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魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
13/63

エリア火山に連れてって! Ⅱ

 ホーク様御一行はフリーシア国の南はカブールと言う港町に着かれました。

カブールは南の交易都市でありまして、それはもう大変な賑わいでございます。いろんな人種と飛び交う様々な言語に翻弄されつつ、はたととホーク様はお気づきになりました。

「そういえば、フリーシア語を話せる仲間は誰もいなかったな・・・」と。

もちろんホーク様は天才でありますから、いくつもの言語を話せるバイリンガルでございますので、『どうだっていいぜ、問題はナシ!』 なのでございますが、それではあまりにお供の者がかわいそうだという事で・・・・。

「どーこへ行くって、決まってんだろ! 酒場だよ、酒場ァ。情報収集が冒険の基本だってのは決まってんだろ!」

ドレイクの口調は浮かれていた。

(単に酒が飲みたいだけだ、こいつ。)


  ガツン!!


「痛てえ!」

ドレイクの拳がホークの頭にヒットした。

「なんか言ったか、ホーク?」

「何にも言ってないでしょうが! (たくぅ~。勘だけは神がかってんだよな・・・。)」

「そうか、悪かったな。まあ、気にすんな。」

 なんて奴だ・・と思いつつ・・。

「でもさ、情報収集って言ってもさあ。ちゃんと話せんの、フリーシア語?」

「うっ!・・・」

「国によって言語が違うのは当たり前じゃん。」

「・・・し、心配するな。俺はペラペラだ。」

ドレイクは口とは裏腹に、口元が引きつっているように見えた。

「心配しなくてもあたしが聞いてあげるわよ。こう見えても私はバイリンガルなんだからね。」

サラは生まれ育った土地柄がエグランとフリーシアの中継地点のジモン島だっただけあって、確かに両方の言語を理解して話すことが出来るのだろう。だがジモン島の公用語はエグラン語である。ただ、よくみるとサラの口元がピクついている。

「別にそんなに無理しなくてもいいさ。おいらに任せときなって。」

ホークが二人に軽くウインクすると、裏路地の方へと誘った。


 カブールはフリーシア王国の南方に位置する港町である。

目的地であったシュブールが北の交易都市であるならばカブールは南の代表的な交易都市である。人口はおよそ5万人で南方の国々との交易でいろんな人種が入り込んでいるため、いくつかの人種のコミニュティも形成されていて異国情緒満点である。白人がほとんどのシュブールとは同じ交易都市でも趣がガラリと違っていた。

 船の故障でジモン島に行き、さらに南にのカブールに着いたおかげで、フリーシアの首都バリントンから遠く離れてしまった訳だが、彼らの旅は格別急ぐ旅と言うわけでもない。もちろんロアの軍団(カオス?)の動向は気になるのだが、正体不明である上に、どこから現れるのかも分からない。ホークたちは十秘宝を探す旅ではあるが、ロアの軍団の動向や本拠地を探る旅でもある。その事をカイドーたちに話すと、彼らも協力を申し出てくれた。彼らとはカブールの港で分かれたのだが、彼らはさらに南へ行き、もう少し稼ぐつもりらしい。一か月後にバリンストンの南に位置するコールレアンの街で会おうという事になっている。

 コールレアンにはギース教の総本部と聖魔法士学校があり、賞金稼ぎ(バウンティハンター)たちの総本山とも言える街でもある。賞金稼ぎたちは各地で魔物を退治し、賞金をギース教総本部から報奨金として受け取るのだ。

 最初の予定では、エグランの特使が先行して王に謁見したのち、有力な貴族を紹介してもらったうえで、ホークたちの後ろ盾となってもらうのが目的であった。いずれは賞金稼ぎの集まるコールレアンに行き、情報を収集することになっていた事は確かだ。ただ、船の故障と言うハプニングにより、順番が逆になるだろうとは思う。メンツを重んじる貴族や王族に対して、この行為がどのように受け取られるかは定かではないが、半分以上後ろ盾となってもらってフリーシアを動き回ることは諦めねばならないとドレイクは思っている。しかもドレイクは貴族が大っ嫌いであった。


 木と煉瓦で作られた2階建ての住宅地の路地は、思ったより狭く、思ったより薄汚れていた。

路地は思ったより長く続いたが、次第に薄汚れた人々が路上に目立つようになった。

「・・・こいつは・・ひょっとして・・。」

ドレイクの想像は杞憂となることはなく、やがて現実となった。

 薄汚れた細い路地を抜けると、そこにはバラックがあった。

丸太や汚れた布で雨よけしただけの家とは呼べないような家がいくつも並んでいる。いつ干したのか分からない洗濯物。壊れた桶や廃材。土埃に汚れ、地面に寝転がっている痩せこけた老人。(あるいは動かない者は死体かもしれない)野犬や野良猫が闊歩し、汚物にハエがたかっている。時折、叫び声や博打に興じる歓声が聞こえる。しかし、とても活気があるとは言い難い。その声に、どこか暗い陰りがあるからだろう。

 ホークたちがいる()()は、カブールの貧民街である。

カブールにやってきて、成功を夢見た者たち。犯罪を犯してここに逃げ込んだ者たち。貧民街の人間を食い物にしているギャングたち。そしてあらゆる人種。まさに混沌(カオス)

 バラックの中に、いくつかのきちんとした建物もある。いったいどんな人が暮らしているのだろうか?

 しばらく行くと、闇市があった。

さすがに市場には賑わいがあったが、売っている物は見るからに怪しげだった。

 普通は地元の人間はここには来ない。下手に入り込めばトラブルに巻き込まれるから一般人どころか兵士でさえ近づかない。ここに来る者は大体訳アリだ。一般の商店では手に入らないものを求めて来るのだ。


 ホークとドレイク、そしてユンに動じる様子は全くない。ただサラだけが緊張している。

貧民街の人々の舐めるような視線をねっとりと感じて、サラは心底怯えていた。そして、時折見える痩せこけた子供たちが哀れで仕方なかった。なぜ、子供がこんなところにいるのか?

 もちろん貧民街といえども、そこに暮らす人々がいれば、子供だっているだろう。いるにはいるが、一様に彼らの目つきは鋭く、暗い(かげ)をたたえている。ここにいる子供たちの多くは、ここで暮らす人々の子供だ。彼らの仕事はたいてい物乞いである。中には止むにやまれず犯罪に手を染めたりしている。彼らは常に大人の道具でしかありえない。あるいは商品として扱われるかのいずれかだ。

 この町で暮らす人々は同じように考える。

下層の人間の子は下層の人生をたどる。それが当たり前だと。だからここで生まれた子たちはギャングの親玉になることを夢見る。そしてその多くが夢を果たすことなく一生を終える。中には兵士や商人となり、平穏な一生を送る者もいるが、それはほんの一握りの人々だ。


 彼らは突然入り込んできたホークたちをにらんだ様な目で見据えはしたが、手を出してこようとはしなかった。ホークやサラはともかく、ドレイクとユンに手を出せば痛い目を見そうだからだ。それでも中には酔狂な人間もいる。3人の若者が、刃物をちらつかせながらドレイクたちの前を塞いだ。後ろにも5人ばかり集まっている。

   こういう物語ではお決まりのシーンである・・・。


「おう。お前ェら、どこに行くんだ? お姉ちゃんまで連れてよぉ。」

リーダー格の男が舐めるような目つきでサラを見、手下の連中は下卑た笑いを容赦なく浴びせた。リーダーの男は油で固めた髪型をしていて、仲間の男たちもそれに倣って同じような髪形をしている。

「・・・・・。」

しかし、ドレイクに動じる様子はない。微かに笑みを浮かべ、ポリポリと頭を掻いた。

だからといって、ドレイクは決して相手を舐めている訳ではない。ドレイクたちにとって、この程度の人数では相手にならないのだ。たった3人で数千のモンスターを一度に相手にしてきた連中なのである。いかに凶悪であろうと、相手は人間でなのだ。力も早さも所詮人間はモンスターには及ばない。

突然、一人の男がユンの胸倉を掴んだ。

「おう! 誰に断ってこの道を歩いてんだよ!」

 男は大声で威嚇した。

「ホーク、コイツ殺シテイイカ?」

「殺しちゃダメだよ、ユン。なあドレイク。ペラペラのフリーシア語で、どけって言ってくれよ。」

ホークがにやにやと笑いながらドレイクに言う。

「お。。。おう。」

ドレイクは何か言おうとしたが・・・

  

  ガン!!!


 ・・・鉄拳が先だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 後はご想像にお任せするとしよう。


 15分後、裏路地を抜けた彼らは、高く大きな塀のそびえる通りに抜けた。カブールにあるギース教の教会の塀である。

「やっぱりね。・・・さて中に行くべきかそれとも・・。」

「ホーク。教会でお祈りでもするつもりか?」

エグランにもギース教はある。ただ、フリーシアのように国教となるほどの勢力はない。

 ギース教は始祖ギース=クエストを神とする一神教である。

およそ200年ほど前に始まったギース教は、迫害を受けながらも下層の人々の支持を受け、次第に勢力を広げていった。ギース教の始祖ギース=クルストは、偉大な思想家であり、聖者だったと言われているが、組織が拡大するに伴い、すべての聖職者が聖人であるとはいいがたい。特にフリーシアでは政治の中枢にまでギース教の権力が及んでいると言われ、政策の決定にもギース教の意向が反映されると言われている。

「墓地に行こう。きっとこっちに共同墓地があるはず。」

 ホークは迷うことなく、歩き出した。

小走りにサラがホークの横につき、歩調を合わせる。

「ホーク、さっきの子たち・・。」

「裏路地の子供の事かい、サラ。」

「・・・うん。あの子たちなんとか・・・。」

「ムリだね。一人二人助けてもどうしようもないよ。それにオイラたちにはできない話だ。」

 ホークは即答した。

「でも、あんたなら・・・。あんたぐらいの魔法使いなら・・。」

「魔法は万能じゃない。それにさ、人に限らず、生き物ってのは群れを作れば、否応なしにカーストが形成されるんだ。しかも人には貧富ってやつも加味される。」

「悲しい話だが、それが現実だな。」

ドレイクが話に割って入って来た。

「俺もかわいそうだとは思うが・・俺たちにはどうしようもないさ。 難しいことは分からんが、政治とかでなんとかなるとも俺は思えねえ。」

「じゃあ、貧乏人は、苦しみながら生きて、苦しみながら死ななきゃなんないって事!」

 サラの目が少し充血していた。

「そうとばかりは言えないけど。」

「俺はよ。いや、俺たちが今できることは、やつらのような子供をこれ以上増やさないようにする事ぐらいしかできないんじゃないかな。ロアがこの国に攻め入れば、ああいう子供はもっと増えるだろう。」

「だけど!」

「オイ。ドコ行ク。墓地ハココダ。」

無口なユンの声で、ホークは通り過ぎようとしていた共同墓地に気が付いた。


 ホークは3人を促して墓地の中に入ると、そのほぼ中央に皆を集めた。

「この呪文は、ちょっと特殊でね。なんと魔法生物を作り出すのさ。」

「ゲェ! ゾンビ!」

サラがとっさにドレイクの腕にしがみつく。サラの脳裏に怪しげなイメージが繰り広げられたらしい。

「ちゃうちゃう。そんなんじゃないよ。いたって無害。それでいて効果はほぼ一生モノだし、非常に便利!」

「なんか怪しい商人みたいだな・・。」

「まあ、だまされたと思ってオイラの前に来て、ここから生み出される魔法生物を手に取ってよ。」

「ほんとにだます気じゃねえだろうな、ホーク!」

「アホか! カイドーたちを思い出してよ。カイドーたちはとても流暢なエグラン語だっただろ。」

「そう言えば、そうだったわ。」

「賞金稼ぎは世界各地を飛び回るからこの魔法は必須なの。」

「で、その魔法生物ってのをどうするんだ。」

「食べるんだ。」

「げえ! マジかよ!」

「大丈夫。味なんかないし、丸呑みしちゃえばいいだけだから。」

「いや、そういう事じゃ・・・。」

「んじゃ、行くよ。両手を出して。」

ドレイクはホークの前に立つと水でも汲むようにホークの前に差し出す。ホークは両手で輪を作り、ドレイクの手のひらに水でも注ぐような形を作ると呪文を唱え始めた。

「サヤ、バルジャーメイーネ、バカン、ペンバカン・・・・」

どうやら、名称詠唱(ビギン)ではなく全詠唱(コンプリート)で行くらしい。世界最強と自ら謳うホークにしては珍しい。呪文が進むにつれ地表に湯気のような物が立ち込め、それがホークノ周りにまとわりつき吸い込まれるように手の輪の中に集まって来た。

「・・・・・ポンニャック・コニャック!」

    ♪~♬ ♪♪~~♪

「イマ、ナンカ、ウカレタヨウナ音楽ガナッタカ?」


 ホークの呪文の詠唱が終わると作られた手の輪からトコロテンでも押し出すような感じで半透明の生き物が出現し、ドレイクの手のひらに乗り、ビタンビタンと陸に上がった魚のように蠢いていた。

「げぇー、気色悪ぅ!」

 そのトコロテンのような生き物は、頭が平らで半透明のゼリーのような生き物で、眼もなく口もない。それでいて小さなトカゲのような水かきのついた小さな前足だけを持っていた。(イメージ的には小さな立体の一反木綿(妖怪)である。)

 ドレイクの手のひらの上のそれは、ミミズのようでもあり、トカゲのようでもある。半透明の体には光沢があって、動くたびにヌメヌメとした光を反射している。

「こ・・・これを食うのか??」

強大な魔物を相手にしても不敵な笑みを絶やさないドレイクの顔が、恐怖に引きつっていた。

「喰うの!」

ホークの剣幕に気圧されたか、ドレイクはその生き物の尻尾を摘まみ上げると、その生き物はイヤイヤをするようにブラブラと揺れる。ドレイクはゴクリと生唾を飲み込んだ。

「ドレイク、男だろ!」

「ぐぐぐ・・・・!」

必死の形相で目を瞑り、ドレイクはその生き物を丸呑みにした。

 ツルンとその生き物はドレイクの口から吸いこまれ、喉を通った。

「どうだ、やったぞ。」

ドレイクの目に少しばかり涙がたまっていた。

「あれ? なんてことねえな。」

「当たり前ジャン。次、ユン。」

ユンはドレイクとは違う反応を見せた。

「ウマイ! モットクレ!」

「だーめ。一人1匹。」

一番ビビッていたのはサラである。

「あたし、実はトカゲとか蛇とか嫌いなのよね。絶対、絶対食べないからね!」

「いいけど、旅で違うトコに行けば行くほど、話せなくなるよ。」

「それでも、ぜーーーーったい嫌っ!」

「ユン、押さえつけて。」

ホークの命でサラは押さえつけられ、ドレイクに口を無理やり開けさせられる。

「ヒンギャー! ボーギョクはんぴれぇえ!!」

泣き喚いて暴れるサラの口に翻訳(ポンニャック・)魔法生物(コニャック)は無理やり押し込まれた。

 サラの喉が唸り、ゴクンと飲み込まれた。

「絶対、訴えてや・・・」

「え?」

「げええええ!」

飲み込まれたと思われた翻訳(ポンニャック・)魔法生物(コニャック)はサラの口から一瞬で吐き出されれ、地面の上をビタンビタンとのたうち回っていた。

「ほらね。あたしの口には合わないのよこういうのは!」

ユンは翻訳(ポンニャック・)魔法生物(コニャック)を摘まみ上げると、それをうまそうに飲み込んだ。

「ゲロゲロ! なんてことスンのヨ! あんたは!」

「オマエ、イラナイ。オレ、モット喰ウ。モヒトツクレ、ホーク。」

「・・・・・・・・?」

「おい、ホーク。」

「え? ああ。」

 ホークは呆然とサラを見ていた。ドレイクに促されるまで、自己を喪失していたかのようである。よほど自分の魔法が効かなかったのがショックだったようだ。

「百聞は一見に如かず・・か。」

「そうだな。早速酒場に行ってみようぜ!」



 そして2時間後・・・・。

彼らは再び貧民街に立っていた・・・。



 ドラクエをはじめとするファンタジーゲームの中では(私がプレイしたものに限るが)いろいろな国をめぐる訳ですが、大抵は共通の言語と通貨を用います。多分、漫画や小説でも同じようにやります。実際、ストーリーを作るにあたってそうした方が非常に楽だし、そうしないとネーミングにも齟齬が生じてしまいます。例えば、HANTER X HANTER も最初は独自の文字などを使っていたのですが、結構初期の方で曖昧になってきてしまいました。ドラゴンボールでも宇宙人の話す言葉は日本語であります。スカウターが翻訳機にもなっているといった設定もあったように思いますが、スカウターなしでもちゃんと会話成立してるはずです。

 ちなみに日本語は宇宙の共通語なんです。(日本の創作物のせかいでは)

そこでちょっと、私も悪戯をしてみました。リアルに言語や通貨が違っていたら、ファンタジーの世界ではどうなるんだろうか? でも実際にやるとかなり面倒な話になってしまいますのでやめときますが。

 でも外国の有名なSF作品では(タイトルは忘れましたが)耳にとある生物を入れて翻訳させるという(実は読んでないので、間違っていたらご容赦)やり方をした作品があるらしく。日本では藤子不二雄先生が、とある秘密道具で解決しちゃってますネ。

 はい。 そうです。

で、私もオマージュとして使わせていただきました。お気づきの方は当然いらっしゃると思いますので、音符の部分は、例のあの音楽を想像で鳴らしてみてください。

 

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