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魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
49/63

魔滅の刃 ミナイの村編 其の拾

ガリッ! 

カリッ! 

ガリ!

キュルッ、ゴクゴク。 

キュ、グビィ、ゴクン。


 カラカラカラァーン・・・・

 小瓶が階段を転がっていく。


 5人の顔に生気が蘇り、階段を降り始める。

彼らは第5層に至る階段で、揃って回復薬(ポーション)を飲んだのだ。

「おい。ゴミは持ち帰るのが鉄則だろ。」

「あ、はい、すいません。以後気を付けます。」

 マッシの言葉にキアヌとフランツはバツが悪そうにしていた。

そのマッシを先頭に、カイドー、フランツ、キアヌと続き、シンガリをエストロが務めている。

 5人はようやく階段を降りた。

第5層は4層とは比べ物にならないほど広い、通路も天井もだ。しかも真っ暗闇ではない。微かだが、ほんのりと壁や天井が光を持つ。今で言うなら蛍光塗料か蓄光塗料が塗られているような物か。

「それにしても、強回復薬(ハイポーション)とは豪勢じゃな。」

「ええ、まあ、それに第5層ですからね。気合が入ります。」

 カイドーの言う通り、強回復薬(ハイポーション)は普通の回復薬(ポーション)とは即効性も効き目も違う。それに見合って値段も数倍する。それを惜しげも無く使う彼らは、余程の金持ちなのだろうとカイドーは思っていた。

「カイドーさんたちの回復薬(ポーション)は丸薬なんですね。」

 フランツが不思議そうに聞く。

カイドーたちだけとは限らないが、ベテランのパーティーにはよくあるアイテムである。この方が戦闘時でも服用可能だからだ。戦闘時に攻撃を受けて瓶が割れる事もない。

 取り扱っているギルドは少なく、大抵は自作である。カイドーたちの使っている物もグラの作った物だ。ただし、やや即効性に劣る。だから噛んで飲み込む。

「スゲェー不味(まず)いぞ。」

マッシの言葉に二人は笑った。

そして転がり落ちている強回復薬(ハイポーション)の空瓶を拾うと、腰のポーチに入れようとした。

「それは捨てておけ。さっきのはマッシの冗談だ。」

エストロは彼らを止めた。緊急時に間違って空瓶を取り出しかねないからだ。

「ふん。でもよう。空でも瓶は売れるぜ。」

「そうなんですか?」

「ちっ。これだから金持ちは困るぜ。」

「ちっとも知りませんでした。」

 キアヌの言葉に外連味(けれんみ)はない。

笑うカイドーたちの元に、遠くの方からガシャンガシャンと響く音が聞こえてきた。4人はサッと緊張して身構えるが、カイドーはそのままである。

 やがて仄かな光の中に異形の魔物が現れた。

 光覇眩惑呪文(ボコノワル)の光に浮かび上がったその魔物は3本足の灯篭(とうろう)のような形をしていた。金属製の筒の上に仄かに光る提灯(ちょうちん)のような物が備えられていて、下にはやはり金属製と思われる3本の足がついている。身長は3mはあるだろう。襲われたら一溜まりも無さそうだった。

「何だ、こいつは!」

飛び出そうとするマッシの肩をカイドーが掴んだ。

「やめろ、マッシ。こいつには勝てんよ。」

「だからって・・・」

「心配せずとも襲ってはこん。」

 近くに来るこの異形の魔物に汗が噴き出そうになったが、カイドーの言う通りその魔物はただカイドーたちの横をただ通り過ぎて行った。

「ワシらはあれを【清掃人】(スイーパー)と呼んどる。一度戦ってみたが、こっちの攻撃も魔法も通じんし、相手にもしてくれん。ただ黙々と屍体を集めて掃除するだけだ。」

 言われて見れば、確かに魔窟の中に死体は少なかった。4層は大抵ゾンビになるし、3層までは他の魔物が食べてしまうのだろうと思っていた。(まあ、ほとんどはそうなるのだろうが)魔物の骨すら転がっていないのはそういう理由があったのだ。

「それにしても剣も魔法も通じないなんて・・。」

「古代の英知の一端なのじゃろうな。」

「・・カイドー。ところで瞬間移動魔法陣(ゲート)はどうする?」

 エストロの問いに、カイドーはニッコリと笑った。

「ま、もうちょっと行って見ようじゃないか。この先には大広間があっての。そこには分散する通路や隠し通路もある。どうせならそこに作ろう。」

 カイドーは密かに目配せするキアヌたちに気づかないふりをしながら歩み始めた。


 カイドーが言った大広間に来るまで、彼らは3度魔物と遭遇した。キマイラやレッドボア、ダークウルフなどを倒し、ようやくたどり着いた。

光覇眩惑呪文(ボコノワル)。」

カイドーとフランツは新たに光覇眩惑呪文(ボコノワル)を発動し、4個の光で大広間全体を明るくした。幸いなことに魔物の気配はない。

「ふーん。かなり広いな。」

学校の体育館程度の広さはありそうだった。天井は平らだが、そこに幾本かの円柱が並んでいた。

壁は緩く湾曲しており、側面だけ見ればドーム型と言って良いだろう。その壁にはいくつもの神々と魔物の戦う姿が描かれ、ざっと見渡したところ6か所に別の通路が見えた。

 カイドー以外は壁の壁画を見ながらぐるりと見て回っていた。広間のあちこちに遺体は無いものの、ここまで来た冒険者たちの遺品も散らばっている。

「なんか、こういう所に来ると古代遺跡って感じがするな。ン?」

 ふと、マッシが何かを見つけた。

「おい・・これって・・。」

 襤褸切れのような黒いツバ広のとんがり帽子をカイドーに向けた。マッシの顔が曇っている。

カイドーが近くによって確かめると、やはり残念そうな顔をした。

「やっぱ・・」

「エシャロッテの物のようじゃな・・。」

 ツインツインズとは競った仲でもあったけど、親交も深かったから二人の落胆も大きかった。

「カイドー。そう言えば隠し通路があると言っていたが・・。」

「・・・うむ、まあ、その前にキアヌたちの用事を済ましてしまおう。」

 キアヌとフランツはバツが悪そうにソワソワしている。

「やっぱり。バレてましたか。」

 キアヌとフランツは並んで頭を下げた。

「これから起こることは他言無用にお願いいたします。」

「・・いいけどよう。何が始まるんだ?」

「実は、この方は我がトライデント王国の皇太子なのです。」

 フランツが傅くと、キアヌはさらに照れくさそうにしていた。


 トライデント王国とはミナイよりもずっと南にある小国である。人口は少ないが、険しい山に阻まれ、他国の侵略からは逃れて来た数少ない幸運な国の一つである。そこでは万能神Z=ウースを主神とした12神を崇め奉っていて、ギース教が布教できない国でもある。因みにここの壁画もその12神が12の悪魔と戦っている様子が描かれている。

 幸運な国と言ったが、トライデント王国が他国の侵略に対して何もしていなかった訳ではない。地の利はあってもそれだけでは国は守れない。トライデント王国は伝統的に武芸と魔法に優れた国士を多数生み出してきた。その教育も王侯貴族から平民に至るまで徹底していると言って良い。平民も武術や魔法に優れれば、貴族になることも可能だし、貴族でも研鑽を怠れば平民に落ちる。ある意味”能力主義”のお国柄であった。


「わが国では皇太子が17歳になると、ガリアンの魔窟で王になるべく試練が与えられます。キアヌ王子は王家第4皇太子にあらせられます。」

 エストロとカイドーはなんとなく察しがついていたようだが、マッシは目を丸くして驚いていた。

「驚きの連続だわ。」

「みなさんにお願いがあります。虫のいい申し出とはお思いでしょうが、どうかお助け下さい。」

 キアヌが真剣な面持ちでカイドーたちに向き直った。

 キアヌとフランツの話では、その試練とはここ第5層神魔騒乱の広場で、()()()()を召喚し、戦って勝たねばならないらしい。皇太子の内、長男のヨシップ以外はこの試練で命を落とし、そのヨシップも重傷を負って失敗してしまったらしい。皇太子はもはやキアヌ一人となってしまった。その為、重臣たちは試練の中止を申し出たが、現王のブロズは受け入れず、家臣と共にギリアンの魔窟にやって来たという訳である。

 トライデント王国では皇太子が生まれると、王家とは別に育てられる。

そして4人の臣下の子弟が()()()として付けられ、兄弟のように育てられるのだ。そして試練の年になれば、その5人でこの試練に挑む決まりである。キアヌが4層で流した涙はただの涙ではなかった。

 しかし、今はフランツしか残っていない。勇猛な兄たちでさえ失敗した試練に二人で挑むのはあまりに荷が重すぎた。そこでカイドーたちに力を貸して欲しいと言うのである。命を懸ける戦いになるであろうことは目に見えていた。死んだ3人の実力は分からないが、キアヌもフランツも標準以上の実力を持っていることは先ほどまでの戦いで分かっている。恐らく同程度であったはずの兄たちが失敗しているのだ。かなりの魔物(モンスター)だという事は予想がつく。

 しかし。

「いいんじゃないの。俺たちもある意味修行に来てるわけだし。」

 マッシは呑気である。

「どれほどのモンスターなのか、お目にかかってみたいものだな。」

 エストロは従魔にする気なのか??

「・・だそうだ。わしらで良ければ、微力ながら力を貸そう。」

「ありがとうございます!」

 キアヌよりもフランツが涙ながらに感激していた。従者として一人になった重責を一身に背負っていたのだから。


 キアヌが懐から出した四角い小さな箱は、広間の中央に置かれるとパタンパタンとドミノのように広がって行き、一枚の魔法陣を描いた大きな板となりつつある。

「近づかないでください。かなり危険ですから。」

5人は魔法陣からだいぶ距離を置いて固まった。

「いったい、何を呼び出す気だ?」

「9層にいると言われている魔物です。」

光牙龍(クォリンガー)と云います。」

 フランツの話では、その爪か牙を持ち帰る決まりなのだと言う。


   パタ・・ン。

 広がり終えた小箱は光を放ち、魔法陣が魔物を召喚した。

部屋全体が黄金色の光で包まれたかのように眩い光が放たれる。


  でも・・5人の気負いが一種にして消えた。


 召喚された光牙龍(クォリンガー)は体こそ大きいが・・いや全体像がである。ただし、一体一体の個体は子犬ほどの大きさしかなく、召喚された柱に纏まってくっついている集合体だった。

「なんだよ、どんな凶悪な・・・」

「気を抜くな!」

カイドーが叫んだ! 愚弄王リーの魔導書(アレイスター)がピリピリして、すぐに光覇壁呪文(ミュランベル)を連続で唱えたからだ!

 光牙龍(クォリンガー)の集合体から、数匹が離れて羽ばたく。恐ろしいくらい気の抜けた時間だ・・・と思った瞬間、塊から離れた数匹の光牙龍(クォリンガー)が消え、金色の光が弾けたかと思うと光覇壁呪文(ミュランベル)にものすごい衝撃が何度も加わった!

 連続で繰り出されたその衝撃の正体は、高速で飛ぶ光牙龍(クォリンガー)の体当たりである。本体が体当たりした後、衝撃波が来るところを見ると、その速度は音速を越えている。すでに第1層目の光覇壁呪文(ミュランベル)はその衝撃に耐えられずに砕けてしまった。

「こんな・・こんなことって・・。」

 キアヌが呆然としている。

音速で飛ぶドラゴンを相手に武芸もクソもあったものではない。目で捉えられない弾丸といったいどうやって戦えと言うのだ。それに、ドラゴン自身もかなり硬いに違いない。高速で体当たりを繰り返しているのにドラゴン自身に傷一つついていないように見える。

 召喚時間はおよそ30分。それまでに何とか光牙龍(クォリンガー)を倒す術を考えねばならない。2度目は無いのだ。それに十重の光覇壁呪文(ミュランベル)もあっという間に五重にまで減った。

光覇壁呪文(ミュランベル)!」

愚弄王リーの魔導書(アレイスター)が追加で光覇壁呪文(ミュランベル)を更に内側に張る。だがそれも時間の問題だ。すでにカイドーたちのいる空間は狭くなっていた。

 だが光牙龍(クォリンガー)の攻撃は止まない。塊からは一度で仕留められなかったからなのか、次々に光牙龍(クォリンガー)が離れて飛び立つ。空気を伝わって光覇壁呪文(ミュランベル)の中にいても衝撃波が来る。

「このままじゃ、ラチが開かねえ! 光覇壁呪文(ミュランベル)を解け、カイドー!」

「バカ! ここから飛び出せば、一撃でやられるぞ!」

 かといって、光覇壁呪文(ミュランベル)の中から攻撃魔法を発動しても自滅するだけである。

「カイドーさん、光覇壁呪文(ミュランベル)を解いてください。僕に考えがあります。」

 そう言うと、フランツは全員に超強化呪文(ギンガムルナ)をかけた。

「これなら1~2発くらいは耐えられるでしょう。カイドーさん、光覇壁呪文(ミュランベル)を盾状に出来ますか?」

「そんなのは基本だぜ、若造!」

カイドーの代わりに愚弄王リーの魔導書(アレイスター)が答える。

「ならば、こうします・・・」

フランツの作戦は、一か八かのものだ。タイミングが狂えば、あっという間に全滅する。

光覇壁呪文(ミュランベル)!」

 彼らの周りには新しい盾状の光覇壁呪文(ミュランベル)が張られた。隙間を狙われれば、攻撃は当たる。それにもはや中はギュウギュう詰めである。

「行きますよ!」

 最後の光覇壁呪文(ミュランベル)が消えて盾の光覇壁呪文(ミュランベル)だけになった!

水壁防御呪文(ウォール・ベガ)!」

愚弄王リーの魔導書(アレイスター)水壁防御呪文(ウォール・ベガ)を連発する。幾重にも重なった水の壁が光牙龍(クォリンガー)の周りを囲んだ。

「ぐをぉ!!」

盾の隙間から侵入した光牙龍(クォリンガー)の一撃で、マッシが吹き飛んだ。

「マッシさん!!」

慌ててキアヌが飛び出す!

マッシを攻撃した光牙龍(クォリンガー)が空中で静止している。そこをエストロの鏢が仕留めた。

「攻撃前は無防備だ! そこを狙え!!」

 エストロが叫び、キアヌとマッシは転がりながら光牙龍(クォリンガー)の的になるのを防ぐ。敵の攻撃はあまりに早いため、攻撃中の軌道の変更が出来ないと踏んだ彼らは、動きながら攻撃を避け、制止した一瞬を狙って倒す作戦に出たのだ。

 そして水壁防御呪文(ウォール・ベガ)で本体を囲み、水の圧力で奴らのスピードを半減させることに成功した。


 あっという間の30分だった。

もしこれがサドンデスなら、カイドーたちの方が全滅していただろう。5人が5人とも満身創痍で息も絶え絶えである。

「よく頑張ったよなぁ・・オレ。」

血だらけになりながらマッシが大笑いしている。他の連中もつられて笑い始めた。エストロも笑っていたが、床に着いた手が何かを踏んでいるのに気づき、それを見ると・・そっと愚者の小箱(フールボックス)にしまい込んだ。

 床に転がっている光牙龍(クォリンガー)は全部で17匹いた。

「はぁはぁ・・・新記録ですね。」

 フランツは誇らしげにキアヌに言った。

「見ろよ、これ。斬れる訳だよなあ。」

 マッシがぶら下げた光牙龍(クォリンガー)の頭部は角と一体化した流線型の形をしている。つまりは三角錐なのだ。その体は鋭利な刃物と言っていい。キアヌとマッシの鎧がズタズタに切られているのも納得がいくほどの鋭さである。それにしても、よく誰も死ななかったものだ。

「ほらよ、エストロ。」

 マッシが吊り上げた魚を持ってくるような感じで、2匹の光牙龍(クォリンガー)をぶら下げて来た。

「どういう意味だ。」

「こいつらは死んでねえ。たぶん脳震盪でも起こしたんじゃねえか?」

 つまり、エストロに従魔にしろと言いたいわけだ。

「・・いや・・しかし。それは、卑怯では・・・」

 従魔にするには、相手を服従させるのが決まりだ。召喚士としてそのプライドもある。気絶している魔物を従魔にするのはエストロには抵抗があったのだろう。

「4の5の言うな。こんなレアモンスターはそうそういねえぞ。おめえの眼鏡で見て見ろよ。」

 言われるまでも無く、それは分かっていた。ランクA級のモンスターを従魔に出来るチャンスなどそうそう無いのだ。

 ・・・エストロは渋々承諾した。

愚者の小箱(フールボックス)から魔文字で魔物友人帳と書かれた一冊の古めかしいノートを取り出し、気絶している光牙龍(クォリンガー)(かざ)して自らの血で名前を書く。

「汝に名を与えよう。」

 ノートに書かれた魔物の名前はノートからひらひらと離れ、光牙龍(クォリンガー)に張り付きすぅー・・っと吸い込まれてゆく。

 かくしてティンパニーニとカッシジの2匹(光牙龍(クォリンガー))が従魔に加わったのである。

「それにしても、どうしましょうか。これ。」

 並べられた15匹の光牙龍(クォリンガー)を前に、キアヌがぽつねんと呟いた。

「そうですね。1匹2匹ならともかく、これだけいれば欲が出ますね。」

 フランツも腕組みして肯く。

 ドラゴンの皮はそのまま鎧や盾としても使えるほど硬い。牙や爪も装飾として売れば、かなりの高値で売れる。トライデント王国の王は、自ら倒した光牙龍(クォリンガー)の牙や爪を王冠の装飾とするのが習わしでもある。

「繭化してやろう。そうすれば軽いし、持ち運びも楽だ。あとは凍らせて呪符魔法で解呪すれば、トライデント王国まで持っていけるだろう。」

「なるほど。でもいいんですか、そこまで甘えてしまっても。僕は1匹しか倒してないのに。」

「大した手間ではない。」

 15個の繭は革袋に詰められ、キアヌのポーチへと納められた。

そしてカイドーとマッシは自分の簡単瞬間移動魔法陣(インスタントゲート)を二人に渡した。

「これは・・・。」

「なるべく早く帰るんだな。これならギルドまですぐに行ける。」

 キアヌは少し(うつむ)いた。

「・・本当に、本当にありがとうございます。」

 深く頭を下げると、首に下げているペンダントをマッシに渡した。それは大粒のアレキサンドライトがはめ込まれていた。

「おい、こんな大層な物、貰えねえよ!」

 マッシが慌てて返そうとする。これだけの大粒のアレキサンドライトならば、豪邸がまるまる1件買えてしまう。

「これはお守りとして僕の祖母が渡してくれたものです。僕は皆さんの事は一生忘れません。もし我が国にお立ち寄りになられましたら、きっと王家においでください。これは私の盟友である証としてお持ちください。」

 キアヌは涙ながらにマッシの手を握った。

********


 キアヌとフランツの二人が一足先にガリアンの魔窟を抜けた。

「なんだか、急に寂しくなったなぁ。」

「ふん。もしかしたら詐欺師だったかもしれんがな。」

「ふぉふぉふぉ。詐欺師だとしたら、相当な手練れじゃな。」

「そいつはねえさ。」

 そう言ってマッシはペンダントの裏側を見せた。

裏側にはトライデント王家の紋章(エンブレム)彫刻(レリーフ)されていた。

「どーれ。わしらも瞬間移動魔法陣(ゲート)をこしらえて早めに退散しよう。」

 カイドーが大きく伸びをした途端、愚弄王リーの魔導書(アレイスター)が一斉に攻撃呪文を連発した。

「なんだっ! 暴走か!?」

紅蓮の炎の球や雷撃、氷の手裏剣が誰もいない場所を攻撃した!

「いったい・・・何が起こったんだ?」

 その時、幼い声が後ろから聞こえた。

「ふーん。貴方たちも私と遊びたいのね。」

 振り向いた3人は唖然とした。

そこにはフランス人形のような衣装を身に纏った幼い少女が、気恥ずかしそうに微笑んでいたからだ。

「こ・・こいつ・・。」

「相当ヤバい。」

 少女はニッコリと笑う。

「遊びましょ。」

 気圧されてエストロがティンパニーニとカッシジを出した。

「行けぇ!」

2匹の光牙龍(クォリンガー)が飛び出してはふっと消えた瞬間、激しい爆音とともに、柱に土煙が上がった。

 幼い少女の方を見ると、その少女の左腕と右の脇腹が血まみれになって、そこからもうもうと白い煙が上がっていた。

 ティンパニーニは柱に激突して瓦礫と共に地面に落ち、カッシジは少女のはるか後方の床で白い煙を上げてのたうち回っていた。

「まさか・・・はねのけたのか、あれを!」

 ほぼ致命傷とも思える傷を負った少女は、それでも笑みを絶やすことは無かった。

白いドレスが強酸によってみるみる朽ちてボロボロになっていく。そう、彼女の血液は強力な酸の液体だったのだ。

「・・・ふーん。けっこう面白そうね。あなたたち、ラグナロクの臭いが微かにするね。あなたたちアイツの仲間?」

 3人は答えなかったが、ギクリとした表情に、彼女はなにかを察したようである。

「そーか~。そっか、そっか。じゃあ、私が遊んであげる。」

2匹の光牙龍(クォリンガー)ですら致命傷を負わせられなかった化け物である。3人は身構えたが、満身創痍でなくとも勝てる気がしなかった。

「だけどねえ。今遊んだらつまんないかな~。もっと人間を集めてきて頂戴。何人でもいいから、ネ。一月後に9層の闘技場(コロシアム)に来てくれないかなあ。来てよね、おじちゃん。」

 3人は言葉を発せなかった。それほどに威圧感が凄い。汗が流れ、喉がしきりに乾く。

「じゃあねえ・・・。」

 少女は酸の血をしたたか振りまきながら背を向けて歩き始めた。

 少女の足跡にはもうもうと白い煙が上がっている。

「あ、そーだ。もし来なかったら、こっちから村に行くから、忘れないでねー。こっちもいーーっぱい連れて行くからねえ。きゃははハハハ!!!」

 少女は狂ったように笑いながら一つの通路に吸い込まれていった。


 マッシがへたり込んだ。

「膝が笑ってらあ・・・。」

 エストロは少女の気配が去ったのを確認すると、慎重にカッシジの元に向かう。

「よかった。まだ死んでない。」

 エストロはピノアを召喚して、カッシジの手当てを命じた。カイドーもティンパニーニの所へ駆け寄り、愚弄王リーの魔導書(アレイスター)と一緒に回復魔法をかけている。

「こっちも何とかなりそうじゃ。」

 エストロはホッとした様子。

ただ、カッシジを触った手が酸で酷く爛れていた。

「それにしてもなんという速さじゃ・・・。」

「気配さえも掴ませなかった。」

「あの怪我で笑ってたぜ・・・。」

「私は戦いませんからね。」

「そうそう、言い忘れてたけど、私はエイミーちゃん。覚えててね。きゃははハハハ!!」

 誰も気づかなかった。愚弄王リーの魔導書(アレイスター)さえも。

 誰もが凍り付いた。

エイミーは、彼らのすぐ背後(うしろ)にいたのに。


「じゃあねえ~。」

 エイミーは今度こそ5層から消えた。少女のような陽気な笑い声と共に・・・。



 3人とも無言だった。

光牙龍(クォリンガー)との戦いの疲れより、エイミーとの邂逅(かいこう)の方が余程堪えたのだ。

魔窟の門から出た3人の俯いた顔は青ざめ、足取りも重かった。

「お前たち、カイドー一味(ファミリー)だな。」

ふっと顔を上げると そこには10人ばかりのゴロツキどもがいた。手には獲物を持っていて、臨戦態勢である。

「隠しても無駄だぜ。」

ゴロツキどもの頭だろう男がニヤニヤしながら言う。

「お前らには恨みはねえんだがよォ。死んでくれや!」

 ゴロツキどもは一斉に襲い掛かった。

いつもの3人ならば、一瞬で返り討ち・・なのだが、その動きは緩慢で一歩も動けなかった。

 その時、一迅の風が吹いたかと思うと、赤い疾風(つむじかぜ)に巻き込まれるように10人のゴロツキどもはあっという間に地面に倒れ伏した。

 疾風が治まると、そこにはショートカットの赤い髪の女が立っていた。

「だらしないわね。それでもカイドー一味(ファミリー)なの?」

 3人は呆然と赤いマントに包まれた女を見ていた。

 小さい時からそうなのだが、僕は物語が好きだ。

幾つもの物語を読み、いくつもの物語を想像した。そのうちのいくつかは形になり、そのうちのいくつかをここに上げている。

 こうして物語を紡いでいると、自分の中にどれだけの物語が入っているのか改めて驚かされる。物まねと言われるかもしれないのだけれど、もはやこれは仕方のない事だ。誰しもがいろんなモノの影響を受けている。そしてその中から自分の人生が作られていく。

 僕は表現者でありたいと思っている。

それはアスリートなどでも同じではないだろうか?

 なぜに人間は、自分を他人に知ってもらいたいと願望するのだろう。実に興味深いと思う。

承認欲求とはまた別の次元の話のような気がするのだが、皆さんはどう思うだろう?


 さて、今回は3x3EYESが出てきました。光牙コァンヤァ好きですねー。魔法瓶で契約を結ぶシーンもドキドキしてて、今回もそれに似たシチュエーションを考えてはいたんですが、こちらは物体としての竜という設定でしたので、こんな感じになりました。また、オープニングはAKIRAの金田たちがドラッグをやってバイクで出撃するシーンですね。分かりにくかったかな(笑)

 そんなこんなで、これからもこんな感じでリスペクト出ます。ホンに尊敬してます。おもろいですよ、自分は。

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