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8話 新しいモノ

「なかなかすごかったね」


『門』を抜けるとたくさんの紙袋を抱えたミユがケンに微笑みかける。

異世界の街は、半日では到底回り切ることなど出来ないほどに発展していた。


「いろいろと学べるところが多かったな」

「自転車とか流行りそうじゃない? こっちでも作ってみようよ」

「良いなそれ」


お互いに見たもの、感じたことを延々と語り合う。

そんな二人の様子を見ながら、犬はふぃ〜と息を吐く。


「二人とも楽しんでくれたみたいやな」

「うん!また今度行ってもいい?」


子供のように顔を輝かせるミユに犬が頷く。


「行きたい時に行ってええぞ。まあお金がいるときは言ってくれや」

「やったぁ!」


喜びのあまり飛び跳ねている。

笑顔がとても眩しい。


「そーいや神様、この板ってどう使うんだ? 一応待っとけって言ってたけど……」


ふと、ケンは何かを思い出したように、持っていた袋の中を漁る。

取り出したそれは、何の変哲のない手のひらサイズのただの黒い板だった。


「これ、全く使い方が分かんないんだけど」

「それはなぁ、まず側面のボタンを長押ししてみ」


アドバイスに従ってボタンを押すと、突然片面が光り出す。


「うわ! びっくりした! なんだこれ?」


突然の変化に驚き慌てて、ついついそれを落としかける。


「ふっはっは。驚いたやろ? そいつこそ、向こうの世界の最先端技術の粋を集めた端末、『スマートフォン』や!」

「スマートフォン?」

「せや。遠く離れた人とそれを通して会話することや手紙をノータイムで送り合うこと、一瞬の風景を切り取る『カメラ機能』や、その切り取って写した絵を保存したり友達に送ったりすること……。

他にもたくさんのことが、この小さな端末一つで出来ちゃうんや」

「はぇ〜〜……?」


いまいち実感が湧かない。

そんなに必要とも思わない機能ばかりな気がする。


「まあ、やって見たらわかるわ。ケン、ちょっとこの『カメラ』ってのを使ってみ」

「えっ、どうなればいいんだ?」

「画面を押すんや」


押すところも何もないのに動くのか?

半信半疑のまま、カメラと書かれている絵を押してみる。


「うっわ! 板に風景が写ってる!」

「凄いやろ? そのままミユにスマホを向けて、画面のそこのボタンを押すんや」

「えっ? えっ?」


板を向けられて、あわあわするミユ。

そんな彼女に構わず、言われた通りに操作すると……。

『カシャ!』っと乾いた音が響く。

そして、その画面の中には、目をつぶったミユがいた。


「うっわ! すげぇ! え、これどうなってんだ?」

「えっ、あ、ほんとに私がいる」

「それをカメラって言うんや。おもろいやろ? 他にも色々あるから教えたるわ」


それから小一時間、二人はスマートフォンの使い方をみっちり仕込まれた。


「よーし! スマホは完璧に使えるようになったわ!」

「あと、さっき言ってたインターネット。アレはこっちでも使えるようにするのに、もうちょい時間かかるからしばらく待ってくれ」

「「はーい」」

「あ、ケン! ちょっと写真撮らせなさいよ!」

「ああ! 勝手に撮るなよ! ちょ、まて、連写するな!」


子供のように楽しそうにはしゃぐ二人。

そんな二人を、犬が嬉しそうに眺めていた。



***************


「よーし! いい感じだな。この魔法も様になってきたぞ」


師匠の声が響く。

それを聴きながら、魔法を解除し、膝を地面につく。


「やっぱ連続でやるとちょっと疲れたか。休憩しよう」


私は師匠の優しい声に甘えて、そのまま地面に寝っ転がる。

異世界旅行から帰って数日、私はまたジンさんと二人で特訓に励んでいた。


「結構たくさん使えるようになってきたでしょ?」

「ああ、憎らしいくらいにバンバン上達するから教えがいがあるぜ」

「師匠と違って私は天才だからね〜」

「俺も昔は天才だって言われてたんだけどなぁ……」


師匠が苦笑しながら、水筒を渡してくれた。

偉そうなことを言いながらも、私はそんなジンさんのことを尊敬していた。

確かに、魔力やセンスは私の方が優れていると思う。

でも、魔法の知識と応用力の点では全く歯が立たない。

例え私が新しい魔法を開発しても、二日後にはそれを超一流にまで昇華させることが出来るのがジンさんだった。

もし、彼の魔力が私くらいあれば、きっと私なんか足元にも及ばない存在になっていただろう。

さらに、人も出来ている。

村のまとめ役のような存在で、村人達からの信頼も厚い。

これほど尊敬に値する人は他にいない。


「それじゃあ、そろそろ次の魔法に行くか!」


そう言ってジンさんが立ち上がろうとした。

それを押しとどめて、私は口を開く。


「ジンさん、この間新しい魔法を思いついたんです。見てもらえますか?」

「やってみろ」


水筒を地面におく。

それから10歩ほど離れたところに円を描き、水筒に向けて魔法を放つ。


「転移!」

「おお〜! なるほど!」


水筒は一瞬のうちに円の中へと転送されていた。


「転移魔法か!」

「はい。この間、ふと思いついたんです」


この間の戦いの最中、ケンのお腹の治療をしている時に偶然思いついたものだった。

結果として戦いの決定打となった魔法ではあったが、魔力消費があまりに大きい上に、連発できず、さらに転移の距離が伸びれば魔力消費も激増するという難点もある。

特に、2回目の転移の後などは、ケンほどではないがいっぱいいっぱいになってしまった。

そのため、実用にはもう少し手を加える必要があったのだ。


「これはまた……とんでもない魔法を思いついたな……」


ジンさんは驚きの表情を浮かべていた。

呪文を唱えて、私がしたのと同じように水筒を移動させる。

短距離の移動を何度か繰り返して、それから少しの間考えこんだ。


「あの、どんな感じですか?」

「……魔力消費がアホみたいにかかるな。あと、距離だけじゃなく、移動させる物体の大きさによっても消費量が変わる」

「やっぱり……。今のままじゃ使いづらいですよね」

「まあ、ちょっと厄介だから三日か四日かかるが……多分、もっと性能はよくできると思う」


ジンさんは自信ありげに言い切った。


「ありがとうございます! またできたら教えてくださいね!」

「え〜、一生懸命考えたのタダで教えるの嫌だなぁ」


このオヤジ……!

そもそも私が考えた魔法だろ!


「あーあ、向こうでまた新しいプラモデル買ってきてあげようと思っ……」

「よーし分かった! 全力を挙げて開発しよう! なんなら二日で出来るぞ!」


ジンさんはこの間お土産であげたプラモデルをいたく気に入ったらしく、事あるごとに新作を私にせがんでいた。

だから、ダシにすれば靡くかと思ったけど、予想以上の食いつきだった。

驚きながらもうんうんと頷くと、ジンさんは目を輝かせて小躍りを始めた。


「いやぁ、いい日だ!」


……嬉しそうだからいいやつを買ってきてあげよう。


「よーし、それはそれとして、特訓頑張るぞ! まだまだ学ぶべき魔法は山ほどあるからな!」

「……それ半分くらいジンさんが趣味で作った魔法ですよね?」

「まあな! ほら、早く立て!続きやるぞ!」


毎日何個か新しい魔法を作り出すのは本当にすごい。

呆れと尊敬の二つの感情を抱きながら、再び立ち上がる。

その大きな背中を思いながら、私はジンさんの作り出す魔法の、色鮮やかな光を見つめていた。

ありがとうございました!

そろそろバトルに戻ると思います(登場人物達がどう動くか次第ですが)

次回もよろしくお願いします!

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