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追憶と

連続3話目?

こちらの世界に無事帰還したノクリアは、まず、現状報告を受けることになった。


勇者タクマは無事に魔王を討伐。魔族の強者もほぼ一掃できた。

一方で、このイフィルを初め、人間側の被害も甚大だ。

もし、この国が勇者召喚を決行していなければ、おそらく人類は滅ぼされていただろうとたやすく想像できるほど。


ノクリアはホゥと息を吐き、勇者タクマに感謝の念を心から捧げる。


・・・タクマは、無事に元の世界に戻れただろうか。とノクリアは思う。

いや、ノクリアがここに戻れた時点で、タクマも戻れたはず。


良かったな、とノクリアは脳裏でネコたち語り掛けた。

ネコたちはきっと帰還の喜びに沸いただろう。

それに彼らはきっとノクリアの最後を心配している。タクマが戻ったことで、ノクリアも生きて元の世界に戻れたと、察してくれれば良いのだが。


・・・聡明な彼らだ。それに、向こうにはあの男もいる。きっと、それぐらいは、お見通しのはず・・・。


知らず口の端を噛みしめていたのを、傍にいたイフェルが見逃さなかった。

「ノクリア。どうしたの。辛い事を思い出したの?」


声掛けに、慌ててノクリアはかぶりを振った。一方で、報告するべき重要な事項を思い出す。

「イフェル。重大な報告事項が。向こうの世界には、魔族が何体も送り込まれているのです」


息を飲んだ周囲に、ノクリアは向こうの魔族の存在と、世界に正しく降り立てず術も全く使えなかった事実を報告した。

あの男のことは、ここでは言うまい。イフェルにだけ打ち明けるなら良いかもしれないが、ここには他の者たちが揃っている。

ネコを始めとした協力者、というような表現で全てを説明する。


追及されないかと内心で汗をかくが、不思議な事に、周りは、なるほど、と頷き理解をみせた。

「きっと、彼女の血の影響も大きい」

「ひょっとして、長く帰還の術が成功しなかったのは・・・」

と分かり合う上の者たちが断片的な会話を始める。


疑問点を、ノクリアが問う権利はない。今も、報告必須の内容だったから発言に踏み切れただけ。


私の血というのは、現れている魔族の質の事か?

などと、ノクリアから確認できるはずは無かった。


ただ、この報告により、しばらく召喚術は使われなくなるのでは、とノクリアは思った。


***


ノクリアの知人はほぼ全て戦死していた。


「皆、強かったのに」

ノクリアがイフェルと二人きりになった時に縋って子どものように泣くのを、イフェルも涙ぐみながら頭を撫でてなぐさめた。


ノクリアは即戦力たちの一部と昔から交流があった。

成長するにつれ、ノクリアは能力差で彼らに置いていかれたが。


悩み意気消沈し、時には卑屈に拗ねるノクリアを、彼らは馬鹿にして高笑いを聞かせる。

嫌な奴、酷い者たち。

けれど言い返す言葉もない。彼らの態度も当然だ。ノクリアは『使えない』のだから。

だけど、そのように見下すくせに、最後に決まって彼らは完璧にノクリアを魅了する。

「大丈夫、ノクリアぐらい、守ってやる。だって私たち、強いから!」

まるで対等のように手を差し出されて引き上げられる。

「弱っちいのがいたほうが張り合いがあるよ」

悪態も、結局彼らの慈愛だった。


なのに。

皆、先に死んでしまった。


「ノクリア。頑張りましょう。でもあなたは絶対に死なないで。ノクリアたちは、私の子どもみたいなものよ。もうあなたしか、私には残されていないわ。ね、だから、一緒に頑張って、生きていきましょう?」

「はい。イフェル」


まだ泣けた。


***


数日過ごすだけで、ノクリアは城内の空気を理解した。

イフェルを除き、周囲は、ノクリアの帰還を喜んでいない。彼らはタクマを望んでいた。


さすがにイフェルに話せない。ノクリアは一人で胸の内に抱え込んだ。


そんな都合のいい話があるか、とノクリアは内心で彼らに毒づいた。


タクマにとって、恐らくなんの前触れもない召喚だった。

ネコたちの心配ぶりを、あなたがたは知らないのだ。

あの世界はタクマの喪失を嘆いていた。タクマの帰還を心から願っていた。


精鋭部隊が勝てなかった敵なのに、奇跡的に討伐に成功してくれたのに。

タクマだって恐らく死に直面したはず。彼は必死で戦ったはず。


それは、人類の勝利をつかみたかったからではない。

きっと元の世界に戻りたかった。皆がタクマを案じていた元の世界に。


それなのに。召喚時の契約を果たしてなお、タクマを留め置きたかったと?


我儘すぎる。身勝手だ。


あらゆる礼を尽くし、正常に戻してやりこそすれ、真逆を願っていたなどと。

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