アレイスターには手を出すな!! 参 (それぞれの夜)
うちのクロはかまってちゃんである。多分≪飼い主依存症≫ではないかと思われる。でもどうしたらいいんだろう? 少し鬱陶しい時もあるのだけれど、やっぱりかわいいのである。でもおかしいなあ。別に要求をいつも聞いてるわけでもないし、それなりに離れてもいるんだけど。
さて、今回は(それぞれの夜)と追加で入れさせていただきましたけど、開戦前夜といった面持ちで執筆させていただきました。大体こういう所では死亡フラグが立つ訳なんですが、どこにも出てません。ご安心ください。と、いきなり・・・という場合もございます。登場人物たちが暴走してしまった場合はご容赦くださいね。
** 其の者、スパンコールの鎧を身に纏い、漆黒の夜を吞む **
** 其の者、蝶は毒蛾に似て身を映すを恐る。 **
** 其の者、左の腕を用いて、全ての神と魔を滅す也。
すべての神、全ての魔、これを恐れる。 **
口伝ではこのように語り継がれる幻の女神、Ad=ギラーラ。
いくつかの解釈があり、真偽のほどは不明だ。ただ、一般的な解釈としては世界を破滅させる者と言われ、神も悪魔も恐れる最強の神なのだという。菱形が重なるダブルスクエアの紋章から、合わせ鏡の紋章、もしくは蝶の形をシンボライズしたのではないかと言われる。左利きであり、容姿に酷い劣等感を持つことで世界を憎み、『そのすべてを滅ぼす。』と伝説では言われている。
****************
その夜。 マーサの宿屋では食堂にホークたちが集まっていた。
「図書館へ入る通路は3階からの吊り橋の通路しかないわ。でも入り口に衛士が2人常駐していて夜でも外部から通ることは出来ないの。」
「だがよう、天井から吊り下げられた鎖から忍び込むことは出来るだろう。」
シュセの言葉にグラは首を振った。
「駄目よ。そんなことは誰だって考えつくわ。凹面の天井を登っていく事は不可能だし、3階からロープか何かを引っ掛けて行こうとしても見回りが定期的にやって来るし、鎖には遠雷の呪法(要するに電気が流れている)が施されていて鎖には触れられないわ。」
「よっし、良いこと考えた。カイドーが飛んで図書館に行きゃいいんじゃねえか?」
マッシは我ながら良い考えだと思った。
「残念だが、それは無理じゃ。あそこの壁には沈黙の悪魔の彫刻が壁にいくつもあっただろう。あれは誰かの魔力が起動されるのを感知して、封呪呪文を発動する仕組みになっておる。」
「魔法もダメじゃあ、打つ手無しじゃあねえか。」
「だから言ってるじゃない。仮に図書館に忍び込めたとしても、2重3重の魔法防御がされていて、解呪するのはとても困難なんだから。」
マッシとシュセが大きくため息をついた。 因みにサラは、さっきまでドレイクの看病をしていたのだが、今日の山登りに疲れたのか既に部屋に引っ込んでいる。
「どうしたんだい。いったい何の話をしてるんだい?」
マーサがワインの瓶を片手にホークたちの所にやってきた。今、マーサの宿屋に泊まっているパーティーはカイドーたちだけだし、あとは2人の商人が泊っているだけ。それほど忙しくもないのでカイドーたちと飲もうかとやってきたようだ。
シュセとマッシは慌てて話題を変えようとしたが・・。
「悪だくみさ。修道院の図書館にあるアレイスターを盗むにはどうするか? って話だよ。」
ホークの言葉にカイドーたちはギョッとしたが、ホークは悪びれる様子もなかった。
「そりゃ、面白そうだね。私も混ぜとくれ。」
マーサは空いた椅子を引き寄せると、テーブルにつくなりマッシのグラスにワインを注いだ。
「あああ、俺のはビールなんだよぉ。」
「どーせ、あんたは酒なら何でもいいんだろ。」
「そりゃ、そうだけどよぉ・・・。」
さすがのマッシもマーサには敵わないのだった。
「で、盗めそうなのかい?」
「いいや。今のところ名案は浮かびそうもないのう。」
カイドーはニコニコと笑っている。ホークの意図を理解したからだ。
「第一、どうやって忍び込むつもり? 夜は城壁に光覇壁呪文なみの防御結界が敷かれているのよ。壁を上る事すら出来ないわ。」
・・・所変わってコールレアン修道院東側城壁前
「ムフフ。私が先に愚弄王リーの魔導書頂いて、みんなをあっと言わせてあげるわ。」
月明かりに浮かぶ黒装束のサラが立っていた。どこで集めた物か、その姿はニンジャの黒装束のようである。
「山の上から大体の建物の概要は把握してるから、チョロいもんね。」
サラが壁に近寄って、そのレンガに手をかけようとすると、わずかに手に痛みが走る。
「何、これ?」
それはほんの一瞬で消えた。おそらく静電気のような物か?
サラは上を見上げる。およそ10mはありそうな垂直の煉瓦の壁はこちらに倒れてきそうな錯覚を覚えた。
「・・・ま、今日は下見よ。明日出直す事にするわ。」
サラは城壁に素早く背を向けて、マーサの宿屋へと駆け去った。
「何の音?」
ホークが聞いた。
修道院の方向から鐘の音が鳴り響いて来るのが聞こえたからだ。
「おかしいわね? 警報の鐘が鳴るなんて、久しぶりだよ。」
マーサはいぶかしげに首を傾げると、残ったワインを飲み干した。
「警報の鐘?」
「城壁の結界が壊されたか、壊されそうになったのよ。でも大抵は村の結界探知が先に起動するんだけどね。分かった。こんな具合にすぐに察知されてしまうのよ。」
「でも、方法は無いわけじゃない。」
ホークはホットミルクを片手にしたり顔で呟いた。
「どんな方法だよ? 坊主。」
マッシもけっこう酔いが回ってきたらしい。ちょっと絡み気味である。
「例えば、日中に入って隠れて夜になるのを待つ。修道士や衛士になりすますことも可能だと思うよ。衛士に成りすませば通路番の衛士を眠らせたりすることも出来るでしょ。」
一同の口が開いたまま塞がらない。年端も行かない子供が考える事ではないからだ。
「でも、オイラは譲り受けるのが一番いいと思う。」
「そんなことは出来やしないよ。あの秘宝があってこその修道院なのさ。奴らには権威って物が必要不可欠なんだ。」
マーサは顔を赤くしながら、話し始めた。
「あたしなら、鎖を断ち切って地面に落下させるね。落ちて粉々になっしまえば、結界も何もありゃしないんじゃないかと思うけどね。」
「アハハハ。」
カイドーたちは大笑いした。豪快なマーサらしい発想である。
「後は瞬間移動魔法陣で高跳びだね! ガハハハハ!」
マーサは豪快に笑い飛ばした。
(そんなに派手にやったら、みんなお尋ね者になっちゃうんだけどなあ・・・。)
グラとホークは頭が痛い。
コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「誰?」
ドアの前でトニーが聞く。平和な村ではあるが、盗賊が来ないとは限らない。
「ベクターはいるか?」
ドアの外にはフードを被ったコールレアンの修道士が立っていた。
トニーが父の名を呼ぶと、ベクターは慌ててやってきた。
そしてドアから出て、修道士と低い声でやりとりをしている。トニーは怪訝そうな面持ちで木製の丸椅子を引き寄せ、そこへ座った。
数か月前から、この修道士がやってきては父と話をするようになった。そして、次第に父のベクターはろくろを回す回数が減り、焼き物もほんの申し訳程度しか作らなくなっていった。ただ、土だけは集めて来る。父に聞くと、大がかかりな注文が入ってその土を集めているのだと言う。陶器であるなら数千枚もの量を今まで集めている。しかも岩粉ばかりだ。いったいどこの誰がそんな量の陶器を発注したのだろう? 注文であれば、納期はいつなのか? 焼かなくても良いのか? トニーの頭の中にはいくつもの疑問が浮かんでは消える。
ほんの15分くらいで父は戻ってきた。
「父さん。今の人、修道士だよね?」
「そうだ。コールレアンのミューラー神父だよ。」
ベクターはちょっと嫌な顔をした。
「ねえ、土はもう十分集まっただろ。作らないのかい?」
「ガキは余計な事に口出しするな!」
ベクターの平手がトニーの左ほほを打ち据えると、トニーはぐっと涙をこらえながら、静かにその場を去った。
エストロは月を見ていた。
今日の月はウエイン・クレセント。つまりは晦日月(下弦の三日月)である。細く光り輝く月に拉げて捻じれたウルミーを月に翳している。長年使用してきたエストロの武器であり、思い入れも深い。特別な剣だけにその使用法も一朝一夕では習得できない。マー一族の秘伝と言っても過言ではなかった。それだけに直せる者もほとんどいない。今までは彼の使い魔であるドワーフのタタンバが直していた。だが今は重傷を負って療養中である。グラとポッターの手当てと回復魔法によって一命はとりとめたものの動ける状態ではなかった。
「ミナイ・・か・・。」
エストロはぼんやりと呟く。
ミナイの村とは小さな村だが、別名<魔道具師の村>とも呼ばれている。そこでは昔気質の職人が要求に応じて魔道具を製作する。また、古今の魔道具についても詳しく、貴重な文献や口伝が今も残っていると言われていた。エストロはこの剣を魔道具へと変えられないかと思案しているのだ。
タタンバの回復を待っていられない実情もあるが、この度の戦いで普通の剣では到底御しえない事態を経験したからである。今まで何度もエストロの窮地を救ってくれた剣だ。しかし、特別な剣とはいえ多数の魔物と戦うには力不足だと痛感したのである。
理由はもう一つある。その特別な形状の為、今回のように壊れてしまうと直せる者がいない上に、正常な状態でも鞘に納めるのに時間がかかるのが難点なのだ。
エストロはこのウルミーをA級魔道具に改造しようと考えている。それが出来るのは<ミナイ手>と呼ばれるミナイの村の職人しかいない。マー一族で代々使われてきたこの剣を改造するのは気が引けたが、そんな事を言ってはいられない。戦えない武器など装飾品でしかないし、そんな物は今のエストロには必要が無いのだ。
三日月のように青い光を放つウルミーを見ながら、エストロは覚悟を決めた。
ホークも月を見ていた。
カイドーたちがマーサを相手に昔話に興じ始めたからだ。酔いも皆、相当回ってきている。ホークはこっそりとテーブルを離れ、外に出たのである。
「え?」
ホークはそそくさと隠れながら裏口からマーサの宿へ入っていく黒装束の人物を見た。これがサスペンスドラマんなら、大抵は推理をミスリードさせるための登場人物の行動である。
その人影はドアの角に裾を引っかけ、派手にコケた。
(静かな夜なのに、騒がしい奴)
「今のサラね? 何やってんのかしら?」
ホークの後ろに、いつの間にかグラが来ていた。
「さあね。」
ホークは興味無さそうに呟いた。グラはサラが入った裏口の扉の方向をじっと見ている。少しサラを見る目に怯えが走っている。
「・・・・何か話したいことがあるの? お姉ちゃん?」
「子供みたいな口調はもういいわ。貴方がラグナロクの転生者だって事は、皆が納得している。グラでいいわ。」
「そう。」
ホークはつまらなそうに肯定した。
「・・・・ねえ、あの娘の事だけど・・」
ホークは口元に人差し指を立てた。
「そっとしといてあげれば。本人も自覚が無いようだし。」
「どうして? 貴方は彼女が怖くないの?」
神魔72柱とは言うものの、彼らも時には死を迎える。そして転生するのだ。ある者は人間に、ある者は魔物になり、特別な形態を持つ者は覚醒すると、そこから変異していく。グラはサラがAd=ギラーラの転生者ではないかと疑っていた。そしてホークはそれを肯定した。
「ん? 今のところは。サラがどうなるかは当の本人ですら分からないと思うよ。」
「どうしてそう言い切れるの?」
「コネリーだ。」
「え? 誰の事?」
「オイラは正確にはコネリーという人間の転生者なのさ。ラグナロクとして死を迎えてからの転生はホークが初めてじゃない。ホークの前はコネリーと言うただの農夫だったのさ。」
「そんな事・・・でもラグナロクとして転生して、その・・コネリーは何をしたというの?」
「別に。普通に育って恋をして結婚をし、6人の子供を設けた。己が転生者だと悟った時は死ぬ間際だったのさ。<ああ、俺はラグナロクの転生者だったんだな>って。いろんなことがあったけど、平和で楽しい人生だったよ。」
グラには、一瞬、ホークの顔が老齢の農夫のように見えた。
「全てではないけれど、オイラにはラグナロクの記憶も、コネリーの記憶も残っている。そして覚醒前のホークとしての記憶もある。その全てがオイラの人格を形成してるんだ。何もラグナロクだけが特別じゃない。特別なのは魔法と戦闘の経験や能力は決して消えずに転生者に受け継がれるってだけの話さ。そして、転生者として覚醒しなければ、転生前の記憶が蘇ることは無い。」
デジャヴュ(既視感)というものは誰しも覚えがあるだろう。もしかしたら貴方も本当は転生者なのかもしれない。例えが違うかもしれないけれど、解離性同一性障害の人格がうまく混ざり合った人格とでも言うべきだろうか?
「カイドーも違和感を覚えているようだけど、今はそっとして誰にも言わないでいて欲しいんだ。サラが普通の人間として生涯を終えるなら、それは喜ぶべきことだと思うよ。本人にとってもね。」
「そんな物かしらね・・・。」
グラは何となく落ち着いたように見える。
「でも、もし覚醒したら?」
「その時はその時で考えるさ。」
ホークは他人事のように呟いた。
「俺は自由うぅぅぅだあああ!!!! このホークの心臓がある限り! あの鬱陶しいD=メーテルの呪縛も、クソ生意気な小僧にも金輪際会う事はないんだぁあ!!」
ユンは月に向かって吠えていた。
今は黒豹の姿だが、ごろんと仰向けに寝転がっている。
(けど、少し退屈だな・・・。)
細い三日月は青い光を注いでいる。雲もわずかに流れるだけで、星が嘘のように溢れていた。
静かな夜である。
ユンは捕食動物ですらないから、生命を維持するために狩りをすることもない。ニヤニヤとほほ笑んではいたが、どこか空寒い笑みであった。
その時、月の光を何かが遮った。
(ドラゴン?・・か?)
光を遮ったのは、ユンのいる断崖絶壁の上空を飛ぶ蛇型のドラゴンだった。
ユンは素早く跳び起きた。何故と言う理由は無い。獣がほんの僅かな物音に反応して起き上がるように反射的に起き上がったに過ぎない。そしてそのドラゴンをじっと凝視する。
(人か?)
ドラゴンの前脚には人間の子供が掴まれていた。
(待て、俺は人間を助ける理由なんざ、これっぽっち・・)も、ねえ!」
・・と叫んだ瞬間、ユンはドラゴンに向かって一直線に突進していた。
(なんだ、なんだ、なんだ、これもヤツの呪いか!?)
ユンは素早くドラゴンに体当たりを喰らわせると、その衝撃でドラゴンは掴んでいた子供を離してしまった。ユンはその子を口でキャッチすると、器用に子供を再び放り投げ、自分の背中へと乗せた。子供には体温があり、わずかに鼓動も感じる。まだ死んではいないようだった。
蛇型のドラゴンは急襲に驚いたものの、すぐさま体制を立て直してユンと対峙した。銀の鱗に覆われたそのドラゴンは激しくユンを威嚇する。
「やめろ、ギンター。」
よく見ると銀の龍の背に乗っている者が居た。黒髪の女だが、額に2本の角が生えていた。
(魔人か・・。まずいぞ、ホークでも居りゃ・・・なんであいつの顔なんか!)
ユンは内心焦っていた。子供を背中に乗せたままの状態では勝ち目は無かった。
「シトリーか。ふん!まあいいだろう。どうせ子供は血が少ない。ここで遊んでる暇はない。」
背中の魔人が軽くドラゴンを蹴ると、ドラゴンは踵を返して立ち去って行った。
(ふぅ~。どうなる事かと思ったぜ。・・・・でもこいつはどうしよう・・?)
背中の子供はすやすやと眠っていた。
翌日、マッシはエストロとの約束通り、瞬間移動魔法陣を使ってポッターの隠れ家へと旅立っていった。
そして何事もなく、二日が過ぎた。
コロナ禍で、ついに我が家にもやってきました。自分は何ともありませんし、陰性なので自宅待機を余儀なくされております。普段は仕事で忙しい毎日を送り、とんでもなく突然降ってわいた休みをどう過ごすか、ゆっくりのんびり過ごそうとか考えていたものの、予想に反して忙しい毎日を送っております。家事も普段はやらない大掃除のような事ばかりしてるし、検査薬を買いに行ったり、人の少ない時間帯に食料品を買いに行ったりと、のんびりできる時間はそう多くありませんでした。
でも、なんだかこんな生活も自分には性に合ってるみたいです。これが書籍化されて、アニメになって、印税で暮らせるようになったらこんな暮らしが出来るのでしょうか?
まあ、それでも苦しいのかもしれませんけどね。
次回はバトルに突入します。旨く書ければいいんですけど、お楽しみください。




