あるものがたり - カレンリュイについて
魔族が人類を滅ぼそうとしている。
生き残らなければ。魔族を弱体化するしか、魔王を倒すしか道は無い。
幸い、カレンリュイは人類において、上から3番に入る能力の高さだった。
恵まれた資質を使い、戦場にて人類に勝利をもたらす。
カレンリュイの能力は突出していた。他の大勢の力不足をカバーできるほど強かった。
正直、カレンリュイは周囲を馬鹿にしていた。
大した力も持たない者たち。数が集まってもカレンリュイ1人にすら叶わない。
だが、周囲がカレンリュイを慕うのは気分が良い。守られている事を自覚しその恩をカレンリュイ自身に還元するつもりでいるならば、ずっと守ってやる、と思っていた。
さてカレンリュイは実力3位に入るので、上層部の情報の共有も受けていた。
上層部は、異世界から強者となる人間を召喚する術を行うと決めたという。わが国イフィルでその術を使える条件がやっと揃ったという事だ。
人類が劣勢なのはカレンリュイも承知している。
強者が加わるなら有難い。
ただし、代わりにノクリアが異世界に送り込まれるとも聞いた。
ノクリアとは能力に差がありすぎるが幼少時から交流がある。矯正具の定期点検を受ける際に顔を合わせることになっていたから。
幼少時から繋がりのあるノクリアと話ができないのは寂しい、とカレンリュイは思った。
勇者を無事に返すことができれば、ノクリアも無事にこちらに戻るとも聞かされる。
ならば勇者の力になってやろう。
***
ところでカレンリュイには自分の身体が思うように動かせない場合がある。
パワーを、身体が受け止め切れていないらしい。
余り過ぎるパワーを抑えるための様々な器具も国から支給されている。矯正具もその一つだ。
カレンリュイ自身も無駄死にしたくないので、パワーを調整しながら生きている。
戦場でも力をセーブすることは変わらない。
それでもカレンリュイは勝ち続ける。一つの場所の勝敗が決まれば、すぐに他の場所に移動する。
人の元に転移できる術がある。それを使うことで、戦闘中の仲間の元に駆けつけるのだ。
カレンリュイが加わるだけで戦局は翻る。勝ちしか迎えた事は無い。
だけど、負けは突然に来る。
何百と勝ち続けても、たった一度の負けで、死に至るのだ。
***
カレンリュイは今や地べたに伏していた。
周囲は衝撃波のために影も形もなく吹き飛んでしまった。
カレンリュイが満身創痍ながらも残っているのは、それだけの抵抗力は持っていたため。
足音が聞こえた。
カレンリュイは憎しみを込めて相手を見上げた。
その拍子に、視界にパァッと金粉が舞った。どうやら力をセーブする機能が壊れたのだ。視界に異常が現れている。
相手はピタリと立ち止まった。
それから、カレンリュイの首に手がかかった。
相手はさらに身をかがめ、動けないカレンリュイの耳元で囁いた。
「君はもう死んだ」
酷い事実だとカレンリュイは悟った。
「・・・死んだあなたにとても個人的な提案がある。死んだのなら、いっそ私の妻にならないか。あなたが欲しい。死ぬ代わりに、是非」
カレンリュイは自分がどこにいるのか一瞬掴めなくなった。
頬に手が添えられる。急に視界がハッキリした。
男だ。
カレンリュイはドキリとした。強者だと一瞬で理解できた。何よりも、プライドが高いと自覚するカレンリュイが、一目で心を奪われたことも。
「無理やり連れ帰る事もできるが、私はあなたの心も欲しい。ここで死ぬならと、私の妻になってもらえないか。・・・私があなたを無理に囲い込んだという風にすればあなたの立場も悪くなりはしない」
相手の瞳には熱が籠っていると思った。
カレンリュイは答えようと思ったが、もう言葉を出せる力が残っていなかった。
答えを出せない事実に焦りを覚えた自分にもカレンリュイは困惑したが、理由も正しく掴んでいた。自分も、この男が欲しいのだ。
男は熱心にカレンリュイを見つめていたが、ふと目元を和らげた。
言葉にしなくてもカレンリュイの答えを察したようだ。
「お互い、一目惚れか?」