愛情
本当に死ぬ覚悟だった。
それが、愛情表現も『食う』と言うなんて、全く知らなかった。確かにたくさん舐められた。
抱きしめられたりキスをされたり、衣服も防具も道具も全て外されてしまったが、どうやら心ゆくまでノクリアに触れたかったようだと理解した。
「向こうでずっと我慢していた。可愛いのに辛かった」
翌日しみじみと男が言った。
つい守りがおろそかになりそうだったので絶対踏み切らなかったと。
隣で男がとても嬉しそうで幸せそうに笑う。まるで子どものように、心底打ち解けた笑顔だと分かったので、ノクリアもとても幸せに思った。
ノクリアも、ずっと傍にいれて嬉しい。
男はノクリアの笑みに気づき、昨日たくさん贈り合ったキスを再びくれた。
ノクリアも、照れながらもお返しにキスを贈った。喜んでくれるのを知ったからだ。
「ところでノクリア。目薬は止めてくれないか。本当は身体もそのままが良い」
「・・・どうしてだ? 目薬は、視界に必要で・・・。身体も、嫌だ・・・」
困ってノクリアが尋ねると、男はジッとノクリアを見る。
「今、視界はどうだ?」
「え? 変わりは無い。ひょっとして、すでに戻っているのか?」
「戻っているぞ」
「気づかなかった・・・そうか、ここは暗いからかもしれない」
部屋はカーテンも全て降ろしてある。
「魔族の性質の強い目だから、こちらの環境に適しているんだろうな」
「ここは、魔族の国? 魔族の国は、日光が弱いのか?」
「そうだ。知り合いの屋敷だったが、もう私のものにした。強いのは皆死んだから、気に入らないなら他のでも良いが」
と男が言うのをただ聞いている。
どの屋敷が良いなどという希望は特にないし、選べるような立場ではない。
「それに、この屋敷の者は、ノクリアのような魔族の血の濃い人間なら、偏見が消えている。だからここにした」
偏見が消えるような何かがあったのかなと少し不思議には思ったが、尋ねるほどではない。男の言葉をそのまま聞いた。
男はノクリアに重ねて頼んできた。
「こちらで過ごす時は、魔族の姿をしていて欲しい。どちらも好きだが、実はその方が好みだ。単なる希望も混じっているが、その方がノクリアは安全だ」
「・・・分かった。そう、努める・・・」
目薬よりも、矯正具を常に解除するのが本当に不安だが。
「本来の姿のまま過ごしてもらいたいと思ってしまう。まるで、人間に封印を受けているように見えて、なんとかしてやりたくなってしまう」
「・・・そんな事は無い」
「ノクリアが、気づいていないだけかもしれない。私のを解いてくれただろう? ノクリアを自由にしたい」
男の言葉に、ノクリアは困惑し、苦笑した。
「・・・努力してみる」
とノクリアは応えた。
男は嬉しそうに目を細めた。
「・・・服は、用意してもらえないだろうか? 身体が合わなくて・・・」
ノクリアには、自分の身体に合う服の調達の仕方が分からない。
「もちろんだ」
男は嬉しそうにノクリアを覗き込むようにした。
「服に合わせるのでなく、ノクリアに合わせて服を着た方が良い。好みはあるか?」
「動きやすい、防御性の高い・・・」
ノクリアの答えに、男は急に真顔になった。
どうしたのかと眺めて待つ。
男は何かを諦めたようだ。
「まぁ良い。分かった」
「待って、何を諦めた」
とノクリアは焦るように確認していた。
「言ったら叶えてくれるのか」
と男が真剣にノクリアに尋ねた。
「あなたが希望するのなら」
「よし。それは良い話だ」
「ちなみに、何を着せたいのだ?」
「そうだなぁ。楽しみだ」
と男は真面目な顔で宙を見るようにした。
あれ、会話がかみ合わなかった。
ノクリアが見つめていると、男はその視線に気づいて、ニヤリと笑った。悪そうだ?
だがノクリアには自分の本来の身体に合った服の入手方法など分からないのだから、任せることにしよう。
***
ノクリアは、とりあえず、その屋敷にあったという服を貰った。
不思議な事に、どこか懐かしい匂いがする気がする。
それを着込むノクリアを見て、途中で言葉遣いを選んだ様子の男が言った。
「ノクリアの方が、いい意味でボリュームがあるな」
つまり太っているということだ。
落ち込むと、
「だから違うと言っている。その姿を好きなんだぞ。理想的だ」
と男が慰めの言葉をくれる。
確かに、男は本当にノクリアがどのような姿でも好んでくれる。
ノクリアは了解に頷き、微笑みをお礼に返した。
貰った服は、いつものものよりは随分楽だが、それでもまだ苦しい。
男はその屋敷の魔族たちに、服をノクリアに合わせて直すように指示をだしてくれた。
なお、屋敷の魔族たちは、ノクリアの姿に少し驚き、なぜか懐かしむように憧れるように微笑んだ。




