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1話 門

午後のうららかな春の日差しが湖面に映える。

湖畔には釣りを楽しむ多くの人々。

落ち着いた雰囲気。静かに流れる時間。最高に気持ちのいい天気。

暖かな陽気に包まれて、釣竿を握る俺の瞼が少しずつ落ちていく……。


「うおおおおりゃぁぁあああいい!!!」


突然、静寂を破る大声と共にけたたましい水音があたりに響いた。


「とっったどぉおおお!!!」


まどろみから覚め、声のする方を見れば、一人のびしょ濡れの少女がなんと湖の中で大きな魚を胸に抱えていた。


「えぇ………………」


驚きのまま周りを見れば近くにいた釣り人たちも困惑の表情を浮かべている。

いや、まじで何してんのこいつ……。

こういう変人には関わらないのが吉。

というか関わりたくない。

俺には関係ない、と彼女から目を背け背を向ける。


「……い……ン……」


関わりたくない。さっさと帰ろう。

しゃがみこんで釣竿を片付け荷物をまとめる。


「おいこら聞いてんのか! 返事しろ! ケン!」


突然頭に衝撃が走った。振り返れば先ほどの少女が握り拳を作ったままこちらを見下ろしている。


「いってーなー! なにすんだよミユ!」

「ケンが無視するのが悪いんだよー。せっかく魚を捕ったっていうのに無視するなんてサイテーね」

「同類だと思われたくない」

「なにをーー!!」


ぽかぽかと殴りかかってくる。

理不尽な暴力を受け流し暴れるミユを抑え込む。

まったく、もう十六なんだからそろそろ落ち着いてほしい。




幼馴染のミユは昔からこうだった。

俺と同い年の彼女は一緒にいると高確率でなにかしら騒ぎを起こす。

よく言えば型破りで自由人。悪く言えばおてんば娘。

村一番の美少女で『巫女』でもあるが、その性格故にあまり友人はいない。

『巫女』とは村一番の魔法の使い手として村の神にお仕える二十歳までの娘の事である。

魔法は誰もがもっている力で日常生活から戦闘にまで幅広く用いられている。

そんな魔法についてミユは圧倒的な実力を備えているのだ。

村で一番年長の爺ちゃんが言うには歴代屈指かも知れないらしい。

ちなみにそのお守役の俺は村一番の刀の使い手。

というより刀を使おうとする物好きは俺ぐらいしかいない、と言うのが正しいか。

なぜ刀を使うか。

それは誰もが使えるはずの魔法が俺には使えないからである。




二人の取った魚をそれぞれの魚籠(びく)に入れる俺の隣でミユが服に魔法をかける。

みるみる乾いていく服。やっぱ魔法って便利そうだ。


「よっし! 乾いた!」


そういう彼女を見ているとふとびしょ濡れの姿を思い出す。顔に熱を感じつつ目の前の彼女から目を離せなくなった。


「……なによ?」


俺が見ていることに気づき訝しげな顔になるミユ。

そんな彼女を尻目に思考を巡らせる

こいつの行動はかなりぶっ飛んでいるが、やっぱりかなりの美少女。大きくなるにつれてどんどんそのかわいさに磨きがかかっている。

そしてそんな美少女の濡れた姿はめちゃエロかった。

エロかったんだが…………。


「……お前、やっぱり胸はあんまりそだってないな」


ぽかんとした顔がすぐに真っ赤になる。


「ばっ……ばか! へんたい! えっち! しね!」


目の前に飛んできた拳を最後に記憶が飛んだ。


**************


村の端の人気のない神社。

その裏に誰も知らない結界が貼られている。

入れるのは俺とミユの二人だけ。

村一番の魔法使い、『巫女』であるミユによって作られたその結界は二人の秘密を何年も守り続けていた。

二人だけの秘密、それは真っ黒い犬のことである。

この村では犬の飼育が禁止されているため、こうして隠れて犬を飼っているのだ。

その結界の中でミユの間の抜けた声が響いた。


「ほーらとれたての魚だよー!」


彼女は今、犬に餌をやっていた。


「ふふん。さすが私の犬ね。この食べっぷり、きっと将来魔王を倒しちゃうわ」


ちなみに魔王は100年ほど前に勇者によってすでに倒されている。


「アホなこと言ってないでそろそろ帰るぞ」

「ほーいほんじゃ結界かけ直すねー」


ミユが結界をかける間犬を眺める。

真っ黒い毛。立派な体躯。

出会った頃はちっさな子犬だったのにいつの間にか立派な成犬になっていた。

その金色の目を見ていると吸い込まれそうになって…………。


「少年よ、少女よ」


突然声が聞こえてきた。

ハッとしてあたりを見回すが誰もいない。

ミユも結界をかける手を止めて辺りを見渡している。


「おい……ミユ……」


声をかけようとした俺の服がふいに引っ張られる。

振り返ると犬。


「まさか……」

「少年よ。話しかけているのは私だ」


犬が言葉を話していた。



目の前の大きな石の上に犬が座り込んでいる。

それを見上げながら俺は呟く。


「つまりお前が神様だった、と」

「そう説明しただろ?」


今、俺とミユは並んで座り犬と正対している。

ミユはさっきから顔を伏せたままだ。


ーーー俺はこの村の神様だ。


犬が喋ったことに動揺する二人に対しこの黒い犬は突然そんなことを言い出した。

神様って……。突然そんなこと言われても……。

犬の言葉をうまく消化できず、ぼんやりとしていると、ミユが突然顔を上げた。


「……なんで今まで教えてくれなかったんですか?」

「……あぁ、君は『巫女』だったね。君には感謝しているんだよ」

「感謝、ですか?」

「そう。俺は昔色々あって力をなくしてしまったんだよ。でも長い年月をかけてこうして顕現できるようになって君と出会った。

それからはご飯をくれる時に君の膨大な魔力を分けてもらってたんや。おかげで短時間のうちにだいぶん力が戻った」


ゴロゴロと転がりながら神が語る。……正直ただの犬にしか見えない。


「さて、それでもわしの力は全然満タンになってないんやけど1つ問題が起きててやな」

「問題?」

「なんですか?問題って」


俺たちの問いに一つ頷いて神様が続ける。


「ん。この世界の裏側にはもう1つ世界があるんよ」

突然神が意味のわからないことを言い出した。

「もう1つの世界?」

「そう。この世界と双子みたいな世界があるんや。こっちと違って魔法技術はないけど、こっちではあんま重視されとらん科学技術がえらい発展しとる」


説明し始めた犬。正直、全然頭に入ってこない。

……ふと、あることに気がついた。


「あの、神様。」

「くる…ん? なんや?」


神様は説明を中断して話しかけた俺の方を向く。


「どうでもいいことなんですけど、なんか口調変わってません? 最初もっと威厳があったような……」

「ああ、最初は偉ぶろうとおもってきばってた(頑張ってた)んやけどやっぱ素が一番やね」

「……」


無駄な質問だった。


「ああ! もう説明めんどいわ! とりあえず向こうに悪い奴らがおってこっちに悪い影響出てるから倒すの手伝ってくれや」

「倒すって?」

「倒すんや」


答えになってないじゃねーか!


「まあ向こうに行きゃわかるわ。おい! 『巫女』! 手伝ってくれや」

「何をですか?」


ミユの問いに犬の顔でも分かるくらいにやりと笑って神は答えた。


「『門』を開けるんや」

お読みいただきありがとうございます

まだまだ稚拙な文ですので助言などしていただけたらとても嬉しいです

次話以降もお願いします

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