アレイスターには手を出すな!! 五 ー シュセ・タンジロ ー
今回はシュセの過去の話です。いわば外伝のようなものです。
最初、カイドーたちのパーティーを仲間にする要素は全く考えていなくて、ホークたちの当て馬みたいな位置で考えていました。それ故に名前もけっこういい加減に付けてるんです。気づかれましたか?
4人の名前を並べると、シュセ・カイドー・マッシ・グラ。そう、<出世街道まっしぐら>となる訳です。そして苗字の方は考えてなかったんですけど、鬼滅の主要メンバーの名前をもじって付けちゃいました。そして今回の話を呼んで分かる通り、シュセの過去の話は炭治郎の話と似ています。(内容は違いますよ。)そんなところもニヤニヤしながら読んでもらうといいかなあと作者は一人ほくそ笑むわけです。
「おじさん、もうここで降ろして。」
「先に逃げた連中に引き渡すまではダメだ!」
「もう村を出た。こっから先は僕一人でも大丈夫だ。」
「駄目だっつてんだろ、坊主!」
「まだ町は奴らに襲われてる。おじさんが行けば死ななくて済む人がいる。だからここで降ろして!」
トニーの叫びにシュセは足を止めた。
振り返って町を見ると、火球の流れ弾で彼方此方が火災になったと見えて、町の至る所で黒煙が上がっていた。シュセは屈んでトニーを降ろした。
「いいか、坊主。俺は後悔したくない。だから絶対に逃げきれ。いいな。」
髭面の日焼けた顔がにっこりと笑った。
「大丈夫。僕は絶対に死なない。ホークに嗤われたくないんだ。」
「約束だ。いいな。」
「うん。」
シュセは屈んでトニーの頭をやさしく撫で、すっくと立ちあがった。
******
シュセ・タンジロ 30歳。
小男だが、がっしりとした体躯に獣のような身体能力を持つ。カイドーのパーティーでは索敵と攪乱、援護と、その機動力を生かした戦法で幾度もパーティーの窮地を救ってきた元盗賊。
しかし彼が盗賊になる前は、普通の平凡な猟師だった。
「じゃ、行ってくる。」
シュセは6歳の男の子を先頭に3人の子を持っている。
「父ちゃん、今日は早く帰って来るんでしょ?」
「バカ、父ちゃんは仕事に行くんだぞ。」
末っ子のライルが甘えた声で言うと、長男のデンが窘めた。
シュセは二人の息子の頭をやさしく撫でた。
「なるべく早く帰って来る。今日は卵を獲りに行って来るだけだ。だから早く帰って来る。」
「約束だよ、父ちゃん。」
ライルは末っ子のせいか甘えん坊である。出かける日は毎度の事ではあるのだけれど、うっすらと涙目になっている。シュセはそんな息子が愛おしくてたまらない。
「ああ、約束だ。」
「あんた。無理はするんじゃないよ。」
「ああ。分かってる。」
シュセは手を振りながら家族に別れを告げて山道を下って行った。
シュセの仕事は猟師である。とはいうものの、通常の獣を狩る仕事の他に、もう一つの仕事を持っていた。それは彼が棲む山にあるシュトラーゼ渓谷と言う切り立った崖に棲むドラゴンの卵を獲って来る仕事だ。危険の伴う仕事で、この辺りでもシュセの他にこの仕事をこなせる者はいなかった。
ドラゴンの卵は食用ではない。たまに好事家が食べるために依頼することもあるけれど、ほとんどはそれを育てる為の依頼である。つまりはギース教竜騎兵団への売買なのだ。
シュトラーゼ渓谷に棲むドラゴンはザッカーレンブラントという種族の翼竜で、比較的おとなしい部類に属する。おなしい部類だからと言って、人に懐くことはまず無い。無いが、卵から人間が育てれば別である。生まれた雛は孵した人間を親と認識するらしく、大事に育てれば人を乗せて空を飛ぶ馬のようになる。忠誠心も高く、戦闘に駆り出せば勇猛果敢に敵を倒す。
今日は産卵期を迎えたドラゴンたちの巣に潜り込み、その卵を頂いて来るという仕事だ。ギース教からの依頼は4個だが、3個は既に納品済みで、今日の狩りがうまく終われば、莫大な報酬が支払われる予定になっている。
シュセは山の中腹にあるベルムドの村へついた。ここから川沿いに山を登ってシュトラーゼ渓谷に行くのである。ただ、その前に仲介人のドルチェに会っておくつもりだった。
「やあ、シュセ。景気はどうだい?」
ドルチェは人の好さそうな笑顔でシュセを迎えた。
「ああ、まあまあさ。そっちはどうかね?」
「相変わらずだよ。お前さんのお陰で何とか食いつないどる。」
「嘘つけ。」
「はっはは・・・。冗談はさておき、ちょっと困ったことになった。」
「どうしたんだ?」
「さっき街から知らせが来たんだが・・・」
ドルチェが困ったように鼻の脇を掻いた。本当に困ったときの彼の癖だ。
「卵の納期が早まった。今日の夕方には竜騎兵団の使者が街に来るんだそうだ。」
「おいおい。今日必ず獲れるとは限らんぞ。それでなくてもこっちは命懸けだ。」
「分かってるよ。分かってる。わしもお前さんに無理強いするつもりはないよ。お前さんあっての商売だ。ダメならダメでわしが何とかする。」
そうは言うものの、バイヤーのゴルゴンは強欲だ。納品がうまくできないとなれば、強引に値切られるのは目に見えていた。そうなればドルチェは身銭を切ってもシュセに約束の報酬を支払うだろう。
「分かったよ。なんとか頑張ってみるさ。」
「くれぐれも無理はするな。」
「分かってる。昼前にはあんたの所へ戻るよ。」
そう言って店を出たシュセだったが、実際のところ確実に卵を盗める保証など無かった。無理をすればドラゴンたちから追い回される羽目になる。それが何を意味するかシュセもよく分かっていた。
ベルムドの村からシュトラーゼ渓谷までは2時間ほどかかる。しかしシュセはその道のりを1時間で行く。獣道のような細く険しい道を猿のような素早さで駆け上がっていくからだ。
ザッカーレンブラントは群れでシュトラーゼ渓谷に棲み、崖に巣を作って雛を育てる。その巣に潜り込むのはロープで崖にぶら下がるしかない。かといって大勢で崖に向かえば、ザッカーレンブラントの攻撃を受ける。あくまでも密かに、慎重にやらねばならない。それもたった一人で。
シュセはザッカーレンブラントの縄張りを熟知していて、その縄張りの中に入ると猫のように足音を消してゆっくりと近づいた。茂みの影から腹ばいになって崖下を覗くと、10mほど下の突き出た岩棚に枝を集めて作られた1個の巣を見つけた。遠目でよくは分からないが、卵らしき白い影が見える。数匹のザッカーレンブラントが飛び回ってはいるものの、幸い近くには親もいないらしい。
(一発でこれだ。今日はツイてる。)
決断したシュセの行動は早かった。すぐそばに手ごろな大木も生えていて、その根元にロープを括り付けると崖下へと降ろす。やや外れてはいるが、ロープを伝って巣に入るこむには十分だった。
シュセが茂みから飛び降りようとした刹那、羽ばたきがしてロープをかけた木に小さいザッカーレンブラントが舞い降りた。
(まずい。早く行け。)
シュセはじっとザッカーレンブラントが去るのを待った。こうしている間も見つかる危険性は十分にある。汗が自然に頬を濡らした。しばらくザッカーレンブラントはあちこちを見回していたが、やがて大きく羽ばたいて飛び立っていった。
無意識にため息が出た。
シュセはもう一度下を覗くが、巣に変化はない。躊躇せずにロープを伝って、ものの数秒で巣に辿り着くと、卵専用にあつらえたショルダーバッグに卵を詰め込んだ。卵は3個あったが、欲張ると親が血眼で探し回る羽目になる。そこらへんはシュセには十分わかっている。もう何度も危ない目にあっているからだ。
シュセは猿のようにロープを手繰って崖を上る。これもまた数十秒で辿り着く。
(今日は運がいい。この調子なら昼までには余裕で帰れそうだ。)
手早くロープを回収するとシュセはまた獣のように素早く下山した。
ベルムドの村に着いたシュセは、そこで予想もしていなかった光景を見た。村が酷く荒れている。火事もあったらしく、一軒の家が燃えていて、村の連中が消火作業をしていた。道端に負傷者がいて、村の女たちが忙しく走り回っている。
「何があったんだ?」
顔見知りを捕まえて聞くと、どうやら2~3匹のオークが突然現れ、村を襲ったらしい。幸い死人が出なかったことと、攫われた人間もいなかったこと、それでも男たちがなんとか追い払った事。それだけを聞いてシュセはドルチェの店に急いだ。
案の定、ドルチェは左足に添え木をされた状態で長椅子に寝転んでいた。
「大丈夫か、ドルチェ?」
「おお、シュセか。御覧の通りさ。」
話を聞くと、ドルチェもオークを追い払うために戦ったそうだが、オークの棍棒で大腿骨をしたたか殴られたのだ。もちろん骨は砕け、歩くことが出来ない。もしかしたら一生後遺症が残るかもしれなかった。
「災難だったな。でも、どうしてこんなところにオークなんか・・。」
この山にも魔物は確かにいた。けれど、ほとんど小物ばかりで悪さをするような奴は滅多にいない。オークなど村人は見たこともなかっただろう。それだけ平和な村だったのだ。
「分からん。多分、どこからか追われて流れて来たんだろう。」
「そうだろうな。きっとそうだ。」
「朝の知らせといい、今日は散々だよ。」
「・・じゃあ、いい知らせだ。卵はなんとか確保できたよ。」
「おお、そうか! そいつは良かった!」
と、言った後にドルチェは小さくため息をついた。
「分かってるよ。俺がゴルゴン商会に卵を届けて来る。ついでに金ももらって来るよ。」
「すまない。恩に着るよ。」
家に帰るのは少し遅くなるが、この有様を話せばヘレナも分かってくれるだろう。ついでに街でお土産も買って帰ろう。子供たちがすねた後に、喜ぶ顔が思い浮かんで、思わず口元が緩んだ。
残りの卵をドルチェから受け取りと、シュセは店を出て街へと向かった。
シュセはゴルゴンとの取引を無事に終え、代金をドルチェに渡すと、ドルチェは約束の報酬額に色をつけて払ってくれた。
土産も買ったし、ベルムドから我が家へ向かうシュセの足取りは軽かった。夕闇が訪れ始めていたが、慣れた道だ。暗闇でも何の問題は無い。そう思っていた。
「・・・。なんだ?」
人の顔のような形をした大岩を曲がると、木立の隙間から我が家が見える。この時間なら灯りが点いている筈・・だった。
胸騒ぎがした。
シュセはいつのまにか駆け出していた。我が家に着くと、入り口が開けっ放しになっているのが目についた。シュセが驚いて中に入ると濃い血の匂いがした。
用心深く一歩を踏み出した暗闇の中で・・シュセはなにか柔らかいものを踏んだ。拾い上げるとそれは小さな小さな人間の手首だった。
「ヘレナ。・・・デン。・・ビスタ! ・・・ライルゥ!!!」
大声で呼んだが、誰も返事をしなかった。
暗闇に潜んでいたのは、無残に喰い散らかされた家族だった。
シュセは声にならない叫び声を上げ、家族の遺体をかき集め、それを胸に抱いて吠えた。
******
・・・・半年後、シュセは盗賊になっていた。
フリーシアの首都バリス。フリーシアきっての大都会の中で、生きるあてを失った彼は、ひょんなことから盗賊のパキラと出会い、彼の仕事を手伝ううちにフリーの盗賊になってしまったのである。
シュセの手口はボルダリングのようにわずかな凹凸に指をかけて2階や3階から忍び込み、お宝だけを頂いて帰る。彼ならではの身体能力を駆使した誰もまねのできない手口で、盗賊の間では“蜘蛛男”と呼ばれていた。
ある日、盗賊のパキラに誘われ、地下闘技場へ足を運んだ。人と人、あるいは人と魔物などを死ぬまで戦わせる非合法な賭博場である。シュセには何の興味も無かったし、行きたくもなかったのだけれど、パキラには恩を感じていて、その時はどうしても断れなかったのである。
薄暗い闘技場には血と欲にまみれた金持ちたちが大勢いた。鋼鉄の檻で囲まれた闘技場の中に武装した剣士がいて、そこにオークが放り込まれた。
「悪趣味だな。」
「くそっ! 回り込め、そっちだそっち!!」
パキラは大金を剣士に賭けているらしく、必死の形相で剣士を応援している。シュセは喧噪の中にいるのが耐えられなくなって闘技場から出た。闘技場の中にはラウンジもあって、そこでは数人がテーブルで酒を飲んでいた。シュセが空いたテーブルに着くとボーイがやってきた。
「何になさいましょう。」
「そうだな。ワインをもらおうか?」
「銘柄は何にいたしましょう?」
「あまり金が無い。手ごろな白をくれ。」
ボーイは承知しましたと言うと、奥へと引っ込んだ。
ふと気が付くと後ろのテーブルから聞き覚えのある声が聞こえた。
それはゴルゴン商会の会長の声だった。もう一人の人物はバリスの役人らしく、時々専門用語が混じっている。シュセは何の気なしにその会話を聞いていた。
「ゾーラ君、困るよ。あの時もこっちはこっちで大変だったんだ。」
「いやそれはもう。ウエルズ様のお陰で商売が成り立っているような物ですから、こちらといたしましても・・・」
ここも非合法だそうだが、ゴルゴン商会も役人に根回しして悪どい商売をしてるらしい。しかし、それ自体は何も珍しい事ではなかった。フリーシアは名目上の共和制をとっていて、議員もいる。多くは貴族で強力な権限を持ち、官公庁の役人もその威を借る狐である。賄賂が公然と横行し、平民は貧富の差が人生を大きく左右する時代だったのだ。
ゴルゴン商会の会長はまだ若く、30台半ばと言った所で、大きな野心に満ち溢れている。この役人に便宜を図ることでバリスに進出してくるつもりなのかもしれない。
「何度も繰り返すようだが、半年前のような事は困るよ。ここへの納品が遅れれば、私もただでは済まないのだからね。」
「重々承知しております。もうオークを逃がすような不始末は二度と・・」
(オーク? 半年前?)
シュセはボーイが持ってきたワインに気づかぬほど興奮していた。
―その夜―
「待て、待ってくれ! お前はいったい誰なんだ!」
バスルームからでた直後、口を塞がれて肩を刺されたゴルゴン商会の会長がシュセに聞いたセリフだった。
「俺の顔に見覚えは無いのか?」
会長は薄暗いランプに浮かぶシュセの顔をマジマジと見つめたが、その顔を思い出すことが出来なかった。
「し。知らない。私にいったい何の恨みがあるんだ?」
いきなり刺された会長は怯えて震えている。シュセはゆっくりと会長に新たなナイフを向ける。
「半年前の事が聞きたい。さっき闘技場で話していたろう? その話だ。」
「助けてくれ。金ならいくらでも払う。」
「俺が欲しいのは金じゃない。お前が役人と話していた半年前のオークの話だ。」
会長の目が左右に泳ぐ。
「話さないなら、このナイフがお前の体から生えて来る。嘘をついても同じだ。」
シュセはまた新たなナイフを出すと床に突き刺した。
「何本まで耐えられるか、試してみるか?」
「・・・わ。分かった・・。話す。話すから、もうやめてくれ。」
会長は大粒の涙を流しながらポツポツと話し始めた。
「私は魔物を卸す商売をやっている。ここもそうだが、大きな町にある地下闘技場は大体顧客なんだ。魔物を卸すにはそいつを集めなきゃならない。半年前、うちで集めていた魔物が逃げ出した。オークだ。オークが3匹。そいつらは近くにあった村々を襲って大問題になった。流れてきたオークの仕業で落ち着いたが、その為に多額の賄賂を役人にばらまいたんだ。あいつはその事を言ってる。俺にもっとよこせと。」
悔しそうに握りこぶしを床に打ち付けると、それが合図だったかのように隣の部屋のドアが開いた。
「父上、どうかしましたか?」
親子で宿泊していたのだろう、隣の部屋から10歳くらいの少年が現れた。
「あ! 曲者!!」
少年は手近にあったペーパーナイフを掴んでシュセに突進してきた。
「やめろ! ハンス!」
避けることも出来た。少年を殴ることも出来た。
しかし、シュセは微動だにせず、少年の殺意を受け入れた。
「誰か! 誰か来て!!」
少年の助けを求める声に呼応して、数人の男たちが部屋へと入り、シュセは暴行を受け、警察へと引き渡された。
「ここで大人しくしていろ!」
警吏は捨て台詞を残して牢獄の扉を閉めた。
ボロボロになったシュセはろくに傷の手当てもしてもらえぬまま牢獄の床に放り出されていた。
「ウォオオオ。」
「うるせえぞ! 新入り!」
牢獄の中には3人の人間がいた。石畳の床に丸まるように寝転がっている。ただ、壁にもたれて座っていた老人が静かに立ってシュセに近づいてきた。
「ひどく殴られたな。」
老人はシュセを診て言った。シュセの顔は腫れあがり、体中に痣が出来ていた。太ももに刺さされた傷もある。
「刺されたか。喧嘩でもしたのか?」
シュセは答えずに、ただ泣くばかりである。
「あまり得意ではないが・・・・」と、老人は前置きして、回復呪文を唱え始めた。
シュセの傷が癒え、痛みが緩和されていく。
「あ・り・がとう。」
シュセの言葉に老人はニッコリとほほ笑んだ。
「お前さん、いったい何をやった?」
「・・・・言いたくない。」
「そうか。」
老人は黙ってシュセを見つめた。
「人を刺した。」と、ポツリと言った。
「そうか。お前さん、仕事は?」
その老人は牢獄の扉にもたれて座った。
「何もしていない。」
「なら盗賊か?」
「そうだ。」
「一つ聞いてもよいかな?」
「何をだ?」
「その涙の訳だ。」
「言いたくない。・・・ただ、もう・・」
「生きていたくない・・・か。」
「・・・・・そうだ。」
老人の瞳は深淵のように深く澄んでいた。
「ならば、わしと組まないか?」
シュセは老人の申し出に警戒した。きっと新たな犯罪に誘うのだろうと思っていた。だが、シュセにその気はない。彼の罪がどれほどの物かはシュセには分からなかったが、会長はきっと警察に手を回し、彼を死罪にするだろう。シュセはそれを受け入れるつもりだった。もうどうでも良かった。死ねば天国という所に行けるらしい。そこで家族と暮らしたかった。それだけが彼の望みだった。
「死んでも天国などという所には行けんよ。わしはそう思っとる。」
シュセの望みを断ち切るような老人の言葉だった。
「何があったかは聞くまい。話したくなれば別じゃがの。ハハ。」
「なぜ俺に構う。ほっといてくれ。」
「そうよな。わしはこれまでにお前さんのような人間を何人か見ている。そいつらは死ぬ目的を知っていて、その為に生きた。今は地獄の底にいてもだ。きっとお前さんもそういう人間だろうと思ったからだ。」
「死ぬ目的?」
「人を生かすために生きる事だ。」
老人は淀まずに答えた。
「目的も動機もあいつらはそれぞれ違っておったが、詰まるところ誰かを生かすために生きて来たとわしは思っておる。死んでもいい、死にたいと思うなら、誰かを生かすために生きてみてはどうじゃ? ・・・無理強いはせぬがな。」
「無駄だ。どうせ俺は死罪だ。」
「・・・ふーむ。そうかな?」
老人は扉の小窓から看守を呼んで扉を開けさせた。
「こいつを連れて行く。」
「そんな事されちゃあ・・・」
看守の言葉はそこで止まった。左手に小さな包みが掴まされていた。
「死んだことにしておきなさい。」
老人は看守の耳元でそっと囁くと、牢獄の廊下を悠々と歩いて行く。
「何をしとる。早く来んか。」
シュセは恐る恐る扉を出た。後ろで再び扉を閉める音がする。
「いったいあんた、何者だ? 俺に何をさせる気だ?」
「わしの名はカイドー。賞金稼ぎじゃ。」
今は時間があって(コロナのせいですけど)ほぼ毎日のペースでアップ出来てます。いつもは忙しくて月1くらいでアップ出来ればいい方なくらいなんですよねー。で、コロナが爆発的に蔓延し始めて濃厚接触者で休みになると暇を持て余すという人の話は常に聞いてたんですけど、自分は全然そういう事がなくて、毎日忙しく過ごしております。(ニャンコの世話もしなきゃなんないしね。)ただ、生活のリズムが変化していくのが怖いですね。また仕事に行かなきゃならないのが多分つらいです。
こういう日々を過ごしてみると、自分はテレワークでもけっこうやってけるなー。とも思います。そういう仕事じゃないのが残念な所ですけどね。そろそろ魔法の解ける時間が迫ってきているようです。ではまたお目にかかりましょう。あとがきでね。




