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魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
12/63

エリア火山に連れてって!

島で一仕事を終えたホーク様御一行はフリーシアの港町に着きましたとさ。

そこからだよ。本編は。ネヘヘ。

「なんで、こんなに静かなんだよォ。」

 ホークは目を覚ました。

深夜の森は静かなのが当たり前と思われるかもしれないが、夜の森の中とはいえ、夜専門の生き物も多い。それなりに生き物の気配はあるし、静まり返っているがゆえに聞こえる音もある。

 ところが、暗くシンとした森の中は樹木すら眠っているように静かだった。時折吹く穏やかな風が木々を揺らす音と、水の音以外はほとんど何も聞こえない。ただ・・・女性の声らしき歌声が低く、小さく響き渡っている。

 そしてそれが子守歌のように生き物全てを眠りへと誘って(いざな)いるかのようだった。


 だからこそ、ホークは目が覚めたのだ。ホークのような上級魔法使いになると、いろいろな自動防御魔法をかけている。この自動魔法(オートマジック)もそのひとつで、眠っているときでさえ身辺での異常を感知すると体中に危険を知らせるようになっているのである。さらに言うと、聖魔法結界が、この歌声を緩和している。

 

『このまんまじゃちょっとまずい・・・かな。』

 ホークは手ごろな小石を両耳に詰めた。歌声は消えなかったが、眠気は少しはマシになった。

「セイレーンか・・・。かなり強力な奴だな。」

ホークはボーっとした顔であたりを見回す。交代で火の番をしていたはずのサラは座ったまま沈没していた。口元から垂れた涎が糸を引いていた。

『こいつ・・セイレーンが来る前にすでに寝てたな・・。』

 さらに目を凝らして闇を凝視したが、ドレイクとユンの姿は見えなかった。ただし、ドレイクの大いびきの振動が小石を伝って鼓膜に届くので、ドレイクも完全に寝ているのは間違いなかった。ユンについては闇と一体化していると見えて、どこにいるか分からない。

「ユン!」

ホークは小さく呼んでみたが、返答はない。

「ユンまで眠らされたのかよ・・・。」

ホークはボリボリと頭を掻くと、大あくびをして立ち上がった。

「さてと・・・。」

両手で印を結ぶとブツブツとホークは小声で呪文を唱え始めた。

粘着糸結界呪文(モノスク)

  呪文を唱え終わったホークの両手の指から銀色の細い糸が四方へと伸びてゆく、その糸はホークたちの周りをものすごい勢いで回りはじめ、網状のドームを形成してゆく。わずかの間に、巨大なクモの巣のドームが完成する。

 しばらくして微かな振動が指に伝わって来た。

「1、2、3、4・・・・9匹・・かな。」

ホークはいったん指先の糸を切ると、燃え残った焚火の木の炎を再生し、粘着糸結界呪文(モノスク)の結界に沿って歩き始めた。しばらくすると結界に引っかかってもがいている食人鬼(グール)の姿が見えた。

暗殺食人鬼(アサシングール)か。」

 その食人鬼たちは漆黒の軽鎧を身に纏い、口に呪印された龍の骨の猿轡をかまされている。普通の食人鬼と違って彼らは、暗殺の訓練を受けた暗殺のエキスパートである。目的の暗殺を終えなければ縛めの猿轡が解かれないので、やつらは常に腹を空かしている。彼らの猿轡は滝のように流れる涎で、いつもダラダラに濡れていた。

 ホークが近づくと、食人鬼はもがいてもがいて、何とか縛めから逃れようとするが、粘着糸結界呪文(モノスク)の糸は鋼のように強靭で切れることはなかった。

「腹減ったろう? 戒めを解いてあげるよ。」

 ホークは猿轡の龍骨に指を当てる。

竜骨には古代語で<契約を成しえぬ者には死を>と刻まれている。

執 行(テープラ)

  と、ホークは口ずさみ呪印をなぞると呪印は赤く変色して消えた。食人鬼(グール)の瞳が大きく見開き、声にならない悲鳴が上がり、体中を激しく震わせた。

 すると、食人鬼の体中のあちこちに気泡が生まれ、体中から湯気と鮮血があふれては地面に落ちた。体はグズグズとなって皮膚はただれ落ち、ゴムのように伸びては細かくちぎれた。体中の体液が沸騰し、細胞の一個一個が溶けた。残ったのは奴らが付けていた鎧だけだが、それもやがて砂のように崩れて消えた。

 契約を果たせなかった暗殺食人鬼(アサシングール)は任務に失敗すると、体に印された呪いが発動して死に至る。証拠を残さないようにすべてが消え失せるのだ。奴らには、ご馳走か、死かのいずれしかないのだ。

 ホークは結界の中を一回りして9匹すべての暗殺食人鬼(アサシングール)を始末した。

 そして、ぐるりとあたりを見回すと、北東の方角に足を進めた。

「やっぱり、こっちかなあ。」

どうやら北東の方角に、本命が居るようである。暗殺部隊が食人鬼だけとは限らないが、少なくとも第2陣が襲ってくる様子はない。ホークたちを襲ってきた連中は、ホークを誘っている節がある。ホークは歌声のする方角にゆっくりと歩を進めた。

 深夜の森は暗かったが、青い月が煌々とあたりを照らしてくれているので、歩くのに支障はない。それにホークは猫のように夜目が効く。


 この森は古い森なのか巨木が多く、昼でも薄暗い。

灌木が少なく地面にはシダやコケ類が多く、あちこちが湿っている。うっかり岩場の上を歩くと滑って転びそうになる。木立の間からは星が瞬き、月の灯りがあたりを照らし始めた。キャンプを張る前は、雲が厚く垂れこめていて、今にも雨が降りそうな感じだったのに、いつの間にか透き通るように晴れ渡っているようだ。

 どうやらセイレーンの歌声は止んでいるらしい。静かではあるが、森に精気がもどりつつあるようだ。

ホークは耳に入れていた小石を外す。やはり歌声は聞こえない。

「本命のお出ましって事かな?」

ホークそっとうそぶくと、妖気の濃い方向に進んでゆく。


  やがて、開けた広場のような場所に出た。


 月の光が木立の隙間から数条のすじになっていて、そこに巨大なラシャ切り鋏が地面に突き刺さっていた。

そのハサミは銀色に輝き、青みを帯びた暗い月の灯りを鈍く反射していた。よく見るとリングの上に白い手のような物が乗っている。そしてその輪の向こうには赤く光る猫のような瞳が見えた。

 赤い猫のような瞳が光るそいつは、赤毛の女だった。

 その女はホークの姿を見つけると、に~~~っと笑う。口のでかい女。少女のように背丈は小さいが禍々しい妖気を纏っている。

「は・じ・め・ま・し・て・・・・私はゲラ。よ・ろ・し・・・」

 瞬間!! 

その女は鋏を引き絞った反動で、大きく跳んだ!


えーっと、あまりにほっておいたものだから、設定のかなりの部分を忘れちゃってる。

まずい!

年かなあ・・・。

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