必死
本日2話目
「ノクリア! 頑張れ!」
ネコが一生懸命声をかけてくる。
そうだ。死んではならない。己のためにも、ネコたちのためにも、タクマのためにも。使命。
「体半分引き裂いてでも良いから出て来い!」
とネコが喚いた。
男に向かってだと思われる。
荒くなった息を吐きながらノクリアは上空を見る。
ネコに翻弄されつつ、1体が襲ってきた。
『展開:取得:壁』
ノクリアは圧縮カードから資材の一つを取り出し壁にした。バァン、と一度弾いたような音がして、資材は砕けた。
だが勢いは殺した。いける。
ノクリアは立ち上がり、圧縮カードを突きだした。
『展開:取得:鳥かご』
『発動:最小化:物質格納』
宙に飛び出した鳥かごが敵の腹に食いついた。本来なら、敵が小さくなって中に取り込めたらよかったが、ノクリアの力量では無理だった。
「はっ」
息が切れる。でもあと2体。上空に退いたのは数に入れずに。
あぁ、クソ。
生き残らなければ。
フッと影が落ちた。
気づいて見上げれば、目の前に敵の眼が迫っていた。
緑の炎が生まれかけて消えるのを見た。
ハッ
という自分の息遣いが妙に耳についた。
動きの準備もできないまま、唱えた。
『発動:雷光』
完成したが間に合わなかった。
ドン、と胸に衝撃を受け、ノクリアは吹っ飛んだ。
ダン、と大地にたたきつけられる。
「ぅぁっ」
苦痛の声が零れた。
息がとっさにできない。震える手で痛みの元を確認する。衝撃で矯正具が壊れたようだ。だが防具の役割を果たしてくれた。血はでていない様子。
だが、しまった、戦いにくい。
「はっ」
息がやっとまともに吸えるようになる。クラクラするのを身を起こそうとする。
キラキラと光が舞っているように見えた。目がやられたのかもしれない。
一瞬、幻覚が見えた。
目の前に、魔王のような圧倒的なモノがいた。荒い息が聞こえる。自分のものではない。では誰。
「タクマ」
とノクリアは呟いた。
グィと身を起こす。
幻覚は消えた。
あちらでも戦っている。命がけだ。こちらも命がけで生き延びなければ、顔向けができない。
横からガン、と衝撃を受けた。
「ハッ」
捕まった。すぐノクリアは目を閉じた。
喰われる前に、弾かなければ。己の残りの力を測る。
グィと持ち上げられる。己ごとブンと風を切り、目の前に口が開いた。黄色いモヤが発動しかけ、だが異様に速度が遅い。ノクリアが死に直面しているからそう見える?
『発動:仕掛け矢』
ノクリアの服に仕込まれていた武器がモヤを生む途中の口内に流れ込んだ。
ドンッ、と掴まれたまま地面にたたきつけられた。
グゥ、とうめき声が出る。
それから拘束が緩む。意地のようにノクリアは這い出そうと手を伸ばした。
身体が痛い。あちこちが折れている。
『発動:癒し』
ノクリアは術をかけた。少しだけ和らぐ。
あと何度かけるべきだろう。
もう力が付きかけている。攻撃に力を残しておくべきだ。
「ノクリア! ノクリア!」
ネコたちの騒ぐ声がする。呼びかけに答えようとノクリアは努める。決してこのまま意識を手放してはならない。
チラリと光が煌めく。
脳裏に美しい剣が見える。
生きていなければ。
『発動:癒し』
動くために術をかけた。
また少し和らぐ。ノクリアを掴んでいる個体は意識を失ったのか倒したのか動きが無い。
身体を動かし、草地に出ようとする。体中が悲鳴をあげるように痛んだ。
「封印は、解けなかったか・・・?」
出した声は自分が思う以上に弱々しかった。上官に聞かれたら胸倉つかまれそうだ、などとノクリアは思う。
手だけは草に触れた。
「喰われるならあなたが良いのに」
とノクリアは呟いた。
もう無理だなと、事実を悟った。
この身体でどう動けと。
「ノクリア! しっかり!」
ギャァ、と威嚇の声がした。敵だ。
眼が霞む。
ノクリアは、敵がいると思う方に向かって手を伸ばした。
「ネコたち、逃げて・・・」
『発動:雷撃:追撃・・・ええと・・・発動:追尾・・・束縛・・・威嚇・・・』
グラグラと地面が動く。目眩?
術のどれかが当たったようで、パァンと弾けた。
「やった!」
とネコたちの喜ぶ声がする。
「ノクリア、やった!」
やったのか。終わった?
自分を吸い込むような真っ白い光が、脳裏で弾けた。
「ノクリアッ!」
最期に聞こえたのは期待が生みだした幻聴か。
***
水の中?
音がくぐもってよく聞こえない。
水泳訓練中だっただろうか。
でも、息をしている・・・。
「ノクリア!」
呼びかけに、ノクリアはハッと目を覚ました。
「お帰りなさい!」