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協定

イフィルは真顔のままで、じっとノクリアを観察していた。


それから、やっと口を開いた。

「・・・私の願い」

「はい」

ノクリアも真剣に見つめ返した。

しかし、イフェルはまた口を閉じた。


少しノクリアが焦りを覚えだした頃だ。

突然、イフィルは笑った。滲み出た涙を拭って。

「もう良いわ。馬鹿。負けた。分かった」

ノクリアはパチパチと驚いた。


ノクリアの驚きを察して、イフェルは続けた。

「もう。良いわ」

急にボロボロと泣き出して、それでいて笑っていて、ノクリアはどうしていいのか分からなくなる。焦った。

「イフェル」

オロオロと立ち上がり傍に行くのを、イフェルがまた笑う。


涙で濡れた手で、イフェルがノクリアの伸ばした手を掴んだ。

「皆可愛いかったけど、最後まで生き残ってくれたノクリアが一番可愛い。まだ生きていてくれて嬉しい」

イフェルの涙腺はまたどっと緩んだようだ。

宥めるようにノクリアは背をさすった。


「えーと。私の願い事よね? 何が良いかしら。魔王は全部の組織を食べてしまうし。本当にどうしようかしら」

「たまに、一緒に、お出かけしよう?」

必死のあまり、小さなレベルの、けれど真実のお願いごとを口にしていた。


イフェルが驚いて涙に濡れた目でノクリアを見上げ、それから楽しそうに笑った。

「そう。そうね。魔王に、もっとノクリアをこっちに寄こしてとお願いして。一緒にお出かけしましょ」

「うん。頼んでみる。でも、彼もついてきて良い?」

「邪魔しないで護衛だったら許してあげる」

と偉そうにイフェルが言ったので、ノクリアも笑う。


「うん。頼んでみます。ねぇ、イフェル」

「なに?」


「大好きです。・・・また来るから、希望を考えておいて。あまりに変なのでは無かったら、きちんと伝えるから」

「分かったわ。少なくとも1つ2つはすでにあるわ」

「何?」

イフェルは急に、キッと顔を上げてノクリアを見た。


「私を王にしたくせに! 他のサポートは無いの!? 王になどなれるわけないでしょう!!」

「・・・うん」

そもそも、それはイフェルへの罰なのだ。男はノクリアを泣かせた事を怒っている。


「だから、そうねぇ。こうしましょう」

とイフェルは名案だと思いついたように言った。

「私ものんびり暮らしたいわ。だから、厄介ごとは全部魔王のところに持ち込むように皆に言う。私は、ノクリアのご機嫌取りが仕事なの。とても大切よ? 人間の存亡は、魔王が愛するノクリアの言葉次第なのだもの」

「・・・」

ノクリアが妙な顔で見つめてしまったので、イフェルは口をとがらせてきた。


「何、その顔」

「・・・うぅん」

「何よ。何が言いたいのよ。私、王など嫌なのを、顔を立てて王でいてあげるの。仕事はノクリア様のお話相手よ。それでどう」

「とりあえず、それを伝えるね。ただ、イフェル」

「何よ」

「・・・大丈夫かな。人間の皆は、イフェルの態度を悪く思わないと良いんだけど・・・」


イフェルは呆れたように肩をすくめた。

「馬鹿ね。私が王って時点で、皆全て諦めているわよ。魔王に逆らってはいけないという事だけが真実よ」


「・・・うん。イフェル、お願いがあります」

「なに。ノクリア様」


「人間が、魔族に歯向かわないように穏やかに過ごしてください。少しでも魔族に敵意をみせたら、本当に彼は人間を消してしまう。私が泣いて頼んだから・・・イフェルを殺さないでと頼んだから、本当は嫌なのに、止めてくれているのです。虚飾のない真実です。殺すとなったらイフェルも対象になってしまう・・・。嫌です。生き残って」

「・・・」


ノクリアが真剣に見つめ話した内容を、イフェルも真剣な顔で聞いた。


「分かったわ。ノクリア様」

と、イフェルは言った。

「あなたの願いを叶えるために努めましょう。王となった、私も」


イフェルは正統な支配者のように、にっこりとノクリアに笑んでみせた。


***


彼はどうして、この話を私に聞かせようと思ったのだろう。


自分から言うのは辛かったから、イフェルに頼んだ。頼んでまで、聞かせたかった。


「・・・」


この前、あの奥の部屋の魔族を見て、彼は本当にショックを受けて落ち込んでいた。泣きそうなほど。


あの時すでに、話さなければならない、と思っていたようだった。


話を聞けば私がショックを受けると十分知っていたから、とても自分から言えなかった。

でも多分、真実を知ってほしかったのだろう。


人間が何をしてきたか。


一緒に、知っていて欲しかったのだ。あの奥の部屋の魔族の事も、できるだけ、真実を。


ただ。

イフェルから話された事で、結局私は人間なのだと、自覚するなんて、きっと思ってもいなかっただろう。

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