答え
本日2話目
答えが分からない。
分かったのは、男はノクリアが本当に好きだと事だ。
やっぱり照れる。あと、ノクリアも同じように男が本当に必要で・・・いやそういう話ではなくてだ。
そうではなくて・・・。
ん。
ノクリアは首を傾げた。
男は人間を滅ぼそうと言い、ノクリアは止める。男はだから止めている。
絶対的強者の男の意思を、ノクリアは変更してもらうことができる。
そう。
そうだ。
では?
男は、ノクリアにその価値を知らせて、どのようにすれば生きていけると言いたいのか。
人間に、どのように・・・。
「え。あれ、嘘だ」
ふと気づいて零れた言葉を、隣で寝転んでいた男が拾った。
「どうした」
「答え」
「ん」
ノクリアは、確認した。
「あなたが、人間に恐怖・・・いや、人間に圧力・・・なんだろう、被害の可能性かな、それらを見せて、私がそれを止めさせる、というのを見せる、というのか?」
ノクリアは言いながら首を捻った。
考えがまだまとまり切っていない。曖昧な思考を無理に言葉にしようとしている。
なのに男はニヤリと笑った。正解に至ったようだ。
「それで?」
と男は先を促した。
「それで・・・。それで? あなたを私が止める。それを人間に見せたら・・・」
どうなるんだ?
ノクリアの様子を男は楽しそうに待ち、しかしすぐに待ち遠しくなったらしい。
「人間は、ノクリアに感謝を捧げないか?」
「え?」
意表を突かれてノクリアはマジマジと男を見つめ返した。
「魔王を抑える、人間のノクリア。ノクリアがいるから、人間は生き延びることができる。魔族など崇めたくはない、だがノクリアにさえ擦り寄っておけば。ノクリアを頼れば、崇めてしまえば、人間は生きていける」
「・・・」
開いた口がふさがらない。
「魔族はどうとでもなる。私が王だ。ノクリアは魔族の質も強い。ノクリアの生まれも理解し、人を残せというのならしぶしぶでも受け入れるだろう。何より、絶対的な強者の私の判断だ。従い受け入れる他あるまい?」
「待って、でもそうしたら、あなたが恨まれて、なにか命を狙われたりなんてことになったら・・・!」
「命を狙って成功する可能性は無い。人間が、愚かにも勇者を召喚しようとでもしない限り」
男は真剣な顔でノクリアを見つめた。
「魔族は強者に従う。ただ従うのではない。その力を尊敬する。そして我々は少なくとも人間どもよりずっと情に厚く理知的だ。人間を生かすからと言って王の命を狙おうなどとまで考えない。人間が、魔族に対して被害を与えてくるなら話は別だが。だが人間どもにそんな行動をとらせるつもりは一切ない。私はノクリアの願いのために、自ら積極的に攻撃に出ないだけだ。相手がその動きを見せたなら、一瞬でそれらを屠る。例えそこにイフィルだかイフェルだかがいようが、それは世界の害になる。そこは良いな、ノクリア」
「・・・分かった。でも、だったら、私が、人間がそんな行動を起こさないように、少なくともイフェルにはよく理解してもらえば、良いんだ。だから、大丈夫」
「それでもこちらにまた害を及ぼせば、容赦しないぞ」
「分かった。それは・・・仕方がないとも、分かるから」
ノクリアの答えに、男は肩の荷を下ろしたように息を吐いた。
ノクリアは、男の首に両腕を回した。
「・・・私にできることなら何でもするから、言って、ね」
子どものような話し方を男が喜ぶので、照れるわけだがノクリアは甘えて言ってみた。
男は嬉しそうになってノクリアを強く抱きしめた。
「一生添い遂げたい。夫婦の契約を交わしてくれないか」
男の言葉に、ノクリアも笑んで頷いた。魔族にもそういうのがあるらしい。
「ありがとう。是非」
屋敷の者から、『名前を交換し約束をしあう』のだと聞いている。
たった一度だけ聞かせてもらった男の名前は、決して忘れた事が無い。
名前を呼ぶことは魔族において色々な意味を持つそうだ。
男にとっては、呼んだ相手に心を心底預けているという証明になるという。
今まで呼んで良いと言われていなかったので、まだノクリアは一度も口に出したことが無い。
なお、向こうの世界で禁止だったのは、長く異世界にいた結果、男についての情報がうまくぼやけていたのを、他者が名前を呼ぶことで男の存在を明確に魔王たちに知らせてしまうから、避けていたらしい。
「どう呼べばいい?」
とノクリアは尋ねると、男が嬉しそうに希望を出した。
「愛していると言って欲しい」




