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5話 鬼は外

「そーいえばさ、私たちが戦ってるアレ。アレってなんか名前あるの?」

暗い夜道を先導するミユが突然口を開いた。

「『アレ』とか『敵』とか『奴ら』とかって呼んでるけどなんだか呼びにくいなぁって。ちゃんとした名前があるならそれで呼ぼうよ」

ミユの言葉にうーんと考え込む犬。

「特に無いなぁ。まあ別にどう呼ぼうと変わらんから今まで気にしたこともなかったわ」

それを聞いてミユはピタッと止まる。ぎょっとした俺たちに振り向くとにっこり微笑んだ。

「じゃあ、呼び方決めましょ」

二人と一柱で行動するんだからそうしないと不便でしょ、と笑って再び前を向いて歩き出す。

「今回出てきたのは狐ね。あとの4体ってどんな感じかわかるの?」

歩みを止めずにミユは目線だけを送ると、犬はフルフルっと首を振る。

「んー、わしもどんな姿しとるかは分からんわ」

「それならどうやって敵かどうか分かるのよ」

「なんかこう、気?みたいな。雰囲気がもわぁ〜ってするねん」

「わっかんないよ!もうちょいわかりやすく!」

「だから、もわぁ〜って感じや!」

「あー!もっと語彙力鍛えてきて!」

わちゃわちゃと大声で叫びだしたミユと犬。深夜に騒ぐ一人と一匹をどうどうと抑えて口を開く。

「お楽しみのところ悪いんだけど一つ大事なお知らせが……」

「あー、分かってる分かってる。深夜やから静かにせんとな!」

そういう犬に違う違うと首を振る。

きょとんとするミユと犬に人差し指を立てて緊急事態であることを知らせる。

「ここ、山の中なんですけど」



「もー!あんたが早く言わないから訳わかんないとこに来たじゃない!!」

「俺は何回も声かけてたよ!反応がないから諦めたんだよ!」

「何で諦めんのよ!バカなの!?」

いや、確かに俺ももっとちゃんと言えばよかったかな、と少し反省。

「いや、でも俺が怒られるのはなんか気に食わん!つーかお前!先導してるはずなのになんで気づかなかっただよ!」

そう言うとミユが真っ赤になる。

「わ、私は周りを見てなかっただけだから!っていうか、はじめに神様が道に迷わなかったらこんなことになってなかったんだよ!」

「ふふん、わしはミユに任せたもんねーだ。ここまで迷ったのはミユの責任や。断じてわしやない!」

あわあわと犬に責任を押し付けようとするミユに余裕の笑みを浮かべながら犬がカウンターを食らわせる。

戦犯対戦犯の醜い責任のなすりつけ合いが暫く続き、ミユが負けたところで、安全圏から眺めていた俺が解決策の模索の方に話の舵をとる。

「さて、ミユのせいでこうなったと決まったところで、どうするかを考えたいと思います」

「うぅ……ひどい……ケンまで私を裏切るのね……」

「そこうるさい、戦犯に発言権はない」

「オーバーキル!」

容赦無く俺にとどめを刺されたミユが膝から崩れ落ちる。

「ひどいわ……こんな可愛い女の子の心に傷を負わせるなんて……」

嘆きの声が響き木々を揺らす。そんな声もどこ吹く風、俺と犬はサラリと受け流してこれからどうするかを相談し始める。

その瞬間、地面が揺れた。とっさのことに反応できないまま、地面に崩れ落ちる。一瞬でその揺れは収まったが、そこにはとてつもない重い空気がいつの間にか漂っていた。それはまるで身体を押さえつけるような感じで、どこかで感じたような……。

その時、ハッとさっき終わったばかりの戦闘を思い出す。これは空気を重く感じているんじゃない。とてつもなく巨大で圧倒的な威圧感に曝されているのだ。

「こ、これは……!!」

心が折れそうになるのを奥歯を噛み締めて耐え、ミユのところは走り抱きしめる。胸の中には青白い顔に脂汗が浮かんでいるミユ。

「ミユ!ミユ!しっかりしろ!」

どうしていいかわからないまま、必死で抱きしめる。

その時、目の前に巨大な影が現れた。

恐る恐る顔を上げると、月光に照らされたその頭は金色の縮れ毛に覆われ、そこから日本のツノが生えている。その下には真っ赤な母とくりくりの目。トラ柄の分厚いコートに長ズボンと靴を履き、手には棍棒を持っている。

その姿はまさに……

「「お、お、おーくぅぅううう!!!」」

俺とミユは同時に叫び声をあげた。



「ああああああ!!もっと早く走りなさいよぉぉお!!!」

「お前こそ降りて走れよ!!何でおれが担がないといけないんだよ!」

「腰抜けちゃったんだからしゃーないでしょ!!」

そろそろ空が白み始めようかという頃、俺たちはリアルオークごっこに興じていた。

オークごっことは子供の遊びの一つである。メンバーから一人魔物のオーク役を決め、他のメンバーを追いかける。タッチされた人はオーク役を引き継ぎ再び他の人を追いかける、と言う遊びだ。

今回はタッチされたら即死亡というドキドキ要素も付属されている。全くオークさんったら殺る気満々なんだから!

「いや、そんなこと、言ってる、場合じゃ、ない!」

ここまで、俺たち二人は何度も紙一重のところでオークの手をかいくぐっていた。ちなみにさっきから犬の姿はない。

森の木々の隙間を縫ってオークから逃れようとするが普通のオークよりも身のこなしが軽いため、なかなか振り切ることができない。

「隆起!」

突然鈴のような声が響き、後ろで転倒する音が聞こえた。振り向かずにそのまま木の影に隠れる。

「おい、ミユ、何をしたんだ?」

「地面を隆起させて足を引っ掛けて転ばせたのよ」

ふふん、とミユがドヤ顔を披露する。

「私もまだまだ使えるでしょ?」

さっきの会話を根に持っていたのだろうか。ミユが微笑んでいる。

と、そこに犬がやってきた。

「おお!ここにおった!」

「あんたどこに行ってたのよ!私たちをほっぽって一人だけで逃げて!」

ミユが犬を掴んでぶらぶらと振り回す。

その姿を見ながら声をかける。

「とりあえず、あいつをなんとかしようぜ」

そう言うと犬がニコニコしながらこっちを見てくる。俺の足元には小さなカゴ。嬉しそうに尻尾をブンブン振ってるあたり、本当にただの犬にしか見えない。

「どうしたのよ?」

「ふっふっふ、実はさっき、対鬼専用兵器を仕入れてきたんや」

自信満々に犬が言う。

「対鬼専用兵器?」

「せや。あの鬼だけに効く特別な武器や」

「オニ?あれはオークじゃないの?」

ミユの問いに頷き犬が話を続ける。

「あれはオークじゃなくて鬼ってやつや。この世界では一年に一度、二月三日にだけ現れる。一年分の不幸が具現化したものなんや。二月三日は節分って言ってな、鬼に豆を投げて祓うんや。そうやって祓われた鬼さんは一年分の不幸と共に消えていく。まあ、成仏みたいなもんやな」

犬はそう言いつつカゴを咥えて俺に渡す。

「それは豆や。これがそいつをあいつにぶつけたらあいつは消えていく。その時、『鬼は〜外!福は〜内!』って言いながらやるんや。最近は『福は内、鬼も内』って言う人も多いけどな。ほら、アレや、一緒に恵方巻き食べて楽しんでもらうことで満足しながら逝ってもらおうって感じやな」

「恵方巻き?」

「恵方巻きは幸福を祈って食べる太巻きのことや。縁起の良い方角が毎年あって、そっちを向いて静かに一本食べきるっちゅう風習や」

「美味しそー!」

キラキラ目を光らせるミユを見て思う。

こっちの風習を故郷に持ち帰って広めるのもいいかもしれない。

「まあ、そう言うわけやから、頑張って鬼に当ててくれや!」

そう行って犬が突然駆け出す。

「おい!」

追いかけようとした瞬間、背筋が凍る。顔を向ける前にバックハンドトスの要領で背後に投げつけ、そのままま前方に飛び込む。

『!!!!!』

声にならない叫びをあげて背後で巨体が崩れ落ちる音がする。前に転がってすぐさま立ち上がると鬼が左足を抑えて倒れていた。

なんとも言えない気持ちを感じつつ、何もすることができないでいると隣にミユがやってきた。

「……終わらせてあげよう」

頷き、豆を構える。鬼は俺たちを見つめている。その目に映るものを心で感じながら鬼に頷きかけると、鬼はゆっくりと目を閉じた。

「「鬼は外!福は内!」」

豆が次々とあたり、鬼の身体が光の粒子となっていく。ぼんやりと温かく輝きながらそれらはゆっくりと天に昇っていく。

「あっ……」

ミユが声を上げる。朝日が昇り朝焼けの美しい風景が広がっていた。朝日に照らされ、黒く美しい髪が艶めかしく輝く。幼さの残る、それでいて綺麗な顔にその艶やかな黒髪が映え、見たことのない、知らないミユがそこにいた。

ドキッとして目をそらす。胸が痛くなる。

何かわからないが、胸が痛くて、そして…………

「おお、やっと終わったか!」

犬が現れた。

「またあんた逃げてたわね!」

再び犬をぶらぶらするミユ。

いつものミユだ。気づけばさっきの胸の痛みは薄れていった。

「ん?どうしたの?」

「いや、なんでもない」

不思議そうな顔のミユに答える。さっきのは一体なんだったのか。疑問が浮かぶがそれを心に抑え込む。

「あのね」

ミユが口を開いた。

「さっき言ってた話なんだけど……」

「さっきの話?」

「敵の呼び方」

ああ、そんな話してたな、と思い出す。

「鬼ってのはどうかな、って。ほら、消え方も似てたし、なんかなんだかあの狐も悪者ってことは不幸の象徴みたいなものでしょ?」

正直なんでもいい。

「いいんじゃないか?」

「ほんと?それじゃあ、これから敵の呼び方は『鬼』に統一します!」

ミユが魔法で破裂音とキラキラを舞わせる。いやいや、雰囲気ちがうだろ……。

「よーし、じゃあ敵さんの名前も決まったところで帰りましょうか!」

あまりの切り替えの早さに一瞬置いてかれる。フーっと息を吐き、よしっと気合いを入れる。

「ほんじゃ、帰るか!まずはここがどこか見ないとな」

「それならわかるで!ほら、東の方に街が見えるやろ!あれが山科っちゅう町や!走り回ってる間に山を越えてたんや」

あっはっはと笑う犬の言葉を聞いているうちに、一晩中走り回っていたことを思い出す。と、途端に疲労感が押し寄せてきた。

「やばい。めちゃ眠い」

「なんでそんな急に死にそうになってるねん!」

「とりあえず早く帰ろうぜ……」

さっきまで冴えていたのが嘘みたいに身体がだるい。今にも倒れこんでしまいたい。

「ほんなら、電車使って京都まで……」

そこまで言うと犬はマジマジと俺の姿を見る。

「どうし……あぁ〜〜……」

ミユまでそんなことを言って何かを察した顔をする。

「なんだよ……」

「いや、ちょっとこの姿で電車とか街中行くのはなぁ……」

ふと自分の服装を見る。服は血まみれで穴だらけ。腹には謎の文字が浮かんだ透明の布のようなものがぐるぐる巻きになっており、身体のいたるところに傷があってとても人前に出れるような姿じゃない。

「じゃあ……どうすんだよ……この世界で……野宿でもするか……?」

今にも意識が切れそうになりながら問いかける。

「せやなぁ……」

そう言いかけた犬をミユが押し留める。

「一つ、思いついちゃった」




「いやぁ、楽やったなぁ!ほんま、この一晩何やったんやって感じやな!」

朝の通勤ラッシュの人混み。そこから少し離れた物陰で犬が上機嫌に笑う。

「転移なんて楽なもんがあるなら最初っから使えばよかったんや!」

「忘れてたのよ、というかそもそもあんたが迷わなかったらこんなに遅くならなかったわよ!」

「おっ?さっき戦犯はどっちかって決まったとこやなかったか?この後に及んでわしのせいにしようとするんか?キャンキャンうるさいで。いやぁ、弱い犬程よく吠えるって奴やなぁ。負け犬の遠吠えは恥ずかしいと思わんか?」

「あああああ!!!犬に言われるとめちゃムカつく!!!しかもあんたの方がよく喋ってるじゃない!!!」

一晩動き続けたくせになぜかずっと元気なミユと犬。その隣で俺は……。

「今日は『転移』を二回、穴掘り一回、激ムズの強力な治癒魔法一回にその他雑用でもう魔力すっからかんよ!早く帰りましょ!」

「誰かさんが迷わんかったら『転移』は一回で良かったんやで」

「こいつ!ほんとに腹立つ!首輪つけて縛り付けてやろうか!」

「はっはっは、お主の企みなんぞお見通しじゃあ!できるもんなら……ん?おい、ミユ!ケンが、あっ、ちょっとタンマ、首があ!ミ、ミユ!落ち着け!ケンが!首がぁあ!ぐああああああああ!!!」

騒ぐ二人の声が遠くなっていき、『門』の前で俺は眠りの底に沈んでいった。

こうしてドタバタの初陣はなんとか幕を閉じたのだった。

ありがとうございます!

最近、マクロスフロンティアを見始めました。

見始めたばかりですがランカちゃんかわいい^ ^

これからもよろしくお願いします。

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