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2話 向こうの世界

「よっしゃ二人とも揃ったな」


美しい満月が輝く夜、漆黒の獣が俺たちに声をかける。


「夕方に作ってもらった『門』を通ってこれから『向こうの世界』に行ってもらうで。やる事は悪者の退治。『門』から出たら出現地点まで走って移動して悪者を仕留める!ええな?」

「攻撃はまかせて!」


俺の隣の少女が無い胸を張って犬の姿の神に答える。

俺と同い年の少女ーーミユは魔法の使用に秀でた『巫女』である。

村一番の魔法の使い手であると共に、その難アリの性格からか防御魔法よりも攻撃魔法を得意としている。とは言っても全てにおいて高い次元にいるから苦手と言ってもそこらの人よりははるかにレベルが高い。

そして本人もそれを理解しているから魔法に関しては自信を持っている。

そんな、自信に目を輝かせるミユを見ながら神はニヤリと笑う。


「お前は支援や。闘うんはケン、お前や」


攻撃役を俺に指名した。

ちょっとまて。


「おい!なんで俺が攻撃なんだよ!俺、魔法なんか使えないぞ!」


そう、俺は誰でも使えるはずの魔法が使えない落ちこぼれ。

攻撃云々の前に戦闘への参加すら出来ないだろう。

実際、ここにいることに対する場違い感をずっと感じていた。

そんな俺に対して神様が答える。


「いや。お前じゃないとダメなんや」

「どういう……」

「あいつら魔力をもった奴の攻撃とか魔法での攻撃がは効かへん。だからお前が必要なんや」


魔法が効かない相手。

そんな重要な情報を神は直前になって伝える。


「「……」」


オレとミユが固まる。


「あの、なんか言いたいことがありますか……?」


一瞬で凍った空気に何を感じたのか、敬語になる神。

それに対して俺とミユの怒りが爆発した。


「「先に言え!!」」



*****************


『門』の前に立つ。

月が照らし出すその門は赤く、そして美しく輝く。

門の先の未知の世界。この先に何があるのか。

不安で心が押し潰されそうになる。

そんな俺の手をミユが握る。

いつもは気の強いこいつも、たまにはしおらしくなるのか。そう思いつつ顔をミユに向けると彼女は正装を身につけていた。


「なんでそんなにラフな格好してるの? これから人類初の異世界探検よ? 向こうに失礼だと思わないの? 服ぐらいしっかりしたの着て行きなさいよ。全くこれだからケンはいつまでも魔法が使えないのよ。私がいないとすぐ死んじゃいそう」

「おいこらまて」


動きにくい着物に足は草履。

まさにきっちりした服装だが……。


「お前これから戦いに行くんだぞ!? ばかなの? 早く着替えてこい! それと魔法が使えないのは体質だよ!」

「痛い痛いほっぺた引っ張らないで!」


泣きながら着替えに行くミユを見送る。

ふと振り返ると神が何か言いたげな顔をしている。


「……なんですか?」

「……いや、苦労してるんやなぁって」


ふっと顔を逸らした神。その様子を見ながら、ふと、さっき神が言っていたことを思い出す。


《『門』の向こうにはお前達が知らん世界が広がってる。最初は驚くかも知らん。ビビるかもしれんな。当然や、半ば無理やり行かされるんやし。しかも戦いの経験すらない奴に魔物退治させるんやもん》


真面目な顔で語る神。少し申し訳なさそうにしているようにも見えた。


《でも、これはお前らにしかできんことや》


俺たちにしかできないこと。この世界を守ること。

まるで伝説で聞く百年前の勇者様のようだ。


《しかも、お前らはきっと向こうでこう思うはずや》


『門』の向こう。どんな世界が広がっているかわからない。どんな敵が来るかもわからない。

何も俺たちは知らない。

それはとても怖いことで。

それでも、何があるかわからないからこそ。


《この世界をもっと知りたい、と!》


今、俺はとてm……「ふっかぁーっつ!!!」


ミユが叫びながら現れた。


「お前は!お前は!人が感傷に浸ってたのに!」

「いたいいたい!なんで怒られてんのー!」


ふとみるとミユは巫女衣装だった。


「おま……「これが私の戦闘服」


急にミユがいつになく真剣な顔をして俺を遮った。


「分かってるでしょ?私は戦闘に参加できないのよ? それなら私は『巫女』として支援役に徹するわ。これはその覚悟よ」

「……」


胸に手を当てミユが語る。

普段の行いから少し誤解されているが、ミユは飄々としているようで物事を深く考えている。

……考えてるよな? ほんとに大丈夫だよな?

普段の行いを思い出すとかなり不安になってきた。

だが、こんな真面目なミユの表情は久しぶりにみた。

それだけ俺は心配されているということか……。

確かに自分でも心配なのは分かるが、男として少し残念な気持ちになる。

言葉にしない優しさが胸に突き刺さる。


「ふぅ〜〜」


頭を振ってここまでのマイナス思考を振り払い、大きく息を吐く。

ミユを安心させるには、自分の行動で見せるしかない。


「よし分かった。それじゃ、行くか」


気合を入れて、『門』に向かう。

二人で並んで立つと燻っていたわずかな不安も消えた。

よし、大丈夫。二人なら大丈夫。

……いざ、異世界へ。


「よし! 行くぞ!」


俺とミユは『門』に足を踏み入れた。



***************


「さっぶ!」

「ええ!春でしょ!?二月でしょ!?」


『門』から出た途端、思わぬ寒さに身を貫かれる。

ガクガク震えながら神様に思わず叫んでいた。


「こっちの二月はまだまだ寒いで。雪とかも降るし」

「雪!?北国かよ!」

「と言うか先に言いなさいよ!」


文句を言いながらミユが早速魔法をかける。

じんわりと体が温まる。

そこで初めて周りを見る余裕が生まれる。


「なに……これ……」


ミユが呟く。

『門』を抜けると外は昼だった。

いや、空は暗いから夜か。

空が暗いのにあたりは眩しい。


「今は……夜なの?」


ミユが呟く。

不思議な世界。

信じられないほど多くの人が行き交っている。

周りには天を貫くような摩天楼が建ち並んでいてそれらが眩しく輝いている。

地面はあまりにも硬く、そして真っ黒。

その上を魔法車が何台も何台も走っている。


「ま……ま……魔法車って実用化されてたの……?一体何台……?」


へたり込んだミユに腕を引っ張られて俺も我に帰る。


「どうや?こっちの世界は凄いやろ?夜がこんだけ明るいんや。しかも毎晩こんな感じやぞ」


神がどや? すごいやろ? って顔をしている。

この犬を見ているとなんだか認めるのが癪になってきたが、それでもそうせざるを得ない。

信じられない。あまりにも凄すぎる。

魔法を使わずにここまでできるのか。


「……まあ観光は後回しや。先、仕事に行くで」


神はそう言って人波に背を向け暗闇に消えて行く

慌てて座り込んでいるミユを抱え後を追った。




「とりあえずおさらいしとくで!」


先導する神が速度を緩めることなく話し始める。

俺は今、神の後ろをミユを背中に背負いながら走っている。

ミユは腰が抜けたと言ってるが多分走るのが嫌なだけだ。

巫女服だと走りにくそうだし。


「『門』の出現地点は京都駅の八条口や」


京都駅。八条口。なんじゃそりゃ。

疑問に思う俺をチラッと見て神が続ける。


「細かい用語は後で説明したるからほっとけ。ほんで今そっから南に走ってる。目的地は南の方にある神社や。今こっちでは悪い奴らが神社を乗っ取っとる。そいつらを倒して神社を元どおりにする。これを今日のを合わせて5回やるんや。ええな?」

「質問!私の魔法は効かないって言ってたけど、状態異常魔法もダメなの?」

「あかんな。あー、でもケンに支援魔法かけるのは多分いけるわ」


なんで支援魔法は大丈夫なんだよ、と考える俺の背中をミユが何か閃いたようにバンバン叩く。


「魔力のないものに魔法をかけるのは大丈夫、ということね……。それなら石か何かに硬化魔法かけて投げつけるのなら私でも攻撃できない?」


なるほど、それはいいんじゃないか、と思ったが神は首を横に降る。


「あかんわ。ケンが投擲するならそれでもイケるけどミユがやったら効果ない」


そう言われてミユがしゃんぼりする。


「そっかぁ、それじゃ私はやっぱりサポートにまわるね」


おい、さっき攻撃は諦めるって決意したんじゃなかったのか。

戦闘に関わる気満々のミユに少し心配になる。




しばらくして目的地に着く。


「こっからが勝負やで。この先でかい門がある。それをくぐって奥に行くと本殿があるけど敵さんはそこにはおらん。本殿の奥にぎょうさん鳥居が並んでるとこがある。その奥のひらけたとこに今はおるわ」


敵の場所が分かるのか。便利だ。


「よし、ミユ、支援魔法頼む」

「オッケー任せなさい!筋力増加!神経強化!……」


次々と支援魔法がかかっていく。

本来魔法はその大小にもよるが基本的に長い詠唱を必要とする。

だが、ミユは幼い頃から極めて短い詠唱で魔法を扱うことが出来た。まさに天才だったのだ。

その上『巫女』となったことで今では効果を言うだけで大抵の魔法は使用できるようになっていた。


「……よし!おっけー!」


ミユが微笑む。


「おい。ちゃんと得物はもっとるやろな?」


神の問いに刀を掲げる。

愛用の刀。それには神の力が付属してある。


「よっしゃほないくか!」

「「おう!!」」


神の掛け声とともに俺とミユは神社の敷地内に足を踏み入れる。

いざ、初陣!

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