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魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
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 第1話 ジモン島奇譚 5

 ホークたちが門の前にたどり着くと、門は内側からゆっくりと開いた。

「気をつけて。何かいる。」

グラの警告に、マッシとドレイクは剣の柄に手をかけ、シュセはクロスボウのロックを外した。

 表から見ると中はアーチ状のまっすぐな通路になっていて、魚油のランプの灯りがあちこちに灯されていた。しかし結構な距離があるのか、奥の方は闇が淀んでいて見えなかった。

「行こうか。」ホークが先頭に立って歩き出した。


 シュセとマッシは少し驚いていた。

エグランではホークの存在はオミットである。一般的な噂では、騎士のドレイクと強力な魔法使いがカオスの師団長を倒したとしかわかっていない。ホークの名前までカイドーたちが入手することができたのは、エグランの有力な貴族にコネがあるからだ。ドレイクは騎士として前から勇猛を知られていたが、ホークは新参者で、出自については王国内でも詳しく知る者は少ない。

 しかし、噂でも魔法使いということは分かっている。

魔法使いは、防御力や機動力が戦士たちに劣る。呪文の力は強大だが、発動まで時間がかかるからだ。それゆえ、パーティーでは後衛に回る。前に出るのは戦士などの役目なのだ。

 

 しばらくすると、アーチ状の通路の先が開け、広間に出た。

 正面に椅子に座った魔物。左右に洞穴の入り口がある。


「いらっしゃいませ~♪」

魔物は立ち上がった。身の丈2mはあろうかというでっぷりと太ったオークだった。ドレイクとマッシが抜刀した。

「お待ちください。気が早いですねえ~。今はまだ、戦いの時ではありませんよ。グフグフグフ・・。」

下卑た笑いをするたびに裂けた口から大量のよだれが流れ落ちる。

「申し遅れました。ワタクシ、ギャルソンのバスコと申します。グフグフ。」

 バスコは元は白かったであろうチェニックに麻のズボンといういでたちだが、至る所に大量の血糊がついている。殺した人間の血なのだろう。殺した人間の服を奪って着ていると思われた。

 バスコに攻撃の意思は無さそうだったが、ドレイクたちは気を抜いていない。魔物の言うことを額面通り受け取ることは危険だと、十分承知しているからである。


「ワタクシは、ここにいらっしゃるお客様のご案内を致しております。ワタクシの左右に洞穴の入り口が見えますでしょうか? グフグフ。まず右手側をご覧ください。あ、お客様の右手側でございますよ。グフフフフ。こちらはバトルロードとなっておりまして、進んでいただきますとワタクシの可愛い部下たちがお相手をいたします。グフフフフ・・・。」

 ボタボタと落ちるよだれで、床が水浸し・・・よだれの水たまりができそうだった。

「左手側にお進み頂きますと、こちらはトラップロードとなっておりまして、様々な仕掛けが皆様方を襲うアトラクションが多数仕掛けられております。きっと十分お楽しみいただけると自負しております。グフッ。ここまでいらしたからには、もう後戻りはできませんよ。覚悟はよろしいですか?」

バスコが言い終える前に、後ろで扉の閉まる音が聞こえた。

「人間の肉は久しぶりでございます。どうか生きて上まで辿り着き、ギャーギャー泣きわめいて殺されていただきますと、実に嬉しい! グフフフフ。」

 バスコのよだれが滝のようにおちた。


「ふん。本当はもう一本、上まで直通の隠し通路があるくせに。」

ホークの言葉にバスコは動揺していた。豚のような鼻と耳に赤味が走った。

「バカを言っては困ります。そんな・・そんな道があるわけないでしょう。このどちらかの道を選ぶのがここの決まりでございます。」

 言い終わるか終わらないかのうちに、ホークが飛び出し、右手に持った杖でバスコの腹を突き刺した。

しかし何の手応えもない。

 バスコはニタァ~っと笑った。

「グフフフフ。バレてしまいましたか・・・。ワタクシ実はそこにはおりません。シュラミス様の元で皆様方をお待ちしております。」

バスコはかき消すように消えた。

 

「どっちにしろ、どっちかの道を選べば親玉のところに行けるってわけだろ。」

「二手に別れようぜ。どっちが早いか競争だ。」

剣を納めたマッシはドレイクに向かって言った。

「待って。みんなで一緒に行った方がいいんじゃない?」

サラの言い分はもっともだが、グラが異を唱えた。


「思ったより道は狭いわ。中がどうなっているか分からない以上、大勢で行くのは危険だわ。」

「グラの言う通りだね。それに俺たちには決まったやり方がある。フォーメーションが崩されるのはごめんだ。」

 シュセの言葉には、おどけた表情が消えていた。バスコに嫌悪を抱いていたのは全員だが、シュセは特に強く嫌っているようだった。

 ホークはカイドーの前に来ると、バスコを突いた杖の先をカイドーに向けた。

 カイドーは少しだけ首をかしげたが、ニヤリと笑った。ホークも同じようにニヤニヤしていた。

「じゃあ、おいらたちはトラップの方に行く。こっちの方が楽そうだしね。」

「決まりじゃな。マッシも早く戦いたくてウズウズしておるからのう。」

「うるせえ。だけど、確かにトラップよりバトルの方が気が楽だ。」

「オークの言葉を鵜呑みにしちゃダメよ。どっちも危険だし、何があるか分からないわ。」

「そんな事ぁ、分かってるよ。だけど別れていくんなら、どっちかに決めなきゃならんだろ。ドレイクはどっちがいいんだ?」

「俺はどっちでも構わんよ。ユンはどうだ?」

「・・・オレ、ホークノ行クトコニ行ク・・・。」

「なら、決まりだ。上で会おうぜ。」

マッシとドレイクはお互いの拳をカチンと打ち合わせた。それが合図となって、3人と4人は左右に分かれて歩み始めた。


・・・・一人・・・・ポツン・・・・。


「また、あたしの意見は無視ってワケ? まったくしょうがない奴らね。あんたたちが、人でなしだってことは、よ~~~っく・・・・」

「嬢ちゃん! 何やってんだ、本当に置いてくぜ!」

サラは慌ててホークたちの後を追った。

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