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魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
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ホーリーの災難 1

ホーク様御一行は、エリア火山で二手に別れ、ドレイクは伝説の十賢者の生き残りのホーリー=ガーフィールドのもとへと向かった。そしてホークはコールレアンへ十秘宝の一つを求めてコールレアンへと旅立つのであった。

「イィィーヤッホオォオオ!!!!」

(はしゃぎ過ぎだ! 愚か者め。)

「やっぱ、空を飛ぶってのはこーでなくっちゃあ!!」

「浮かれ過ぎて暴れるなよ。そうでなくてもヴィオーラはまだお前に慣れてないんだ。」

 エストロとドレイクは今、空の上にいる。エストロ自慢の翼竜、ヴィオロとヴィオーラに乗って伝説の十賢者の生き残り、ホーリー=ガーフィールドの住処に向かっている。

 この世界では、人が空を飛ぶことは出来ない。飛行機も飛行船もない。あるのは魔法使いの呪文と翼竜に乗ることだけである。エグランには無かったが、ここフリーシアには翼竜による騎竜部隊が存在する。無論フリーシア軍の精鋭だが、ギース教の大司教直属の機動部隊でもある。

 そもそも竜は人になど慣れはしないのだが、卵を人が(かえ)せば別である。種類にもよるが、雛から人に育てられた竜は人に懐き、馬のように従順になる。

 ヴィオロもヴィオーラもエストロが育てた翼竜で、ヴィオロは漆黒の竜でオス。ヴィオーラはアルビノのように真っ白な白変種のメスである。2匹とも特製の(くら)(くつわ)を付けられて人を乗せられるよう訓練されている。

 翼竜の種類にもいくつかあるが、ヴィオロとヴィオーラは通称猫足竜(キティーフット)と呼ばれる種で、足の先が丸く、通常は猫のように爪を隠していることから”ツースレス”ともいう。性格は温厚で戦闘には向かないのだが、持久力と速度は翼竜の中でも群を抜く。食性は雑食とは

言われるが、肉や魚を好んで食べる。ただし、人を襲う事は本当に稀な大人しい竜なのだ。


 エストロとドレイクはエリア火山の四阿(あずまや)でホークたちと分かれ、空から東に向かっている。ホーリー・ガーフィールドは十賢者の一人だが人間ではない。ホワイトエルフと呼ばれる魔物である。エルフは魔物でありながら人間に近い魔物と言われている。俗説によれば総じて美男美女であり、異常なまでに長命なのだそうだ。実際、人と共にいるエルフは大抵が美貌の持ち主で年齢不詳が多い。

 人間社会に関わっているエルフの多くは医師や魔法使いを生業としていて、ホーリーも魔法医師としてフリーシアの東の果てのリモネージュという牧草地帯の寒村に住んでいる。・・・・と言う噂がエストロの耳に入ったのは一月ほど前の事だった。250年前のカオスとの戦いに勝利した後、素性を隠して各地を転々とした後に見つけた終の棲家がそこだったのかもしれない。

 ちなみに250年前のカオスとの戦いでラグナロクに従った10人の勇士たちを”十賢者”と呼ぶが、別に全員が賢者という訳ではない。中には戦士もいれば盗賊もいたし、ホーリーのようなエルフもいたのだ。それでも人々は畏敬の念を込めて”十賢者”と呼ぶのである。

 いかにエルフとはいえ、今の年齢でホークたちと一緒にロアの軍団に立ち向かえるかどうかは定かではないが、十秘宝のありかのヒントくらいはくれるかもしれない。うまくいけば秘宝の一つくらいは持っているかもしれないのだ。十秘宝の存在は知られていてもその全容を知っているのは今ではラグナロクの転生者であるホーク以外にいない。そのホークもすべてを明らかにしてはいない。(作者が考えていない訳では断じてない!)

 一口に十秘宝と言っても、愚者の小箱(フールボックス)のように1種1つだけとは限らないようだが、いったいどれだけあるのかも判明していない。今はまだ分からないことだらけである。

(ちなみに作者がいい加減だからではないぞ!)


 さて、もう少しホーリー=ガーフィールドについて説明をしておこう。


 ホーリー=ガーフィールドの出自はほとんど謎に包まれている。北の国の生まれだと言う者もいれば、エグランの魔の森の出身だと言う者もいて、真実は明らかにはされていないし、今ではいくつもある彼の話についても伝説の域を出ないと言われている。ただ、類稀(たぐいまれ)な能力の持ち主の魔法医師だということだけは確実らしい。


 その彼の伝説によれば、未だに外科手術や麻酔などが未開発のこの時代、しかも250年も昔に魔法による回復ではなく、外科手術や投薬によって多くの人を治したと言うから驚きである。

 彼にはいくつかの魔法能力というものが備わっていたのだと言う。

魔法能力とは呪文による魔法とは少し違っていて、異能者とでもいうべき特殊な能力の事で、その能力を持つ人間を”悪魔人(デビルマン)”もしくはただ、魔人(ジーニー)とも呼ぶ。

 かれの右手には”クロッサスの鈎爪(かぎづめ)”と呼ばれた薄く鋭い鎌のように曲がった鈎爪を出し入れすることが出来、それで切開手術を行い、”アリアドネの糸"と呼ばれる細く強靭な糸を使って縫合を行ったと言われている。その糸は患部の回復とともに消えてなくなり、傷跡すら残さないとも言われていた。

 しかも超一流の魔法使いでもあり、彼の使用した魔法薬や回復呪文については現代でも解明されていない物が多いのだ。


 ついでに回復系の呪文についても蛇足として説明しておこう。回復系の呪文は大きく分けて3つの効果をもたらすものをいう。

 回復呪文(メディック)は傷を癒し、怪我を治す呪文である。もともとは生物が持っている回復・再生能力の機能を高める呪文であって、ホークが剣の山(ソードマウンテン)で負った時のような深手は、呪文の回復力では回復が追い付かずに死に至るし、傷跡も残る。

 疲労回復効果や解毒作用を持つ回復呪文をリルゲインというが、こちらもその生物が持つ潜在的なエネルギーを引き出し、一時的に高揚させたり、痛みを鈍化させたり、体内の毒物を排除したりする呪文である。

 3つ目は通常の魔法使いには使えぬ高呪文(ハイスペル)に分類される呪文で、再生呪文(ウーパール)という。高次元の呪文だけに使用される魔力も大量に消費される。ホークの場合はオートではあったが、あの状態でなくば死んでいたかもしれない。

 いずれにしろ3つとも自身の能力・魔力をベースにして体を治癒する。

 そして呪文には制限がある。再生呪文の場合は再生してしまえば終わりな訳だが、治癒の回復呪文にはそれぞれ時間制限と言うものがある。傷を負った者に際限なく回復呪文をかけて完治させることは出来ても、それにかかる時間は術者の技量や魔力の量、被術者の魔力量、被験者の潜在能力や体力などによってその効果はまちまちである。だから戦闘中は完治することなく戦いを続け、終わってから普通に治療する。魔法使いが医師としての役割を持つという事が、これでお判りいただけるだろう。

 もちろん、魔法の他に薬の知識や、外科手術などが行えれば、完治するのも早いし、後遺症なども免れることも多い。そう言った意味からもホーリー=ガーフィールドは不世出の医者でもあったのだ。




 一方、ドレイクと別れたホークたちは、そのころドミグラスソーの街にいた。ここでエストロの仕立てた馬車に乗ってコールレアンに向かうためである。さすがに徒歩では時間がかかりすぎるのと、移動中でも体を休められるようにとの配慮からだった。

 しかしそこで彼らは思いがけない人物と出会う事になる。


「しっかし、なんであんな思いまでして山越えて来たのか分かんないわよ!」

 サラはご機嫌斜めである。

 なぜかというと、エデンの村からは険しい山道を数日掛け、死にそうになったり、怪我までしてやっとたどり着いたエリア火山だったのに、ドミグラスソーへはたった半日で下山でき、登山道まで整備されていたからである。

「エストロの言っていた店はここだよなあ。」

さっきから何度も言っているサラのグチは聞こえないふりをして、ホークは地図を見ながら馬車屋の店先で立ち止まった。

「だから、この馬車は既に予約されておりまして、お売りすることは出来ません。」

「そこをなんとか、頼むぜオヤジ。」

「何と言われましても、こればかりはご容赦を。」

「金なら倍、いや、3倍出してもいい。急ぎでコールレアンに戻らなきゃなんないんだよぉ。」

 店の中から大声で口論する声が聞こえた。すると、ホークの口元が妙に吊り上がった。

「行こう。」

ホークはサラとユンを促し、店に入った。

「いらっしゃいませ。」

「あ!!」

「あーっ!!」

「やっぱり。」

サラとマッシが驚くと同時に、ホークはしたり顔で右手を上げた。

「なんだ、ホークじゃないか。元気だったか?」

マッシは相変わらず明るい笑顔でホークたちとの再会を喜んでいた。

「いったいどうしたのさ。随分羽振りがいいようだけど。」

「いや、なに。馬車が壊れちまってな。コールレアンに行きたいんだが、馬車が無いんだよ。ここに1台完成品があるんだが、先約があるとかで売っちゃくれねえんだ。」

「当たり前でしょ。」

店主が訝った。

「なるほどね。」

「流石にこの老体では、歩いて行くのはきつくてのぉ。」

ニコニコしながらカイドーがホークたちに手を振った。

「じゃあ、オイラが何とかしてあげるよ。」

 ホークはつかつかと店主の傍に近づくと、エストロの手紙を見せた。

店主はその手紙を読むと「ジョバンニ!」と大声で小僧を呼んだ。

「へーい。」

「裏から一番良い馬を連れて来るんだ。大至急この方たちに馬車をしつらえるんだ。」

「へい。分かりました。」

ジョバンニと呼ばれた小僧は、顔を出しただけで、すぐさま裏手へと去っていった。

「まあ、先約ってあなたたちの事だったの?」

グラが驚いて目を丸くした。




「良い子だ。これからは、お前がこれを背負っておくれ。」

老人は小さな古ぼけたポシェットを膝の上に抱いた猫の背中に背負わせた。猫は少し嫌がるそぶりを見せたが、大人しくそのポシェットを背中に負った。

「どうかな? 苦しくはないぢゃろう。それはお前用に作り直したものだからのう。よーく似合っとるよ。」

老人はその猫の頭をやさしくなでた。

猫は目を細めると、グルグルと喉を鳴らし、老人の膝にもたれて目を閉じた。

 老人はホッとしたように深く吐く。頭部がやや禿げ上がり、顔には真っ白になった長い顎鬚(あごひげ)と深い皺が刻まれているものの、かつては相当な美貌であっただろうと言う片鱗がうかがえる。薄くなった長髪の隙間から覗く両耳の先は、人の耳とは違って尖っていた。

 老人は猫の背中を撫でながら小さな声で何事かを呟き続けている。それは小さい小さい声で、誰にも聞き取れないほどだったが、慈愛に満ちた気持ちが伝わってくるようなそんな呟きだった。

 猫はスースーと寝息をたてはじめ、体がゆっくりと丸くなっていった。時々尻尾をテンテンと振る・・・。


 老人はやがて静かに両目を閉じた。

 スースーと吐く息が少しづつ弱くなっていく。

 老人の首が力を失い、己の肩にもたれ掛ってゆく。


 やがて、猫を撫でていた老人の手が止まった。

 猫は目を開けて不思議そうに老人の顔を見上げると、にゃーんと一声鳴いて、部屋の小窓から外へと出て行った。


++++++ 次回予告 +++++


「痛いよ痛いよ痛いよ痛いよ痛いよ。ウォオオオーーーーン!! 痛てえええ!! 光が光が突き刺さるウうぅぅうう!! 痛ええええええええ!!!!  光が・・・光が痛えーーんだよぅぉぉ!!! ウリィィイイィィィーーー!!!」






JoJoの黄金の風を一気に見ちゃいました。

そんなわけです。

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