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魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
16/63

エリア火山に連れてって! V

 ホーク様御一行はキャンプの途中であったそうでございます。(第1話参照)そこで襲ってきたのがゲラをはじめとする。ロアの軍団のお嬢様4人組(みんな魔物ですが)でございます。さてさて、どうなったのでありましょうか・・・?


「くそうぉ・・完璧な作戦だったのに・・!」

 赤毛の魔物が悔しそうに呟いた。下腹部から下にかけて(ひど)い火傷を負っている。

「待ってて、ゲラ。今、回復呪文をかけるから。」

セイレーンのビショーが患部に手を当て回復呪文をかけた。ビショーの能力は歌声だけではない。回復系の魔法も得意だった。魔物にしては性格は温和で、人型ゆえによく見ないと魔物であるとは分かりにくい。

「どう、傷の方は?」

部屋に入るなり、ハーピーのワールウが心配そうに聞いてきた。

「問題ない。ビショーの呪文でだいぶ楽になった。」

「念のため、ゲートは消してきたわ。ここまで奴らが来ることはないよ。」

虫型の妖魔、ニコが後ろを気にしている。元はトンボなのだろうか、人の顔に大きな複眼を持っている。複眼の割には心配性らしい。

「被害はどれくらい?」

食人鬼(グール)は全滅ね。それと魔法使いが一人殺られた。」

「封呪呪文が破られたから、そうじゃないかと思ってたけど・・他の魔法使いは?」

「あたいらより先に逃げ帰ってきてるよ。たくぅ、シンガリくらい務めらンねえのか、やつら。」

「仕方ないよ。エイミー様の部下なんだし。」

ニコがブルっと背中を震わせた。

「あらあら。ずいぶん酷くやられたのね、お姉さま。」

  フランス人形のような金髪の少女が屈みこんでゲラの傷を見ていた。

ゲラ以外の魔物がその一声でゲラから離れた。ゲラ以外は皆、エイミーの周りに(かしづ)き、額に汗を光らせていた。

  当然現れたその少女は、金髪に巻き髪をきちんと整えて、赤い大きなリボンを付けていた。だが、赤いドレス姿であっても、人間の少女でないことは一目見て分かる。微笑む姿はあどけない少女そのものだが、眼が赤く、時折真っ赤な唇から(のぞ)く八重歯の先がナイフのように鋭く尖っている。

 しかし、いったい何時(いつ)ここへやってきたのか? 複眼を持つニコですら、エイミーが近づくのを察知できなかった。

「エイミー様、申し訳ございません。お預かりした部下の大半を失ってしまいました。あの小僧、思いの他強く・・・」

「いいのよ。どうせあいつらクズばかりだから。」

ワールウの詫びを遮ったエイミーはにこやかにほほ笑んだ。

「お姉さまがクズばかりを引き連れて、何をなさるのか楽しみにしていましたのよ。でも。やっぱり。クズを引き連れたのがグズでは結果は分かり切っていましたわね。」

ゲラは悔しそうにうつむいた。

「お姉さまはグズなんですから、夢など見ずに、いつものように私のお洋服を作っていればいいのに。何をお迷いになったのかしら。」

「それはエイミー様といえど、あまりに・・ガァ!!」

ニコの喉にエイミーの左手が食い込んでいた。

「虫の分際で、私に意見?」

「グッ、ギャアアアア!!!」

ニコの喉から煙が立ち上ると、肉が焼けるような臭いが部屋中に充満した。

「お、お許しくださいエイミー様。」

ビショーが必死でエイミーに(すがり)りつく。

エイミーの手がニコの喉から離れ、ニコは焼け焦げた喉を押さえてのたうち回っていた。

「いいわ、ビショーはいい子だから許してあげる。後で私の部屋に来てね。最近うまく眠れないの。また子守歌を歌ってくれる?」

「しょ・・・承知いたしました。」

「じゃあねえ。待ってるから。」

エイミーはスキップしながらゲラの部屋を出て行った。

「ニコ、大丈夫? 待ってて、今呪文を。」

ビショーはニコの喉に手をかざし、回復呪文をかけた。

「恐ろしい・・・。」

ワールウが呟くと、ビショーがゾクリと背中を震わせた。



「お前、こいつが敵だと感づいていたのか?」

「確証は無かったんだけどね。蛇が嫌いな人もいるから・・。」

ドレイクは足元に転がる死体を見てそう言った。その死体はポンズの村まで、ホークたちを運んでくれたハンスだった。

「でも、人間なんでしょ、この人。人間なのにロアの軍団に入ってるの?」

サラの疑問も当然かもしれない。エグランを襲ったロアの軍団は、全て魔物で構成されていたからだ。

「ただの協力者かもしれない。」

「違うかもしれない。」

「ソレニシテモ、貴様! ワザト俺カラ離レタナ!」

「そりゃ、ぐっすり眠ってる方が悪いンじゃん。」

 すでに人間の姿に戻っているユンは、ホークの胸倉を掴んで殴ろうとしていたが、必死の形相で歯を食いしばっている。魔界の男爵、シトリーのユンならば、怒りに任せてホークをズタズタにすることも簡単だろうに。

「クク・・ゼーハー」

 ユンの仮面には地母神Ⅾ=メーテルの縛りがかけられている。ホークから500m以上離れると仮面が萎み、強烈に頭を締め付ける。本体の時は鎖の首輪がユンの首を絞める。ホークに危害を加えようとしても同様だ。


「ホークの力となり、ロアの軍団を壊滅させなさい。その時まで、その首輪が外れることはありません。」

 ユンに首輪をつける時にD=メーテルが言った言葉だ。


「クッソオォオオ! アノ女ァ! タダジャ済マサン!!」

 ユンは激しく吠えた。

頭から湯気の出ているユンを尻目に、ホークはハンスの袖を(まく)ってみた。そこには魔法使いの紋章があった。紋章は魔法使いによって異なるが、この男の紋章は【Ψ】(サイ)だった。

「多分あの時、ユンも気づかなかったようだけど、ロバを繋いでいた木の梢にハーピーがいたんだ。気配を完全に殺してね。そして、ハンスがロバを取りに戻ったあと、静かに飛び去った。」

「それにしてもハーピーなら、羽ばたきぐらい聞こえただろう。」

「さっきのハーピーはフクロウの羽を持っていた。」

 フクロウの羽はギザギザ構造セレーションで空気を拡散し、ほぼ無音で飛ぶことが出来る。

「いったい、何があったのよ? あたしには全然分からないじゃない!」

「サラが(よだれ)を垂らして寝てた時の事?」

  ガツン!

ホークのターバンにサラの鉄拳が吠えた。

「イイゾ、サラ!」

自分では殴れないユンが、嬉しそうに言った。



「もらったァ!」

ゲラの口角が吊り上がる。

水壁防御呪文(ウォール・ベガ)

ホークの喉に鋏の切っ先が届こうという瞬間、地面から吹き上げた大量の水流が、鋏の方向を変えた。その水流でゲラは鋏ごと上空に吹き飛ばされる。

 ゲラは空中で回転をしながら、一本の木の枝に着地した。

「へっ。やるじゃねえか。私のこの攻撃を(かわ)したのは、お前で4人目だよ。」

「そう? 今までろくなヤツと戦ってこなかったんだね、アンタ。」

「黙れ!」

 ホークが突然しゃがんだ。そして、その頭上をハーピーの鋭い爪が空を切った。

「ウソだろ!」

ハーピーは自分の攻撃に自信があったと見えて、驚きを隠せなかった。無音である。無音でしかも夜の、背後からの、空中からの、攻撃! しかもゲラが囮になって敵の注意を引いているのに、ダ!

(ワールウの攻撃まで躱すなんて!!)

氷手裏剣呪文(トゥラーラ)!」

「危ない! ワールウ!」

 ニコが叫ぶ!

その直後にワールウの背後から数本の氷の手裏剣が襲う。

 ゲプラーの0距離とは少し違うが、任意の場所に氷の剣を出現させることが出来るなど、通常の魔法使いにはできない。自分の近くで発生させて撃つというのが常識だからだ。

 間一髪、 飛び上がることのできたワールウは無事だった。ニコが叫ばなければ、背中から串刺しになっていただろう。

 しかしどういうつもりなのか? 躱された氷の手裏剣は、スピードが落ちないままホークにまっすぐ向かっている。

「馬鹿め、しくじったな。」

水壁防御呪文(ウォール・ベガ)

ホークはまたしても水流障壁で、自分の放った氷の手裏剣を空中に飛ばした。

氷手裏剣呪文(トゥラーラ)!」

今度は自分の周りに数十本もの氷手裏剣呪文(トゥラーラ)を発生させると、全方位に一斉に放つ。

ゲラたちは一斉に木陰に隠れた。氷の手裏剣が木の幹に突き刺さる。

「ガアァ!」

 ニコの4本ある腕の1本に氷の手裏剣が突き立った。頭上からの攻撃である。さっき跳ね上げた氷の手裏剣だ。正面からの攻撃を躱すのが精一杯で、頭上からの攻撃にはさすがのニコも気が付かなかった。

「こいつ、ガキのクセに戦いなれてやがる!」

ワールウが吐き出すように言った。

「逃げて、ワールウ!」

ワールウの背後から、またも氷の手裏剣が襲う。辛くも躱すが、それは又、ホークの水流で空中に跳ね上げられた。頭上と正面と背後。三方向からの立体攻撃は、ゲラたちに攻撃させる余裕さえ作らせなかった。

「なんという魔法力・・・。」

 ホークはほとんどその場から動いてもいない。しかもわずか数分の出来事である。

やがて、氷のせいで気温が下がり、水しぶきのせいで霧が発生した。ニコの複眼でもホークの居場所を捕らえるのが難しくなってきた。

「これも計算の内だっていうのか?」

「待って、もうすぐよ。」

ジリジリするようにゲラが答える。だが、あの秘策が果たして間に合うのか。森の中は一面霧に包まれ、お互いの居場所さえ把握するのが困難になってきている。

「普通、こういう多彩な技を繰り出すのは、悪役って相場が決まってるんだけどナァ!」

氷をよけながら、ゲラが笑うように叫んだ。

   そして、

「トゥラー:::::::::::::::。」

  森の中から一切の音が消えた!


 ゲラたちは、相手をホークだけに絞って戦う事を想定していた。

ビショーの歌声も、暗殺食人鬼(アサシングール)の攻撃も、破られても良いと考えていた。仲間を眠らせ、ホーク一人を誘い出すところまでは筋書き通りと言っていいだろう。

 本来なら、ゲラとワールウの攻撃でケリが付くはずだったのだ。だが、それを躱したどころか、彼女たちの目であるニコを負傷させ、攻撃を与える隙さえなくなるとは、予想外の出来事だったのである。

 ただし、ゲラはこの作戦にもう一工夫入れてあった。

相手が強力な魔法使いだという事は、エグランで戦ってきたゲキド将軍から聞いて知っている。魔法使いの武器は魔法だ。それを使えなくすれば、ただの人間ではないか。ただの人間など、片目を(つむ)るより容易(たやす)い。


  そう考えていた。


 ()()使()()()()()()()()()()()()()()がある。

 それが封呪呪文(ムンク)という呪文である。

封呪呪文(ムンク)という呪文は、空気の振動を消す。要するに音波を無効化するのだ。くどいようだが、どういうことかと言うと・・・音が聞こえない。言葉を発しても音にはならないのだ。呪文を唱えることで、強大な攻撃を生み出す魔法使いにとっては最凶の呪文と言っていいだろう。

 しかし、この呪文にも弱点がある。この呪文は一定の空間しか効力を発揮しないうえに、屋外などの開けた場所では効果が無いのだ。呪文の効果は放射状に発生するらしく、これが障害物(屋内の壁や天井)に反射して飽和状態にならないと効力が無いらしい。

 そこで、ゲラは考えた。

効力を発生させる地帯を限定し、4人の魔法使いを四方に配置して、同時に呪文を唱えさせる。そうすることによって特定の地帯だけに封呪呪文(ムンク)の効力を発生させようとした。

 そして、それは成功したのだ!


 一切の無音状態。しかも霧で真っ暗闇。

氷手裏剣呪文(トゥラーラ)の攻撃は止んだが、ホークの居場所も掴めない、ゲラ以外は。

 ゲラは獣魔である。元は犬だから、その嗅覚は鋭い。そして、この機を逃すはずもなかった。音がしないのだから、攻撃は単調で良い。梢から飛び降りたゲラはホークに向かって突進した。

足元が水で濡れている。無音でなければ足音も相当響いただろう。ホークの周りには微かに光る氷の粒のような物がいくつも浮遊しているのが見えた。そしてホークの姿もぼんやりと浮かんで見える。

(「もらった!」)

が! ニコの叫びも聞こえなかった!

「:::::::::::::::ぶない!!」

「え!」

ニコの制止する声が半分だけ聞こえたその時、螺旋状に回転する光の粒が、瞬時に巨大な火球となってゲラにぶち当たった!

「ぐあああーーーー!」

火球はゲラの右の太もものあたりにぶつかると、大きく爆発した。霧が吹き飛び、ゲラの悲鳴とともに、彼女の下半身が炎に包まれた。

「撤退だっ!」

 ワールウがゲラの方を掴んで、飛び立った。ニコも飛ぶ。おのおの違う方向へと飛んで行く。しばらくしてユンが遠くに現れた。

「終ワタノカ?」

人間の姿に戻っているユンが、少し離れた場所からホークに声をかけた。

「遅いよ、ユン。」

 ホークは呪文を唱えると、ホークの周りに浮遊していた光の小さな粒が消え、月明かりにホークの姿がハッキリと見えた。なぜかその姿は、ユンには悲しげに見えた。

「ナゼ、手ヲ抜ク? オマエナラ、一撃デ殺ス。」

ユンの口元が鮮血で濡れていた。四方にいた魔法使いの一人を仕留めてきたばかりなのだ。そして、封呪呪文(ムンク)を担っていた一角の魔法使いを倒した事で、封呪呪文(ムンク)は崩れたのだった。

「んーん。なんか一所懸命だったからかなあ。」

「オマエ、甘イ。イツカ死ヌ。」

 ユンの言葉にホークはニッコリとほほ笑んだ。


「それにしても人間がなぜ?」

眠りから覚めたドレイクとサラも集まり、ハンスの死骸を見つめていた。

「とりあえず、埋めてやろうか?」

ホークがポツンと言うと、サラが続けた。

「そうね。なんかこのままだとかわいそうだし。」

演技だったのだろうが、明るい田舎者のオジサンのイメージが抜けなかったのだろう。わずかな時間を共有した郷愁のようなものかもしれない。不思議に騙されていたという怒りの気持ちは沸いてこなかったのである。

「魔物ハイイノカ? 埋メナクテ?」

ユンがボソッと言う。

彼の言葉に意図があった訳ではない。素朴な疑問だった。

「さあな。俺たちは人間だから、人間の遺体を見れば、埋葬しようという気になる。それが敵でもだ。云わば習慣のようなものさ。」

 死体にはいろんな病原体が宿る。人間は集団生活をする生き物だから、長い歴史の中で死体を始末しないと自分たちにも災いが降りかかるという事を学んだ。それゆえの埋葬なのだろう。

 ハンスの死骸を埋葬し終わった頃には、空が白み始めていた。





 最近、漫画やアニメを科学的に解説するというサイトを時々見るようになった。例えばドラゴンボールの戦闘力53万とはどれくらいの強さなのか検証してみるという、ある意味それは無いでしょと言うようなツッコミなのだが、けっこう面白い。この話でもホークはほぼ無敵である。というか、無敵である。いつか突っ込まれるようなメジャーな作品になれば面白いが、今はただ楽しんで書いているだけである。さすがに毎日書くのは仕事のせいもあって、かなりしんどい。特に冬場は全然書くことが出来ない。まともに毎日書いていければ、今頃は4部くらいまで終わっている筈である。この後のの話も概ねプロットは出来ているのだが、早く文章にしてしまいたい。いろいろとバカなおふざけは入れてあるものの、書いている本人はいたって真面目である。ただのおふざけが、伏線として回収出来るのか? あるいはただのおふざけで終わるのかは本人もよく分からないのだが、とにかく進めてみることとしよう。

 一応、何回か読み返してなおしてはいるのですが、誤字脱字変換ミスは相変わらずあるかと思います。ご容赦m(__)m

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