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ネコと仮面

本日2話目

「この世は、我々が治めている」

茶と黒のシマ模様のネコが連れて行く先、家と家の間にある狭い空き地に、『ボス』はいた。茶と黒のネコよりも大きな灰色のネコ。


ノクリアを前に、他のネコたちも集まってきている。

「この世界では、ネコが支配者なのか」

驚いたノクリアに、ボスは厳かに頷いた。

「その通り」


「人間は、ネコの支配下にあるというのか」

「その通り。人間は、我々よりも下の生き物だよ」


何という事か。ノクリアは茫然とした。そんな世界の人間を、自分たちの世界は勇者だと招いてしまったのか?


「ボス。ノクリアは違う世界から来た。タクマを消したようだ」

「なんだと」

茶と黒のネコとボスの会話にノクリアは慌てて否定を入れた。

「消したのではない! 我々の世界に招いたのだ! 助けが必要だからだ!」


多くの目がノクリアを見つめた。

それからボスは面白そうにゆったりと笑った。

「話して聞かせろ。そうすれば客人として迎えてやらんこともないさ。違う世界から来たのだろう? 色々と助けは必要さ、なぁ、そうだろう?」

ゴクリ、と固唾を飲んでしまった一方で、茶と黒のネコが再びボスに告げた。

「ノクリアは魔法を使おうとしていた。こっちでは使えないらしい」


「ほぅ。使って見せろ」

自分よりも小さいくせに態度は尊大で、ノクリアは奇妙な緊張を覚えた。

だが、ネコが支配する世の中だ。まず理解を求めるのが正しいだろう。


「・・・『発動:光灯』」

ノクリアは左手を掲げるようにして唱えたが、やはり何も起こらなかった。

何も起こらない事にノクリアはやはり落胆を覚え、そのままボスたちの様子に視線を移して、妙だと思った。

眩しそうに、ボスたちは目を細めてノクリアの左手を見つめているのだ。


「足りんのだな」

とボスが分かったように言った。他のネコたちも同じように目を細めていた。


「この世界に、術はあるのですか」

とノクリアは聞いてみた。


「ある」

と、他のネコが答えた。

「我々には見える」

と他のネコも答えた。


「ネコが優れているのは、他のイキモノには見えないものまで全て見えるからだ」

とボスが口を開いた。

それから、ボスは優し気に笑った。

「ノクリア。お前は、この世でも使えるようになりたいか? 他の世界から持ち込んだものを」

「! 方法があるのか! ぜひ、知りたい」


「ならばー」

ネコのボスが立ち上がり、ノクリアに歩み寄ろうとした。その時だった。


ひゅう、と妙に耳に残る風が吹いた。

ネコたちが一斉に目を大きく見開き、耳をそばだてた。

彼らは、明らかに何かを見ている。


ノクリアには分からない。周囲を見回す。

あたりは暗くなってきている。つまり夜に向かっているのだ。


「やぁ」

と、驚く事に、すぐ傍、耳の後ろから声がした。

ゾッとノクリアは反射的に肩をすくめ、飛びのこうとした。なのに腕を捕まれた。

「捕まえた。もう、安心だ」


一瞬動けず固まったものの、ノクリアは正体を掴もうと身をよじった。

自分より背の高い位置に、仮面が見えた。おかしなことに、仮面以外見えない。

なんだこれは。


仮面はスィとノクリアの頭部に近寄り、笑った。

「なんだこれは。どうして、お前は女なんだ?」


ノクリアは瞬いた。

どうして分かったのか。

それに、妙に親し気だ。まるで昔から知っているような、そんな雰囲気すら感じた。気のせいか?


「おい。我々と話をしている。連れて行くな」

瞳を大きく開いてボスが言った。毛を逆立てかけている。


「私は長年待ち続けた。たかがネコが、邪魔立てするな。容赦はせん」

仮面がボスに向かって言う傍、ノクリアは自由になっている方の手で仮面を掴み、グッと引いた。正体を暴こうと思ったのだ。

一か所で抵抗はかかったが、それは外れた。

途端、黒い霧が舞い上り、仮面のあった場所から白く透けた顔が現れた。

現れたなら、首が。見慣れた衣装。腕が。足が。それは徐々に現れる。


相手は、ボスに顔を向けていたのを、目だけを動かしノクリアを見た。観察するように凝視する。


見知らぬ顔だった。冷たく整っていると思った。それは笑った。

とても底意地の悪い笑顔だと、ノクリアは思った。


これは、何だ。


いつの間にか、剥ぎ取ったはずの仮面も手の中から消えていた。

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