アレイスターには手を出すな!! 七
"魔女の一撃” で、1週間ほど痛い思いをしております。よっぽどよくなってきましたけれど、明日は仕事です。ずっと休んでいられたら完全回復してたかもしれませんが、なかなかそうはね。
さて、今回のホークたちはバトル三昧です。(次もそうかもしれませんけどね。)バトルはけっこう苦手なのですよ。どうもスピード感が表現できないというか、下手くそなのですね。けっこう状況を詳しく説明しようとする癖が抜けませんね。それが一流になれない所なんでしょうけれど。
なんか自虐的だな(笑)
前にシュセの過去の話を書いたけど、それにともなってカイドーのスピンオフの話も書こうかなとか思ってます。まだ外郭しかないけれど、若いころの話なんかだと面白いかも。ただ、まだキャラとしては中核でありながらいまだに解説者としての域を抜けていないので、もう少し活躍してもらってからかなあとか考えてます。さて、どうなるか? 書けるまでカイドーは生きているのか? そこも未だ分かりません。
光り輝く巨大なダイヤが空中に浮いていた。
いくつもの光を受けて乱反射し、見る者を夢幻に誘うかのように冷たく光っている。
その大きさは鯨ほどはあろうか、白い冷気に包まれて凍らされた氷の塊であった。そして氷の浮かんでいる場所は赤く染まった巨大な瞬間移動魔法陣の真上。
「やあ、ちょうどいいところに来たね。」
それを見ている魔物の一団の中に、魔物らしくない白髪の少年がこちらを振り返って言った。
少年はにこやかにほほ笑んでいる。これからする事がわかっているのに、何の屈託もない笑顔だった。
ホークは岩を滑り降りると、魔物の一団と対峙した。
カイドーがやや離れた位置の岩陰に降りる。隙あらば布告なしで攻撃するつもりだが、それは向こうも分かっていた。その少年を囲むように魔人たちが警戒している。そして魔法陣を囲むように4人の修道士がいた。
ホークはそこに意外な人物を見つけた。
「ベクターさん! なんであんたがここにいる?」
トニーの父ベクターは、そそくさと修道士の影に隠れた。
「あの人はねえ。瞬間移動魔法陣を作ってくれた人だよ。ここは水しぶきが激しいからね。」
一人のトードノームを肩に乗せた魔人が少年に耳打ちした。
白髪で華奢な少年はロアの軍団の幹部の一人のザンキである。
どこか儚げな感じは、その体からも感じられた。何がどうという事ではない。なんとなくデッサンが狂っている。そんな感じを受ける少年だった。
「残念だなあ。僕は君と遊びたかったんだけどね。やることがあるから、これで失礼するよ。ミューラー。」
「開錠!」
魔法使いの一人が瞬間移動魔法陣を発動させると魔法陣は赤い仄かな光を帯び、巨大な氷塊はゆっくりと瞬間移動魔法陣に飲み込まれていく。氷塊がすっぽりと飲み込まれると、魔人たちも次々と魔法陣の中へと飛び込んで行った。残ったのはザンキと巨人と魔法使いたちである。ただ魔人では一人だけが残っていた。
「君たちは2人か。なら君たちだけで間に合うね。」
「仰せのままに。」
「ショーン。君は、ここで死んでね。」
「ありがたきお言葉、恐悦至極にございます。」
ショーンと呼ばれた魔人は、芝居がかった素振りでザンキに拝礼した。
「じゃあ、またね。もしかしたら、2度と会えないかもしれないけどね。」
茶目っ気たっぷりに笑ったザンキは小走りに駆けると、魔法陣へ飛び込んだ。
ドサリと音がした。
「ミュー・・ラー・・神父さま・・・。」
ベクターが力なくその場に崩れ落ちた音だった。
倒れたベクターを顧みることなく4人の魔法使いたちも次々に魔法陣へ飛び込んで行った。そして微かな光を帯びていた魔法陣はその光を閉じた。
ショーンと呼ばれた魔人は魔法陣が機能停止したのを確認するとこう言った。
「私の名前はショーン・ベン。私の役目は貴方たちをここに足止めする事です。さて、あなたたちはどれだけ私を楽しませてくれますか?」
ショーンは足止めと言ったが、その気は無さそうだった。自分一人でもホークたちに勝つ自信は十分にあるように見えた。
ショーンがさっと手を振ると、サンダとガイラがホークとカイドーに向かって来た。
「火炎弾呪文!」
ホークとカイドーが同時に放った火炎弾は、サンダとガイラ各々の顔にヒットした。2匹の巨人は悲鳴を上げたてのたうち回ったが、どこからか飛んできた水の塊が炎を消した。
「おやおや、盾の代わりにもなりませんねえ、その有様じゃ。」
僅かの隙に、ショーンの周りにバスケットボール大の水の塊がいくつも浮遊していた。
サンダとガイラはホークたちに怯えていた。特にホークの火炎弾呪文が平凡な火炎弾呪文とは格が違った。それはサンダとガイラの火傷の後を見れば一目瞭然だった。
「あんちゃん。こいつおっかねえだ!」
「驚きましたね。お前たち怯えているのですか? 本当に怖いのはどちらか分かっていないようですね。」
その言葉を聞いた2匹の巨人の背筋が凍った。
訳の分からない悲鳴を上げて、巨人は再び突進してきた。
「水壁防御呪文!」「火炎弾呪文!」
カイドーは火炎弾で攻撃を、ホークは水壁で防御を。しかし火炎弾呪文はどこからか飛んできた水塊に相殺され、ホークの水壁は発現しなかった。
振り回されたサンダの拳をホークが避ける。カイドーは次々と火炎弾を連発しつつ移動してゆくが、水塊が火炎弾を相殺するので1発もヒットしない。防戦一方のホークたちにサンダとガイラは猛攻を続ける。たまらずホークとカイドーが宙に浮かんだ。
「水壁防御呪文が発動しない!?」
「当たり前です。私の周りにある水は全て私の体の一部のようなものですからね。貴方が使っていい水は一滴もありませんよ。」
「ふーん。ちょっと驚いたよ。」
ホークに動じる様子はなかった。
「余裕ですね。ではこういうのは如何でしょう?」
巨人の足元から奔流が噴出し、2匹の巨人は空中へと射出された。
不意を突かれたホークたちは、巨人の一撃を躱し損ねて地上へと落下した。
:少し前。
:コールレアン修道院上空。
雨は降ってはいないものの、どす黒い雲は重く立ち込めていた。
誰も気づかなかったが、雲の中には1匹の銀の竜に乗った魔人が二人いた。その竜が雲間から姿を現し、修道院の真上で旋回し始めた。
「いい? フーケ?」
「こっちはいつでもいいよォ、ブラウドォ。」
ブラウドと呼ばれた女性の魔人は皮の袋の栓を抜いた。中から血しぶきが迸る。風にあおられ、霧状になったその血は瞬時に凝固し、何かの形を作り始めた。その形は赤い色の瞬間移動魔法陣である。凝固した血が空中に描かれた魔法陣となると、風は微妙なバランスを保ってそれを空中に固定する。うっすらと霧状の空気が渦巻となって一直線に修道院の真上まで繋がった。
「いいよ、ショーン。」
トードノームを乗せたブラウドが呟くと、魔法陣は赤く輝き始め、その中心から氷塊の先端が顔をのぞかせた。氷塊はその巨大な全貌を曝け出すと、恐ろしい勢いで修道院の頭上に落下していった。
「ストライク!!」
巨大な氷塊は礼拝堂の真上に直撃し、轟音と共に修道院は破壊された。
ドーム状の屋根が瓦礫となって四方へと飛び散り、荒埃の噴煙が通路という通路を通って窓を破り、扉を内側から押し開け、中にいた生き物を凌辱した。礼拝堂のドームは壁の輪郭を残してほぼすべてが吹き飛んでしまった。
やがてその煙が少し治まると、次々と魔人の仲間が瞬間移動魔法陣を通って飛び降りて来る。まるで落下傘部隊のように飛行しながら修道院の中へと吸い込まれていった。
「どーれ、あたしたちも行こうか。」
「いいともォ。僕は見てるだけだけどォ。」
竜は瓦解した礼拝堂のドームには行かず、東側の塔を目指す。物見にいた衛士たちが慌てて矢を放つが矢は不可解な軌道を描いて竜の側面を通り過ぎて行くだけだった。
「やれっ!」
竜の尻尾の一撃で東の塔の物見台は半分が吹き飛んだ。そこにいた衛士たちが瓦礫と一緒に地上へと落下していく。
「これじゃ、歯ごたえもないね。」
ブラウドはケラケラと笑った。
「やあ、うまくいったね。ミューラーは頭がいい。」
「恐れ多きお言葉、ありがたく存じます。」
ザンキは瓦礫の中に立っていた。傍に配下の魔人と魔法使い・・・いや、コールレアン修道院の神父だった男たち4人もザンキの前に傅いていた。
「埃がすごいな。ねえ、君。ここ掃除してないの?」
ザンキは足元で息絶えている修道士に話しかける。
「失礼だね、君は。」
ザンキは右足でその死体の頭を踏みつけた。
「で、ミューラー君。例の何とかの魔導書はどこにあるの? もしかして壊れちゃったかな? アハハハハ!!」
狂ったように笑うザンキが治まるのを待ってミューラーは顔色一つ変えずに言った。
「瓦礫の中でございます。」
ミューラーが示した方向に図書館の建物が見えた。瓦礫には埋まっているものの、あまり損壊した様子は無かった。
「壊れてないね。」
ザンキは部下の魔人を見る。
「頑丈だね。」
魔人たちはキョトンとザンキを見つめる。
「埋まっているよね。」
魔人たちは各々の顔を見比べている。
「・・・掘り起こせ!!!!」
慌てて魔人たちが瓦礫を片付けを始めた。
「ザンキ様。人手を集められては如何でしょう。」
「誰か手伝ってくれんの?」
「ここに大半が集まっていたとはいえ、まだ生き残りはいるでしょう。大勢で片付けた方が早く終わると思いますよ。」
「そうか、それもそうだな。カミーユ。」
カミーユと呼ばれた女の魔人が、命を聞く前に走り出した。瓦礫を片付けるのが嫌だったのだろう。礼拝堂の扉の先には、及び腰で駆け付けた衛士たちがカミーユに槍を向ける。すると、カミーユの黒髪が触手のように伸びて数名の衛士の首に巻き付いた。
「ほらほらほらほらぁ! 死にたくなかったらさっさとごみを片付けるんだよ!」
武器を取られ、触手のような髪に首を絞められたまま、ザンキたちの前に放り出された。
「じゃあ、掃除を手伝ってね。」
捕まった彼らは言う事を聞くしかなかった。カミーユは次々と新手をザンキの元に送る。たちまち十数人の稼ぎ手が集まってしまった。
「それでは、我らも次の支度をするといたしましょう。」
ミューラー達4人の魔法使いは二人一組で瓦礫の中の何かを探し始めた。ミューラーたちが向かったのは北側である。礼拝堂の祭壇のある方だ。
「お久しぶりです。ボーマン院長。」
額から血を流してはいたが、院長のボーマンは生きていた。しかし、体の半分は瓦礫に埋まっていて身動きが取れなかった。
「裏切り者め!!」
ミューラーめがけて唾を吐いたが、それは届かなかった。
「あなたの僧衣は特別性ですから、死ぬようなことはあるまいと思っていましたが、予想通りだったようですね。」
「何が目あてだ!」
「おやおや、ボンクラにも程がある。勿論愚弄王リーの魔導書ですよ。」
「それが欲しくて寝返ったのかっ!」
「違いますよ。さあ、もう無駄なおしゃべりは止めて、さっさと鍵を渡しなさい。」
ボーマン院長は慌ててロザリオを掴んだ。
ミューラーは靴でその手を踏みにじり、ボーマンの首からロザリオを奪った。
「おのれ! トゥードエルブ・・・・・』
ボーマンは呪文を唱えかけたが、壁にある沈黙の悪魔の彫刻が封呪呪文を発動した。
『おバカさんですね。あなたは。』
ミューラーは無音の中で、近くの槍を拾うと、ボーマンへと突き刺した。断末魔の悲鳴は無音のまま。流れ出る血が静かに広がって行った。
「光覇防御壁!!」
間一髪で防御呪文を発動したカイドーはガイラの拳で叩きつけられ、そのまま地上へ落下した。カプセルトイの玩具のように光覇防御壁で守られたカイドーは地上へ叩きつけられたものの、傷一つつかずにすんだが、追って水流から飛び降りたガイラに踏みつけられる。光覇防御壁はそれでもその攻撃に耐えたが、何度も何度も踏みつけるガイラの攻撃に防御壁が破壊されるのは時間の問題だった。
(一瞬でいい。こいつの気をそらしてくれれば・・)
もしここにシュセかマッシがいれば、別の攻撃でカイドーに余裕を与えてくれるはずだった。
(ホークは、ホークはどうなった?)
ホークもまたサンダの一撃を受けていた。ただし、盾のようにした光覇防御壁でカバーしたらしい。地上へ落下するかと思いきや、飛行呪文でそのまま滑空し、新たな呪文を唱え始めているようだった。
(バカな。いったいどうやってるんだ!)
カイドーが不思議に思うのも無理はない。魔法使いが発動できるのは1回にひとつの呪文である。カイドーでさえ呪符魔法を駆使して飛行呪文と光覇防御壁を使っている。戦いなれた魔法使いならこのくらいは常識だ。だが、ホークは一度に三つの呪文を行使しているのだ。呪符をいくつも多用している様子は皆無だし、口頭で詠唱している。なのに、なぜ!?
ピシッと 嫌な音がした。
光覇防御壁が限界に達したらしい。
(これまでか!)
光覇防御壁が破壊された瞬間に、次の呪文で攻撃する。カイドーは相打ち覚悟で一矢報いるつもりだった。
そしてカイドーが新たな呪文を唱えようとした時。
「こぉんの、クソヤローーーー!!」
岩を駆け下りたサラが丸太でガイラの向う脛を思いきり打ったのである!
「フンギィイイヤオオォ!!!」
ガイラは大粒の涙を流して打たれた脛を抱きかかえた。
「どーだ! グラさんの痛み! 思い知ったか!!」
サラは仁王立ちで高らかに笑った。
弁慶の泣き所をしたたか打たれたガイラはケンケンで飛び跳ねている。
そこへやっとホークが来た。
「灼熱鉄棘呪文!高速連続省略呪文法!」
ホークはサーフボードで波乗りするかのように自在に空中を滑空している。左手から高速の焼けた弾丸をサンダとガイラに向けて撃ちながら、カイドーとサラに親指を立ててウインクした。
「いい気なもんね。こっちはヒヤヒヤもんだったのに。」
サラは腕組みして憤慨していたが、カイドーはホークの行動を注視している。
そもそも灼熱鉄棘呪文という呪文は今は廃れた呪文だ。灼熱に焼けた鉄の串を飛ばす呪文で、見た目は派手だが魔力の消耗が激しく、それなら手裏剣を投げるか、氷手裏剣呪文か火炎弾呪文の方が効率がいい。しかも高速連続省略呪文法で攻撃しているから串というよりは弾丸である。こんな攻撃では巨人に効くはずもない。何発かは巨人に当たったが、虫に刺された程度のダメージだっただろう。
ホークは旋回を繰り返し、攻撃をショーンにも向けた。
「バカか、お前は。」
ショーンは水球ではなく、水壁防御呪文のように地上から水の膜を吹き上げ、ホークの灼熱鉄棘呪文を防いだ。それでもホークの攻撃は止まない。地上すれすれを滑空しながら、大岩の影を通過して上空へと昇った。
「いかん!」
カイドーはサラの襟首をつかんで引き寄せて抱きかかえると、胸に張った呪符に指を当てた。。
「飛行!」
カイドーは呪符を発動させ、サラとともに空中に舞い上がる。
「なにするんですか、師匠!」
「黙って見ていなさい!」
ホークは空中で大きく弧を描いて急降下する。ホークの後ろの雲がどす黒く渦巻いていた。
「無駄! 無駄! 無駄! 無駄ぁああ!!」
地上からホークめがけて強烈な水流が迸ったその時、さっきホークが通った岩陰からホークが姿を現した。
「神雷槍三連撃呪文!」
ホークの呪文の詠唱が終わった瞬間、黒雲から三条の巨大な光が轟音とともにショーンたちに降り注いだ。つまりは落雷である。ショーンたちがいた場所は膨大な熱量で水が蒸発し、もうもうと霧が立ち込めていた。黒い煙も上がっている。巨人もショーンも黒焦げになって地面に倒れ伏していた。
事の次第を見届けたホークは、ゆっくりとカイドーたちの側に降り立った。
駆け寄ったカイドーたちと岩を降りる。歩きながらカイドーがホークに疑問をぶつけた。
「驚いた。いったい何をやったんだ?」
「灼熱鉄棘呪文の事?」
「それもある。」
カイドーは素直に喜んでいる。神雷槍三連撃呪文も伝説の呪文と言っても過言ではない。落雷の威力は桁外れだが、精度が甘い。狙った場所に正確に落とすのは至難の業と言って良い。何故なら、電気は通りやすい場所を通るからである。例え空気中であっても抵抗の無い場所や導体を伝って地上に落ちるからである。相手が大軍の場合などに使う事もあるが、少人数の戦いで神雷槍三連撃呪文を使用しても、相手にダメージを与えられるかは賭けになるのだ。それゆえ、使えても使う事はまずない。いつしか”幻”とまで呼ばれるようになった呪文だ。
「それもあるが、どうして三つも同時に呪文を繰り出せる?」
「どうせ、卑怯技使ったんだよね。」
サラは腕組みしてドヤ顔をしている。
「飛行はこれ。」
ホークは何かをカイドーの前に翳して見せた。遠くから見れば、魔石が宮中に浮かんでいるようにみえるが、実はそうではない。透明なプラスチックの板のようなものに魔石がはめ込まれていた。
「滑空魔法板か? しかも透明な。」
カイドーはあんぐりと口をあけて目を丸くした。
「やっぱりね。で、それって何?」
滑空魔法板はB級魔道具の中ではレア物の魔道具である。通常は木札のような状態で持ち運びが可能だが、取り付けられた魔石に魔力を注ぎ込むことでスケボーくらいの大きさになる。それに乗ればそらを跳ぶことが出来るのだ。ちなみに約三〇分の稼働時間があり、航続距離は20kmほどある。
「ドミグラスソーの古道具屋で売ってたんだけど、誰も使い方知らなかったみたい。四割引きで買えたよ。」
「えー、そんな便利な物が売ってたのー!」
そう言えば、馬車の準備をしている時、ホークは町を見学に行くと言ってしばらく町をうろついていた。ちなみにサラも町の食べ物屋巡りをしていた。
しかし、カイドーの興味はそこにない。呪符を使わずにどうやって二種の魔法を使えたか?
「わしの推察が正しければ、お前さんは飛行しながら灼熱鉄棘呪文を使い続け、魔人に水壁を作らせて視界を遮ると、岩陰を通った際に複製呪文で分身を作り、その分身に神雷槍三連撃呪文で攻撃させた。待てよ。灼熱鉄棘呪文は伏線か。落雷を確実に相手に当てるための。」
彼らに電気の概念は無い。それでも高い木や金属製の物に雷が落ちやすい事は誰でも知っていた。
「その通り。すごいね!」
歩きながら三人は岩棚へやってきた。サンダとガイラは黒焦げになっていた。体が燃えて異臭を放っている。さしもの巨人も絶命している。ショーンは直撃を避られたと見えるが、服が所々煙を上げている。こちらも死んでいるようだった。ホークはそれでも歩みを止めず魔法陣の傍までやってきた。
ベクターが倒れている。
ホークがベクターの鼻に手をかざすと微かに冷たい息があたった。
「まだ生きてる。」
「所詮は裏切り者じゃ。このまま逝かせてやろう
ところが、ホークは回復呪文をベクターにかけた。
呼吸が少しずつしっかりした状態に戻り、ナイフで刺された傷から血が止まった。
ベクターはゆっくりと目を開けた。
「どうしてこんなことをした。」
「もう・・土をいじるのはうんざりだ。」
ベクターの目から一粒の涙が零れ落ちた。
「それが誇りだったんだろう?」
「大金をもらって・・・バリスへ行く。そこで暮らす。暮らしたかった・・・。」
「あんたがやったことで、大勢の人が死ぬ。それは判ってたんだろ?」
ベクターは答えず、眼を瞑った。
「トニーはどうする気だったんだ? 死んでたかもしれないぞ。」
「・・・・あれは息子じゃない。拾った子だ・・。」
ピシャリと音がして、ホークの平手がベクターの頬を打った。そして立ち上がるとこう言った。
「トニーは誰よりもあんたを尊敬している。誰よりもあんたが好きなんだ。トニーの父親はあんたしかいないよ。だから、動けるようになったらコールレアンへ帰れ。今日の事は見なかったことにしてやる。そして土をこねろ。もしトニーの側から逃げ出したら、絶対にお前を殺す。」
ホークの目は冷徹な光を帯びていた。ただの脅しではない。
ベクターは震えながらも少しだけ頷いた。
「さって、帰ろうか?」
「まだ終わってないしね。」
「でもちょっとだけ。」
ホークが伸びをした瞬間、ホークの左腕が血に染まった。
葬送のフリーレンがアニメ化というのは嬉しいですね。最初は怪獣8号の方を押していたんですが、コミックスを一気に読んで楽しくなってしまいました。2巻くらいまでバトルらしいバトルもないのは少年漫画としては珍しいかもしれない。(最近はあまり読んでないけど)なんか青年誌での漫画っぽいなと思っておりました。10月からだそうですけど、スパイファミリーのS2と合わせて楽しみたいと思います。
あ、ついででいいんですけどホーク様の冒険も楽しんでいただけると嬉しいです。では、また。




