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魔芒の月  作者: 弐兎月 冬夜
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 第1話  ジモン島奇譚 1

 昔書いた作品の続編になります。設定もだいぶ変更されているので、そちらを公開する気はないし、新たに書こうという気もサラサラなく、ただ気ままに書こうと思っている。

 もし読者が現れたなら、楽しんでもらえたら・・・と思っています。

  - プロローグ -


 月が赤い・・・。

 この島では満月が赤く染まると、若い女が姿を消す。



 岬のはずれ。一軒家の二階。

 中にはクロスボウを持った父親、震えている母親。法衣の老人、娘。ベッドに縛り付けられた娘がいる。

ほの暗い部屋の中、魚油のランプの炎が揺らめいていた。

 窓は閉められた上に、板が打ち付けられている。月の光も、そよ風すら吹きこまないように、厳重に固められていた。

 そして縛り付けられている娘以外の人々は、一様に緊張している。

 そう・・・今宵(こよい)姿を消すのは、ベッドに縛り付けられている娘なのだ。

娘の額には、赤い三日月の印が浮き出ている。この島に棲む魔物がつけた印である。縛られた娘は、見開いた眼で、ただ天井をを見つめていた。

 生きているのか、死んでいるのか?

まるで人形のように身動き一つしないのである。

 この部屋には静寂だけがあった。あまりの静けさに耐え切れなくなった母親が、低く嗚咽を漏らし始めた。


「来るぞ。」

法衣の老人が短く呟く。


 風も無いのに、打ち付けられた窓が小刻みに震え始めた。そして、娘の口元がわずかに持ち上がる。待ち続けた()()()姿()()()()()()()()()()()()

 窓の震えはいっそう激しくなる。そして・・・・突然その震えが止まった。


 室内には再び静寂が帰って来た。


「サラ! 油断するな。」

「はい。先生!」

 どれだけ長い静寂だっただろう。恐らくは大した時間ではなかった。


 コツン・・

カラカラカラ・・・。


 窓に打ち付けられていた釘が、自然に落ちた・・・と思った瞬間!

鎧戸が突然開き、暴風のような風が中になだれ込んできた。目も開けられないほど激しい暴風の中、ベッドのロープが弾け切れ、法衣の老人と娘に絡みついた。


迂闊(うかつ)ッ!・・・」

 老人の言葉は、途中で止められた。口にもロープが巻き付いたのである。呪文の詠唱を封じたのだ。

「先生!」


暴風が止まった・・・・。


 部屋の中央に女が一人立っていた。

長い髪をしたこの女は、赤い月の光が透けているように見えた。


「迎えに来たのよ、エリス。」


女がそう言うと、エリスは直立したままベッドの上に浮いた。


「この、バケモノめぇ!!!」

突然、倒れたテーブルの陰から父親がクロスボウを撃った!

 しかし、その矢は女の胸を通り抜け、空しく窓の桟に突き刺さった。

呆然と立ち尽くす父親を、女は険しい表情で見つめた。禍々しい妖気を感じて、父親はなすすべを失っている。女の口元が不意に緩み、左腕で虚空を振り払うと、父親は壁に打ち付けられて気を失った。

 そして振り払われて止まった女の腕がエリスに向けられると、恍惚の表情を浮かべたエリスが一歩ずつ魔物の女に近づいてゆく。まるでそこに床でもあるかのように、宙に浮いたまま、一歩ずつ・・・。


 もはや成すすべはない。魔物と戦えるものはそこにはいなかった。

しかしサラは諦めていなかった。手元に落ちていた護身用のナイフを指で摘まんで、ロープを切り始めたのである。魔物の女に悟られぬよう、ゆっくりとではあったが、サラを(いまし)めているロープは少しずつ切れていった。

「行きましょう、エリス。」

エリスはコクンと肯くと、魔物の女に身をゆだねた。女は片手でエリスを抱きかかえると、宙に浮いたまま、窓から外へ浮かんでいく。

「姉さんを返せえ!」

窓辺に駆け寄ったサラは、短い呪文を詠唱した。突き出された右の手のひらに直径10cmほどの火の玉が発現すると、その火球が矢のように魔物に放たれた!!

 だが!

それも空しく魔物の体を通り抜けていった。まるで赤い月に吸い込まれるように。

 女は嘲笑しながら、その姿は闇に溶けていった・・・・。




この物語はすべてフィクションです。

実在する団体、個人とは一切関係がありません。

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