーの場合は準備して戦ったからこそ引っ掛かってくれたのである。光牙龍もタイミングを見て攻撃を仕掛けているが、機敏な動きで躱している。
(やはり、動きを止めねばなるまい・・)
男の狙いはやはりマッシに定められていた。
弱い者から始末するのは戦闘者のセオリーと言って良い。
3人の猛攻を躱しながら、徐々に間合いを詰め、男はマッシにとどめを刺そうとしていた。壁に体をしたたか打ち付けられていたマッシはフラフラと立ち上がるが獲物は無い。
(クッ、どうする。)
マッシは男が近づいて来るのを横目で見ながら、獲物を探した。幸い闘技場から落ちて来たであろう武器はそこらに落ちていた。
間一髪、男の攻撃を拾った剣で受け止める。しかし、剣は一発で折れてしまった。
「ゲェエ! 錆びてるじゃねえかぁ!」
二撃目をボディに受けたマッシはゴロゴロと死体の山を転がる。
(くそぅ・・息が苦しい・・・)
転がりながらもマッシは熟練の戦士だ。手に触れた石や剣を相手に投げつける。これで攻撃しようとは思わない。ただいくらかでも相手のに隙が出来れば時間を稼げる。その間に体勢を立て直さなくては・・
(クソッ! 剣だ! 最強の剣だ!)
無数に転がっている武器はどれもが朽ちて錆びている。
ここは武具にとっても墓場なのだ。
墓守の男の攻撃を喰らって、マッシは意識がぐらついている。
エストロやローツの叫び声もどこか遠くで聞いているようにしか感じられない。
マッシの目が一つの剣の柄を見つけた。
腐ってはいない。古ぼけてはいるが、組紐で編みこまれた滑り止めはキラキラと光沢すらある。長いその柄はおそらく両手剣だろう。そうでなければあんなに長くは無い。そしてツバまで骨の山に深く突き刺さっている。
(なんだ、ありゃあ・・変わった形をしてる・・。)
マッシは男の蹴りをよけつつ、その柄のある場所まで転がった。
マッシは柄を掴んで思いきり引き抜く。
(!!!)
伝説の勇者の剣・・とは違って、その剣はあっさり抜けた。
おまけに。。。
「なんだこりゃあ! 刃が無ええええぇ!!!」
実に気品のある柄だった。
「シュウウゥゥルルウゥーーー。」
細くたなびく笛のような呼気が近づく。
鋭い殺気がマッシの背後から刺さると、マッシは反射的に剣を振った。
(刃が無いのに・・・死んだな、オレ・・・。)
振りぬいた剣の軌道から迸ったのは、意外にも男の血潮だった・・。
切り裂かれて落ちた男の腕がマッシの頬を打つ。肩から男の頭部は勢いでぐらりと地に落ちた。
(なんで??)
「エストロ! 拘束しろ!!」
間を置かず、カイドーが叫ぶと、エストロのウルミーは墓守の男の体に巻き付いた。首と腕が素早く胴体に戻ってくっついたが、男は身動きできない。なにせ魔道具の強靭な剣だ。ドラゴンすら拘束しうる。
「お・お・俺の名前をーーーー!」
男は馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉を繰り返し叫んだ。
「そんなに名前が欲しいンならエストロに付けてもらえ!」
「前。。? オレの名前? 名前、ナマエ・・・。」
男は酷くにやけた顔をした。
不思議と殺気が消え、敵意も薄れてしまっている。
「どうしたんだ、エストロ?」
エストロは酷く浮かない顔をしている。
「・・・いや・・何と言うか・・その・・・。」
「勘違いには違いないが、カロンは放棄した。お主がその不死の武闘家を従魔にしたところで文句は言えんよ。」
カイドーの言葉にエストロは渋々ながら承諾した。
カロンの言う通りなら、強力な魔物であっても魔力は消費しないし、お得なお買い物である。まあ、横取りしたというそしりは受けるかもしれないが・・・それに拘束を解けば、こっちが遣られてしまう可能性が非常に大きいのである。
「汝に名をやろう。」
エストロは友人帳を出し、魔文字で名前を書く。友人帳からはがれた紙がひらひらと男の額に張り付き、す~っと男に溶けて消えた。
「お前の名は今日から”ダイゴ”だ。」
「おーーー、オレの名前はダイゴダ!!」
「そうだ。ダイゴだ。」
「ダイゴダ! ダイゴダ!」
戒めを解かれた男は跳ね回って自分の名前を何度も何度も叫んだ。
(・・・なんか間違っとりゃしないか・・・)
ローツは思ったが・・
(ま、いいか。)
ダイゴを繭化して愚者の小箱に納めると、皆は大きくため息をついてその場に座り込んだ。
「・・・それにしても、何なんだ、その剣は?」
ローツが気が付いたようにマッシを見た。
マッシはずっと刀身の無い剣の柄をずっと握りしめていたのだ。
「オレにも分かんねーよ。どうしてコイツでダイゴが斬れたんだ・・?」
マッシは柄の先、刀身としてあるべきところに恐る恐る指を当ててみたが、そこに触れる物はは何もなかった。
「何にせよ、魔剣の類じゃろう。コバチならば分かるじゃろうが・・・どうする? 持っていくか?」
マッシはじっと柄を眺めている。
「呪われるかもしれねえぞ。」
ローツが脅したが、マッシはぼんやりと柄を眺めそして・・・
「それでも、こいつを使って見てえ。」
と、にんまりと笑った。
**********
<エピローグ>
(何だか凶悪そうな犬ですね・・・。)
クタークはしゃがんで倒れている灰色の犬をじっと見ていた。
空はいつものように澄み渡り、小鳥の囀りが聞こえていた。
クタークは拾った小枝でツンツンとつついてみる。
(動きませんね。死んでいるのでしょうか? ・・というのもおかしな話ですが・・・。)
瀕死の犬は薄く目を開けた。
「もしもーし、聞こえますか?」
クタークの問いに犬は牙を剝きだして唸り始めた。
「ひゃっ!」
唸られて驚いたのか、クタークは尻餅をついた。
犬はヨロヨロと立ち上がり、クタークに鋭い目を向ける。
「なに、なに、なに、まさか私を食べる気じゃないでしょうね!」
(たしかに兎だし・・・)
「何てこと考えてる場合じゃありません!」
クタークは文字通り脱兎のごとく逃げ出し、犬は吠えながら後を追いかけた。
「たっ! 助けてくださーーーーーい!」
家の窓からツウがそれを見ている。
「まあまあ、楽しそうだ事。クターク様。」
犬に追いかけられて逃げ回るクタークを見て、ツウは穏やかにほほ笑むだけであった・・・・・。
年齢を重ねていくと、どうしても死ぬのが怖くなるようで。
若いころは多分、死という物が実感できなかったのだろうと思う。
今はぼんやりとだが、死という物が現実味を帯びてきているのだなあと思う時が時々あるのだ。
いつ死ぬかは分からないが、きっと自分はこういう病気で死ぬのだろう・・とか、こういう事故で死ぬのではあるまいかとか・・何かの拍子に思うのである。
どうしてそんな事を後書きで書くのかと言うと。
<ミナイの村編>が異常に長くかかってしまったからである。特に昨年の事故以来執筆ペースが激落ちしたのだ。ともかく、これくらいは最後まで書いておきたいという、(死ぬ間にの)欲が生まれてくるのである。
なにはともあれ、ミナイの村編はこれで終わりです。
主人公不在のスピンオフのような話は1年以上をかけて完結しました。
で、次回からは新しい章に突入します。
<ハールゥの城は動かない>編になります。




