当人に聞かれずとも放たれた言葉は世界に溶けて混じるだろう
「タクマッ!? タクマはっ!?」
「オイッ! ノクリアが消えた、タクマはなぜ戻らない!」
「うるさい私が知るか! それより退け、邪魔だ!」
「ここまで助けた我々にっ! ノクリアはどうした、タクマはどうなっている!」
「知るかと言っている! ノクリアは消えた、早々に去れ、恩を思って言っている! 巻き込まれたいのか!」
「タクマを返せ! 約束を違えるのか!」
「私が知るか! 私が急いでいる分からないのか! 良いから退け!」
「皆下がれ、そいつ本気だぞ!」
***
「なんてことだ・・・勇者タクマ様が戻ってしまわれた。・・・ノクリアなどが戻って来た」
「勇者タクマ様は必要だった。初めの約束とはいえ、あの方にはずっと国を守ってもらわなければならなかったのに」
「・・・ノクリアさえ」
「シィッ、それ以上口に出すのはさすがに不味い。控えろ」
「・・・あれは死にかけていたらしい。悔やまれるよ。もっと時期がずれていれば・・・。そうすれば、タクマ様は残って下さった・・・理解もしてくださっただろう」
「同感だ。人類は希望を失った。それに・・・どうして替えにノクリアなどという中途半端を選んだ。もっと力のあるのを選び残しておけば」
「それにノクリアは女だ。次代を残すには男の方が都合が良かった。女など、妊娠すれば戦えないぞ」
「口が過ぎる、控えろ。そもそも召喚術は、ずっと帰還には失敗してきた。だからノクリアになったのだ。諦めろ。交換条件が最後まで正しく果たされただけ」
「ハッ、何を良い子ぶって。このままでは人類は滅びる。ノクリアなどで凌げるものか」
「若いのも強いのから死んでいる。次の世代が活きるには、10年は必要だ」
「出産準備をせねば」
「もう進めている。優秀な血を数種類選んだ。あとは皆の腹に宿させるだけ」
「ノクリアにも宿させるか?」
「馬鹿な。戦力に妊娠させては使えない」
「だが母体も強者の方が、強者が生まれやすい」
「所詮あのレベルだ。皆が生むのと変わりない」
「困ったものだな。生まれついての魔物を人と育てられれば楽なものを」
「仕方ない。己を『人』と思う者しか、『人』は生めんよ。例え人に無いほど魔物に近くあっても、子が己を人と思うには、な」
「おい、純血の血も守らなければならないぞ」
「当然だ」
***
「タクマを返せっ!」
「まだ邪魔するのか! お前たちも喰ってやろうか! 出て行け! 去れ!」
「本当に知らないのか!? それに傷ついた我々に治療は!? お前はそれでもノクリアの恋人かっ!」
「ノクリアに言いつけてやる! どのようにしてでもチクッてやる! お前の所業を! ノクリアが消えた後の我々への仕打ちをっ!」
「やかましい! 何が望みだ! 私は急いでいる、焦っている! 見ろ、あの流れが消えぬうちに!」
「治療! 治療!」
「タクマ! タクマだ!」
「好きな女も守れないこの愚図が!」
「やかましい! 治療だろ受け取れ! タクマは知らん! 元の場所へ帰れ! ノクリアは戻ってしまった、ならお前らのタクマも戻ったはずだ!」
「本当か!?」
「知るか! だがそれが理屈だろう!」
「なら、恩返しに我々を元の町に返してもらおう!」
「返せ返せ!」
「すぐっ、今すぐだ!」
「無理だ! 私の心情も考えてくれ!」
「・・・」
「頼む!」
「・・・」
「治療はしたぞ! 感謝はしている! だが私に追わせてくれ! とにかく早く離れろ、お前たちを巻き込んだら私がノクリアに文句を言われるのだから!」
「ケッ。まぁ良い、治療で我慢だ。おい、幸運を祈るぞ」
「ハ、感謝する」
「・・・素直だと気持ち悪いな」
「全くだ」
「チッ」
「足りない。全て呼び寄せる。・・・お前たち、早く行け!」




