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魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
27/63

アレイスターには手を出すな!! 壱

 やっと新章突入です。もう彷徨う死体は出てこないと思います。新章突入で新キャラも多数登場いたしますので、ご期待ください。

 それと、伏線の回収と言うべきか、新たな伏線と言うべきか、物語は更に混沌の深みへと落ちて行きそうでございます。今章はさらに説明臭くなるやもしれませんが、ご辛抱ください。

「くぉーらああ! いつまで寝てンだい、ガキのクセに!! とっとと起きて、メシ食っちまいな!」

 ドカンとという衝撃音と共に、ドアが開くと、暴風のようにまくし立てるオバサンが入ってきたのである。

「えぇ~~、今、何時ですかぁ・・。」

寝ぼけ眼のサラは、目をこすりながら起き上がった。

「もうとっくにお天道様ぁ上がってるよ。さっさと下に降りてきておくれ!」

「宿屋でしょ~。朝ごはんはいらないから、も少し寝かせてくださーい。疲れてんですぅ。」

「疲れてんですぅ~だと! このマーサ様のスペシャルスタミナディナーを平らげて、ゆっくり寝たンだ。体力全開で回復してるはずだよ! つべこべ言わずに下においで! いう事聞かないと、晩飯も抜きだよ!!」

 ドカンと二度目の衝撃音。暴風は去った。

 ベッドの上でサラがため息をついた。

ふと、隣のベッドを見ると、昨日あれだけ大酒をかっくらい、ものすごい(いびき)をかいて眠っていたはずのグラがいない。ベッドから落ちたのかとも思ったが、ベッドがきちんと整理されているところを見ると、すでに起きて朝食を食べているに違いない。

 サラは伸びをして、大きな欠伸をした。

 

 昨日の夕刻。馬車の中に作っておいた瞬間移動魔法陣(ゲート)が開き、グラとマッシ。そして瀕死のドレイクとユンが帰ってきたのである。ポッターとエストロはリモネージュへ戻り、戦闘のあったホーリーの小屋の周りを偵察に行った。後でポッターに聞いた話によると、既にロアの軍団は撤退しており、魔物の死骸がゴロゴロと転がっていたのだが、そこでエストロはピッコローレ、ルシンバ、ムラドの無残な死骸を見つけ、呆然と立ち尽くしていたという。

 帰ってきた一行は、ユンの事を考え、町はずれにあるマーサの宿屋に泊まることにした。コールレアンの町は・・・というより規模的には村なのだが、村全体に魔物が入り込めないよう結界が敷かれている。結界とはいうものの、微弱な物で魔物が入ってくれば居心地が悪い程度の物だ。ただし、魔物が入り込めば直ちに修道院に知れ、魔物狩りが行われる。賞金稼ぎが魔物を連れ込んだと知れれば、大問題になるのは必須だった。ただ、ユンは人間の姿に戻らず、ここにも泊まらず野宿している。

「オレは自由に生きる。もうお前とはおさらばだ!!」

ユンはホークのダミー心臓をぶら下げて、帰って来るなりどっかに飛んで行ってしまった。

「・・・・あ、それ。もってもあと5日くらいだよ・・。」

  と、ホークが小声で言ったが、ユンには当然聞こえなかっただろう。

 マーサの宿屋は町はずれにあり、結界の外に建っていた。主人はさっきの暴風の主でマーサという。元々は賞金稼ぎの女戦士で大女だ。同じ戦士の亭主と引退して宿屋を始めたのだが、採算度外視の料理とあけすけなマーサの性格が好きで、ここに泊まる賞金稼ぎはけっこう多い。


 サラが下に降りると、すでに皆の食事が終わりに近い状態である。

「なんだ、今頃起きたのか?」

マッシは呆れたように言った。サラは更に不機嫌になる。低血圧なのかもしれない。

「どーせ、あたしは寝坊助ですよーだ。」

「わしらは一休みしたら、修道院へ行くがお前さんはどうするかね?」

席に着いたサラは、パンに手を伸ばしかけてちょっと考え込んだ。ギース教には何の興味もない。でも、魔導書には興味がある。行ってみたい気持ちはあったものの、気分は乗らなかった。

「お前、これからどうーすンだ? 魔法使いになるなら、ギース教に入信して、修道院に入っちまうのが手っ取り早いぜ。」

「そんなに急ぐことはねえよ。俺らと旅しながら少しずつ覚えてもいいんだ。」

「何しろ先生が優秀だからね。」

 グラが食後のホットミルクをすする。

ふと、テーブルを見回すとホークがいない。まだ眠っているのか?

「ホークは?」

「小僧ならとっくに食い終わって、町に行ってるよ。」

「どうしようかなあ~。」

 サラはパンにかじりついた。

「サラ、それじゃあ貴方、私に付き合わない?」

「グラさんは行かないんですか?」

「私は破門になって出入り禁止だもの。行く訳ないでしょ。それに行きたくもないわ。」

「じゃあ、どうするんですか?」

「とっておきの場所があるのよ。」

グラはムフフとほくそ笑んだ。


 そのころホークはコールレアンの町をぶらぶらと散策していた。

 コールレアンの町は、コクトーという休火山の麓にある。エリア火山の麓にあったカルデラ湖のように、ここもその湖が堆積した土で出来た土地である。干上がった土地は肥えた土に恵まれ、農業に向いた土地柄ではあったが、それよりも盛んなのは窯業であった。地面を掘れば、粘土質の陶芸に向いた土が眠る場所がゴロゴロあるのだ。町のほとんどの人が何らかの形で陶芸に関わっていると言っても過言ではなかった。ホークはブラブラと歩きながら、店先にある陶器を眺めていた。

「小僧、焼き物に興味があるのか?」

とある店先で、浅黒い中年の男に声をかけられた。どうやらこの店の店主らしい。

「うん。まあね。いろいろ見てきた中じゃ、おじさんの所が一番だね。」

「そうか、それが分かるか、小僧。」

店主の男は褒められたことに気をよくして破願した。

「ねえ、こっちは何?」

「土鈴だよ。知らねえのか?」

「うん。きれいだなと思ってさ。」

「そうか。こいつは息子が作ってんだ。お前、焼き物に興味があるのか?」

「うん。オイラもなんか作ってみたいなあとか思ってた。」

店主のオヤジは、ホークをマジマジと見つめた。

「小僧、お前は賞金稼ぎか?」

 少年でも特別な才能を持つものは賞金稼ぎになっている物もいた。

「うーん。賞金稼ぎの人たちと一緒に旅をしてきたけど、別に賞金稼ぎって訳じゃないよ。」

「なら、何やってんだ?」

「そうだなあ。冒険者っていうのとも違うしなあ。」

「要するに、無職の小僧だろ。トニー、ちょっと来てみろ。」

「なーに。父さん。」

家の奥からホークと同じくらいの年頃の少年が現れた。少年は金色の巻き毛に透き通るような白い肌をしている。父親が浅黒い肌をしているのは日焼けのせいか。

「この子に、焼き物の事を少し教えてやれ。」

「え? なんで?」

「この年になって、ブラブラしてるんだ。なにか手に職でも付けてやらんとな。それに、お前の土鈴をきれいだと褒めてたぞ。」

トニー少年はホークをマジマジと見た。

「ふーん。なるほどね。ついてきな。」

「え、いや、別に陶芸をやりたいわけじゃ・・・」

「いいから。とっととトニーに習え。トニー、俺は土を掘ってくるからな。こいつを一人前に仕込んでやれ。」

 どんと背中を押されたホークは転び気味にトニーの後をついて行った。


「驚いただろ。」

「まあね。」

「父さんはいつもあんななんだ。適当にあしらっとかないと、怒り出すからな。俺はトニーだ。俺は仕事があるから、好きにしてな。」

「ありがと。オイラはホーク。よろしくな。」

 トニーは粘土をこね始めた。ホークはそれをじっと見つめている。

「なあ、それっていつまでこねてるのさ?」

「中の空気が抜けるまでさ。空気が入ってると、焼いたときにひびが入るからな。」

ホークは造形された粘土が並べられている部屋をゆっくりと歩き回る。

「ねえ、これは何? 人形みたいだけど。」

「ビスクドールさ。たまに大金持ちから依頼が来るんだ。コールレアンでもそいつを作れるのは父さんだけなんだ。宮中にも納めてるんだぜ。」

トニーの顔は自慢げである。

「ふーん。すごいな。なあ、これって他の陶器と違うみたいな気がするな。」

「分かるか? それは陶器じゃなくて磁器なんだ。」

「磁器?」

「岩の粉を混ぜて高温で焼き上げるのさ。」

「よく分からないけど、なんかすごそうだな。」

じっとビスクドールを見つめるホークを見て、トニーはこねる手を止めた。

「お前もやってみるか?」

「いいのか?」

「いいよ。どうせ今は暇だし。粘土は腐るほどある。」

ホークはトニーに促されるままに、トニーの向かい側に座った。トニーは練り終えた粘土を半分にちぎると、ホークの方へ押し出す。ホークはその粘土の塊に恐る恐る手を伸ばす。

「巧く作ろうなんて思うなよ。好きな物を作って見ろよ。」

トニーは土鈴を作りながらホークに話しかける。

巧く作ろうと思うななどと言われても、何かを作り始めたら、誰しもうまく作りたいし、褒められもしたい。

「出来たぞ。」

「なんだそれ、豚か?」

「・・・まあ、そんな豚だ。」

 ホークはユンを作ったつもりらしい。

「なかなかうまいじゃん。でも、どうして豚に蝙蝠の羽がついてるんだ?」

「いや・・・飛べないかなあとか思ってさ。」

「発想がすごいね。」

 別に褒めた訳ではなかったが、その一言がホークの創作意欲を掻き立てた。

「出来た。」

「それ、何?」

「マーサおばさん。」

 その人形のような物は、我々の目から見れば<遮光器土偶>そっくりである。

「ふーん、面白い形してるな。それもっと作れよ。俺が焼いてやる。もしかしたら物好きが買っていくかもしれないし。」

 なんとなくディスられてるような気もするが、ホークはその言葉を真に受け、残った粘土と格闘し始める。ものの2時間で20体もの<マーサおばさん>の人形を作り上げたところで、ホークはダウンした。(飽きたんだな、要するに。)

「なかなかいいんじゃない。」

「これって、すぐに出来るのか?」

「まさか。最初は天日干しだよ。それから素焼きにする。」

「そーかー、オイラの作品が店先に並ぶのか?」

「父さんがいいって言ったらな。」

「・・・・お前、親父さんの事、好きなんだな。」

「・・まあね。父さんは俺の自慢だからな。」

 そういうトニーの顔は誇らしげだった。



 本来であれば、教会内部に魔物を持ち込むなどという事は許されるべき行為ではない。しかし、ラグナロクの転生者の動きを知るためには仕方のない事だ。西の大司教フェルマーの執務室の中にガラスのケースに入れられたカスタがいる。ほとんど動くことのないこの魔物は精巧な置物のようにも見える。

「ん? 定時連絡か?」

フェルマーはゆっくりと立ち上がるとカスタのガラスケースを取って、自分の頭の上に乗せた。

 最初はおっかなびっくりだったのに今ではカスタに触ることに恐れは無くなっていた。

ただ、触れば確かにリオネットと会話できたものの、なんだか遠くで話しかけられているようで、よく聞こえない(?)感じだったのが、頭に乗せることでクリアーになることに気づいてからは、そうするようにしていた。別の意味でも人には見られたくなかった。

「どうした? 何かあったのか?」

「父が大敗を喫しました。ラグナロクの一行のドレイクが重傷を負ったようです。」

「ラグナロクはどうしている?」

「こちらは今、コールレアンに滞在とのことです。

「なるほど。分かった。また何かあったら知らせるように。」

「承知しております。」

リオネットとの会話が切れた。

フェルマーはカスタを元に戻すと椅子に座って深くため息をついた。会話している間は、カスタが会話者の精気(魔力)を吸うからだ。大した事は無いが、少しばかり疲労する。軽いランナーズハイのような感じにもなる。

 ドアをノックする音がして、司教のポーセリンが入ってきた。

「大司教様。そろそろお時間でございます。」

「そうか、今日は会議があったのだったな。」

 ポーセリンの先導で教会の地下へ続く螺旋階段を護衛の衛士と共に降りて行く。最深部には公式(オフィシャル)瞬間移動魔法陣(ゲート)がある。そこから教皇のいるマヌルカン教会へと行くのだ。

 フェルマーがマヌルカン教会に着くと、既に残りの大司教たちは集まっていた。

「すまぬ。遅れたかな。」

「まだ、会議の時間にはもう少しあるよ。」

東の大司教アレクス=グロダンディークが答えた。

「早く着く方が最善だろう。君はいつも遅れて来るな。」

「落ち着き給え。教皇がお見えになる。」

南の大司教ライプニッソ=フーリエを北の大司教フィポナッチが諫めた。

フェルマーが席に着くと、教皇のオイラー=フォン=ノイマンが現れた。

「ごきげんよう。皆は息災かな?」

「教皇の威徳を持ちまして至極平穏でございます。」

フェルマーが間髪入れずに答える。

「ランスロットの事は、皆には初耳であろうと思われるが、フィポナッチ大司教からランスロット城が壊滅し、フェリックス=ランスロットを始めとして多くの犠牲者がでたという報告があった。」

議場が少しざわついた。

「われらは聖職者ではあるが、信徒の安全と平穏を脅かす”ロアの軍団”を放っておくわけにはいかぬ。」

「教皇。私の独断ではございましたが、竜騎兵団(ドラゴンウォリアーズ)を動かしました。第1兵団をフリーシア王都の警護。第2第3兵団をマヌルカン方面の警護に当たらせ、第4兵団がシュルツの町の調査に赴いております。こちらについては、いずれ詳細な報告が。」

 フィポナッチは教皇の右腕を自負している。竜騎兵団はフリーシア王の直轄部隊ではあるが、それは名目上の事で、実際はコールレアン修道院を掌握している北の大司教の直轄である。王といえども、北の大司教の命令を優先させざるを得ない。

「教皇はサンクレアをお忘れか!?」

 焦れたようにライプニッソが云った。

北にコールレアンあれば、南にサンクレアあり。と言われ、エウロパの南にはサンクレア修道院があり、ここでは魔法に頼らぬ武闘派集団の養成所があった。ただし、サンクレアはフリーシアの隣国スヴェン王国にあり、武闘派としての兵団4千騎を持つ大兵団である。

「マヌルカンの警備なれば、わがサンクレアにご指名いただきたい。」

「まあそれも道理ではあるが・・。」

口を挟んだアレクスをライプニッソが睨みつける。フィポナッチに後れを取ったのが余程悔しいらしい。しかし、アレクスは動じることなく言葉を続けた。

「火急の事ゆえ、フィポナッチ大司教の判断は正しかったと私は思います。竜騎兵団はとにかく機動力が頭抜けておりますから。以後は徐々にサンクレアを割いてマヌルカンに常備させるのが良かろうと思われます。」

「・・・・分かった。アレクス大司教の助言に従うとしよう。」

「では、1/4をまずマヌルカンへ送ります。」

「では、サンクレアがマヌルカンに着いた事を確認の上、竜騎兵団2部隊は撤退させることにしましょう。」

「それについてはそのようにされるのが賢明でしょうな。ただ、現状を考えますと、ロアの軍団がどこに現れるのかは一切、謎です。どのような目的を持って戦いを仕掛けて来るのか・・・。例えばランスロット城を壊滅させたと言われましたが、あそこを壊滅させたところで、そこを拠点とするわけでもなく、人間のように領土を増やすような目的もなさそうです。かと言ってランスロッドが彼らにとってどれほどの脅威なのかも判明しません。急襲であったとはいえ、ランスロッド城が一夜で灰燼に帰したという事は、彼らにとっては取るに足らぬ城であったとも言える訳ですから。」

アレクスの言葉に皆が一様に黙した。確かにそうなのだ。敵の意図が掴めぬうちはむやみに動くべきではない。ただひたすら攻め込まれるのを待つ気もオイラーにはないらしい。

「なるほど。では、フィポナッチ大司教。」

「はい。」

「竜騎兵団の第2、第3兵団はマヌルカン警備が終了次第、コールレアンへは戻らず、東西の大司教の元へ転属警備とする。災厄が起きた場合、その機動力を生かして敵に当たるが良い。また、サンクレア兵団は残りの1/3を全国に放ち、ロアの軍団の拠点を探索せよ。そして奴らの意図を探り災厄に備えよ。」

「我がサンクレア騎士団へお任せください。」

「私とフェルマー大司教は信徒から情報を集め、ロアの動きを探る事といたしましょう。」

「そうしてくれ。」

「お待ちを。」

 今まで出番の無かったフェルマーが口を開いた。

「ロアの事はそれでよいでしょうが、もう一つの気がかりは如何いたしましょう?」

 そうホークたちの事である。






 夏のホラーに4篇投稿したせいもあるんですけど、ギース教の事を書くにあたり、前のヤツを読み返して資料を作成しなおししないとヤバいぞ。っと思ったのが遅れた理由です。本来であれば、7月の下旬くらいにアップ出来たんですけど、クロがニャーニャー鳴くんです。困りました。猫なんか飼うんじゃなかった・・・とその時は思っても、やっぱりかわいいですね。ではまた。

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