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魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
10/63

 第1話 ジモン島奇譚 10

一人の男が砂漠で道に迷い、倒れていた。男は最後の力を振り絞り、魔法のランプをこすった。すると、ランプから精霊が現れた。

「お前の望むことを、なんでも一つだけ叶えてやろう。」

「み・・・みず・・。」

男は譫言のように望みを言った。

突然、空が曇り、大量のミミズが男の周りに降り注いだ。

「願いは叶えた。サラバ!」

精霊は姿を消した。


 なんて話は決して使えない設定になってるんだよなあ。だって言語が違う設定なんだもの。さて、すでにオヤジ脳となっている自分の前頭葉はいつまで耐えられるのであろうか? 余談だけどHUNTERxHUNTERも最初はオリジナルの言語設定してたんだけど、いつの間にか日本語っぽい表記設定に変わっていたにゃ。ネテロのTシャツに心の文字は実は間違いでしょ。てな風に突っ込まれる日は来るのか。(まあすでに突っ込みどころは満載だと思うけどね。。)

「天才・・超天才魔法使いゲプラー・・・・いい響きだ。実に楽しい。」

悦に入った・・・とはこの時のゲプラーのような状態を云う。氷のサイコロに囲まれたまま、ゲプラーは空中をゆらゆらと浮遊している。

「かはっ!」

ホークはまた真っ赤な血を吐いた。心臓への直撃は避けられたものの、氷の刃は肺に突き刺さっている。肺に溜まった血で、ホークは呼吸困難に陥っていた。

「苦しいかラグナロク! 苦しめ、苦しめ。200年も氷の中に閉じ込められたわしの苦しみが分かるか? それに比べれば、貴様の苦しみなど可愛いモノよ。もっともっと苦しむがいい、クハハハハハハ!」

「・・・・ラ・・・グーナ・・ロー・・・」

ホークの口は真っ赤な血を吐きながら動いていた。

「おやおや、その様子だと、まだあきらめておらんようじゃな。よかろう、もう一度わしの開発した不可避攻撃、無距離氷手裏剣呪文(トゥラーラ・ゼロ)をご馳走してやる。次は貴様の体中に突きさし、ハリネズミのようにしてやる。絶対に死ぬなよ!」

ゲプラーが呪文を唱えると、ホークの周りの空間に魔力が凝縮し、氷の刃が発現した。

      が!

 ホークの体に突き刺さる瞬間、シュン!・・・・と蒸発してしまった。

 ホークの胸に突き刺さっていた氷も瞬時に溶け、服の破れから大量の血が噴き出して流れ落ちた。落ちた・・のだが、ほんの数瞬の間に流れは細くなり、血は止まった。

 魔法陣が怪しい光を帯びていた。よく見ると他の魔法陣も輝き始めた。

 うつむいていたホークの顔が上を向いた。その顔は傷病者の顔ではない。精気にあふれ、顔に赤みまでさしている。さっきまで呼吸困難に陥り、チアノーゼで顔が青くなっていたホークとは別人である。

「何が起こった・・・・?」

何が起こったか分からないゲプラーの顔色が曇っていた。

「怪訝そうな顔だな。まだ分からないのか? ()()()()()()()()()()()

 この魔法陣は魔力を吸い取る。しかし()()()()()()()()()()なんだ。」

 ホークの体には逆流して集まった魔法力によって、身体の細胞が活性化し、強力な回復呪文をかけられたような状態になっていた。魔法陣の光はホークを包み、ホーク自身も光輝いて見えた。

 ゲプラーは身震いした。かつてラグナロクとの戦いで戦慄した自分を思い出した。

『そうだった。こいつは悪魔だったんだ。』

 ホークが呪文を唱え始めた。

 慌ててゲプラーも呪文を唱え始める。何でもいい、奴の呪文を止められれば!

そういう時に限って、強力な長い呪文を思いつく。ゲプラーの額から冷汗が浮き出る。絶対防御と言いながら、心の底では不安と恐怖が入り混じった感情が支配する。

 ホークの呪文が終わった。ホークの手のひらにピンポン玉くらいの光の玉が現れ、それが不意に消えた。

「えっ?」

 ゲプラーは拍子抜けしたとでも言いたげな顔をしたが、その時、ゲプラーの左後方の空間が捻じれたように歪んだ。

「ひっ!!」

 轟音と共に、氷のサイコロの内側で爆発が起こった!



水壁防御呪文(ウォールベガ)!」

炎に包まれ、力なく落ちてくるユンを多量の水が襲った。下から吹き上げてくる水の塊は、ユンの落下速度を遅らせ、ユンを燃やしていた炎を消し去った。

「誰だ!」

シュラミスは悔しさに思わず叫んだ。

 落とされた房の一つから這い出ていたグラが放った水系呪文だったのだ。。肩で大きく息をしながらも、グラはユンを助けたのだ。気を抜くと再び昏倒しそうになる。

「あんまりあたし達を舐めないでよね。」

「おのれぇー!」

シュラミスの分身が数体、グラに向かって枝を伸ばしていく。手の爪が異様に鋭く伸びていた。

グラは防御呪文を唱えようとしたが、精神の集中が上手くできない。

「死ねええぇ!!!」

死の爪がグラに届こうとした瞬間、黒い暴風の刃がシュラミスの分身をバラバラにした。

「・・・・くぅうう。ありがとよ。」

 本来の姿に戻ったユンは、もうカタコトの言葉ではない。黒豹の顔がたくましく笑っていた。グラは少しだけキョトンとした。少しだけ頬が赤い。人型をしたユンは超絶美男子だが、今は黒豹である。グラよ、いったいどうしたんだ?

「木のクセに”火”を使うとは思わなかったぜ。」

 ユンの独り言はもっともである。特に魔物には属性がある。五行思想がそうであるように、木の魔物の弱点は火であらねばならない。木の魔物が火の呪文を使うことなど、普通ではありえない事なのだ。

 ユンの黒い体からは、まだ少しだけ煙が登っていた。シュラミスの樹脂は、まだしつこくユンに絡みついているらしい。

「女、お前は攻撃呪文も使えるのか?」

「あまり得意じゃないけど、少しなら・・・。」

 ユンはグラの襟首を咥えると、荒々しく自分の背中に乗せた。シュラミスの攻撃は続く、いくつもの触手が木の槍となって襲ってくる。ユンはグラを乗せ、疾風のように駆け回る。グラは振り落とされまいと、しっかりユンの首にしがみついた。

 ユンは魔法陣の一つにグラを降ろした。

「苦しいんだよ、まったく!」

それでもユンはグラのそばを離れず、襲ってくるシュラミスの触手の槍をたたき落とす。

「女! 火炎弾呪文(フィラ)だ。とにかく撃ちまくれ!」

「なに。ここ? さっきの魔法陣とは違う。力が湧いてくる!」

ユンは再び跳躍した! 狙いは一つ、サラが入った房である。追い込まれたシュラミスは急速にサラの力を養分に変えようとするに決まっている。助け出すのが遅くなれば、サラの命が危なかった。

「???」

シュラミスの本体の顔が怪訝な表情をしていた。

火炎弾呪文(フィラ)!」

グラはユンに言われた通り、名称詠唱(ビギン)火炎弾(フィラ)を撃ちまくった。本来なら威力は小さいはずなのだが、逆流した魔法陣の中にいるグラから放たれる火炎弾は相当な威力を持っていた。しかも連発である。シュラミスは火消しにも追われることになった。ユンの動向を見定め、攻撃する余裕がなくなってきたのである。

 ユンは最後の一つ、サラの入った房を切り裂いた。中からシュラミスの消化液と一緒に、サラが(こぼ)れ落ちる。ユンはサラを咥えて、グラの元に舞い降りた。

「ち・・まあいい。あんな石のような娘・・・・」

シュラミスは謎のような言葉を吐いたが、実は焦っていた。このままでは魔法力が持ちそうもなかった。



 剣を折ったバスコは、返す刀で大上段からドレイクに撃ち込んだ。

『いける!』

バスコはドレイクの鎧ごと、真っ二つに断ち割るつもりだ。バスコなら、バスコの力ならそれくらいの事は朝飯前であった。

   ガキィイイーン!

 バスコの剣が止まっていた。

ドレイクは両腕をクロスさせて、バスコの剣を頭上で防いだのだった。バスコは素早く後ろに跳び、ドレイクの追撃に備えた。

 ドレイクの鎧の肩当や肘当てが攻撃ポイントに集まり、重なり合ってぶ厚い楯へと変貌を遂げていた。

「痛ってぇ・・・・。なんて馬鹿力だ。」

ドレイクは顔を歪めながらも笑っていた。

「なんだその鎧は!」

「しょうがねえだろう。最強の鎧と謳われる“48の瞳”(フォーティエイトアイズ)なんだからよ。」

「“48の瞳”(フォーティエイトアイズ)だと!」

バスコの口から涎が消えた。

「失われた10の秘宝ってヤツか?」

「あ~あ、これでもこの剣、我が家の家宝だったんだがなあ・・・。」

ドレイクはバスコの問いには答えず、折れたグラディウスを捨てると、腰に差した古びた剣を抜いた。

 その剣は実にシンプルなブロードソードである。刀身は80㎝ほどで長めの剣。刃の厚みはあまりなく、両刃の剣で先端が細く尖っていて、刃が剃刀のように鋭く砥がれている。鍔や柄にも装飾などはなく、ドレイク家の家宝の武骨なグラデウスが宝剣に思えるほど質素な剣であった。しかも驚いたことにこの剣は銅剣であった。

「グハハハハ! なんだそりゃ! オモチャじゃねえか!」

バスコの口から、また涎が落ちた。

「そう思うだろ。俺もそう思う。」

口とは裏腹に、ドレイクは真剣な表情でその剣を八双に構えた。

「いいとも。今度は貴様の腕をその剣ごと吹き飛ばしてやる。その次は足だ。両腕、両足をブッタ斬って、生きながら食ってやるぜ。グフフ。」

バスコは剣を振りかぶると、一気に間合いを詰めて、斬撃を撃ち込んだ。

  ガキィ!

 ドレイクの剣はまたもバスコの剣を受け止めた。間髪を入れずにバスコは剣を滑らせ、ドレイクの剣を折ろうとしたのだが・・・・折れない! あの武骨なグラディウスをも折ったバスコの怪力をもってしてもその銅剣は折れなかった。いや材質が銅なら、あっという間にひしゃげているはずだった。

「ムン!」

ドレイクが剣を(ねじ)ると、バスコの剣が折れてしまった。

「なんなんだその剣は!」

バスコはそれでも大きく跳躍したが、ドレイクの方が上手だった。跳び上がったバスコの右足首を切り裂いたのだ。

「げええ!」

 バスコはもんどりうって倒れた。足首から血がダラダラと流れている。もはや素早い動きは出来そうもなかった。ドレイクはゆっくりと剣を構えた。

「・・・・・”死刻の剣(デスタイムソード)”って云うんだそうだ。なんでも剣の時間が止まってるんだと。俺もよく分からねえけど、かなり頑丈らしいよ。」


 現在の物理法則によれば、一方向に流れ、逆戻りしないのが時間である。金属に限らず、その物体の時間が止まった場合、その物体はエネルギーの変換が行われない。つまり変化することがないのだ。錆もせず、熱や衝撃で形を変えることもない。


 じりっ・・とドレイクがバスコとの間合いを詰めた。バスコは立ち上がることが出来ない。ドレイクの次の攻撃を防ぐ手立ても武器も無かった。

「悪かったあ! 俺が悪かった! だから助けてくれ! お願いだ!」

「お願いだと?」

「お・・お願いでございます。どうか命ばかりはお助け下さい。」

ドレイクは剣の切っ先をバスコに向けた。バスコが怯えたように体をひく。

「もう二度と人は喰わねえか?」

「はい! おっしゃる通りに。」

「人も襲わねえな。」

「滅相もございません。わたくし、すでに心根(しょうね)を入れ替えてございます。これからは森の奥でひっそりと暮らす所存でございます。」

「・・・・・。」

ドレイクは剣を納めた。

「約束だぜ。」

「はい。ありがたき幸せ。魔物の神に誓って、二度と悪さはいたしません。」

「なら、許してやるか・・。」

ドレイクがそう言って、バスコに背を向けた瞬間、バスコは大きくのけぞった。

『俺も痛ぇが仕方ねえ。』

口をキュっとすぼめ、ドレイクに向かって口から赤い液体を(ほとばし)らせた!

『液体なら防ぎようがあるまい!』

バスコは強酸の胃液をドレイクに振りかけようとしたのだ!

    しかし!

 48のフォーティエイトアイズが最強と称される所以(ゆえん)を自ら体現する羽目になったのだ。


 48の瞳の皿についている象嵌は伊達ではない。宝石には違いないが、それは鎧の瞳でもある。48の瞳が常に周りを警戒して死角がない。しかも襲ってきた相手の攻撃に対して瞬時に適切な防御形態をとり、最良の手段で防御する。いわば、高度なセンサーとAI付きの鎧なのである。


 48の瞳の肩当がフル回転し、風を起こした。バスコの胃液を吹き飛ばしたのだ。

「ぐわああ、わぁああ!!!」

飛ばされたバスコの胃液は風で押し戻され、バスコに降りかかった。バスコの衣服や皮膚が焼けただれ、ほのかに白い煙が上がっていた。

「約束だったよな!」

ドレイクは死刻の剣を再び抜くと、バスコに斬りつけた。

「待! 待って・・・」

 横に薙ぎ払った剣の軌道は、バスコの顔半分を横に切裂いた。「・・・・くれ・・」と言ったのは半分の顔だけである。脳漿をまき散らして、バスコは仰向けに倒れた。

ドレイクは静かに剣を鞘に納めた。

「・・・・跳べねえ豚は、ただの豚だよな。」



 爆音とともに、氷の内側が真っ赤に染まり、氷に無数の亀裂が走った。氷はあっという間にガラガラと崩れ落ち、中から血に染まったゲプラーが出てきた。無数の裂傷と火傷で、全身血まみれである。頭蓋骨は陥没し、肩骨や肋骨がむき出しになって、左腕はブランと垂れ下がったまま。ゲプラーは激しい出血で意識が朦朧としているのか、顔がホークの方向を向いていなかった。

「な・・・何を・・した。」

ホークに問いかけたのか? それとも譫言(うわごと)なのか?

 いずれにしろ生きているのは脅威と言っていい。通常、密閉された空間で起こった爆発は、密封されていない空間で起こった爆発の何倍もの威力がある。あるいは、ゲプラーはなんらかの魔法防御を施していたかもしれない。それによって爆発力が中和された可能性もある。

爆裂光弾呪文(ヴァンギーラ)をお前の後ろに転移させて爆発させた。」

「くぅ・・・・。」

聞こえたのか、聞こえなかったのか? ゲプラーはついに崩れ落ちた。


 魔法闘技場(コロシアム)の中は視界が悪くなっていた。グラの火炎弾(フィラ)とそれを消すためのシュラミスの水流放射によってもうもうと水蒸気がたちこめ、燃えた枝が煙を吐いていたからだ。

「待って! お願いだよ、待っておくれよー!!」

グラの攻撃が止み、一陣の風が巻き上がり、魔法闘技場(コロシアム)の霧を吹き飛ばした。グラのいた魔法陣に、7人の姿が現れた。エリスとサラはまだ昏倒していたが、カイドーたちはシュラミスの呪縛から解放されたようだ。

「あたしの負けだよ、許しておくれよー。」

シュラミスの本体は老婆の姿に変貌していた。己の魔法力を使い果たしたのだろう。分身や幻影もとうに消え失せていた。

「どうする?」

ドレイクがつぶやいた。

「こいつのやった事は、許せない。」

ホークが言った。

「お願いだ、もう魔力を使い果たしたわらわは、ほおっておいてもこのまま朽ちる。そっとしておいておくれ、お願いだよー。ラグナロク。」

シュラミスの懇願に、ホークはやる気が失せてしまった。

「なら、このまま朽ちて行け。二度とこの城から出るんじゃない!」

ホークは背を向け、歩き出した。みんなもホークに続いた。シュラミスの唇が薄く笑ったと思ったその時、無数の木の槍が放たれ、ホークたちを襲った。

 木の槍はホークたち7人を貫いた!

「ぐわっ!」「ぎゃああ!」

悲鳴がこだまして・・・・・・いや・・ホークたちの姿はチリになった。


「あまりにベタな展開。やっぱこうなるのか・・。」

「仕方ねえだろ。ベタな奴らなんだから。」

魔法闘技場(コロシアム)の入り口にある巨大な闘士の半身像の陰に、体育座りをして隠れている7人がいた。シュラミスの予想通りの行動に、カイドーたちも笑っていた。

「まさか・・・まさか・・・まさか!」

シュラミスは驚きを隠せなかった。まさかホークたちが自分と同じ手を使ってくるとは思わなかったのだ。

 7人は再びシュラミスと相対する。

「不思議そうな顔だね。ゲプラーもそうだけど、自分に出来ることが、他人には出来ないって、どうして思い込むのかな?」

「そんな、あれは、あの・・???」

「もう遅い。わしがケリをつけてやる。」

呪文を唱えようとしたカイドーをホークが止めた。

「悪いけど、こいつはオイラが決める。」

ホークは右腕に持った杖を、シュラミスに向けた。

火炎弾呪文(フィラ)!」

杖の先に5㎝ほどの火球が出現した。グラの火球よりも小さいその炎はぐんぐんと強大に変化していった。「まさか・・・・。」

今度はカイドーが驚いていた。名称詠唱(ビギン)で発現する魔法の威力をとうに超えている。ホークの火球は直径5mはあろうかという巨大な火球に育っていた。

「ままま、待って! 待っておくれ!!!」

「種から出直せ、シュラミス!!」

 ホークの叫びと共に、巨大な火球は矢のようにシュラミスの本体に飛んでいった。防御水壁をものともせず、火球はシュラミスにぶち当たった!

 シュラミスに当たった火球は弾けて分裂し、ナパーム弾のようにシュラミスの幹や枝に飛び火した。木が()ぜる音と一緒にシュラミスの絶叫が魔法闘技場(コロシアム)に木霊した。


「おい、なんかヤバくねえか?」

マッシが最初に気づいた。異様なほど火の回りが早い。しかも床が振動し、魔法陣が明滅していた。

「・・・ゴメン。ちょっとやりすぎちゃったね。ハハハハハ。」

「笑ってごまかすな!」

ドレイクの鉄拳がホークの頭をにさく裂。

「まずいわ。このままだとに城を出る前に崩れ落ちるかも。」

「おそらくこの城の中枢にまで根を張っておったのじゃろう。」

「ま~ったくベタな展開だよねえ~。」

 再び、ゲンコ。

「痛てえぞ、ドレイクゥ!!」

「うるせえ! いっちょ前に痛がるんだったら、この状況を何とかしろ!」

「いいとも! あくまでもベタな展開で助けてやるぜ!」

三度ゲンコ。

「・・・・つぅう・・。」

「遊んでる場合じゃないわよ! 急いでここから出ないと!」

爆裂光弾呪文(ヴァンギーラ)!」

不意に唱えたホークの呪文で、半身像の左腕が砕けた。巨大な楯が大きな音をたてて転がった。

そしてホークは扉と扉の間の壁に立ち、何事かを唱えると、壁は消え去り、大きなテラスとなった。シュセが走って下を見るとそこは麓まで続く長い階段となっていた。

「まさかここを降りるのか!?」

「みんな、その楯に乗るんだ。」

ホークの言葉に、皆は一抹の不安を覚えたが、贅沢は言っていられない。山全体の振動がひどくなってきていた。どこかでトンネルの崩れる音がした。あのまま扉を開けて逃げていたら、生き埋めになっていたかもしれない。

「それでどうするんだ、ホーク!」

ホーク一人を残して、全員が楯に乗っていた。

「バカ! 怪力バカ二人はこの楯を押すんだよ!」

「なにぃー!」「うそ? 俺もか?」

「このまま階段を滑り落ちる!」

言うが早いか、ホークは楯に飛び乗り、ドレイクとマッシは後ろから迫りくる熱風に後押しされるように、一気に楯を階段へと押した。火事場の馬鹿力という言葉があるが、このときの楯の重量は1トンは越えていたに違いない。表面が楕円形の緩いカーブを描いているとはいえ、よくも二人で押せたものである。

 階段の傾斜に差し掛かると、7人の乗った楯はガクンと角度を変えた。

「急げ!」

シュセとカイドーはドレイクとマッシを引き上げ、楯に乗せた。

「舌、噛むなよ!」

ものすごい振動が楯に伝わる。急角度の階段である。7人は気絶している二人をかばいながら、楯にしがみついた。階段の岩を削り、左右にブレてはぶつかり、7人は右往左往、上下に飛ぶ! ホークは跳び上がるタイミングを狙って、氷結呪文を楯にかける。階段との摩擦で、熱を帯びてきたからだ。

 200mの階段の終わりは、やはりテラスになっていた。この形状はもうスキーのジャンプ競技のジャンプ台である。9人の乗った楯は、物凄いスピードで空中に放り出された!

 後にカイドーが語ったが、このまま天国に行くのではないかと思ったそうである。一切の音が途絶えたようになって、ヒューヒューと風の鳴る音が聞こえた。

 その静寂もあっという間だった。

恐ろしいほどの衝撃に、9人は地面に投げ出された。



 全員、無事であった。楯が地面に激突する直前に、3人の魔法使いが、各々着地点付近に泥土化呪文(ロームロール)をかけまくっていた。落ちた場所は草原だったが、ホークたちは全身泥だらけだった。さしもの48の瞳も、地面への衝撃は最大限に吸収したものの、泥だらけになるところまでは防げなかったようである。

 ドレイクは東の方の少し小高い丘の上に、四角い物体の影を見た。

『モノリスか・・』

エグランの戦場では時々見かけた物体だが、誰もその正体を知るものはいなかった。ただ()()だけであり、いつの間にか消えている存在であった。

 むっくりと起き上がった8人はお互いを見て笑い転げた。極度の緊張が解けた瞬間だった。狂ったように皆笑っていた。

 異変に気付いた島民が、少しづつ集まり始めた。

「パパ! ママ!」

気絶から覚めて、笑っていたサラが集まってきていた人たちの中に、両親を見つけた。

「サラ!」

サラの両親はサラのもとへ駆け寄ってきた。

「サラ、エリスは、エリスは無事か?」

「うん、きっと大丈夫だよ。」

エリスはサラから少し離れた場所に倒れていた。シュラミスに攫われて、精気を抜かれていたため、いまだに目を覚ましてはいなかったが、死んではいなかった。

「エリス・・・。」

サラの両親はエリスに駆け寄り、抱き起して泣いた。きつくきつく抱いた父親の腕に、エリスの手がそっとつかんだ。

「エリス!」

「・・・パ・・パ・・・。」

エリスが少しだけほほ笑んだ。

サラは泣きそうな顔で、3人をじっと見つめて立っていた。


 剣の城(ソードマウンテン)は蝋燭のように山の上部が赤々燃えていた。熱によって石が弾け、山が悲鳴を上げていた。


  下弦の月が、ほのかに赤く染まっていた。




とりあえず、出だしは終わり。後、エピローグをUPしたら、別のを書こうと思ってます。

評価してくださった方、ありがとうございます。

 自分も他の方の作品を読んでみるべきかなとも思うのですが、面白いのに出会うと、影響されてしまいそうになるので、小説を書くときは、あまり他の方のを読まないようにしようと思っています。m(__)m


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