第1話 ジモン島奇譚 11
―エピローグー
抜けるような青空にまぁ~るい雲が一つだけポカンと浮いていた。相変わらず港では海鳥がニャーニャー鳴いている。旅の一行の一団からすこし遅れてホークたちがいた。
昨日の晩に船の修理が完了したとの知らせを受けて、旅人たちが船に向かっているのだ。ホークたちは島民に引き留められたが、ここは旅の目的地ではない。あてもあまりないけれど、ここで立ち止まるわけにもいかない。
「そういえば、あの時。」
ぼんやりと雲を見ながら歩いていたドレイクはユンに問いかけた。
「お前はさ~空を飛べるんだから、楯に乗ってることはなかったンじゃねえか?」
「・・・楽シカタ・・。」
ぼそっと呟いたユンの唇が笑っていた。
「なるほどね。俺は小便チビリそうになっちまったよ。」
このあっけらかんとしたところがドレイクのいいところである。
「おめえもさー、他に脱出方法がなかったのかよ。」
「ま・・・ないこともなかったけど、空を飛びたがってたヤツがいたからね。」
ガツンとホークの頭にゲンコが飛んだ。
剣の城はあれから三日も経つのにまだ燃えていた。幸いなことに周りが砂地で草木も僅かだったことから他に延焼する恐れもないだろうと、数人の見張りを残して経過を見守っている。おそらく一雨くれば鎮火してしまうはず。それにしても石だらけの山で、よくも三日も燃え続けたものだ。
「あれ? もしかして・・・」
船の近くにサラの姿があった。しかも荷物を背負っていた。ホークたちが近づくと、サラは思いっきりの笑顔を振りまいた。
「どうしたんだ、サラ? 見送りに来てくれたのか?」
「よっ!」
サラは気安く声をかける。
「あたしも行くことにしたから。」
ホークとドレイクは目が点になった。
「・・・・あのさ、言ってる意味が分かンないんだけど。」
「その通りの意味じゃん。あんたたちについて行ってあげる。って言ってんの。」
ホークは露骨に嫌な顔をした。
「なにさ、迷惑?」
「迷惑じゃん!」
サラの顔に寂し気な影が走ったのをドレイクは見逃さなかった。
「まあ待てよ。俺たちは目的があって旅をしている。この先、危険な事もあるだろうさ。それでも一緒に行きたいのか?」
「迷惑だって言ってんだろ、ドレイク。」
「うるさい、チビは黙ってて。」
「チビとはなんだ、チ・・・」
ドレイクのゲンコが止めた。
「俺たちにかかわると死ぬぜ。」
ドレイクの目は真剣だった。
「あたしは死なないわ。あんたたちについて行って、世界一の魔法使いになってみせるもの。」
サラの目も真剣であった。
「・・・・無理、無理。」
ホークは素早く逃げたが、ドレイクのゲンコは飛んでこなかった。
「・・・・君の両親は知ってるんだろうな?」
「話はついてるわ。」
「ダメ、迷惑!」
キュっと唇をかんだサラの瞳には決意の色が窺えた。
(こいつ行き場がねえのか。)
ドレイクはなんとなくサラの気持ちがわかるような気がした。あのとき、サラの両親は、エリスを抱きかかえて家へと帰って行ったが、サラの事は褒めもしなかったし、怒ってもいなかった。サラは捨て猫のように呆然と両親を見送っていたのである。
「全ての人間はすべての人間にとって迷惑な存在だ。だが人間は少しばかりの迷惑を愛している。」
「なに、それ?」
「エグランの昔の人が言った言葉だ。俺は構わねえよ。ユンもだろ?」
「オレ、コイツニ興味ナイ。好キニスル。」
「オイラは・・・」
ガツン!
「・・こいつは照れてるだけだから。」
気絶したホークを片手で背中に担いだドレイクとユンは橋板をゆっくりと歩んでいく。
サラはちょっとだけ遅れて・・船に乗った。
ここでひとまず終わりデス。
今度は違うのを書きます。よかったら、そちらもお試しくださいませ。




