命令
「分かっていないようだが、お前たちに自治権は無い。ノクリアのために殺さずにいるだけだ。さて、なら王はノクリアに最も影響を与える事のできる者が相応しい。冷静に考えてみろ。そこの男の言葉より、ノクリアはあの女の言葉に心を動かされる。ならば、人の王に相応しい、新しい強者は誰だ?」
人側が、シン、と無言になった。
「加えて罰だ。あの女が人の王だ。他の人間には興味がない。私もだがノクリアもだ。さんざん良いようにこき使った、当たり前の結果だろう? 妻があの女のために泣くのは、辛い中をあの女が支えたからだ。その他がどうしようが死のうが関心はない。王はあの女。あれが死ねば、もう知らん。ノクリアも、もう人間などどうでも良いかもな」
そうかもしれないな、とノクリアはふと思った。
ノクリアは、イフェルがいない人間には、もう何の未練もない。
消えてしまえば、良い。
「あの女が生きている間は、残してやろう。そして魔族を利用しようと絶対に考えるな。動きを見せれば必ず殺す。お前たちが隠し持っていた魔族は全て貰った。弱くて狡猾で、他者よりのし上がる事を喜ぶ人間ども。大人しく従順に、人間本来のままに暮らすのなら、生きる世界を残してやる」
やはり人からの答えは無かった。
「そろそろ行くか」
と男は軽い調子で呟き、ノクリアに笑った優しい声で言った。
「やはり来たとおり、広場から帰ろう」
***
わんわん
にゃあー にゃあにゃあ
おかしい。たくさん、声がする。
外に出たのでさらに眩しく、ますます男に顔をうずめる他ないノクリアだったので、周囲を見ることはできない。
男は言葉通りにノクリアを抱えたまま歩き、来た時の道筋をたどって広場にまた降りたようだ。
一瞬でどこからでも移動できるはずだろうが、何かの必要性を考えたのか、人間に自分を見せつけたいのか。
楽しそうに男は別れの言葉を告げた。
「今度ノクリアと共と来る時は、新しい王になっている。心を尽くした出迎えを期待しよう」
***
屋敷に戻る。視界はにじむように戻って来た。
明るすぎて、大分ダメージを目に受けていたようだ。
パチパチと瞬きをする。
そこに、男が顔を覗き込んでいた。じっとノクリアを見つめていた。
「・・・大丈夫?」
とノクリアは尋ねた。
「いや、結構、堪えたな。まさかあんなに残ってるとは、思っていなかった」
男にしては珍しく、直球の弱音だ。あの壁の魔族の事だ。
ノクリアは慰めるために首を引き寄せて、男にキスをした。
男がフッと笑う。
「食べて、良い?」
とノクリアは言った。たくさんの事があった。イフェルの事。守ってくれた事。我儘を聞いてくれた。そして彼はとても落ち込んでいる。
「あぁ」
まるで子どものように弱々しく、男が言った。
ノクリアは男の頭を包み込むように抱きしめる。
***
にゃー
わんわん
にゃー
にゃー
にゃにゃにゃー
にゃにゃーん
「うるさい・・・あっちに行ってろ!」
と寝転びながら男が周囲を追い払った。
妊娠する行為という食い合いで互いに気持ちが回復できたようで、仲良く寄り添っていたら、犬、というよりもネコたちが急に囃し立てるように鳴き出した。
そう。ネコがたくさんいる。
「・・・ルディゼド。ネコもあなただろう?」
「初めの1匹だけな。他は違う」
と、男はため息を見せた。
「じゃあ、人間の国のを連れてきた?」
「いや・・・意識して全て連れ出した。・・・こいつらは、全て、ほぼ魔族だ」
「え?」
驚いて、ノクリアは少し身を起こした。
周囲を見やれば、色んな種類のネコがキラキラした目でノクリアたちを眺めている。やはり囃し立てられている気が。
ノクリアは男を見た。
「・・・魔族?」
「きちんと言う。人間は、魔族の血肉を使って、人の女の腹に埋めて、子どもを作る」
「・・・あぁ」
「あの国の場合、使われる前のは、ノクリアの行った部屋に全て管理していた。全て犬で回収した」
「あぁ。食べてた」
「消化はしていない。取り込んで回収しただけだ」
「そうなの」
「あぁ。戻せる場所に戻してやりたい。・・・トリアランの妻のものは、特に。あいつの心残りだ。きちんとしてやりたい」
「・・・うん」
ノクリアは微笑んだ。男は優しい。カレンリュイの組織を気にかけていたのだ。
「ありがとう」
とノクリアも礼を言った。トリアランが喜ぶと分かれば、きっとカレンリュイも喜ぶ、とノクリアは思った。




