あるふうふのはなし
日付が変わりましたが連続投稿2話目
カレンリュイは答えようとしたが、やはり動けないので仕方ない。もどかしく思うのを、男はそのまま抱き上げた。
「このまま連れ帰る。その方があなたのメンツも保てるだろう。動けないのを無理やり連れ帰られたと」
動けないがカレンリュイは苦笑したかった。
もう死んだのだ。この男が自分を認めなければ死んでいた。
死んだ自分に、面子などあるわけもない。
***
敵陣に連れ帰られて、カレンリュイは治療を受けた。
こちらでもカレンリュイは強者らしく、男の立会いの下、カレンリュイに治療を施す魔族たちはカレンリュイを憧れるような眼差しで見つめた。
どうやら自分はこちらでも非常に魅力的らしい。
治療が終わって、動けるようになったところを、声を出させる間も与えずに男はカレンリュイを他人が立ち入れない空間とやらに連れ込んだ。
そこで、男の名を教えられ、カレンリュイも名を教えた。
お互いに一目ぼれだと分かり合った。
カレンリュイは可笑しくて楽しくて笑ってしまった。
一目ぼれなど。
昔、矯正具の点検の際、例のノクリアが一冊の本を真剣に読んでいて何だと尋ねたら、極秘に回ってきた恋物語だ、と言ったのだ。そこにいた3人ほどでクスクスと馬鹿にして笑ったが、器具調整者がやってきて会話がバレてしまった。
器具調整者は、幼い女がそんな話を密やかにしているのを微笑ましく思ったらしい。
世の中には一目惚れというものもあるらしい、とカレンリュイたちに教えた。
今度は皆でクスクスとその話を笑った。羨ましいと言ったものもいる。ただしカレンリュイは自分は決して一目ぼれなどしないと思った。
しかも一目惚れをしても、相手もそうだとは限らない。時間を飛び越えて好きになってしまうから、一目惚れの片思いは辛いのよと、器具調整者は言ったのだ。
そんな辛い事態に、陥りたくも無ければ陥る必要も感じない。
一目ぼれなどしないと、馬鹿にすらしていた自分が、一目ぼれなどとは。
しかもレアな事に相手もそうなのだとは。
誰かに自慢してやりたいぐらいだ。
カレンリュイの笑顔が輝くようだと、男は嬉しそうに笑い、カレンリュイの許可をとってから抱きしめてきた。
何の異論もなかったので、男の言葉に従い魔族の夫婦の手続きを取った。
***
カレンリュイの身体には、こちらに来てから金と灰色の縞模様が頭から背中まで浮かぶようになった。
様々な器具を用いなくなったからだ。必要ないと、夫となった男が言うので、分かったと従う。
カレンリュイの夫は、カレンリュイよりずっと強者だ。彼の方が正しいに決まっている。
視界には金色が舞っていたが、そのうちそれらは落ち着いた。
夫が、原因を調べて教えてくれたのだ。
カレンリュイは、どうやら魔力を金色として瞳に捕えるらしい。文字通り、捕えるのだ。
いつのまにかカレンリュイの瞳は金色に満たされ、それはカレンリュイの周りに漂うようになった。
美しいと夫はますますカレンリュイを褒め称えた。
魔族というのは奔放で、気に入ったものと婚姻を結ぶから、子はどんどん性質が混じっていくのが常らしい。
たまに純血種のように1種類だけの特性を持って生まれて来る者がいるが、とても稀だと。
カレンリュイは、純血種に近い状態の秀でた強者だと夫は言った。とても美しい、と。
***
陣に匿われていたある日。
カレンリュイは己の身体の異変に気が付いた。
カレンリュイは慌てて夫に訴えた。妊娠した、と。それはカレンリュイにとって一大事件だった。
夫はそれは嬉しそうに破顔した。いつも以上にカレンリュイに愛を囁きスキンシップをはかりながらこう告げた。
「ずっと共にありたいが、戦場は危険だ。身ごもったなら私の屋敷のものも間違いなく誠心誠意あなたに尽くす。どうか私の屋敷で産み育てていて欲しい」
「待て、でも、あなたの子だと分からないじゃない」
とのカレンリュイに答えに、夫は不自然なほどに硬直した。