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魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
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魔滅の刃 ミナイの村編 其の壱拾六 < 四 凶 >

 その笑みを見た人間の背筋に冷たい物が走った。

 その笑みを見た魔物は皆、恐怖を抱いた。

 エイミーの笑みは人も魔物も凍てつかせるのだ。


「クソッ!」

こんな時に、一番に突っ込むマッシの足が地べたに凍り付いたように離れない。

「安心してね、殺しはしないわ。でもね・・人間なんかの手先になっていたから、ちょっとお仕置きしてあげたの。」

 マッシの横で、ピノアがどさりと倒れた音がした。

(まただ! 見えなかった・・)

エストロは大きく前へ飛び、倒れたピノアを見つめる。両手足がブルブルと震え、うつぶせになったピノアの背中にエイミーは恍惚の笑みを浮かべて立っていた。

帰納(ウインダム)!」

「貴方たちも殺しはしないわ。」

「どういう・・意味だ。」

 エイミーの真横にいるマッシがエイミーを見ずに言う。

「うふふふ・・生きたまま、連れて帰って嬲り殺しにしたいもの。」

 素敵な笑顔が満面に満ちる。

「てええい!!」

 マッシの剛剣が空中を薙ぎ払う。

 左右の肩に少女の重みが柔らかにかかる。

「うおぉお!!」

 強烈な金砕棒の暴風がマッシの頭上を掠める!

マッシの金髪が何本も削れて吹き飛んだ!

「脚だ! 脚を潰しゃあ、動けねえ!!」

 ローツはマッシの頭上に飛んだエイミーを襲うべく自らも跳躍した!

 

 時がゆっくりと流れた。


 まるでスローモーションでも見るかのように、空中でローツの金砕棒がエイミーの左足首に当たる・・・瞬間! 関節がありえない方向を向いて足の裏で受け止められた。

 靴底は激しく壊れ、血が飛んだ。

そして一本の血の筋が蛇のように金砕棒を伝ってローツの手に振りかかる。

 もうもうと白い煙が上がり、肉の焼ける嫌な臭いがした。 金砕棒を伝ってエイミーの血がローツの手指を焼いたのである。驚くべきことに魔鋼で出来た金砕棒が血の筋に沿って錆びている。


「くそったれめ!」

 ローツは訝し気にエイミーを見るも、エイミーは何事も無かったように地面に着地した。靴は白煙を上げて爛れてはいるものの、彼女の足首は普通の人間のように何も変化は無かった。

「おじさんにもお仕置きよ。人間なんかに(くみ)するヤツは、みんな痛めつけてあげるんだから。うふふ。」

「ふざけんなよ、嬢ちゃん。俺様がこの程度で泣きを入れるとでも思ってんのか。」

「ふふ・・ドワーフは頑丈ですものね。」

「笑うな、クソガキ!!」

 ローツは一瞬で間合いを詰め、今度は頭上から打ち下ろす!

 が、一瞬早くエイミーは横へ飛び、またも跳躍する。

(なめやがって、それがおめえの悪い癖だってのヨ)

 跳べば重力によって着地せざる得ない。方向を変える事さえできない。

ローツはエイミーの着地点に向かって金砕棒をぶん投げる。

 しかし、それはエイミーに当たらず、闘技場の壁にブチ当たって派手な音を出したに過ぎなかった。 

 エイミーはというと、空中に静止したまま、腕組みをしている。

「やっぱりドワーフはバカね。さっきも浮かんで見せたでしょう。うふふふふ。」

「ケッ! 笑うのは俺の方だぜっと。」

 ローツが腕を後方に引くと細いワイヤーで繋がれた金砕棒が矢のように帰り、エイミーの背中を強打した。

「きゃあああ!!」

 エイミーは悲鳴を上げて地上に落ちた。

「どうだ! 恐れ入ったか小娘ーー!!」

「・・・・なーんて。ふふ・・少しは優越感に浸れたかしら?」

 エイミーは何事も無かったように立ち上がった。スカートの埃を払う余裕すらある。

 一人のシーフが矢を放った。

矢がエイミーに突き刺さり、そして通り抜けて行った。


 人間は唖然とした。


 エイミーの傷口は赤い鮮血を流してはいるが、その血はエイミーの服を焼け爛れさせボロボロにしていく。しかし、エイミーの表情に痛みは皆無だ。ロリータのドレスは塵のように崩れていくが、彼女の透き通るような笑顔は文字通り全身が透けているように見えた。でもそれは幽霊のような儚さでは無く、水のような物質である。

「こいつ・・まさか・・スライムか!?」

 矢を撃ったシーフが独り言のようにそう呟いた刹那、彼の首が鮮血と一緒に吹き飛んだ。

「私の妹を下等なスライムと一緒にするな。」

 立ったまま首から血を吹き続けるシーフの肩に、ゲラが巨大な鋏と共に立っていた。

「姉さま!!」

 ゲラはペロリと舌を出した。

「ごめんごめん。つい、殺しちゃった。」

 ゲラはあけすけにアハハと大笑いした。


 スライムにもいくつかの種類がある。

大抵は水のような液体の魔物であり、定型を持たない。が、魔物である以上、彼らにも特殊な能力がある。その多くは捕食するために酸を用い、体内に取り込み消化する。しかし、エイミーは今まで見たスライムとは感じが違っていた。

「スライムのような魔物。・・と、でも言うべきかのう・・。」

 ズイ・・と人垣から出て来たのはカイドーである。

 ゲラがエイミーの横に降り立った。

「魔法使い風情が私たちのスピードについてこれるのかな? キャハッハハハ!」

「フン! やってみろよ、ドブス!」

 真っ赤な顔をしたローツがゲラの前に立ちふさがる。

 そしてエストロとマッシ、そしてコバチもカイドーを庇うように囲んだ。


(変だ。 急に統率が取れたように・・・)

空中で戦うベニーとウシヲの動きが急に制限され始めた。思うように動けない。

「なんだ、何が起きたんだ!」

 ウシヲも異変に気が付いていた。

単独で戦う事が魔物の常であるように、軍隊のように統率の取れた動きを見せる事は無い。だが今は、計算されたように緻密な動きで二人を翻弄していた。やがて・・ハーピーたちが1匹のハーピーを中心に集まり始めた。

「あいつは!」

「うふふ。久しぶりね。」

 ワールゥがベニーを見て嘲笑った。

「何が可笑しい!」

「そんな板っきれで我が眷属の速さについてこれるつもりなのが可笑しいのよ。」

「バカヤロウ! わしは板っきれじゃねえぞ。」

「ふふ、のろまな獣じゃない。」

「殺す!・・ ウシヲ! あの野郎をぶち殺すぞ!!」

 タイガは咆哮を上げて一直線にワールゥに向かって行った。

しかし、タイガの爪がワールゥに届く寸前、ワールゥの体はキリモミ上に回転し、後ろへ下がる。そして、周りのハーピーの爪がウシヲとタイガを切り裂いた。

「グオッ!」

「うわっ!」

 致命傷にはならなかったが、今まで無傷だったウシヲとタイガが血まみれになった。

「行けっ! ビーストスピア!」

「ガーゴイル!」

 ワールゥの前に幾匹かのガーゴイルが立ちふさがり、ビーストスピアに貫かれた。

 槍に貫かれた3匹のガーゴイルに残りのガーゴイルたちが次々と覆いかぶさる。槍に貫かれたガーゴイルの死体を中心に団子状になったガーゴイルの塊は、地面に落ち、そして石化した。

「ウシヲ。君は地上に戻れ。後は私が何とかする。」

「ふざけんなよ、女! わしがこの程度で戦えなくなるとでも思ったか!」

「そうさ、姉ちゃん!」

 タイガの怒鳴り声にウシヲも軽くウインクして見せた。

「そうじゃない。下を見ろ。」

 地上では勢いを盛り返した魔物たちと、人間たちの壮絶な戦いが繰り広げられていた。

しかしそこには要となるカイドーたちはいない。エイミーとゲラのコンビに対峙していたからである。そして冒険者たちの旗色はひどく悪い。このままでは全滅するのは時間の問題だろう。


「ウシヲはタイガとみんなを連れて撤退してくれ。殿(しんがり)を務められるのは君しかいない。」

 彼らが入って来たゲートは開いたままである。有象無象の魔物たちを相手に乱戦のままでは人間に勝ち目はない。戦力をまとめて立て直し、撤退の状況から敵を一方向に集めるのが狙いだ。それはウシヲも理解できたが、このハーピーの群れを相手にたった一人で戦うと言うのは、いかな手練れでも自殺行為だった。しかも土俵は相手に分がある空中戦だ。

「私も隙を見て地上に降りる。だから先に行って仲間を助けなさい!」

 嘘だ。

ベニーは空中の敵を一身に集めて、エイミーたちの援護を阻む気だろう。

 しかし・・・それでも・・。

「OK。分かったよ。」

 そう云うなりウシヲは短い呪文を繰り返し唱えた。するとウシヲの影に魔法陣が輝き、そこから巨大な魔獣が現れた。

 そいつはのっぺりとした人のような顔をしたムカデのような魔獣である。体全体はゴムのような弾力があり、薄く茶色い霧のような物を纏っている。その巨大な背中には人が乗ってもビクともしないだろう。そしてゆったりと宙を飛ぶ。

「動きは遅いが、こいつなら空中でも足場に出来るだろう。グッラック、姉ちゃん!」

(嬉しいねえ。私をお姉ちゃんと呼ぶか。)

下降するウシヲを見送って、ベニーは一人ほくそ笑んだ。

(確かに。キントボードも飛行時間が限界だ。)

「ありがたく使わせてもらうよ、ウシヲ!」

 ベニーはキントボードを捨て、フースマの背に降り立った。

「なあに、それ? 随分待ってあげたのに、期待外れだわ。そんなノロマのムカデに乗った所で、いったいお前に何が出来るの?」

「何が出来るか、その身で試してみればいい。」

 その時だった。

光の弾丸がワールーの側にいたハーピーを撃ち抜いた。

「何っ!」

ワールゥが下を見ると、火炎弾が乱射されてくる。

「よけろっ!」

ワールゥが叫ぶ前に数匹のハーピーが炎に包まれ落下していった。

 4匹の小型の龍は、フースマに立つベニーの後ろでホバリングした。それはエストロがベニーの援護に放ったヴィオロとヴィオーラ。そしてティンパニーニとカッシシだった。

(エストロ・・・。そっちだって苦しいだろうに・・。)

「よーし! 行くわよ! 私も負けてらんないわ!」

 ベニーは杖を構えてフースマの背を駆けだした。



「!!!」

 エストロは殺気を感じて素早く身を(かが)めた。

エストロの頭上を刃のような空気が掠めて行く。エストロの髪が数本空中に舞った。

(なんだ? 今の風は・・)

 恐らく風が去ったであろう方向を見ると、なぜか背景が歪んで見える。湾曲したガラスの瓶を見るような感じだ。

「何かおるぞ。」カイドーも気づいていた。

エストロはじっと耳を澄ませる。わずかだが蚊の鳴くような「くくく・・」と笑う声が聞こえた。

「そいつはニコっていうの。見えないでしょ、きゃはははは!!」

 ゲラはいつも高笑いする。

「カイドー。こいつの相手は私がする。皆はカイドーを頼むぞ。」

 エストロは歪む空気の塊を追って、輪から外れた。

「いいね、いいねえー。じゃあ、私はその女だ!」

 言うが早いか、ゲラはコバチに襲い掛かる。

コバチはゲラの鋏を受け流しつつ、カイドーを庇って輪から離れた。


「ふーん。じゃあ、私の相手はのろまな魔法使いたちってことかあ。」

 ちょっぴり残念そうな顔をするエイミー。

「野郎、嘗めやがって!」

マッシもローツも怒りで脳が沸騰しかけていた。

「慌てるな。奴に物理攻撃はきかん。お前たちは時間を稼いでくれ。」

 カイドーは少し震えていた。

「このジジイ、震えてるぜ!」

「大丈夫か、ジジイ!」

「しっかりしろ、俺たちが付いてるぜ!」

 悪口とも励ましとも言えないような・・言えるような。愚弄王リーの魔導書(アレイスター)の言葉だった。

「カイドー!」

「カイドー!」

 横目で見ながらマッシとローツも声を掛ける。

「ふふ・・心配には及ばんヨ。」


 長く忘れていた。

生死を身近に感じる恐怖を。

 カイドーは()()()()()()()()()()のだった・・・。

ああ。 またやってしまった。

ついノリでうしおととらを出してしまった。藤田先生ごめんなさい。


 魔獣使い・・・召喚士。。え・・と違いは・・・?


 ともかく出てしまった事は仕方がない。 いろいろと継ぎ接ぎは後でするか、知らんぷりするとして・・と。


 最近和テイストのファンタジーってヒットしないのでは・・というようなスレがにぎわっていたと言う記事を読んだけど。

 僕に言わせれば、日本人の書くファンタジーはみな和テイストなのでは?

 と思ってます。

”最果てのパラディン”とか、”ゴブリンスレイヤー”とかはけっこう西洋風に生活を作っているのかなあと思うんですけど、大抵は日本風の浴場があったり、料理にこだわっていたり、挨拶がお辞儀だったり、世界観が中世っぽいのにシャツとズボンとネクタイって。。まあ異世界ファンタジーなんだし好きにつくっていいんだけどね。でも多分それって日本風の慣習がそのままアニメなんかに反映されていたりするのは、どうしたって和テイストじゃないかにゃ。とか考えるのですわ。

 まあ、なにはともあれ、面白いもの勝ちってことでいいのかな。

 自分のも、自分じゃそこそこ面白いと思うんだけどな嗚呼・・・。

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