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準備

本日4話目

さて人間の国の様子を見に行くと言って立ち上がった男が、真面目に呼んだ。

「ノクリア」

男が迎えるように右腕を伸ばす。こちらに来いという事だ。

傍によったが、男の眉根に皺がついたまま。


男はノクリアの顔を見つめ、少し言葉を選んだようだった。

「一緒に行こう」

「うん」


「・・・人間側の反応を見たい。だから、向こうで少しの時間、わざと傍を離れる。人間の国に行くから、ノクリアは目薬と矯正具をつけて欲しい。その方が向こうでは安全だろう。久しぶりに苦しくなるかもしれないが、大丈夫か・・・?」

「大丈夫。分かった」

ノクリアの返事に、男はどこか悲しそうになる。ノクリアが身体を変えることを、男は『人間の封印』などと呼んで、どんどん嫌悪を強めている様子だから。


なおノクリアについては、よくこれだけのボリュームの身体をあんなにスッキリ保ってくれるものだ、などと感心しさえする。嫌悪感など浮かばない。

それに矯正するとやはり動きやすい。身体が膨らんでしまうと、ノクリアは足元を見るのにも胸が邪魔で見えないし、素早く走る事だってできないのだから。


とはいえ、こちらの屋敷の者たちが手直ししてくれた服にも慣れてきた。好みとは別問題だが、時には1日の中で他の服に着替える事すらある。

今日は天気が良いからこちらも着てみませんか、などと積極的に屋敷の魔族が勧めてくれるのだ。

ノクリアが衣服を変えると、魔族たちは喜ぶ。ノクリアが楽しんでいるように見えるらしい。


こちらの服は、色やデザインが服によって大きく変わる。肌触りもだ。

度肝を抜く程の奇抜さもある。道化師のよう。または、花や蝶のよう。


防御性や機能性は人間の国の衣服の方がはるかに優れている。

なのに、男や魔族たちは、鮮やかな衣装を、とても美しいと心から愛でる。衣服に対する価値観が違うのだ。


そしてノクリアが魔族の服を着ているうちに、屋敷の者たちの衣装が色とりどりに変わってきた。

始めは、皆が黒に近い緑の色ばかりを着ていたのに。

この屋敷で、ノクリアが華やかさと、華やかさを許容して良い雰囲気を与えたからだと、少し懇意になった屋敷の魔族は教えてくれた。


今や、ノクリアの選ぶものよりも斬新な衣装を着ている彼ら。

衣装が明るく奇抜になっていくのに合わせてどんどん楽しそうになっていくのが分かる。まるで本来を取り戻したよう。

男がノクリアに「自由に」と願った気持ちも想像できるようになった。彼らが、まるで自由を取り戻していくように思えたからだ。


そんな影響に、こちらで魔族の服を着る価値をノクリアは見出している。


さて今。

魔族の男の指示を受けて、ノクリアに人間の時の衣服と矯正具と目薬が用意された。

色鮮やかなこの屋敷の中で、まるで使い古し色褪せたような、馴染みのある衣服だ。

とはいえ、ノクリア自身は、見ると安堵を覚えるのも事実だ。


手早く衣装を変え、矯正具の術を起動していくノクリアを見守りつつ、男は念を押してきた。

「決して気を抜くな。心を、絶対に人間には許すな。イフェルにもだ。・・・良いか」

「分かった」


「本当に、だぞ」

きちんとあるべき場所に道具も仕込みながらチラと視線を向けると、男は何かを迷っている。なんだろう。


完全に人間の衣服を着込んで、目薬も差す。パチパチと数度瞬きすると、部屋の中が急に暗く感じられた。

目に入る光の量を調整してくれる効果が現れた証拠だ。


男が、せっかく着込んだノクリアの衣服を、首のところから剥いた。

一体なんだと思ったら、左肩にある夫婦の契約印を出したかったようだ。どうせなら、服を着込む前に見れば良かったのに・・・。


男は心配げに、真面目な顔で、契約印にキスをした。熱を帯びたので、何か術を施したようだ。

「絶対に意識が外れないようにした」

「分かった」

男が、人間に警戒し続けているのは当然だ。彼は魔族で王なのだから。

ノクリアから少し離れてくれたので、また衣服を正しく着込み直した。


「これを連れていけ。私だ」

男が左手をノクリアの前に出してきた。手のひらの上に、ノクリアのよく見知った犬が載っていた。

首元をきちんと留めたノクリアは驚きの声を上げた。

「犬! ルディゼド、これは!? 」

「これも私だ。とはいえ、微々たる力だが。多少の事はこれで守ってやれる」

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