表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
32/63

アレイスターには手を出すな!! 陸

 「貴方はキャラクターをコントロールできますか?」

石田スイさんと冨樫義博さんが対談した時の言葉である。やっぱりと言うべきか、二人ともノーと答えている。話の筋が変わってしまうほどの重大な発言も止められなくなるのだと言う。そしてその方が面白いとも。

 自分はプロではないが、物語を子供のころから作ってきた。拙い話ではあるし、うまく表現できないけれど、そんな自分にも神が降臨する瞬間が確かにある。(こんな事を書く筈じゃなかったのに!)と思う瞬間である。クリエーターは、きっとそういう瞬間を誰しもが経験しているだろう。

 そんな瞬間に満ち溢れた作品はきっと面白いに違いない。この話もそうなってくれればいいなと思っている。応援してください。キャラクター達をお願いします。

「誰かぁあ!!」

 骸骨兵が我が子を庇う母親に容赦ない斬撃をふるおうとしたその時、ハルバートの一撃が骸骨の頭を砕き割った。力なく崩れおちた骸骨兵の傍らからマーサが現れる。

「大丈夫かい!?」

「マーサ! ありがとう、助かったわ。」

「まだ骸骨どもはまだ、あっちこっちにいる。急いで町の外に逃げるんだ!」

氷手裏剣呪文!(トゥラーラ)

 数本の氷の剣が、後ろから近づいた骸骨兵を壁に縫い付けた。気づいたマーサがハルバートの石突で頭蓋骨を叩き潰す。

「まったく、キリが無いわい。」

 カイドーがぼやきながら現れると、その脇を母子が駆けて行った。

「カイドー。あの坊やはどうしてる。」

「おそらく巨人と戦っとる最中じゃろう。ゴーレムはまだ動いとるようじゃし、まだ無事だ。」

 ホークの<迷作:マーサおばさん>のゴーレムは数体が斃され土に還ったが、まだ多くが骸骨兵士と奮戦している。ただ、最初のような一方的な攻撃はすでに治まり、骸骨兵の残党狩りのような状況に転じていた。他のパーティーメンバーや治安部隊の生き残りも奮闘を見せ、戦局は僅かずつ好転していた。

   そして・・・

 ・・・まだ晴れぬ霧の中、ゴーレムの影を見た人々は・・・・

「マーサだ! マーサが来てくれた!」

「マーサが骸骨をやっつけた!」

 と・・言った。

 あながちそれはデマではない。実際にマーサは治安部隊の衛士以上の働きで骸骨兵どもを粉砕していったのだから。

 それにしても、ホークのゴーレムがマーサと勘違いされたのは、マーサにとっては不本意だったろうけれど・・。



「かまわねえだ。このまま撃っちまうだぁ!」

 射線上にいるホークをめがけてサンダが射出された。

ホークはヒョイとそれを躱すと、サンダはあえなく絶対防御結界に衝突して地面に落ちる。脳震盪でも起こしたか、白目をむいていた。

「あんちゃーーん!」

 ガイラはサンダに駆け寄ったが、ホークはそれを無視して呪文を唱え始める。よく見ると空中に浮かんだ5体のコピーが同じ呪文を詠唱している。

天地変異呪文(ロッケンラード)

 6人のホークを結ぶ黄金色の光の線が地面から迸った。描かれた六芒星の中にいる骸骨兵が暴風と共に一気に空中に放り出される。垂直に打ち上げられた骸骨兵どもは2~30m程打ち上げられた後、急速に落下して大地に打ち付けられ、粉々になって砕け散った。

「あんちゃん! あんちゃん!」

「・・ンーンン。なっんだ。昼飯が?」

「あんちゃん! 大変だ!骸骨どもが全部やられだ!」

「なんだど!」

 サンダが急いて起きると、ホークもまたひとつになり、地上へと降り立った。

「小僧、よくも骸骨どもを!」

  ホークが杖を向けて身構えた。

「あんちゃんは強ええど、覚悟しろチビ坊主!!」

「グオォオオオオ!!!!」

 サンダが吠えた!

「そーれ、あんちゃん! やっちまうだあ!」

 サンダは吠えたと同時に、一目散に逃げだした。

「あんちゃーん! 待ってケロ!!」

 ガイラも遅れて後を追った。

 ホークは皮の子袋を取り出し、回復薬(ポーション)を吞んだ。

「まじぃ・・・。苦いの嫌いなんだよなあ。」

 まったくのんきな小僧である。


「ベニー、そっちはどう!?」

「こっちはもうダメ。グラ、お願い!」

 避難の誘導に当たっていたグラは他のパーティーの僧侶ベニーと負傷者の救護に当たっていた。軽症者は二人の回復魔法ですぐに逃げ出すことが出来たが、重傷者はそうはいかなかった。何人かがグラたちの目の前で息を引き取っていった。

 サラもグラたちと救護にあたっていたが、回復魔法の使えない己の無力さに次第に気持ちが萎えていった。

(あたしじゃ、ここにいても何の役にも立たない・・・。)

「サラ! 何してるの! その人をこっちへ連れてきて!」

 ここもまた戦場だった。

「ごめんなさい。あたし、何の役にも立てなくて!」

「バカ! 今はそんなことを言ってる暇はないよ! すぐ動く!!」

「はいっ!」

 サラが中年の男の負傷者を抱えると、どこからか地響きが迫って来た。

「なに? これ?」

 サラは負傷者を抱えたままあたりを見回すと、突然角を曲がってサンダが現れた。あまりに突然の出来事に、サラの足がすくんだ。

「サラ! 伏せて!!」

 グラの声に我に返ったサラが物陰に伏せると、サンダとガイラがすぐそばを駆け抜けていった。

 彼らの足元の石畳は、衝撃で粉々になり、散弾のようにあたりに飛び跳ねていた。瓦礫と埃にまみれたサラは、咳をしながら起き上がった。

 辺り一面、埃で視界が悪い。

「グラさーん、大丈夫ですかー?」

 サラがグラの居た方を見ると、薄くなった埃の中にグラが血を流して倒れているのが見えた。サラに声を掛けた事で、ほんの僅か、伏せるのが遅れたのだ。

「グラさん!」

 急いでサラが駆け寄る。巨人が走って壊れた石がグラの頭を直撃したらしい。

「ベニーさん早く!」

 ベニーが駆け寄り、回復呪文をかけるとグラはうっすらと目を開けた。

「大丈夫よ。すぐには動けないかもしれないけど、命に別状はないわ。」

 ベニーがホッとした様子でサラに言った。

「あんの、クソ野郎!!」

「サラ!!!」

 グラとベニーが止めるのも聞かずにサラが巨人を追って走り出した。

 その直後、ホークが駆けて来た。

「ホーク!!」

 ホークが立ち止まってグラの方を向いた。

「サラが、サラが巨人を追いかけて行った!」

 ホークは大きくため息をつくと、にっこりと笑った。

そしてグラに親指を立てると、巨人を追って再び走り出した。


(にが)っ!」「うっく!」「まじぃ!」

 シュセと合流したカイドーたちは一緒に回復薬を飲んだ。

丸薬だからぐいと飲み込めばいいのだが、一度噛んでやることで効き目が早くなる。

「いつ飲んでも不味い。こいつをおいしくする方法はねえのかよ。」

「バカモン。”良薬は口に苦し”じゃ。」

「今夜の食事に入れてやろうか?」

「・・勘弁してください。」

「・・勘弁してください。」

 二人は同時に、ペコリと頭を下げた。

「さあ、もうひと踏ん張りするよ!」

 マーサは畑仕事に行くような素振りで立ち上がった。

マーサは今は引退しているが、かつては夫と一緒に各地を回った名うての賞金稼ぎ(バウンティハンター)である。女性でありながら、戦士として常に前衛を務め、多くの魔物と対峙してきた。彼女の獲物はハルバートという穂先の長い槍に斧が組み合わさった武器である。非力な女性には似合わず、彼女のハルバートは通常の物よりも大型であった。

「待て、なんじゃ、この音は?」

 地響きがする方向を見ると、サンダとガイラが通りをこっちに向かって走ってくるのが見えた。

「まずい!、物陰に隠れろ!」

 地響きと破片をまき散らしながら、サンダとガイラは通り過ぎて行った。

 そしてその後を追うように、サラが駆けてゆく。

「どうしたんだ、ありゃあ?」

 呆然とサラを見送る3人の後ろからホークがやってきた。

「どうしたんだ、ホーク? なんでサラが?」

「ハァハァハァ・・・なんか、キレちまったみたい。」

「仕方ねえなあ。俺が連れ戻してくるよ。」

「待って。なんかおかしい。この程度で諦めるような奴らじゃない。新手が来る気配もないし、何か企んでる。」

「十分にありうる事じゃな。」

「奴らの目的が今一つ分からない。コールレアン修道院ごとこの町を潰すつもりなら、敵は四方から攻めてくるはずだ。」

 今までのロアの軍団のやり口は、大体が殲滅戦だ。街を襲うにしても囲んで皆殺しを図るやり口だった。

「陽動か?」

「可能性はあるわね。奴ら、ただの魔物じゃない。統率された軍団だからね。」

 4人は顔を見合わせた。

「カイドー。ついて来てくれ。」

「わかった。マーサとシュセはここに残って新手に備えろ。わしはホークと奴らを追う。」

「年寄りにはキツいだろうがな。」

「またこいつを飲むさ。」

 カイドーは腰にぶら下げた小さな革袋を振って見せた。

「念のため、ここに瞬間移動魔法陣(ゲート)を作っていく。」

 ホークは壊れた建物の室内に入り、速攻で瞬間移動魔法陣(ゲート)を作った。

「おばさん、くれぐれも無茶はしないで。」

「分かってるよ。夕飯の支度もしなきゃなんないからね。けど、朝昼は抜きだ。勘弁しておくれ。」

 マーサは笑って言った。



「ご報告します。城壁の周りにいた骸骨兵どもは少年の魔法使いによってそのほとんどが粉砕されました。」

「少年の魔法使い?」

 ボーマン院長は首を傾げた。

「・・その子の名は?」

「分かりません。物見の報告でして。」

 ホークの名はギース教にも情報が流れていた。ラグナロクの転生者かもしれないと言う少年。ギース教にとって脅威となりうるかもしれない少年として。

「それで、その子はどうしている?」

「分かりません。物見の話では、2匹の巨人を追っていったそうです。」

 物見の報告では、生き残った骸骨兵と治安部隊は門前でまだ死闘を繰り広げているらしい。それに絶対防御結界への攻撃もまだ止んではいないとの事だった。

「それと、避難民が修道院の周りに集まりつつあります。戦闘をしている南側の城門を遠巻きに見ているようなのです。如何いたしましょう? ギース教への信頼にこたえる為にも、一度結界を解いて、住民を受け入れましょうか?」

「それは許さぬ。絶対防御結界を解かない限り、ここは安全だ。何があっても耐えるように。」

「承知しました。・・もうひとつ、些細な事ではありますが。」

 報告に来た修道士の神父が顔を曇らせた。

「どうかしたのか?」

「ミューラー、リヒター、ファラデー、ヨハネスの4名の神父の行方が分かりません。」

「ミューラー神父が?」

 ボーマン院長は思わず両手を組んだ。掴んでいた銀のロザリオが揺れた。

 報告に来た神父の言った4人は、コールレアン修道院でも中堅の実力者である。魔法使いとしても有能で、飛行呪文すら操れる上級者だった。おそらくは防護結界の薄い上空から抜け出したのだろう。

「もしや、院長様のお言葉を無視して町に向かったのでは?」

 それは十分に考えられた。4人とも町の人間に慕われ、その信頼も厚かったからだ。

「・・仕方あるまい。放っておきなさい。私の命に背いた罰は帰って来てから償ってもらう。」

 ボーマン院長は礼拝堂に集まっている修道士たちに向かって言った。

「祈りなさい。神の御心に御すがりするのです。災厄はいずれ過ぎ去ってゆきます。それまでじっと耐えるのです。」

 ボーマン院長の言葉に、修道士たちは一心に祈りを捧げ始めた。

しかし、祈らずに深く考え込んでいる人物がいた。カイドーにヴェルと呼ばれていた老婆である。

(なにか・・嫌な予感がする。)

「ヴェルダンディ。貴方も祈りなさい。私たちの祈りはきっと天に届く。」

 割り切れないものを抱えながらも、ヴェルダンディも両手を組んで祈り始めた。



 サンダとガイラの2匹の巨人は山へと向かっていた。先日、サラたちが行った温泉のある山である。

 2匹の巨人は歩幅が人間よりも長いため、ゆっくりに見えても速度は速い。後ろから追いかけているサラはどんどんと遅れて行く。幸い、霧が晴れて来たので見失うような事はなかったのだけれど、山に入れば障害物が多く、ともすれば見失いそうになる。

(大丈夫、ここはグラさんと来た道だ。)

 コールレアン修道院が一望出来る所でホークとカイドーに追いつかれた。ホークは走っているが、カイドーは空を飛んでいる。

「ホーク! 師匠!」

「サラは帰りなさい。ここから先はわしらが引き継ぐ!」

「嫌だ! あいつらに一発お見舞いしてやらなきゃ気が済まない!!」

 サラはどうしても譲れなかった。自分の不甲斐なさのせいでグラが怪我をした。その思いがヘタレのサラを駆り立てている。立ち向かったからといって、サラが2匹の巨人に敵うはずもなく、殴るどころか、足手まといになることは判っている。それでもサラは譲れなかった。

「じゃあ、遅れないようについてくれば。」

 ホークは速度を上げた。

「こんのぉ、クソガキぃい!!」

 それにしても魔法使いでありながら、しかも少年でありながら、ホークの脚力は素晴らしいものがあった。すでに数キロは全力で駆けてきている筈なのに、一向に衰えを見せなかった。

「あんた!また卑怯技使ってるでしょ!」

 ムリに速度を上げたせいで、サラは動けなくなった。

両手が膝に着くと、項垂れた顔に汗が滝のように落ちた。信じられないほど息が荒い。肺が痛かった。そのまま地面に寝転がりたかった。

「・・・・ハァハァ・・・・・」

 サラはゴクリと唾を飲みこんだ。

「行く!」

 サラは折れそうになる膝を、無理やり上へと持ち上げて走り始めた。


「カイドー! やっぱりおかしい!」

「そうじゃな。距離が詰まらん。わしらの攻撃範囲ギリギリを保っておる。」

 サンダとガイラを追う二人は、あたりを注意深く観察している。伏兵がいて、おびき寄せられているかもしれないからだ。2匹の巨人も時々振り返ってホークたちがついて来ているのを確かめているようだった。やがて、道は無くなり、ごつごつとした岩肌が見え始めた。サンダとガイラはその崖を器用に登って行く。この先には大きな岩棚があって、地元の人々が<虹の滝>と呼ぶ巨大な滝がある。

「カイドー! 少し遅れてくれ!」

 ホークも岩肌を登りながらカイドーに指示を出した。

巨人の前に出る手もあるが、挟撃を喰らう可能性もある。ホークは後を追いつつ、カイドーにサポートを頼んだのだ。

(この小僧、戦いなれておる。)

 カイドーは速度を落とすと、ホークの後衛に回る。ホークと一直線上に並ばぬよう、やや左へと進行方向を変えた。

 そして、崖を登り切った時、ホークは信じられない物を見た。


 前書きでも触れましたけれど、実はサラのキャラが最初の設定とはどんどんかけ離れて行きました。本当はこう言う感じのキャラクターは苦手で、自分の作品にはあまり出てこないキャラです。ともすれば主人公を食ってしまうモンスターに育ってしまうかもしれないからです。

 とはいうものの、それはそれで楽しんでいます。彼女については、まだ解き明かされない秘密や過去のエピソードがあります。物語の中では少しだけ触れてはいたんですけどね。それとホークにしても、まだまだ謎は残っています。前回のシュセの回想の話のように、どこかで出そうとは思っていますが、おそらくずっと先の話になるでしょう。あと、カイドー一味の話も考えてはおります。グラは大体決まってるんですけど、カイドーはどうしようか悩んでおります。どうして牢獄の中になんか居たんだろう?

 作者自身が聞きたいのであります。(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ