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襲撃と

本日2話目

ヒュゥオ、と風が鳴る。

ぐにゃり、と傍の者が形を変えた。黒い渦が巻き起こる。人ではないイキモノに姿を変えたようだ。近すぎて何の形かノクリアには掴めない。

「お前らに渡すものか!」

傍のイキモノから妙にくぐもった声が響いた。

宙に黒い霧が生まれて、空間を向こう側に横凪ぎに払った。


「おい! 我々を巻き込むな!」

ネコのボスが非難の声を上げたが、黒いイキモノに姿を変えたものは答えない。


オォォオオ

黒いイキモノの輪郭がゆれる。霧になって溶けていく。

ノクリアは不安に駆られた。

何が起こっているのか。

この霧が消えた方が良いのか、風が消えた方が良いのか、どちらが良いのかさえ、分からない。


黒い霧がまた生まれて、大きく宙を凪ぐ。

ギィギィと妙な甲高い音が聞こえた、気がする。分からない。

ノクリアが宙をよく見ようとするのに、それに気づいたらしく、黒い霧がノクリアの目を覆った。

ウゥウウウ

と傍から唸り声。ひょっとして、言葉を交わす余裕はないのかもしれない。


シャッ!

威嚇の声がして、パァン、と近くで破裂音がした。

1つが聞こえたら、色んなところで破裂音がする。


シャッ、シャッ、シャァアアアッ!

どうやらネコたちではないだろうか。視界を覆われて、見る事は叶わないのだが。

ノクリアが視界を晴らそうと手を目にやるのに、どうしてだかガッチリとホールドされている。


「大人しくしていろ! 食われたいのか!」

傍から黒いイキモノの声がした。

「見えないからだ!」

ノクリアの返しに、視界が晴れた。

パチパチと瞬く。それから見えた景色に驚いた。


空を覆う大きな鳥が、こちらを掴もうとカギ爪を向けて急降下してくる。

それを黒い霧が払う。けれど霧も散る。

ネコがパンチを繰り出して、傍に現れる良く分からない球を消し潰していた。


明らかな自分への敵意に、ノクリアはぐっと傍の黒いイキモノの霧を掴む。

グゥ、とイキモノは唸り、それから傍から鳥に向かって腕を振るった。

パァン、と見事な破裂音がした。


「やっと、やったか」

ネコのボスが、隠しきれない疲れた声を上げたが、傍の黒いイキモノが唸る。

「まだだ」


「加勢してやろうか」

「本望では無いが」


「では止めよう」

「加勢してもらえると、助かる」


ニャハハッ、とネコのボスは愉快そうに笑った。

「この世で、ネコに勝とうなど、おごり高ぶるのも大概にしろ」

「はっ」

黒い生き物が鼻で笑う。


「私も」

ノクリアの声は、やはりグィと抱え込まれることで封じられた。


一体なんだ。


それでも、黒い生き物とネコが共同戦線を張っているので、ノクリアはこちらの勝利を祈る事が出来る。


***


ドゥ、と黒い生き物が、ノクリアを抱えたまま横倒れた。


「疲れた」

「水」

そこかしこからネコたちの声も上がる。


「やってられん。あぁ、良い月だ」

ネコのボスの声もする。


何の体力も使っていないノクリアは動き立ち上がろうとするのに、やはり抱えられたままで動けないのはどういうことか。

「おい。終わったのだろう。放してくれ」

「駄目だ。おとなしくしていろ。それにもう夜だ。睡眠でもとっておけ」


「なら、なおさら放して欲しい。寝床を作る」

「不要だ。愚かなお前は気づいていないようだが、ここでは向こうのものは意味を持たん。寝床など。は」

黒いイキモノの姿のままで、ノクリアを抱えたまま、相手は嘲る。


「だが、ではせめて介抱を。ネコたちも疲れ果てている」

「お前が動いたところで何も変わらん。むしろ黙って守られていろ」


「理由を。説明が欲しい」

ノクリアが狙われる理由があるはずだ。

「我々にも聞く権利がある。お前たちは、同じ場所から来たものか?」

ネコのうちの一匹が尋ねてきた。


フゥ、と大きなイキモノは大きく息を吐いた。

「眠れ。守っている」


「答える気が無い。とんだ不作法者じゃないかアイツ」

とネコの一匹が誰かに言い、

「とんだ迷惑だ。しかも犬の姿とは」

と一匹が答え、

「我々にケンカを売っている」

「相手にするな」

「とにかく疲れた」

と、そこかしこで会話がポツリポツリと生まれる。


いつの間にか、静か。


ネコたちが黙ったのではない。


身動き取れないノクリアは、眠る以外にすることが無かったのだ。

それに思いの外、疲れも溜まっていたのだろう。

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