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魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
34/63

アレイスターには手を出すな!! 八

いつもお読みいただきありがとうございます。

 お気づきの方もおいででしょうが、第1章のジモン島奇譚を除いて、他の性のタイトルは全て映画のタイトルをオマージュしています。オマージュと言えば聞こえはいいが、要するにパクッている。またはパロディになっています。どれも自分が見て面白いという事ではなく、インパクトとして自分の中に残っている映画のタイトルでした。今回のヤツは<映像研に手を出すな!>ですけれどまだオープニングの数分しか見てないです。(すいません)

 で、この次の話でこの章は終わるのですが、次のサブタイトルは<魔滅の刃 ミナイの里編>にしようかと思ってます。うーーーーーん。怒られるかな・・・。あんま読んでる人いないとは思うんだけどなあ。。

「ベニー! 死ぬなっ! 息をしてぇええ!!」

 仰向けに倒れたベニーに馬乗りになり、心臓マッサージをしているグラ。

 ベニーと負傷者を手当てしていたグラとベニーだったが、不意に現れた骸骨兵にベニーが刺されたのだ。グラが骸骨兵を倒したものの、ベニーは意識不明の重体に陥り、心臓が止まってしまったらしい。

 必死に心臓マッサージを続けるグラの後ろでカチャリ・・カチャリと音がした。それは骸骨兵が己自身を再生している音だった。ユラリと立ち上がった骸骨兵にグラはまったく気づかない。骸骨兵はグラに忍び寄ると、大きく剣を振りかぶったその時、骸骨兵の目の前を黒い影が遮った。

すると不思議な事に骸骨兵は剣を振り上げた状態で動けなくなってしまった。

 ガシャン。 と、乾いた音がして振り返ると、そこに頭蓋骨を叩き割ったドレイクがスパイクロッドを持って立っていた。

「後ろがお留守でしたよ、グラさん。ぢゃ。」

ポッターが前脚を舐めながらちょこんと座っている。

「ポッター! ドレイク!」

 グラの顔が破願した。

「やあ、グラ。元気そうだな。」

「無事で何よりです。ぢゃ。」

「ポッター! ベニーが・・・」

「グラさん。そこをどいてください。ぢゃ。」

「え?」

「僕がやりましょう。ぢゃ。」

 ベニーの顔は既に蒼白になっている。グラは慌ててベニーから降りた。

ポッターはそれほど慌てる様子もなく、ベニーの胸元に乗ると、クンクンとベニーの臭いを嗅ぐと、両の前脚を心臓の上へと置いた。

電撃呪文(テオニック)。」

 ベニーの体が激しく浮き上がった。ポッターがそれを2~3度繰り返す。すると、咳と共にベニーが大きく息をし始めたではないか。

「良かった。ひとまずは安心ですね。ぢゃ。」

(なに・・これ? 電撃呪文(テオニック)にこんな使い方があるの!?)

 グラはポッターのやり方を食い入るようにして見ていた。

 ポッターの次の行動は素早かった。ベニーの服を破り、傷口をむき出しにすると、背中の愚者の小箱(フールボックス)を降ろして、中から小瓶を取り出し、中の液体を傷口に振りかけた。

 小瓶の液体は傷口で細かな泡となり、赤い気泡と共にから黒い異物が流れ出す。

「これで傷口を洗って清潔にします。服の上から切られると、細かい繊維なんかが傷口に入り込んで、敗血症を招いたりしますのでね。ぢゃ。」

 更に皮のシートのような物を取り出すと、それを傷口にのせる。

「魔道具です。ぢゃ。・・・痛緩和呪文(モルヒル)。」(要するに局部麻酔だな。)

 呪文でベニーの顔の苦悶の様子が少し緩和されたようだ。ポッターの出したシートのような魔道具は、中央が透明になり、白黒の画像が映し出された。その映像はリアルタイムのベニーの内臓のようだ。

 ポッターはそれをじっと見つめながら、左前足をシートの傍らに乗せる。すると、肉球から数本の白い糸が生き物のようにベニーの体内に入り込み、損傷した傷を縫い始めたではないか。

 ポッターが前脚を放してシートを退けると、きれいに縫われた傷口が露になった。これがアリアドネの糸による縫合手術である。手術に使う糸で細く強靭、だが数日で溶けてしまう。ちなみに先ほどの骸骨兵の動きを止めたのもこの糸であった。

「最後の仕上げです。ぢゃ。」

 ポッターが回復呪文を掛けると、ベニーの表情は落ち着きを取り戻した。

「ベニー。」

「・・・グラ・・わたし。」

「あまり喋らないで。そしてこれを飲みなさい。ぢゃ。」

「ひぃああ!! 猫が喋ったぁ!!」


 ・・・・・・・・(=^・^=)


 グラはベニーを落ち着かせるのに苦労したが、なんとかベニーに薬を飲ませることが出来た。

「今、彼女はあまり動かしたくはないのですが、とは言えここに置いて行く訳にもいかないでしょう。ぢゃ。」

「そうだな。ガイコツの奴らがまだうろついてるかもしれん。」

「私、大丈夫です。自分の身くらい守れます。」

 青白い顔をして気丈に答えるベニーは、目を放せばすぐに意識を失うのは確実だった。

「駄目よ。ともかく安全な所へ彼女を運びましょう。」

「そうしよう。俺が背負うよ。」

 ドレイクがベニーに背を向けた瞬間、修道院の方向から轟音が響き渡り、地面が揺れた。

「地震か?」

「違うようです。ぢゃ。」

グラとポッターが急いで窓に駆け寄ると、そこには巨大な爆雲が上がっていた。

「・・何? いったい、何があったの?」

「分かりませんです。ですが、まず彼女を安全な場所に移動しましょう。ぢゃ。」

 そう言うと、ポッターはにこりと笑う。



光覇壁呪文(ミュランベル)!」

 カイドーは咄嗟にサラを引き寄せ、ホークを庇った。

ホークの左腕から血が滴っている。

「いったい、何が起きた?」

 光覇壁呪文(ミュランベル)越しに、大きな水の塊が空中にフワフワと浮かんでいるのが見えた。攻撃はその水塊からだったようだ。水とは言え、細く超高圧で放出される水は刃物と同じである。現代ではウォーターナイフとかウォーターカッターなどと呼ばれる工業機械がそれだが、水の中に研磨剤を混入させることで鉄をも切り裂くことが出来る。

 水塊の後ろで、ゆらりと立ち上がった人影がいた。

「・・・ち・ちくしょう・・狙いを外したぢぇえ。」

 ゆらりと立ち上がった影は右の脇腹から下半身が黒焦げになったショーンであった。瀕死ではあるが、稲妻の直撃では死ななかったらしい。

「俺・・俺、オレオレ俺さ、マのぉ勝ちだあ。そんな防御壁など・・ゲフッ。」

 ショーンは塊のような血を吐いた。

内臓にも酷い損傷を負っているに違いない。それでなくとも下半身は黒焦げで火傷が酷い。赤黒い血がポタリポタリと滴り、皮膚がボロボロになって焼け焦げた筋肉がむき出しになっていた。

「突き破るのはぁあ、、時間の~~~問題だああ。」

 水の塊からホークを目がけて一直線に細い水が放出されている。糸のような水の刃物は光覇壁呪文(ミュランベル)にぶつかり、霧となって砕け散っている。

 確かに、中からの攻撃が出来ない光覇壁呪文(ミュランベル)の中にいては、光覇壁呪文(ミュランベル)を解除しなければ相手の為すがままである。

「すまぬ、ホーク。」

「いや、ありがとう。お陰で助かったよ。今度はこっちの番さ。」

「解除するのか?」

「いや、このままでいい。」

「だが・・・。」

水の細い糸のような刃物は、光覇壁呪文(ミュランベル)越しにホークの心臓を狙っている。光覇壁呪文(ミュランベル)はその圧力の攻撃に壊れかけた蛍光灯のように淡い光を明滅している。確かに破れるのは時間の問題であった。かといって、解除した瞬間ホークの心臓に穴が開くのは確実だろう。何といっても水の速さは音速を越えているのだ。

光覇壁呪文(ミュランベル)ごと、あの小便野郎をぶちのめす!」

 ホークはショーンの方向にに両手をまっすぐに突き出し、呪文を詠唱し始めた。

「やってぇえみろってんだ! 小僧! 俺がぁ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ・・・・のが早い! ゲフッ・・・それともそのチンケな壁が壊れるのがぁあ早いか! 試してぇええみろっ!!」

 死にかけのショーンには、あのスカしたような言い回しはもうできなかった。醜い本性が露にななっている。

「オレはぁ・・おれわあ~~最強ぉおおお!!!」

 サラが何かに気づいた。

「ちょっと・・・なんか暑くなってない?」

「まさか。その呪文は・・・?」

 ホークの手の平に青白い炎の小さな弾が宿ると激しく回転し始める。三人がいる光覇壁呪文(ミュランベル)の中は蒸し風呂のように加熱されていく!

 光覇壁呪文(ミュランベル)の明滅が激しい! 持って数秒!

炎獄餓掌劫火光弾呪文(フィラテスタメント)!!」

 ホークの声が光覇壁呪文(ミュランベル)の中に木霊した!

 瞬間! 

 白熱した小さな火球は一瞬でカイドーの光覇壁呪文(ミュランベル)を突き破り、水塊を蒸発させ、ショーンの鳩尾あたりにぶち当たった。その炎は悪魔の手のようにショーンの体を掴むと、地獄の劫火の炎でショーンを包む。

「ひぃぃいいい!ぎゃあああああああああ!!!!」

 ショーンは断末魔の叫びを上げて生き物のような炎に包まれ、地面に倒れ伏した。

倒れてもその炎は燃え続け、岩が高熱でパン!パン!とはじけ飛ぶ。大量の水が蒸気となって立ち上る。水塊が雲散してバシャバシャと地面に落ちた。劫火はそれでもショーンの体を苛む。その高温は人が焦げる臭いすら燃やしてしまう。


 やがて、火は消えたが、ショーンの体はほんのわずかの消し炭を残しただけで、完全にこの世から消え失せてしまっていた。

 ホークは左腕を押さえて立ち上がった。左腕に深手を負っていながらの呪文だった。薄い刃物で負った傷のようだが血が止まらない。ホークが回復呪文を掛けると血の勢いは止まったが、左半身が真っ赤に染まっていた。

「バカね。あんたはホントバカだわ。血だらけじゃない。」

 サラはスカートを破くと、ホークの傷口を硬く縛った。

「いててて! 大丈夫だってば! こんなのツバつけときゃ治るって。」

 ホークの口調はいつも通りに戻っていた。

「あんたはバカなんだから、シッポ巻いて逃げればいいのに!」

「バカにバカって、バカって言う方がバカなんだぞ!」

「うるさい、バカ!」

 カイドーは座ったままである。髭面の真ん中の口があんぐりと開いている。しばらくすると口角が上がり、クスクスと笑いだした。

「どうしたの、師匠?」

「いや、何でもない。そう、何でもないのじゃ。」

カイドーは()()()()ながら立ち上がった。

「変な師匠。」

「さあ、行こうか。まだ終わってない。」

 ホークは岩を登り始めた。

「ええー・・また町まで行くのか・・・ぁ」

「心配ないって。町に瞬間移動魔法陣(ゲート)を残してある。」

「それを早く言いなさいよ。あんたって子はホント意地悪なんだから。」

「だーれが意地悪ですか。そんな嫌味を言うなら、サラは走ってくれば。」

 ホークとサラの姿を微笑ましくカイドーは見ていた。そして唇をぎゅっと嚙み締め、いつもの顔に戻ると、呪文を唱えて空中へと飛び上がった。


******

 

 カオスがベッドから起き上がった。

全身が汗で濡れている。彼は右手で長い髪をかき上げ、首を振る。随分憔悴しているようにも見える。いつもの軽口を言ってふざけているようなカオスではなかった。

 チラリと入り口を見る。

 誰かやってきたのだ。気配から察するに・・・それはザンキたちだろう。

 扉がギイイと音を立てて開いた。

予想通りそこにザンキとMJ12のメンバーが傅いていた。

「やあ。元気そうだね、ザンキ。おや? ショーンはどうしたのかな?」

「ああ、あれは死んだ。」

「そうか。それは残念だったね。」

「それはどうでもいい。そんな事より、僕はコールレアンを潰したよ。」

「ほうー、それは凄いね。」

「へっへっへっ。」

 ザンキはカオスに褒められ、すごく嬉しそうである。

「もう一つ、お土産があるよ。ベアード。」

 MJ12のベアードが羊皮紙で装丁された古めかしい1冊の本を抱いてカオスの前に来ると、うやうやしく傅き、その本をカオスへと差し出した。

「え・・・?」

「へっへっへっ。お待ちかねの十秘宝の一つ。愚弄王リーの魔導書(アレイスター)だよぉ。」

 ザンキは驚いて喜ぶかと思ったが・・カオスの顔はあっけにとられたような顔をして、マジマジとその本を見つめていた。

「どうしたの? 嬉しくないのか?」

「いや・・・ああ・・まあ・・・・・ありがとう。」

カオスはベアード差し出した本を取り、ページをパラパラとめくると、パタンと本を閉じて脇の下に挟んだ。

「ヴィオニッチ手稿か。面白そうだね。寝る前に読んでみるとするよ。」

 ザンキの青白い顔がいっぺんに真っ赤になった。

「・・よ・喜んでくれて嬉しいよ。じゃあ、僕は他の秘宝を探すとしよう。」

 カオスに背を向けると、ザンキは振り返りもせずに立ち去ろうとした。

「ザンキ。」

「何?」

「君に仕事を頼みたい。」

 ザンキは振り返った。

「仕事? ヘマした僕に仕事だって?」

「そうとも。少し時間がかかるが、面白そうな仕事さあ。君にはうってつけだと思うよ。」

 カオスの顔が醜悪に歪んだ。


******


≪タクマラカン砂漠≫

 エウロパ大陸のさらに南の大陸。

その北東部にタクマラカン砂漠がある。そこにある唯一のオアシスがエウゥーベである。人々はおおむね平和に暮らし、一定の規律はあるものの自由で静かな暮らしを満喫していた。人口の多い都会に比べれば、それは確かに貧しい生活であったろう。しかし、他の地域との交流がほとんどないエウゥーベの村人たちは貧しいと感じていたかどうかすら疑わしかった。ただ、それ故に困りごともあった。隔離されたようなこの村のような場所ではよくある事だが、遺伝子の多様化が出来なくなり、近親相姦のような不具合が起きる。その為に、子供たちは適齢期を迎えると、砂漠を旅し、他の人々と交流して子供を作る。娘・息子は配偶者を得て村に帰るのが習わしであった。配偶者を得られぬ娘や息子はいずこか地に根を下ろさざるを得ない。そのせいか、エウゥーベの村は常に一定の人口比率を保ち続け、繁栄とまでは行かないまでも、それなりに破綻もせず、人口を保ち続けた。砂漠の中という過酷な環境の中で、なぜ人々は生き続けようとするのだろう。古からそうしてきたからなのか、単に生まれ育った故郷だからなのか? 答えは村人自身も答えられないのかもしれない。それでも彼らの村はあり続けている。しかし、それが突然の災厄によって地上から消滅してしまうとは、その時は誰も考えはしなかった。



 満月のきれいな晩だった。

 雲ひとつ無く、無数の星が黒い絨毯の上に撒かれた宝石のように輝いていた。

  深夜の事だ。

 ヒューーンと鋭く風を切る音がして、一本の槍が天空から降ってきた。

 真っ直ぐに降ってきた槍はエウゥーベの村の広場のオアシスの岸辺に真っ直ぐに突き立った。

 人々は恐れと好奇心で、その槍の周りに集まった。

誰かがその槍を抜こうとしたが、槍は根でも生えたかのようにビクともしなかった・・・。

 うちの猫は今2匹います。名前はシロとクロです。

 黒猫と白猫という事ではないのですが、半ノラでいた時に、地主さんがそう呼んでいて、それがそのまま彼らの名前になりました。本当は別の名前の方が良かったのかなとも思う時もありますけど、彼らもクロとシロで自覚しているので結果オーライでしょうか?

 さて、このホーク君の話もだいぶ長くなってきました。昔から短編を書くという事があまりなく、ほとんど大河ドラマになってしまうのが悪い癖なんで、これもきっともっと続いて行く事になるだろうと思っています。ただ、僕の頭の中にはあと3章分のストーリーしかないので、そこで一旦終わりにしようかとも考えています。彼らの冒険がどうなっていくのか、作者自身にも分からないのですが、次の章ではホークさんの出番はまたまた無くなりそうです。それではまた。次回のお話でお会いしましょう。

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