魔滅の刃 ミナイの村編 其の壱拾壱
<南 の 風>の【紅い風迅】と異名を取るベニー・ヒルはカイドーたちを見てニッコリとほほ笑んだ。
「お前、髪切ったのか?」
ベニーの長かった赤い髪はやたら短くなっていた。
「久しぶりに会ったのに、最初に言う事ってそれぇ~?」
「いや、その・・久しぶり。ますますきれいになったなあ。」
「ざ~とらしー。」
「ホッホッホ。元気になったようじゃの、ベニー。お陰で助かったわい。」
「知合いですか、カイドー。このお嬢さんは?」
「やーだ、お嬢さんなんて。これでもバツイチですのよ。」
エストロが真顔で聞くとベニーがオバチャン化する。
「バツイチって! お前、マルコと別れたのか?」
ゴホン! とカイドーが大きく空咳をした。(触れるな、バカ者!)とカイドーの目が言っている。
「死んじゃったよ。」
「え?・・・あ・・ごめん。その。。何と言うか・・」
マッシは素直に頭を下げたが、ベニーは気にする様子も無い。
彼女の想いは深いが、戦いの中に身を置く者は、いつまでも悲劇に縋りついている事は許されないし、縋りつきたいのなら戦いから身を引くべきだと彼女は思っている。戦いの中に身を置くことで、その想いを忘れてしまいたいという気持ちもある。
そのベニーの顔が真顔になった。
「それよりもカイドー。貴方たちの手配書が回っている。」
「どういう意味だ?」
マッシは驚いていたが、エストロとカイドーはある程度は予測していたと見えて、それほど驚いてはいない。
「やはりな。もしかすると・・とは思っておったが・・・。」
「立ち話もなんだ。基地に引き上げよう。」
エストロの言葉にカイドーも賛成した。出来ればポッターにもティンパニーニとカッシジを治療して貰いたい。(いればの話だが。)
「ちょっと待って。こいつらどうする?」
ベニーの杖が指すのは伸びて倒れている10人のゴロツキどもである。
(まだ仕事があったか・・)
と、4人はため息をついた。
********
ミナイの村は、その立地条件からヴェルヴェティア公国の領地でありながら独自の国家と言っても良かった。ヴェルヴェティア公国からの派遣はなく、前述したとおりミナイの総領がミナイの頭首であり、その中で自治がおこなわれている。別の組織と言えばギルドだが、ギルドには自治権は無いし、ギルドそのものには武力も無い。一応ギルド内を守るために警備兵はいるが、いても数人程度である。
ただミナイにも警察があって、警吏がいる。
20人程度の組織だけど、村人の自警団などよりは統制の取れた兵士たちである。(ギリアンの魔窟の警備も兼ねる)そして、今、カイドーたちはそのミナイ警察の中にいた。その顔ぶれの中に総領コバチとバルタンの姿もあった。
「久しぶりじゃねえかよー。トラブルってのはー。」
体毛の濃いがっしりしたドワーフがウキウキした様子でゴロツキどもを見て言った。その脇に腕組みして立っている長身の美男子が警察署長のケイである。
「久しぶりだね、カイドーさん。」
「儂を覚えておるのか、ケイ?」
「覚えてますよ。あの頃はヤンチャな魔法使いに手を焼いたものです。」
「い、いや、もう、あの頃の話は・・」
「分かってますって、カイドーさん。それにしても老けましたね。」
「当たり前じゃ、儂は人間じゃからの。」
そう、ケイはエルフである。見た目は青年だが、年齢はカイドーをはるかに上回る。ちなみに傍らのドワーフの名はローツという。
「それよりも、こいつらをまず何とかしようじゃないか。」
マッシはカイドーの昔話を聞きたい素振りだったが、エストロは冷静だ。10人のゴロツキどもは縛られて広間の中央に集められている。ベニーに殴られて昏倒させられていたもの、すでに意識を回復してじっと床に座っている。
「分かりました。それでは聞きますが、貴方たちを襲ったのは彼らですね?」
「そうじゃ。」
続いてケイはゴロツキどもの親玉らしき人物に問いかける。
「カイドーさんたちを襲ったのは貴方たちですね?」
「フン! そうだがよぉー、俺たちが何をしたってんだァ? そいつらはお尋ね者だぞぉ。お前らフン縛る相手を間違えてるぜェ。」
「なるほど、”正義は我にあり”という事ですね。ではカイドーさん。あなたたちはお尋ね者なんですか?」
「ふーん。どうもそうらしいのぉ。」
「カイドーじゃないわ。ホーク・ガイバードとそれに力を貸す者たち。つまりはカイドー一味とエストロさんもよ。」
「その通りだ! 赤毛の姉ちゃんの言う通りだぜ!」
「で、カイドーさん。あなたにお尋ねしますが、素直に出頭するんですか?」
「どうも、そういう訳にもいかん事態になってしまったのでなあ。」
カイドーはキアヌたちの事を除いて、第5層での出来事を話した。
みるみるうちにその場にいた全員の顔が青ざめて行く。
「その魔物って!!」
コバチの顔が怒りで紅潮している。ミナイの村の主だったメンバーも同じ思いだ。
「エイミーと名乗っていたが、おそらくはロアの軍団の者だろう。」
エストロが答えた。
「スカウタのレベルはA+だった。」
皆が悔しさに手を握りしめていた。前総領ザルツの一隊を壊滅させたのは、トキワの傷から見てエイミーがやったのは間違いないだろう。
「おいおい! 俺たちの縄を解けよ! 罪人はそっちだぞ!!」
「罪人じゃないわ。手配書が回っているのは闇の組織と一部の賞金稼ぎだけだもの。賞金を出すのは国じゃなくてギース教。けれど、このままだとギース教に与する国は一般にも罪人として指名手配をかけるかもね。」
「・・まったく迷惑な話です。あの頃とちっとも変ってませんね、カイドーさん。」
「そんなに迷惑かけたか、わし?」
「ええ。」と、ケイはニッコリと笑った。
「どうしましょうか。総領?」
急に振られたが、コバチにも都合がある。
カイドー一味とホーク・ガイバードに与する者たちという曖昧な定義によれば、自分たちも大きな意味で賞金首となる。それでも今は彼らだけだとしても、ポッターを失う事は出来ない。また、カイドーたちとゴロツキどもを比べれば、カイドーたちの方がずっと紳士だし、村にとっても有益な人物たちだ。
ただ・・・このままにしておけば、こんなヤツラも増えて来るに違いない。それは確かに迷惑な話だった。
「別に悩む必要はねえでしょう。こいつら全員を刑にかけちまえばいいだけの話だ。」
バルタン親方が腕組みしながら言った。
言ったが、その目はコバチに何かを訴えているように見えた。コバチがその目の先を伺うと、ドアの隙間の暗闇に、二つの金色の目が光っているのが見えた。
「そうか・・。分かったよ、バルタン。」
コバチはカイドーたちを見る。
「ちょっと待てよ。俺たちは・・」と、言いかけたマッシをエストロが制した。
「我らは黙ってミナイの掟に従おう。」
カイドーも頷き、何か言おうとするベニーを制した。
コバチはケイに耳打ちする。ケイはニコニコと笑みを浮かべながらコバチの言葉を聞いていた。
「でぇ、どうすんだよ。俺たちの縄を解いてこいつらを引き渡すのかぁ?」
ゴロツキどもは縛られているくせに態度がデカイ。
するとケイがゴロツキたちの側に来るとこう言った。
「ここミナイでは刑は二つしかありません。ここから突き落とされて殺されるか、追放されるかのいずれかです。幸いあなたたちは誰も殺めていませんので、追放されることになりました。彼らも同じです。あとはミナイの外で好きにすればいいでしょう。」
物腰は柔らかだが凛とした響きがあった。
ケイがローツに耳打ちすると、ローツは一旦別の部屋に入り、大きな木箱を持ってきた。中には簡易瞬間移動魔法陣の入った大きな布が入っていた。ケイはローツに渡された一枚を広げ、開錠するとカイドーを手招きした。
「カイドーさん。これで追放となります。二度と会う事もないでしょう。」
トンとカイドーを簡易瞬間移動魔法陣に突き飛ばすと、カイドーは一瞬でどこかに転移した。
「では、あなた方も。」
ケイの言葉にマッシとエストロも従い、やはりどこかに転送された。
「さあ、今度は貴方たちの番です。同じ場所に送る訳にもいきませんから別の簡易瞬間移動魔法陣で送ってあげましょう。言っておきますが、再び戻れば死罪にしますからね。」
ゴロツキどもは少しばかり暴れたが、ケイとローツに抑えられ、次々と消えて行った。
「カイドーたちはどこへ行ったの? 私も同じ場所へ送ってくれない?」
ベニーはコバチに詰め寄った。
「カイドーたちならすぐに戻って来るよ。それより、今後の対策を練らないと。バルタン。主だった者を私の家に集めてくれ。」
「ガッテンでさ。」
「ちょ・・」
「あなたも来て。あなたには事情を詳しく説明してもらいたい。」
ベニーは訳が分からなかったものの、コバチに従う事にした。
(なんだかゾクゾクしてきた・・・)
ベニーの口角がわずかに上を向いていた。
********
― 1時間後。コバチの家 ―
「多分、ここに集合だろうなという事は、予測がついたよ。」
マッシはエストロの物まねでコバチに言った。
「それぐらいは察してくれないと私らも困る。さっさと上がれ。」
無視したコバチはそれだけ言うと、さっさと部屋へと向かって行く。
「お嬢様は照れてるんですよ。さあ、足を洗いますからね。」
プラムはそう言うと老爺を呼んだ。
「早速だが、皆に話がある。」
コバチは集まった面々を相手に堂々とした素振りで話し始めた。
ここにはカイドーたちの他にケイ、ローツ、バルタンの他にもミナイの村役たちがいる。
「ギリアンの魔窟に父たちを殺した魔物が出た。そいつは、1か月後9層の闘技場で待つと言っているらしい。詳細はこの冒険者たちから聞いてくれ。」
コバチに促されてエストロが話し始めた。ミナイの面々は驚きと恐怖とで顔面蒼白になっている。そして、喧々諤々の騒ぎの後、意見はおおよそ三つに割れた。
討伐隊を編成して9層の闘技場まで行き、その魔物を倒そうと言う者たち。ミナイの村を捨てて移住しようと言う者たち。ヴェルヴェディア公国に応援を頼んで防備を固めるべしと言う者たち。そのいずれもが、総領コバチの意見を待っていた。だが、いずれも決定的な物が欠けている気がして、コバチも決められずにいる。
「失礼だが、私の意見を言わせてもらっていいか?」
エストロが立ち上がった。
「いずれの意見も我々には関係がない。あの魔物とはここでなくとも、いずれ戦わなくてはならない。だから我々の事は放っておいて欲しい。あなた方との共闘も御免被りたい。いても足手まといにしかならない。あなた方は村を捨てるなり、公国に助けを求めるなり好きにしたまえ。」
「なんだと! 俺たちを見下す気か!!」
いきり立ったローツが殴りかかる寸前に、バルタンの親方に殴られた。
「黙っとけ、バカ。こいつはな、俺たちを巻き込むまいと嫌われ役を買って出たんだ。」
「参考意見として聞いておくけど、これは私たちの問題でもあるんだ。だから勝手は困るよ。」
コバチは17歳の娘とは思えぬほどしっかりしている。
「皆の意見は判った。私はヤツを野放しにしておけるほど人間が出来ていない。かといって、むやみに戦いを仕掛けるほど愚かではないつもりだ。」
そしてコバチはケイ見た。
「ケイ。討伐隊を出すとしたら我らに勝ち目はあるか?」
「ないね。」
ケイは即答した。
「カイドーの実力は僕も知っている。それがなすすべも無かったんだ。僕らが討伐隊を編成してヤツと戦っても全滅するだけだろう。」
コバチはふーんと唸り、右こぶしに顎を載せた。
「カイドーさん。貴方はポッターさんを含めた4人で行くつもりか?」
ポッターを膝の上に載せているカイドーはおもむろに顔を上げた。
「ふむ。そうじゃな。そうなるじゃろうな。もしくは3人じゃ。ポッターにはこちらを任せてもらっても良い。」
悲壮な決意という感じは無い。いつもののんびりしたカイドーに戻っていた。
かと言って、カイドーにも勝算がある訳ではない。あの状態だったとはいえ、エイミーとの実力差は大きい。それでも3人で戦おうと言うのは、それが使命だと思っているからだろう。
「それはあまりに寂しいです。ぢゃ。」
ポッターはあくびをすると、前足で顔を洗い始めた。
「しかし、儂らがやられたら、ヤツは村に攻め込むかもしれんし、儂らを誘って、こっちを攻め込む気かもしれんぞ。エイミーとかいう魔物の言葉を額面通りに受け取るのは危ないじゃろ。」
「その通りよ。それに3人じゃないわ。私も行く。」
ベニーが立ち上がって言うと、ローツが「俺も行くぜ!」と名乗り出た。
「俺りゃあ、難しい事は判んねえが、そいつが居りゃあ村が危ねえんだろーが。俺が行ってぶっ潰すぞ、コノヤロー! 誰も止めンなよ!」
「ケイ。バルタンの親方。」
コバチが二人に向かって深く頭を下げた。
「お願いがあります。私がもし、死ぬようなことがあれば、二人で村を守ってください。」
「やっぱりですか。」
「お嬢さん。言うと思ったが、そいつは乗れねえ相談だぜ。」
コバチは顔を上げると、皆に向かってこう言った。
「残念ながら、私にはジンゴロ・ミナイの血が流れている。」
ミナイの民が皆、息を飲んだ。
ジンゴロ・ミナイはミナイの村の創設者であり、初代の総領である。それまでは定住する国を持たなかったミナイの民に、安住の地を見つけ出して住まわせたのが彼だ。
そして、魔道具師でありながらラグナロクの朋輩として戦場でカオスと戦っていたのは誰もが知っている。ミナイの民にとってジンゴロ・ミナイは神と同義語と言って良い。コバチは自分にもその血が流れていると言ったのだ。その言葉は、誰が何を言っても止められないと宣言したに他ならない。ミナイの村役たちは、誰もが納得したような顔でコバチを見つめていた。
「待ってくれ、我々は承知してない。それにコバチさん。貴方は私との契約がある筈だ。ウルミーを仕上げるまではそれに専念してもらわねばならん。これは契約だ。」
コバチはエストロを見てニヤリと笑った
「もはや8割まで完了している。あと数日もあればウルミーの原型は完成する。魔物との約束の時までには仕上がっているだろうね。」
「確かにな。タタンバが寝る間も惜しんで作業している。」
バルタンが感慨深げにエストロとコバチを見比べた。
「ワシが思うにだ。これは天啓だ。あんたはワシの所にタタンバを預けた。そのタタンバが主のあんたの為にと剣を打った。もしあんたがここに来て、コバチの嬢ちゃんと揉めなければこうなることも無かったろうし、タタンバがいなかったらあんたの剣はもっと時間がかかったはずだ。」
バルタンは村役たちに向き直ってさらに続ける。
「なあ皆の衆。我らにもミナイの血が流れている。逃げるだの、助けを求めるだの他力本願の生き方は我らミナイの生き方か? ここでミナイの系譜が途絶えたとしても、我らは誇りをもって生き抜いたと、初代に向かって胸を張れるか?」
場はシーンと静まり返った。
「バルタン。お前さんの言う通りだ。我らはミナイの民だ!」
村役の一人が立ち上がって叫ぶと、皆がそれに呼応して立ち上がった。
(置いてかれたヨ・・・俺たち・・) 注:マッシ後日談
コバチ、ケイ、ローツ、バルタン。そしてカイドーたち・・。
村役たちが帰った後、彼らが残った。
誰もが沈痛な面持ちでいる。スヤスヤと呑気に丸くなっているのはポッターだけである。
「こいつなら、エイミーに勝てる自信があるんじゃねえか?」
「そんな事はありません。ぢゃ。」
片目を開けてポッターが呟く。傍らには治療を終えたティンパニーニとカッシジも寄り添うようにして眠っている。
「ドラゴンって怖いと思ってたけど、この子たちかわいいよね。」
「そうかぁ。俺には分からん。」
「なによ。可愛いは可愛いの。審美眼ってものが無いんじゃない、あんた。」
(意味、判んねえし・・・。)
「さて、酒でも飲むか。」
バルタンは、用意された酒徳利をおもむろに掴むと、隣にいたカイドーの器に注いだ。
「おお、これはありがたい。済まぬな、親方。」
お互いの器をカチンと鳴らし、バルタンとカイドーが飲み始めた。
「では僕らもご相伴に与りましょうか。」
ケイも穏やかではあるが腹は決めている。マッシとベニーに酒を注ぎ、自分も飲む。エストロとコバチもチビチビやり始めた。
「悩むのはガラじゃねえ。」とばかりに、ローツが次々に器を開けていく。マッシとベニーもローツに付き合ってペースが早い。そこにバルタンも混ざって歌を歌いだすと、大合唱が始まった。いつの間にか話し合いはどこかへ行って、どんちゃん騒ぎとなり果てたのである。
不意にエストロは隣のコバチに声をかけた。
「話がある。外へ出よう。」
「え・・はい。」
エストロはコバチと縁側に出て、障子をそっと閉めた。
外はやけに寒かった。
明日の朝は霜が降りるだろう。晴天の星空はどこまでも澄み切っていた。
「なんですか、エストロさん。」
吐く息が白い。
エストロは少しばかり迷っている素振りだが、やがて意を決したようだ。
「君に渡しておきたいものがある。」
エストロは愚者の小箱から一枚の認識証を出すと、コバチに渡した。コバチはそれを見るなり、崩れ落ちた。瞳から大粒の涙がこぼれ、その認識証を握りしめていた。
「すまない。でもやはり渡しておくべきだと思った・・。」
そして・・エストロはコバチを残して、縁側から立ち去った。
―― エピローグ ――
「可哀想に・・。痛かっただろう。」
「全然。」
ベッドに腰かけたカオスの膝を枕に、エイミーは寝そべっている。
「どうして1ケ月も待つんだい?」
「だって、その方が面白そうだもの。いっぱい来るといいなあ。」
大きなイベントを前にして、エイミーはうっとりしている。
「僕も行こうかなあ。」
「駄目だからね。ダーメ。分かった。あれは私の玩具なんだからね!」
「ハイハイ。分かりました。」
まるで甘える娘に目を細める父親ようだ。
「私、もっといっぱい、いーーっぱい人を殺したい。命乞いして鳴き喚く姿をもっと見たいの。ママもそうだったから・・・。」
エイミーは細く開いた眼で虚空を見つめている。
「でも・・。」
「でも?」
「・・分からない。・・でも今はあまり楽しくなくなった・・。」
エイミーは目を閉じると深い眠りに落ちて行った。
カオスはエイミーの頭をやさしくなでた。
―― お・ま・け ――
「どーして、そんな大事な事言わないかなあ! 信じられんわ!」
「やめてよぉ~。あったま痛いんだからさあ。」
ベニーは二日酔いである。テーブルに頭を乗せてぐったりしていた。
向かい合ったマッシとの間のテーブルには誓約書とペンとインク壺がある。
ギース教の指名手配から逃れるには、ギース教に忠誠を誓う。つまりは入信するという事なのだが、ギース教から渡された誓約書にサインをしなければならない。それを言うのをベニーは忘れていたのだ。
テーブルの周りにはカイドーたちもいて、その誓約書をマジマジと見ている。
「貸せ!」
「あっ!」
マッシは説明も聞かずに、あっという間に一枚の誓約書にサインをした。
「どーだ。これで厄介事がひとつ減ったろう。」
ドヤ顔のマッシは鼻息が荒い。
「あ~・・・やっちまったか・・・。」
カイドーとエストロの肩に乗ったポッターは大きなため息をついた。
その途端、誓約書の一部の文字が次々に舞い上がり、マッシの右手に張り付くと、見る間に吸い込まれて行った。
「な、な、な、なんだ!」
「バカだな。ギース教が、ただの誓約書を書かせるわけがないだろう。」
エストロもあきれ顔である。
マッシの右手小指の爪が真っ黒に染まっていた。
「ど、ど、ど、どーする。何、これ?!」
「ギース教の縛りのようですね。ぢゃ。」
「どれどれ。」
カイドーが証文を摘まみ上げて目を凝らす。
「老眼でよく見えん。」
「どうも、司教以上の命令には絶対服従で、改宗は許されないようです。ぢゃ。」
代わりにカイドーの肩に飛び移ったポッターが読んでくれた。
「バーカ。」
顔を少し上げたベニーが呟く。
マッシは慌ててカイドーに詰め寄った。
「ど、ど、ど、どーしよ、オレ。」
「小指、切っちゃいましょう。ぢゃ。」
「ひっ! 嫌だ―!!」
「大丈夫です。僕が代わりの小指を作ってあげますよ。ぢゃ。」
「そうさ、痛いのは一時だ。お前も戦士なら傷には慣れてるだろ。」
「バカ! ケガと、自分で切るのは訳が違うんだよぉ!」
マッシは涙目になっている。
「切っちゃえば~。」
「そうそう、僕のクロッサスの鈎爪なら一瞬ですよ。ぢゃ。」
ポッターの前脚に光る鈎爪が出現する。
「いや、やややや、ちょっと待って、待ってくれよー!」
本当は・・ポッターとカイドーの実力ならば、時間をかけて誓約書にかけられた魔法を解析して解除する事は出来るのでした。
「嫌じゃーーーー! 助けてくれーーーぇ!!」
つづく。
実は怪我しました。一月経つのに座っていても疲れがたまるとけっこう痛くて・・。
ようやく書き溜めてた1編を航行する事が出来ました。
思えば、ミナイの村編は今までよりも随分長くなってしまいました。ハッキリ言って、主人公の出ないミナイの村編はスピンオフのような感じになるのでしょう。でも、ここを書いておかないと次に行けないので、しっかり最後まで書こうと思います。
次回はマジでスピンオフ。
グラ・ネイズの生い立ちに行っちゃいます。こんな感じは鬼滅の刃みたいかなと思ったりもしますが、長く続いた作品にはありがちな流れですので、ご容赦を。
さて、鬼滅の刃はもう少しで鍛冶の里編が最終回を迎えます。
こちらはあと二つのエピソードを残しておりますけれど、今までにかなりばら撒いてた伏線を少しずつ回収して行こうかな。と。ともかく、ハールゥの城の話と、バベルの話で一旦は完結します。でも次があるのかと言うと・・それは内緒です。伏線もそうですけど、過去の名作のリスペクトもダジャレのように織り交ぜていくスタイルは変わりませんので、そちらの方もお楽しみください。
では、またいずれ。 安心してください。執筆は続けますよー。




